34.迷い
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「“2倍ボム”!!」
きしむ体に鞭打って、獄寺はありったけのダイナマイトを目の前の“六道骸”に放り込んだ。しかし激しい胸の発作が足枷となり、相手はいとも簡単に獄寺の攻撃を避け、獄寺は立っていられなくなり膝をつく。
ビアンキがあわてて駆け寄り、弟の額に手をやる。触れていられないほど発熱している。柿本千種の毒針を治療する際、シャマルがかけたトライデント・モスキートの副作用だった。
こうしている間にも、男は鋼球のついた鎖をまるでカウボーイの投げ縄のごとく軽々と振り回し、攻めの姿勢に入っている。
「ほりゃあああ!!」
しきみが声を張り上げ、両手からありったけの風を生み出し、男にぶつけた。敵を吹き飛ばしてやろうと考えたのだ。
だが不思議なことに、しきみの風は男の付近まで迫った瞬間ふっと威力を失い、男の振り回す鋼球の風に飲み込まれている。
「ええ!? うそーー!!」
目を真ん丸にするしきみに、男が言い放った──「千蛇烈覇!!」ピッチングマシンにより放たれた野球ボールのように、直径60センチを超えそうな鋼球がまっすぐ飛んでくる。
「しきみっ、危ない!!」
鳴海が盾になろうと飛び出すが、そこで山本が突如現れた。鳴海の首根っこをつかみ、しきみと共に鋼球の的から外れるように突飛ばした。
「山本!」
転がった鳴海があわてて山本を見やると、彼は鋼球にしっかり向き合っていたものの、焦ってはいなかった。しかとその軌道を見定め、さっと脇に避けた──だが。
不思議なことに、逃れたはずの山本の体は再び押し戻されるように鋼球の前へ運ばれ、胴体に、深く強かに叩き込まれてしまった。
「がっ……」
痛みでうめき、仰向けにひっくり返る山本。彼の名を呼ぶ獄寺の心底悔しそうな声が響き渡った。
「これでわかったはずだ。貴様らに生き残る道はない」
敵が冷たく吐き捨てる。
「ふざけるな!」
鳴海が長柄槍を手にとびかかった。切っ先を敵の腹めがけて突き刺そうとするが、男は鋼球の鎖を両手でぴんと引っ張るように持ち、鳴海の槍の矛先をそれで受け止めている。柄を握る鳴海の手が震える。しばらくして男は鎖ごと鳴海の槍を激しく振り払い、つられて鳴海は地面に転がる。
「希望は捨てろ」
「くっ……!」歯がみする鳴海。そのときだ。
「おいおい待てよ まだ負けちゃいねーぜ」
ぴりぴりと張り詰めたこの状況に似つかわしくない、明るい声。山本だ。
「ふーっ、こいつを盾にしなきゃやばかったな」
苦笑しつつ起き上がった山本の手には、城島犬戦でぼっきりおられたはずの野球バットが。
「小僧、助かったぜ」
「間に合ったな」
リボーンが満足げな顔をしている。どうやらスペアを、ギリギリで山本に投げてよこしていたようだ。
「だがピンチには変わりねーぞ、あの鋼球の謎を解かねえと」
「ああ、チビの言う通りだ」山本が頷く。
「抵抗するとは愚かな。無駄なあがきは惨死を招くぞ」
男は鎖を激しくぶん回し、勢いづいた鋼球にそのまま手で押しの一撃を与えた。
「千蛇烈覇!!」
巨大な鋼球は再び山本の元へ。だが、山本は落ち着いて策を考えていた。
「見切ってやるさっ、」
バットのヘッド部分を下に地面に押し当て、引きずりながら山本は鋼球に向かって走り出した。
「こいつでな!」
山本の起こした砂ぼこり。鋼球の周りに吹き上がった砂は、ぐるぐると台風のように旋回を始めている。気流が起こっているのだ。
「おりゃああっ!!」
風なら任せろとしきみも巻き起こすが、やはり先ほどと同じように鋼球の気流に吸われているのだろう。効き目がない。そもそも、先程のMM戦で長い時間バリアを張り続けた反動か、うまく風事態を起こせないのだ。
(薄々思ってたけど、あたしの力もだいぶ体力消費するんだな……)苦々しく感じるしきみ。
砂のうずまきを描きながら、鋼球は山本に近づいてくる。鳴海がとっさに山本の足を長柄槍でひっかけ、仰向けに転ばせた。音を立てて体を地に打ち付けたが、直撃は免れたようだ。
「ごめん! 痛かったよな!?」
「いや、転ばなきゃやばかったぜ、助かった!」
「ひゃーすごい、なんて風……」
しきみが呆然としながら敵の鋼球を見つめる。
「鋼球の表面の彫刻に秘密があるな」
状況を見守っていたリボーンが腕組をしながら思案する。自然と鳴海達も鋼球に注目する。改めて観察してみると、鋼球全体に蛇の彫り物が施されている。
「あの蛇の溝が、球に当たる空気の流れをねじ曲げているんだ。溝を通って生まれた気流が複雑に絡み合うことで威力を何倍にも増幅させて烈風を産み出している。そんなものだろう」
己の手の内を見透かされたというのに、男はまったく動じていない。
「理解したとて、攻略にはならぬ」
冷たく吐き捨て、鋼球に繋がる鎖をすぐさま手繰り寄せる。
「暴蛇烈覇!」
今度は両手で打ち込んできた。
「基本に忠実に行くぜ!」
山本もさっと立ち上がり、臆することなく鋼球に向かってひた走る。
(確実に避けて、投げた直後の隙をつく……!)
