27.夏祭り
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並盛町花火大会兼夏祭り当日。
毎年この日は、だいたい昼過ぎあたりから浴衣を着た人々を街中あちこちに見かけるようになる。行き先は花火大会が行われる並盛川・河川敷と、そこから少し離れた場所にある夏祭り会場である。
並盛町を見下ろすようにそびえたつ山には、規模の大きい神社が建立されている。並盛神社。境内は三層に分かれ、山のふもとから広大な駐車場、石の階段を少し登って社務所や神楽殿、宮司宅、また階段を上ってこぢんまりとした本殿といったところだった。
夏祭りは、駐車場と社務所近くの2つの土地で催されていた。
夕方、沢田家のインターホンが鳴る。ビアンキが出ると、扉前には鳴海の姿が。白いTシャツにデニムのショートパンツ、上から紺色の布地にボタニカルな花柄の羽織をまとっている。
「あら、あなたはそのスタイルなのね」
「こっちのほうが、動きやすいかなあっ…て…」
しきみと沙良からは「鳴海に浴衣着せたかった」と悔しがられてしまったが。ビアンキはふっと笑みを見せる。
「あなたらしくて似合ってるわ」
結婚式の一件以来、4人に対しビアンキの態度はどこか柔らかいものになっていた。
「鳴海が迎えに来たわよ」
ビアンキがキッチンの方へ声をかけると、たちまち騒がしい2人の幼子の足音が。玄関まで走ってやってきたのはランボとイーピン、後ろから諌めながら姿を見せたのはフゥ太と奈々だ。
「ごめんなさいね鳴海ちゃん、今日は頼むわね」
「いえいえ」
今夜の夏祭りと花火大会を、鳴海はランボ、イーピン、フゥ太の面倒を見ることにしたのだ。本来は綱吉の役目だったのが、町内会の夏祭りの屋台の番が沢田家に回ってきて、店をせねばならなくなった。男手が足りないからと獄寺と山本、しきみが助っ人として名乗りをあげた。
同時に、奈々は運悪く足をくじいてしまい、夏祭りにいきたいとねだる子らを連れていこうにも出来ず困っていた。しきみは屋台、沙良は京子やハルの着付けのお手伝いをする約束をしていた。真琴は沙良と離れたくないとだだをこねた。そこで、特に予定も無かった鳴海がランボ達のお守りの役割を申し出て、こうして家まで迎えに来たのである。
「鳴海っ、鳴海っ、ランボさん、やりたいこといっぱいあるんだもんね! ヨーヨー釣りでしょ、射的とか、あととうもろこしも!」
「もう、困らせちゃだめよ、ランボちゃん」
「大丈夫ですよ、結構お金持ってきたので」
奈々は目を丸くした。鳴海は続ける。
「みんなで相談して、ランボくん達の分もこっちで出すつもりなんです」
「そんな、悪いわ、私から渡そうと思ってたのに」
小銭入れを握りしめている奈々に、鳴海は苦笑した。
ランボ、イーピン、フゥ太は奈々の子供ではないのに。家においてやり、お小遣いもかかさず渡そうとする。本当に良い人だな、と綱吉が少し羨ましくなる。
「ママンの警護は任せなさい」
ビアンキの言葉に、鳴海はしっかり頷いた。
「はい! じゃあ、いこっか、みんな!」
鳴海の掛け声に、幼子たちはわあっと歓声をあげて沢田家を出発した。
「鳴海姉ーー!」
「快啲快啲 !!」
「早くこないと、置いていくんだもんね!!」
幼子の元気の、なんと底なしでパワフルなことか。いてもたってもいられないと先を行く彼らに、鳴海は急に懐かしい気持ちに襲われた。
『姉ちゃん!こっちだよー!』
(そういえば、よく一緒に行ったなあ)
早足で追いかけながら、元の世界で生きているであろう弟と、幼い妹のことを考えていた。
