28.客人
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「ここが鳴海ちゃんたちのおうちですね!!」
ハルが感嘆の声を上げ、京子も同意して頷く。2人の目の前にあるのは鳴海、しきみ、沙良、真琴の4人だけで暮らしている家。
住宅街から少し離れたところに、その一軒家は建っていた。テラコッタ色の屋根にクリーム色の壁、窓枠やドアに濃い茶色がアクセントで入っている。全体的に真新しく、綻んだところも、経年劣化した部分も見当たらない。
インターホンを押すと、奥からぱたぱたとスリッパのあわただしい音がせまってきて、ガチャリ、とドアが開いた。エプロン姿の沙良であった。
「京子ちゃんハルちゃん、いらっしゃい」
「おじゃましまーす!」
今日は休日。ハルと京子、鳴海、しきみ、沙良、真琴の6人で、女子会をすることになったのだ。4人の家で。
中へ入った2人を、木の香りをふくんだ風が包んだ。
「大きいねえー!」
「すっごい、新築ですか!?」
ハルの問いに、2人のスリッパを出しながら、
「うん……たぶん新築じゃないかな?」
と、沙良は歯切れの悪い回答しかできなかった。
答えられないのがもどかしい。この家は、この世界で暮らしていくために4人を連れてきた人物から与えられたものだ。それが誰なのかは未だ判明していない。
調べようとしたこともあった。市役所の登記簿をみれば所有者がわかるはず。だが不思議なことに、毎回記載されている名前が違うのだ。男性の名前、女性の名前、または両方とも取れるときも。
対応してくれた職員も「最初からこの情報ですよ?」と、何か魔法でもかけられているかのように疑問をまったく持たないので、それ以上追求することができなかった。
しかも、生活する以上必要な生活費、ガス、水道、電気、ネット代…それらの請求書が来たことが無い。それなりにかかっているはずなのに。
つまり4人は、このぴかぴかの新築と思わしき一軒家にタダで住まわせてもらっている。
それだけではない。鳴海に渡された手紙と同封の銀行通帳に、毎月30万弱振り込まれているのだ。
振込主の名前、こちらもまばらだった。見知らぬ人物名の時もあれば、どこかの会社からの時もある。しかし、どの名称もネットで調べどもヒットしたことはない。4人を養ってくれているだろう人物へたどり着くことはできなかった。
ちなみに、財布と家計は沙良が管理していた。毎月5,000円ずつお小遣いを渡し、学生生活に必要な雑費・食費は口座から出し、残った金額はなにか起きたときのためにと貯金していた。
はしゃぐ2人を沙良がリビングに案内すると、
「あ、いらっしゃーい!」
テレビの目の前でなにやらゲーム機器を繋げているしきみ、鳴海が振り向いて手をふった。ローテーブルにはお菓子や飲み物が山のように準備されている。
「わあ、ゲーム?」
京子の問いに鳴海は首を縦に振った。
「大人数で出来るの買ってきたんだ。でもおかしいな、全然画面映らないんだけど」
その傍らで、隣の襖がガタガタと震えた。びっくりして固まる京子とハルだったが、襖の向こうから出てきた人物にほっと胸を撫で下ろす。
「あ、笹川さん、三浦さん、いらっしゃい……」
まだ寝間着姿の真琴だった。
「真琴、お片付け終わった?」
沙良が苦笑している。真琴は罰が悪そうにうつむきながら、
「あと、ちょっと…」とだけ言って奥へ引っ込んでしまった。
「あのお部屋が、真琴ちゃんのお部屋ですか!?」
ハルが興味津々にふすまを見つめる。
「そう。今日寝坊しちゃったの。2人が来るから緊張して寝付けなかったみたい。しかも片付けするって言って朝からあんな感じ。おかしいな、真琴そんなに荷物もってないはずなのに……」
「京子ちゃんハルちゃん、もうちょっとかかるから、ゆっくりしてて。俺らの部屋なら見てもいいよ」
ゲームの取扱説明書を片手に、鳴海が機材のコードをうんうんいいながら繋いでは外しを繰り返している。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……!」
ハルの顔がぱっと輝く。今回初めて4人の家にくるということで、2人は4人それぞれの自室を見たがっていたのだ。
「じゃあ、案内するね」
沙良が率先して、階段へ向かった。
*
「まず、私の部屋から」
『沙良の部屋』と書かれた、植物が描かれたルームプレート。ドアの向こうには、全体的にパステルカラーなピンクと白、同系色の家具でまとめられた部屋が広がっていた。