しかし。
男が瞳を伏せた。
「無駄だ」
思いがけない現象が起こった。今度は鋼球そのものがすさまじい早さで自転し始め、竜巻を発生させたのだ。皆の足がふわりと浮かび上がった。
「くそっ!!」
見ているだけしかできない自分に苛立ち、獄寺は姉の制止を振り切って敵のほうへ。大量のダイナマイトは風に吹き飛ばされて味方を攻撃しかねない。ある程度コントロールの利くチビボムを敵の肩口付近まで飛ばすことには成功したが、その間鋼球が獄寺の、未だ柿本千種による毒の痛みできしむ胸元に突撃していった。獄寺はうめき、倒れ伏す。
苦しむ仲間の元へたどり着きたくても、この暴風の中では立つことさえ困難だ。鳴海は長柄槍を地に突き立て、それにしがみつくようにしてしゃがみこみ、風に耐える。少し離れたところではしきみが顔を真っ赤にして、地にへばりついているのが見えた。
視界さえも遮る風のなか、敵の男が確かな足取りでこちらに近づいてくる。まずい、何か策は無いかと鳴海がもがいていると、突如別方向から黒い人影が飛び出し、山本に襲い掛かった。
きしむ体に鞭打って、獄寺はありったけのダイナマイトを目の前の“六道骸”に放り込んだ。しかし激しい胸の発作が足枷となり、相手はいとも簡単に獄寺の攻撃を避け、獄寺は立っていられなくなり膝をつく。
ビアンキがあわてて駆け寄り、弟の額に手をやる。触れていられないほど発熱している。柿本千種の毒針を治療する際、シャマルがかけたトライデント・モスキートの副作用だった。
こうしている間にも、男は鋼球のついた鎖をまるでカウボーイの投げ縄のごとく軽々と振り回し、攻めの姿勢に入っている。
「ほりゃあああ!!」
しきみが声を張り上げ、両手からありったけの風を生み出し、男にぶつけた。敵を吹き飛ばしてやろうと考えたのだ。
だが不思議なことに、しきみの風は男の付近まで迫った瞬間ふっと威力を失い、男の振り回す鋼球の風に飲み込まれている。
「ええ!? うそーー!!」
目を真ん丸にするしきみに、男が言い放った──「千蛇烈覇!!」ピッチングマシンにより放たれた野球ボールのように、直径60センチを超えそうな鋼球がまっすぐ飛んでくる。
「しきみっ、危ない!!」
鳴海が盾になろうと飛び出すが、そこで山本が突如現れた。鳴海の首根っこをつかみ、しきみと共に鋼球の的から外れるように突飛ばした。
「山本!」
転がった鳴海があわてて山本を見やると、彼は鋼球にしっかり向き合っていたものの、焦ってはいなかった。しかとその軌道を見定め、さっと脇に避けた──だが。
不思議なことに、逃れたはずの山本の体は再び押し戻されるように鋼球の前へ運ばれ、胴体に、深く強かに叩き込まれてしまった。
「がっ……」
痛みでうめき、仰向けにひっくり返る山本。彼の名を呼ぶ獄寺の心底悔しそうな声が響き渡った。
「これでわかったはずだ。貴様らに生き残る道はない」
敵が冷たく吐き捨てる。
「ふざけるな!」
鳴海が長柄槍を手にとびかかった。切っ先を敵の腹めがけて突き刺そうとするが、男は鋼球の鎖を両手でぴんと引っ張るように持ち、鳴海の槍の矛先をそれで受け止めている。柄を握る鳴海の手が震える。しばらくして男は鎖ごと鳴海の槍を激しく振り払い、つられて鳴海は地面に転がる。
「希望は捨てろ」
「くっ……!」歯がみする鳴海。そのときだ。
「おいおい待てよ まだ負けちゃいねーぜ」
ぴりぴりと張り詰めたこの状況に似つかわしくない、明るい声。山本だ。
「ふーっ、こいつを盾にしなきゃやばかったな」
苦笑しつつ起き上がった山本の手には、城島犬戦でぼっきりおられたはずの野球バットが。
