26.海水浴
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「ねえねえ!パレオ着ようよ!」
はしゃぎながら、しきみはトップとパレオのセットを何着か運んできた。
顔を輝かせる沙良、その隣で、あからさまに嫌そうな顔をする鳴海と真琴。
夏も間近に迫るこの頃、4人は京子とハルと共に、デパートにある水着ショップに来ていた。ノリの良いエモーショナルな洋楽が流れ、カラフルなスイムウェア、サンダル、レジャーグッズ等がマリンテイストの店内ににぎやかに飾られている。
「俺はこっちがいい」
鳴海が指さした水着は、オリンピックで競泳選手が着ているようなシンプルなものだった。ほぼ紺色オンリーである。
しきみが頬を膨らませた。
「もうっ、遊びに行くんだよ! そんなガチなものじゃなくていいの!」
7月の上旬、並盛町の海岸でも海開きがある。今年は京子の兄・了平が、ボクシング部のOBに誘われてライフセーバーをするという。顔を見に来るついでに遊びに来いと誘われ、綱吉、山本、獄寺、京子、ハル、そしてこの4人で海水浴に行くことになったのだ。
「で、でも、俺そんな女の子っぽいの無理だよ、似合わないよ……!」
弱腰な鳴海の傍らで、真琴がぶんぶんと首を縦に振っている。真琴はどちらかというと水着うんぬんより、アウトドア自体遠慮したい意向であったが、しきみが「沙良に可愛い水着きせて、獄寺を振り向かせよう!」などとのたまうものだから参加を決めた。
「私、これがいいかも」
しきみの持つ数着から、沙良がひとつを手に取る。真琴はほっと胸をなでおろした。水着だが露出があまり少ない。
「決まりました?」
ハルがひょこっと顔を出してこちらにやってくる。その後ろには京子が。2人が選んだのは、横を紐で結んで留めるタイプ。紐ビキニだ。
しきみがこそっと沙良に耳打ちする。
「あれくらいのにしたら?」
「え……!!」
真っ赤になってわたわたする沙良、真琴はたいへん険しい顔で「それは駄目」とばっさり否定する。
「鳴海がさー、これがいいって」
少しむくれながら、しきみは競泳水着(かどうかは分からないが)をずいっと差し出す。ハルもしきみと同じような顔になった。
「鳴海ちゃん! せっかく綺麗なお顔してるんですから、もっとその美人さを引き立ててくれる水着にしましょう!」
「俺は美人なんかじゃないから……!!」
引き下がらない鳴海。ふと、京子が訊ねる。
「鳴海ちゃん、着たくないの?」
「着たくないってわけじゃないけど……海でがっつり泳ぎたいし、可愛いのは……その……」
一番の本音は最後に出てきた。可愛いもの。愛らしいデザインのもの。女の子らしい、もの。それは水着に限らず、服、持ち物すべてにおいて鳴海はつい躊躇してしまうのだ。
すると、京子は何か思いついたように手を叩き、
「じゃあ、これなんてどうかな?」
別のコーナーから取ってきたのは、上下が一体になった、ワンピースのような水着だった。黒い全体に、肩や体側に白いラインが入っている。少し胸元が開き、丈も短いがスポーティーなシルエットだ。
あ!としきみが声を上げた。
「それなら、この帽子似合うかも!!」
白いキャップ。額部分には小さな黒文字の外国語。鏡の前で体に合わせてみる。これを着た自分を、鳴海はすんなりと想像できた。
「……へ、変じゃないかな?」
一応後方にいる友人たちに確認してみるが、満場一致で好評だった。
「可愛いし、かっこいいよ!」
沙良が顔をほころばせる。真琴も真顔のままだが「似合ってる」と言ってくれた。
「鳴海ちゃんも好きになれる“かわいい”があると思うから」
京子の言葉に、鳴海は恥ずかしそうにうつむきつつ頷いた。
***
そして、当日。
駅とバスを経由して辿り着いた並盛海岸は、なかなかの賑わいを見せていた。快晴にめぐまれ、さんさんと輝く陽光に、やわらかい茶色の砂浜、寄せては返す白い波とのグラデーション、鮮やかな青い海が広がっている。
まず海の家に行き、ロッカールームを借り、着替えを済ました綱吉達。男子より女子のほうが時間がかかるだろうということで、ビーチパラソルの場所取りに男3人はうろついていた。
「やっぱ夏はいいやなー」伸びをする山本の隣で、じじいかてめーは、と獄寺が悪態をつく。
(なんか感動だなあ……!!)
綱吉は胸がいっぱいだった。ダメツナと揶揄され孤立していた日々、まさか自分が友達と海で遊ぶ日がくるとは。しかも好きな女の子と一緒に。
ふと、水平線まで広がる海を眺める。
(そういえば、小さい頃海で溺れたっけ…)
懐かしい記憶がよみがえった。子供はちょっと目を離したすきにいなくなってしまうものだ。昔家族で海に行き、奈々が一瞬別のことに気をとられたときだった。幼い綱吉が浮き輪にしがみついたまま、波にさらわれてしまったことがあった。
はじめは無邪気に楽しんだものだが、だんだん陸が離れていくことに恐怖を覚え、泣きわめき、その場にいたライフセーバーに救助された苦い思い出である。その後、何度も、水に流される悪夢にうなされたものだ。
あの時は肝を冷やしたわ、と奈々がよく話すネタのひとつだ。
首を激しく左右に振り、嫌な記憶をふりきろうとする綱吉。
(せっかく友達と来たんだ、めいっぱい楽しむぞ!!)