「見てても、あんまり面白くないかもだけど……」
「いえいえ!かわいくってとっても素敵です!」
ハルがぴょこぴょこと歩く。壁にはあちこちに花の立体的な壁飾り。香水や化粧品のイラストのポスター。
「なんだか、外国の女の子の部屋みたい」
2人の言葉に、沙良は照れながら、
「ありがとう。でもね、他の部屋のほうが、らしくて私は好きなの」
次に案内されたのは鳴海の部屋だ。黒いメタルプレートに、白文字のローマ字で鳴海 ❜s Roomとある。
先程の沙良の部屋とは違って、全体的に青と黒の部屋だった。ベッドや机、椅子もシンプルで機能性重視。装飾や飾り系は一切見られなかった。整理整頓はされているものの、床にはダンベルや筋トレグッズ、学校のカバンが転がっている。
「ここに『極限』って垂れ幕張ってたら、お兄ちゃんの部屋にそっくり」
京子の言葉に、沙良とハルもくすりと笑みをこぼした。
「ここが、しきみの部屋!」
しきみの部屋のドア。木のネームプレートに、しきみのへや とある。入った2人はほう、とため息をついた。
本やDVD、CDが詰まった本棚が、壁一面を埋めている。ジャンルはさまざま、絵本もあった。
あちこちにガーランドがつられ、天井には星や月、飛行機がぶら下がって飛んでいる。棚の上にはドールハウスがおいてあり、服を着たどうぶつの小さな人形が、優雅に生活している。ホビー感ただよう、子供部屋のようだ。
本棚にある絵本の一冊に気づき、京子があっと声をあげる。
「わあ、この絵本懐かしい!私小さい頃読んでたの」
この世界に来て気付いたことの一つに、歴史や偉人、アーティストや有名人等が元居た世界と変わっていないということだ。4人のいた世界で活躍していた歌手はこの家のテレビにも映っているし、織田信長は本能寺の変で亡くなっている。
なので幼い頃のしきみが愛読していた絵本も、探せばネットで中古本として売られてあったし、こうして京子が知っているのもむべなるかなである。
「たぶんいちばん物が多いのはしきみね」
そこで、沙良があっと思い出したように声を出す。
「ケーキ焼いてたの。そろそろかな?真琴のお部屋も見に行きましょうか」
ハルが感嘆の声を上げ、京子も同意して頷く。2人の目の前にあるのは鳴海、しきみ、沙良、真琴の4人だけで暮らしている家。
住宅街から少し離れたところに、その一軒家は建っていた。テラコッタ色の屋根にクリーム色の壁、窓枠やドアに濃い茶色がアクセントで入っている。全体的に真新しく、綻んだところも、経年劣化した部分も見当たらない。
インターホンを押すと、奥からぱたぱたとスリッパのあわただしい音がせまってきて、ガチャリ、とドアが開いた。エプロン姿の沙良であった。
「京子ちゃんハルちゃん、いらっしゃい」
「おじゃましまーす!」
今日は休日。ハルと京子、鳴海、しきみ、沙良、真琴の6人で、女子会をすることになったのだ。4人の家で。
中へ入った2人を、木の香りをふくんだ風が包んだ。
「大きいねえー!」
「すっごい、新築ですか!?」
ハルの問いに、2人のスリッパを出しながら、
「うん……たぶん新築じゃないかな?」
と、沙良は歯切れの悪い回答しかできなかった。
答えられないのがもどかしい。この家は、この世界で暮らしていくために4人を連れてきた人物から与えられたものだ。それが誰なのかは未だ判明していない。
調べようとしたこともあった。市役所の登記簿をみれば所有者がわかるはず。だが不思議なことに、毎回記載されている名前が違うのだ。男性の名前、女性の名前、または両方とも取れるときも。
対応してくれた職員も「最初からこの情報ですよ?」と、何か魔法でもかけられているかのように疑問をまったく持たないので、それ以上追求することができなかった。
しかも、生活する以上必要な生活費、ガス、水道、電気、ネット代…それらの請求書が来たことが無い。それなりにかかっているはずなのに。
つまり4人は、このぴかぴかの新築と思わしき一軒家にタダで住まわせてもらっている。
それだけではない。鳴海に渡された手紙と同封の銀行通帳に、毎月30万弱振り込まれているのだ。
振込主の名前、こちらもまばらだった。見知らぬ人物名の時もあれば、どこかの会社からの時もある。しかし、どの名称もネットで調べどもヒットしたことはない。4人を養ってくれているだろう人物へたどり着くことはできなかった。
