30.I hate this part
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襲撃事件は、並中校内に暗い影を落としていた。朝から教員らが対応に追われ、いつまでたっても授業は始まろうとしない。
不審がってあれこれ根も葉もない噂話にいそしんでいるクラスメイトを横目に、獄寺はこの一連の事件に、真琴がいなくなったのも関係しているのではないかと踏んでいた。教室は半数ほどが欠席しており、そこに綱吉、しきみ、鳴海、沙良の姿もいない。
連絡を取ろうにも、充電を忘れられていた獄寺の携帯は先ほど力尽きたので、教師の止める声を無視して早々に教室を出た。
ちらっと山本に一瞥くれると、彼は机に突っ伏して寝ている。この土日、昼は野球の部活動、夜は真琴の捜索に必死だったので疲れているのだろう。
思えば朝食を取っていなかった。綱吉達に合流する前に、どこか食事処でも行くかと小銭しか入っていないポケットを探りつつ、並盛商店街を訪れたときだった。
「並盛中2年、獄寺隼人」
声をかけられた。
陰鬱な雰囲気を纏った、猫背気味の長身で、メガネに白いニット帽をかぶった学生が立ちふさがったのだ。
「なんだてめーは」
「黒曜中2年、柿本千種。お前を壊しにきた」
獄寺は威嚇しながらそっと小銭をポケットに戻す。
「早くすまそう。汗……かきたくないんだ」
完全なる宣戦布告と捉えていいだろう。獄寺は深く深くため息をついた。
(ったく、なんでこう毎日不良に絡まれんだか……結構地味に生きてんのに)
綱吉達が聞いたら「どこが!?」と突っ込まれそうなことを考えつつ、獄寺は忌々しそうに手招きする。
「わーったきやがれ、売られた喧嘩は買う主義だ」
「中坊同士の喧嘩だ、喧嘩」
「おもしれえじゃん」
野次馬根性の人間が群がってくる。通りすがりの若者が2人、ふらふらとこちらに近づいてきた。
それに対し柿本千種は、
「……見せものじゃないんで」
その瞬間、信じられないことが起こった。彼が右の腕を一振りしただけで、彼らの額いっぱいに細い針の大群が突き刺さり、噴水のように血が噴き出て倒れ伏していく。獄寺はぎょっとした。
「なっ、て、てめえ何しやがった!!」
「急ぐよ……めんどい」
再び、柿本千種が手を振った。その軌道から逃れるが、右頬を針が掠め、ちりちりと痛みと共に流血している。
一歩後ずさりし、数秒置くと、危険を承知で背を見せて走った。すぐそこの角を曲がり、案の定追いかけて飛び込んできたところに、大量のダイナマイトを浴びせる。柿本千種の手から伸びる物体が、宙いっぱいに放り投げられたそれの導火線を、すべて火が本体に到達する前に断ち切っていく──ヨーヨーだ。
飲み屋のスタンド看板に隠れて様子見をしていた獄寺に、ヨーヨーがのぞき込むように飛んできて、四方に細かい針が飛びだした。
間一髪避けると同時に先ほどまで居た場所が爆発四散し、無理やり対峙させられる。
獄寺は勘付いていた。殺気といい戦い方といい、素人のそれではない。目の前にいる人間は、プロの殺し屋だと。
***
並盛は関東の地方都市である。東京へのアクセスはスムーズだが、少し街中を出れば昔ながらの田園風景や、古びた商店街、繁華街、アーケードなどがまだまだ現役だ。
鳴海は並盛町とその隣の黒曜町のちょうど狭間にある住宅街に来ていた。閑静なところだったが、個人営業の商店がいくつか点在し、人の行き来も全くないというわけではなかった。いきなり見慣れない場所飛び込むのは気が引けたので、そこから情報収集に繰り出したのだ。
鳴海はスマホに保存してあった真琴の写真を見せ、似た人物を見かけなかったか、最近黒曜町で変わったことはないかを訪ねて回った。
「変わったこと、ねえー」
八百屋の主人は首をかしげる。なにか聞き出せないかと林檎を買う鳴海の隣で、買い物にきていた主婦数人があっと声をあげた。
「そういえば、黒曜中が以前にもまして荒れてるみたいなのよ」
近づいてきた主婦に、鳴海は小さく会釈した。
「黒曜中って……やばい学校なんですか」
「そりゃもう有名よ。あなたの制服、並盛でしょ? 並盛もけっこう不良多いってきくけど、その比じゃないくらいね」