*
大きな鳥居をくぐると、提灯や電飾で飾られたカラフルな屋台がずらっと立ち並び、賑やかな人と声で溢れかえっている。食べ物を焼く油っぽい香りと焦げ臭い煙。持ち込まれたスピーカーから響く音楽。それらを取り巻く人々の熱気。
ランボにはわたあめ、イーピンは遠慮して欲しいものを言わないので、とりあえず鳴海はたこ焼きを買い、境内にある花壇に座って皆で食べていると、小学2、3年生ほどの少年が息を切らしながらやってきた。
「はあっ、はあ……」
よっぽど走ったのだろう、少年は膝に手を付き、肩で息をしている。なんとか姿勢を正しつつ、たこ焼きを食べる鳴海たちに視線を寄越してきた。
深く被ったキャップの奥から見えるのは、ぎらぎらした目、気の強そうな顔立ちだ。
そのうちこの子の連れや友達が来るのかと思いきや、そうでもないらしい。少年は近くをうろうろして、屋台に行こうともしない。
(うちの弟と同じくらいだ……)
つい気になって、お節介だとは思いつつ鳴海は声をかけた。
「ねえ君、一人?」
声をかけられた少年はじろりと鳴海を見据え、数秒後首を縦に降った。
「うん。一人」
今は夕方の7時半だ。夏で日も長くなっているとはいえ、もうすぐ辺りは暗くなる。
「おうちの人は?友達とも来てないの?」
「……うん」少年は小さく続けた。
「仕事で、いない」
彼の細い手首には、蛍光にぼんやり光る腕輪がつけられていた。
「そのブレスレット、格好いいね」
誉められて、少年はいっきに破顔する。
「でしょ、兄ちゃんがくれたんだ」
「お兄ちゃんは? 祭り来てもらえないの」
「兄ちゃんも、忙しくて。間に合うかわかんないって……」
そこで、鳴海はたこやきを頬張るフゥ太達に振り返り、「ねえ、この子も一緒にお祭りまわっていいかな?」と声をかけた。
「梗係得啦 !」
イーピンが元気よく、にこにこしながら返事した。
「僕も大丈夫だよ」
フゥ太も承諾してくれたが、ランボ一人が眉を潜ませる。
「むー……なんだか嫌な予感がするんだもんね! やい、お前!!」
ランボは俊敏な動きで、少年の足元をぐるぐる走る。
「まあまあランボさん、ここはひとつお兄ちゃんになろうよ」
鳴海に諭され、ぐぬぬ、とランボは引き下がった。
「しっ、しょうがないもんね、へんなことしたら承知しないかんな!」
「え、いいの?」
思ってもみなかったといわんばかりに、少年は戸惑っている。
「一人でいると危ないよ。君のお兄ちゃんがくるまで、一緒にいよう?」
鳴海の顔をまじまじと見つめ、少年は何か言いたげにして、口をつぐみ、そのままこくりと頷いた。
***
日が落ちても鳴く蝉の声をよそに、綱吉はチョコバナナの屋台でひたすら作業を進めていた。夜でもうだるような暑さのこの季節、じんわりと汗がにじむ。
山本、獄寺、しきみの手伝いもあって屋台は繁盛、売り上げもうなぎのぼり……といきたいところだがそうは問屋が卸さなかった。
獄寺がぴりぴりしているのだ。しきみに禁煙を命じられて。
「別に、誰も気にしやしねえよ!」
「だめだって、お店の人が喫煙してたら!」
事実、獄寺の厳つさに怖がって客足は遠のき、くわえていたタバコを捨ててからは若干ではあるが、売れた。それでも屋台前に人はまばらで、あからさまに避けられている。
綱吉はちらっと後ろに積まれた段ボールに視線をよこす。このままでは仕入れしたバナナがさばききれる自信はない。
「あっ、ツナくん!!」
しきみが急に名前を呼ぶ。なんだなんだ、と綱吉が顔を上げるとそこには、
「チョコバナナ、くださいな!」