「小僧、助かったぜ」
「間に合ったな」
リボーンが満足げな顔をしている。どうやらスペアを、ギリギリで山本に投げてよこしていたようだ。
「だがピンチには変わりねーぞ、あの鋼球の謎を解かねえと」
「ああ、チビの言う通りだ」山本が頷く。
「抵抗するとは愚かな。無駄なあがきは惨死を招くぞ」
男は鎖を激しくぶん回し、勢いづいた鋼球にそのまま手で押しの一撃を与えた。
「千蛇烈覇!!」
巨大な鋼球は再び山本の元へ。だが、山本は落ち着いて策を考えていた。
「見切ってやるさっ、」
バットのヘッド部分を下に地面に押し当て、引きずりながら山本は鋼球に向かって走り出した。
「こいつでな!」
山本の起こした砂ぼこり。鋼球の周りに吹き上がった砂は、ぐるぐると台風のように旋回を始めている。気流が起こっているのだ。
「おりゃああっ!!」
風なら任せろとしきみも巻き起こすが、やはり先ほどと同じように鋼球の気流に吸われているのだろう。効き目がない。そもそも、先程のMM戦で長い時間バリアを張り続けた反動か、うまく風事態を起こせないのだ。
(薄々思ってたけど、あたしの力もだいぶ体力消費するんだな……)苦々しく感じるしきみ。
砂のうずまきを描きながら、鋼球は山本に近づいてくる。鳴海がとっさに山本の足を長柄槍でひっかけ、仰向けに転ばせた。音を立てて体を地に打ち付けたが、直撃は免れたようだ。
「ごめん! 痛かったよな!?」
「いや、転ばなきゃやばかったぜ、助かった!」
「ひゃーすごい、なんて風……」
しきみが呆然としながら敵の鋼球を見つめる。
「鋼球の表面の彫刻に秘密があるな」
状況を見守っていたリボーンが腕組をしながら思案する。自然と鳴海達も鋼球に注目する。改めて観察してみると、鋼球全体に蛇の彫り物が施されている。
「あの蛇の溝が、球に当たる空気の流れをねじ曲げているんだ。溝を通って生まれた気流が複雑に絡み合うことで威力を何倍にも増幅させて烈風を産み出している。そんなものだろう」
己の手の内を見透かされたというのに、男はまったく動じていない。
「理解したとて、攻略にはならぬ」
冷たく吐き捨て、鋼球に繋がる鎖をすぐさま手繰り寄せる。
「暴蛇烈覇!」
今度は両手で打ち込んできた。
「基本に忠実に行くぜ!」
山本もさっと立ち上がり、臆することなく鋼球に向かってひた走る。
(確実に避けて、投げた直後の隙をつく……!)
しかし。
男が瞳を伏せた。
「無駄だ」
思いがけない現象が起こった。今度は鋼球そのものがすさまじい早さで自転し始め、竜巻を発生させたのだ。皆の足がふわりと浮かび上がった。
「くそっ!!」
見ているだけしかできない自分に苛立ち、獄寺は姉の制止を振り切って敵のほうへ。大量のダイナマイトは風に吹き飛ばされて味方を攻撃しかねない。ある程度コントロールの利くチビボムを敵の肩口付近まで飛ばすことには成功したが、その間鋼球が獄寺の、未だ柿本千種による毒の痛みできしむ胸元に突撃していった。獄寺はうめき、倒れ伏す。
苦しむ仲間の元へたどり着きたくても、この暴風の中では立つことさえ困難だ。鳴海は長柄槍を地に突き立て、それにしがみつくようにしてしゃがみこみ、風に耐える。少し離れたところではしきみが顔を真っ赤にして、地にへばりついているのが見えた。
視界さえも遮る風のなか、敵の男が確かな足取りでこちらに近づいてくる。まずい、何か策は無いかと鳴海がもがいていると、突如別方向から黒い人影が飛び出し、山本に襲い掛かった。
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