並盛には不良どころかマフィアがいる。鳴海は喉元まででかかった言葉をぐっと飲み込んだ。
「校舎も運動場も荒れ放題で、毎日ガラスが割られるくらいなのよ。あんまりひどすぎて、真面目でお金のある子は転校していっちゃうから、年々生徒数も減ってるって」
田舎のご近所さんの情報網は侮れない。
でも、と口惜しそうに一人の主婦があることを思い出す。
「生徒会長は真面目な子だったわよ。荒れた学校をなんとか建て直そうと、色々頑張ってたみたい。清掃活動とか、挨拶運動とかね。でも、その子も結局暴力沙汰おこして転校しちゃったそうなの」
「怖いわー」
「朱に交われば赤くなるってことね」
ぽんぽん出てくる彼女達のおしゃべりに、鳴海は相づちをうちつつ「今はどうなんですか」ときいた。聞く限りこれ以上悪くなりようがないほど荒れてる。だがそれを上回る現状とは一体どういうことなのか。全く見当がつかない。
話題の中心になりつつあった主婦が眉をひそめる。
「最近外国から転校してきた3人がいてね、ほら、帰国子女っていうんでしょ? その子達が……すごく問題があったみたいよ、噂だけど、海外のマフィアとかヤクザとか極道関係の子供とかって言われてて」
マフィア。自分も少なからず関係がある単語に、反応しそうになるのを必死に抑える。
「で、ほらあの……真面目だった生徒会長の次に生徒会を継いだのが、その3人だったみたい。とんでもなく喧嘩が強くて、あっという間に黒曜中の不良全員を手下にしたとかで……今は黒曜センターだっけ、あそこの廃墟を占拠して、かなりヤバイことしてるって話よ」
いやあねえ、世も末ね、主婦達の興奮気味の声をよそに、鳴海はじっと考え込む。今まで綱吉・リボーン関連でイタリアからマフィア関係者がわんさか並盛を訪れてきた。
もしや、そこにも関係があるのでは?
「今の黒曜のリーダーの…名前とか、わかりませんか?」
「ええと、なんていったかな……死体とか、屍とか、なんか物騒な名前なのは聞いたことあるんだけど」
鳴海は主婦達に頭を下げ、八百屋を出た。商店街の出口を目指し、そのさきへ、教えてもらった黒曜センターへの道を目指して走った。
まさか、自分が向かっているその場所に今、雲雀恭弥が先に居るとは夢にも思わなかっただろう。
不審がってあれこれ根も葉もない噂話にいそしんでいるクラスメイトを横目に、獄寺はこの一連の事件に、真琴がいなくなったのも関係しているのではないかと踏んでいた。教室は半数ほどが欠席しており、そこに綱吉、しきみ、鳴海、沙良の姿もいない。
連絡を取ろうにも、充電を忘れられていた獄寺の携帯は先ほど力尽きたので、教師の止める声を無視して早々に教室を出た。
ちらっと山本に一瞥くれると、彼は机に突っ伏して寝ている。この土日、昼は野球の部活動、夜は真琴の捜索に必死だったので疲れているのだろう。
思えば朝食を取っていなかった。綱吉達に合流する前に、どこか食事処でも行くかと小銭しか入っていないポケットを探りつつ、並盛商店街を訪れたときだった。
「並盛中2年、獄寺隼人」
声をかけられた。
陰鬱な雰囲気を纏った、猫背気味の長身で、メガネに白いニット帽をかぶった学生が立ちふさがったのだ。
「なんだてめーは」
「黒曜中2年、柿本千種。お前を壊しにきた」
獄寺は威嚇しながらそっと小銭をポケットに戻す。
「早くすまそう。汗……かきたくないんだ」
完全なる宣戦布告と捉えていいだろう。獄寺は深く深くため息をついた。
(ったく、なんでこう毎日不良に絡まれんだか……結構地味に生きてんのに)
綱吉達が聞いたら「どこが!?」と突っ込まれそうなことを考えつつ、獄寺は忌々しそうに手招きする。
「わーったきやがれ、売られた喧嘩は買う主義だ」
「中坊同士の喧嘩だ、喧嘩」
「おもしれえじゃん」
野次馬根性の人間が群がってくる。通りすがりの若者が2人、ふらふらとこちらに近づいてきた。
それに対し柿本千種は、
「……見せものじゃないんで」
その瞬間、信じられないことが起こった。彼が右の腕を一振りしただけで、彼らの額いっぱいに細い針の大群が突き刺さり、噴水のように血が噴き出て倒れ伏していく。獄寺はぎょっとした。
「なっ、て、てめえ何しやがった!!」
「急ぐよ……めんどい」
再び、柿本千種が手を振った。その軌道から逃れるが、右頬を針が掠め、ちりちりと痛みと共に流血している。