複数の少女の声が。愛らしい浴衣を着た京子、ハル、沙良、真琴だ。
毎年この日は、だいたい昼過ぎあたりから浴衣を着た人々を街中あちこちに見かけるようになる。行き先は花火大会が行われる並盛川・河川敷と、そこから少し離れた場所にある夏祭り会場である。
並盛町を見下ろすようにそびえたつ山には、規模の大きい神社が建立されている。並盛神社。境内は三層に分かれ、山のふもとから広大な駐車場、石の階段を少し登って社務所や神楽殿、宮司宅、また階段を上ってこぢんまりとした本殿といったところだった。
夏祭りは、駐車場と社務所近くの2つの土地で催されていた。
夕方、沢田家のインターホンが鳴る。ビアンキが出ると、扉前には鳴海の姿が。白いTシャツにデニムのショートパンツ、上から紺色の布地にボタニカルな花柄の羽織をまとっている。
「あら、あなたはそのスタイルなのね」
「こっちのほうが、動きやすいかなあっ…て…」
しきみと沙良からは「鳴海に浴衣着せたかった」と悔しがられてしまったが。ビアンキはふっと笑みを見せる。
「あなたらしくて似合ってるわ」
結婚式の一件以来、4人に対しビアンキの態度はどこか柔らかいものになっていた。
「鳴海が迎えに来たわよ」
ビアンキがキッチンの方へ声をかけると、たちまち騒がしい2人の幼子の足音が。玄関まで走ってやってきたのはランボとイーピン、後ろから諌めながら姿を見せたのはフゥ太と奈々だ。
「ごめんなさいね鳴海ちゃん、今日は頼むわね」
「いえいえ」
今夜の夏祭りと花火大会を、鳴海はランボ、イーピン、フゥ太の面倒を見ることにしたのだ。本来は綱吉の役目だったのが、町内会の夏祭りの屋台の番が沢田家に回ってきて、店をせねばならなくなった。男手が足りないからと獄寺と山本、しきみが助っ人として名乗りをあげた。
同時に、奈々は運悪く足をくじいてしまい、夏祭りにいきたいとねだる子らを連れていこうにも出来ず困っていた。しきみは屋台、沙良は京子やハルの着付けのお手伝いをする約束をしていた。真琴は沙良と離れたくないとだだをこねた。そこで、特に予定も無かった鳴海がランボ達のお守りの役割を申し出て、こうして家まで迎えに来たのである。
「鳴海っ、鳴海っ、ランボさん、やりたいこといっぱいあるんだもんね! ヨーヨー釣りでしょ、射的とか、あととうもろこしも!」
「もう、困らせちゃだめよ、ランボちゃん」
「大丈夫ですよ、結構お金持ってきたので」
奈々は目を丸くした。鳴海は続ける。
「みんなで相談して、ランボくん達の分もこっちで出すつもりなんです」
「そんな、悪いわ、私から渡そうと思ってたのに」
小銭入れを握りしめている奈々に、鳴海は苦笑した。
ランボ、イーピン、フゥ太は奈々の子供ではないのに。家においてやり、お小遣いもかかさず渡そうとする。本当に良い人だな、と綱吉が少し羨ましくなる。
「ママンの警護は任せなさい」
ビアンキの言葉に、鳴海はしっかり頷いた。
「はい! じゃあ、いこっか、みんな!」
鳴海の掛け声に、幼子たちはわあっと歓声をあげて沢田家を出発した。
「鳴海姉ーー!」
「
「早くこないと、置いていくんだもんね!!」
幼子の元気の、なんと底なしでパワフルなことか。いてもたってもいられないと先を行く彼らに、鳴海は急に懐かしい気持ちに襲われた。
『姉ちゃん!こっちだよー!』
(そういえば、よく一緒に行ったなあ)
早足で追いかけながら、元の世界で生きているであろう弟と、幼い妹のことを考えていた。
*
大きな鳥居をくぐると、提灯や電飾で飾られたカラフルな屋台がずらっと立ち並び、賑やかな人と声で溢れかえっている。食べ物を焼く油っぽい香りと焦げ臭い煙。持ち込まれたスピーカーから響く音楽。それらを取り巻く人々の熱気。