ちなみに、財布と家計は沙良が管理していた。毎月5,000円ずつお小遣いを渡し、学生生活に必要な雑費・食費は口座から出し、残った金額はなにか起きたときのためにと貯金していた。
はしゃぐ2人を沙良がリビングに案内すると、
「あ、いらっしゃーい!」
テレビの目の前でなにやらゲーム機器を繋げているしきみ、鳴海が振り向いて手をふった。ローテーブルにはお菓子や飲み物が山のように準備されている。
「わあ、ゲーム?」
京子の問いに鳴海は首を縦に振った。
「大人数で出来るの買ってきたんだ。でもおかしいな、全然画面映らないんだけど」
その傍らで、隣の襖がガタガタと震えた。びっくりして固まる京子とハルだったが、襖の向こうから出てきた人物にほっと胸を撫で下ろす。
「あ、笹川さん、三浦さん、いらっしゃい……」
まだ寝間着姿の真琴だった。
「真琴、お片付け終わった?」
沙良が苦笑している。真琴は罰が悪そうにうつむきながら、
「あと、ちょっと…」とだけ言って奥へ引っ込んでしまった。
「あのお部屋が、真琴ちゃんのお部屋ですか!?」
ハルが興味津々にふすまを見つめる。
「そう。今日寝坊しちゃったの。2人が来るから緊張して寝付けなかったみたい。しかも片付けするって言って朝からあんな感じ。おかしいな、真琴そんなに荷物もってないはずなのに……」
「京子ちゃんハルちゃん、もうちょっとかかるから、ゆっくりしてて。俺らの部屋なら見てもいいよ」
ゲームの取扱説明書を片手に、鳴海が機材のコードをうんうんいいながら繋いでは外しを繰り返している。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……!」
ハルの顔がぱっと輝く。今回初めて4人の家にくるということで、2人は4人それぞれの自室を見たがっていたのだ。
「じゃあ、案内するね」
沙良が率先して、階段へ向かった。
*
「まず、私の部屋から」
『沙良の部屋』と書かれた、植物が描かれたルームプレート。ドアの向こうには、全体的にパステルカラーなピンクと白、同系色の家具でまとめられた部屋が広がっていた。
「見てても、あんまり面白くないかもだけど……」
「いえいえ!かわいくってとっても素敵です!」
ハルがぴょこぴょこと歩く。壁にはあちこちに花の立体的な壁飾り。香水や化粧品のイラストのポスター。
「なんだか、外国の女の子の部屋みたい」
2人の言葉に、沙良は照れながら、
「ありがとう。でもね、他の部屋のほうが、らしくて私は好きなの」
次に案内されたのは鳴海の部屋だ。黒いメタルプレートに、白文字のローマ字で鳴海 ❜s Roomとある。
先程の沙良の部屋とは違って、全体的に青と黒の部屋だった。ベッドや机、椅子もシンプルで機能性重視。装飾や飾り系は一切見られなかった。整理整頓はされているものの、床にはダンベルや筋トレグッズ、学校のカバンが転がっている。
「ここに『極限』って垂れ幕張ってたら、お兄ちゃんの部屋にそっくり」
京子の言葉に、沙良とハルもくすりと笑みをこぼした。
「ここが、しきみの部屋!」
しきみの部屋のドア。木のネームプレートに、しきみのへや とある。入った2人はほう、とため息をついた。
本やDVD、CDが詰まった本棚が、壁一面を埋めている。ジャンルはさまざま、絵本もあった。
あちこちにガーランドがつられ、天井には星や月、飛行機がぶら下がって飛んでいる。棚の上にはドールハウスがおいてあり、服を着たどうぶつの小さな人形が、優雅に生活している。ホビー感ただよう、子供部屋のようだ。
本棚にある絵本の一冊に気づき、京子があっと声をあげる。
「わあ、この絵本懐かしい!私小さい頃読んでたの」
この世界に来て気付いたことの一つに、歴史や偉人、アーティストや有名人等が元居た世界と変わっていないということだ。4人のいた世界で活躍していた歌手はこの家のテレビにも映っているし、織田信長は本能寺の変で亡くなっている。
なので幼い頃のしきみが愛読していた絵本も、探せばネットで中古本として売られてあったし、こうして京子が知っているのもむべなるかなである。
「たぶんいちばん物が多いのはしきみね」
そこで、沙良があっと思い出したように声を出す。
「ケーキ焼いてたの。そろそろかな?真琴のお部屋も見に行きましょうか」
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