一歩後ずさりし、数秒置くと、危険を承知で背を見せて走った。すぐそこの角を曲がり、案の定追いかけて飛び込んできたところに、大量のダイナマイトを浴びせる。柿本千種の手から伸びる物体が、宙いっぱいに放り投げられたそれの導火線を、すべて火が本体に到達する前に断ち切っていく──ヨーヨーだ。
飲み屋のスタンド看板に隠れて様子見をしていた獄寺に、ヨーヨーがのぞき込むように飛んできて、四方に細かい針が飛びだした。
間一髪避けると同時に先ほどまで居た場所が爆発四散し、無理やり対峙させられる。
獄寺は勘付いていた。殺気といい戦い方といい、素人のそれではない。目の前にいる人間は、プロの殺し屋だと。
***
並盛は関東の地方都市である。東京へのアクセスはスムーズだが、少し街中を出れば昔ながらの田園風景や、古びた商店街、繁華街、アーケードなどがまだまだ現役だ。
鳴海は並盛町とその隣の黒曜町のちょうど狭間にある住宅街に来ていた。閑静なところだったが、個人営業の商店がいくつか点在し、人の行き来も全くないというわけではなかった。いきなり見慣れない場所飛び込むのは気が引けたので、そこから情報収集に繰り出したのだ。
鳴海はスマホに保存してあった真琴の写真を見せ、似た人物を見かけなかったか、最近黒曜町で変わったことはないかを訪ねて回った。
「変わったこと、ねえー」
八百屋の主人は首をかしげる。なにか聞き出せないかと林檎を買う鳴海の隣で、買い物にきていた主婦数人があっと声をあげた。
「そういえば、黒曜中が以前にもまして荒れてるみたいなのよ」
近づいてきた主婦に、鳴海は小さく会釈した。
「黒曜中って……やばい学校なんですか」
「そりゃもう有名よ。あなたの制服、並盛でしょ? 並盛もけっこう不良多いってきくけど、その比じゃないくらいね」
並盛には不良どころかマフィアがいる。鳴海は喉元まででかかった言葉をぐっと飲み込んだ。
「校舎も運動場も荒れ放題で、毎日ガラスが割られるくらいなのよ。あんまりひどすぎて、真面目でお金のある子は転校していっちゃうから、年々生徒数も減ってるって」
田舎のご近所さんの情報網は侮れない。
でも、と口惜しそうに一人の主婦があることを思い出す。
「生徒会長は真面目な子だったわよ。荒れた学校をなんとか建て直そうと、色々頑張ってたみたい。清掃活動とか、挨拶運動とかね。でも、その子も結局暴力沙汰おこして転校しちゃったそうなの」
「怖いわー」
「朱に交われば赤くなるってことね」
ぽんぽん出てくる彼女達のおしゃべりに、鳴海は相づちをうちつつ「今はどうなんですか」ときいた。聞く限りこれ以上悪くなりようがないほど荒れてる。だがそれを上回る現状とは一体どういうことなのか。全く見当がつかない。
話題の中心になりつつあった主婦が眉をひそめる。
「最近外国から転校してきた3人がいてね、ほら、帰国子女っていうんでしょ? その子達が……すごく問題があったみたいよ、噂だけど、海外のマフィアとかヤクザとか極道関係の子供とかって言われてて」
マフィア。自分も少なからず関係がある単語に、反応しそうになるのを必死に抑える。
「で、ほらあの……真面目だった生徒会長の次に生徒会を継いだのが、その3人だったみたい。とんでもなく喧嘩が強くて、あっという間に黒曜中の不良全員を手下にしたとかで……今は黒曜センターだっけ、あそこの廃墟を占拠して、かなりヤバイことしてるって話よ」
いやあねえ、世も末ね、主婦達の興奮気味の声をよそに、鳴海はじっと考え込む。今まで綱吉・リボーン関連でイタリアからマフィア関係者がわんさか並盛を訪れてきた。
もしや、そこにも関係があるのでは?
「今の黒曜のリーダーの…名前とか、わかりませんか?」
「ええと、なんていったかな……死体とか、屍とか、なんか物騒な名前なのは聞いたことあるんだけど」
鳴海は主婦達に頭を下げ、八百屋を出た。商店街の出口を目指し、そのさきへ、教えてもらった黒曜センターへの道を目指して走った。
まさか、自分が向かっているその場所に今、雲雀恭弥が先に居るとは夢にも思わなかっただろう。
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