ランボにはわたあめ、イーピンは遠慮して欲しいものを言わないので、とりあえず鳴海はたこ焼きを買い、境内にある花壇に座って皆で食べていると、小学2、3年生ほどの少年が息を切らしながらやってきた。
「はあっ、はあ……」
よっぽど走ったのだろう、少年は膝に手を付き、肩で息をしている。なんとか姿勢を正しつつ、たこ焼きを食べる鳴海たちに視線を寄越してきた。
深く被ったキャップの奥から見えるのは、ぎらぎらした目、気の強そうな顔立ちだ。
そのうちこの子の連れや友達が来るのかと思いきや、そうでもないらしい。少年は近くをうろうろして、屋台に行こうともしない。
(うちの弟と同じくらいだ……)
つい気になって、お節介だとは思いつつ鳴海は声をかけた。
「ねえ君、一人?」
声をかけられた少年はじろりと鳴海を見据え、数秒後首を縦に降った。
「うん。一人」
今は夕方の7時半だ。夏で日も長くなっているとはいえ、もうすぐ辺りは暗くなる。
「おうちの人は?友達とも来てないの?」
「……うん」少年は小さく続けた。
「仕事で、いない」
彼の細い手首には、蛍光にぼんやり光る腕輪がつけられていた。
「そのブレスレット、格好いいね」
誉められて、少年はいっきに破顔する。
「でしょ、兄ちゃんがくれたんだ」
「お兄ちゃんは? 祭り来てもらえないの」
「兄ちゃんも、忙しくて。間に合うかわかんないって……」
そこで、鳴海はたこやきを頬張るフゥ太達に振り返り、「ねえ、この子も一緒にお祭りまわっていいかな?」と声をかけた。
「
イーピンが元気よく、にこにこしながら返事した。
「僕も大丈夫だよ」
フゥ太も承諾してくれたが、ランボ一人が眉を潜ませる。
「むー……なんだか嫌な予感がするんだもんね! やい、お前!!」
ランボは俊敏な動きで、少年の足元をぐるぐる走る。
「まあまあランボさん、ここはひとつお兄ちゃんになろうよ」
鳴海に諭され、ぐぬぬ、とランボは引き下がった。
「しっ、しょうがないもんね、へんなことしたら承知しないかんな!」
「え、いいの?」
思ってもみなかったといわんばかりに、少年は戸惑っている。
「一人でいると危ないよ。君のお兄ちゃんがくるまで、一緒にいよう?」
鳴海の顔をまじまじと見つめ、少年は何か言いたげにして、口をつぐみ、そのままこくりと頷いた。
***
日が落ちても鳴く蝉の声をよそに、綱吉はチョコバナナの屋台でひたすら作業を進めていた。夜でもうだるような暑さのこの季節、じんわりと汗がにじむ。
山本、獄寺、しきみの手伝いもあって屋台は繁盛、売り上げもうなぎのぼり……といきたいところだがそうは問屋が卸さなかった。
獄寺がぴりぴりしているのだ。しきみに禁煙を命じられて。
「別に、誰も気にしやしねえよ!」
「だめだって、お店の人が喫煙してたら!」
事実、獄寺の厳つさに怖がって客足は遠のき、くわえていたタバコを捨ててからは若干ではあるが、売れた。それでも屋台前に人はまばらで、あからさまに避けられている。
綱吉はちらっと後ろに積まれた段ボールに視線をよこす。このままでは仕入れしたバナナがさばききれる自信はない。
「あっ、ツナくん!!」
しきみが急に名前を呼ぶ。なんだなんだ、と綱吉が顔を上げるとそこには、
「チョコバナナ、くださいな!」
複数の少女の声が。愛らしい浴衣を着た京子、ハル、沙良、真琴だ。
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