くるりと振り返り、ビーチパラソルの設置をしている山本を手伝おうとした時だった。
「よく来たなお前たち!!」
元気いっぱいの声が、頭上からふってきた。近くの高い監視台に、了平が座っている。山本が軽く手を振った。
「海の平和はオレが守る! お前たちは安心して海を楽しんでくれ!!」
「お前に守られてもな……」獄寺が憎まれ口をたたく。
京子の話では了平は先輩に誘われ、この海岸に泊まり込みでライフセーバーをしているという。志が高い人だな、と綱吉は感心していた。
監視台の梯子を降りながら、了平が綱吉達の元へやってきた。
「今日は素晴らしい助っ人も来てるぞ、ちょっと夏バテ気味だがな!」
そう言った了平の視線の先には、
「パオパオ老師だ!」
「ぱ……ぱおーん……」
「リボーン!!」
ボクシング部勧誘の際、そして体育祭の時に現れたパオパオ老師、もとい象の着ぐるみを身に付けた家庭教師の姿が。夏の暑さにやられ、監視台の下でだらけている。
「おや、先輩はどこに?」
了平が辺りを見渡したときだった。
「困るんだよね、ゴミ捨てられると」
物騒な声が聞こえてきた。
十数メートル先に、ガタイのいい大学生くらいの若者3人組が、小さな子供につっかかっていた。
「俺らの仕事増えるだろうが」
「ご、ごめんなさい……!」
子供は半泣き状態だ。プリン髪の男は子どもを離すついでに、自分たちが持っていたゴミをぽい、とこれ見よがしに放り捨ててしまった。
「じゃあ、ここら一帯掃除しとけよ」
その様子を目撃した山本・獄寺の表情は険しく、綱吉も内心恐れおののく。
(ひ、ひどい)
注意するにしたってもっと言い方があるだろう。その後の行動もかなり悪意がある。あんな恐ろしい連中が同じビーチにいるとは。
だが運命とは悲しいかな、
「ああ、この人たちがライフセーバーの先輩だ! 元並中ボクシング部のな」
「よう〜!」
了平に紹介され、ガラの悪い三人組はなんとも軽薄な雰囲気で声を上げる。
(うそー!?)
綱吉は叫びたいのを必死に抑える。了平の先輩が、こんなに好青年とかけ離れた人種とは。
プリンで痛みまくった髪、ドレッドヘア、スキンヘッド。日焼けサロンで焼きまくった肌は黒々とし、目もぎらつき、鍛えているのか恰幅の良い体つきをしている。人は見かけによらないとはいうが、第一印象は良いとは言えなかった。
どうも、と軽く山本は会釈し、獄寺は黙ったままだった。なんとも気まずい空気が流れかけた、そのときだ。
はしゃぎながら、しきみはトップとパレオのセットを何着か運んできた。
顔を輝かせる沙良、その隣で、あからさまに嫌そうな顔をする鳴海と真琴。
夏も間近に迫るこの頃、4人は京子とハルと共に、デパートにある水着ショップに来ていた。ノリの良いエモーショナルな洋楽が流れ、カラフルなスイムウェア、サンダル、レジャーグッズ等がマリンテイストの店内ににぎやかに飾られている。
「俺はこっちがいい」
鳴海が指さした水着は、オリンピックで競泳選手が着ているようなシンプルなものだった。ほぼ紺色オンリーである。
しきみが頬を膨らませた。
「もうっ、遊びに行くんだよ! そんなガチなものじゃなくていいの!」
7月の上旬、並盛町の海岸でも海開きがある。今年は京子の兄・了平が、ボクシング部のOBに誘われてライフセーバーをするという。顔を見に来るついでに遊びに来いと誘われ、綱吉、山本、獄寺、京子、ハル、そしてこの4人で海水浴に行くことになったのだ。
「で、でも、俺そんな女の子っぽいの無理だよ、似合わないよ……!」
弱腰な鳴海の傍らで、真琴がぶんぶんと首を縦に振っている。真琴はどちらかというと水着うんぬんより、アウトドア自体遠慮したい意向であったが、しきみが「沙良に可愛い水着きせて、獄寺を振り向かせよう!」などとのたまうものだから参加を決めた。
「私、これがいいかも」
しきみの持つ数着から、沙良がひとつを手に取る。真琴はほっと胸をなでおろした。水着だが露出があまり少ない。
「決まりました?」
ハルがひょこっと顔を出してこちらにやってくる。その後ろには京子が。2人が選んだのは、横を紐で結んで留めるタイプ。紐ビキニだ。
しきみがこそっと沙良に耳打ちする。
「あれくらいのにしたら?」
「え……!!」
真っ赤になってわたわたする沙良、真琴はたいへん険しい顔で「それは駄目」とばっさり否定する。
「鳴海がさー、これがいいって」
少しむくれながら、しきみは競泳水着(かどうかは分からないが)をずいっと差し出す。ハルもしきみと同じような顔になった。
「鳴海ちゃん! せっかく綺麗なお顔してるんですから、もっとその美人さを引き立ててくれる水着にしましょう!」
「俺は美人なんかじゃないから……!!」
引き下がらない鳴海。ふと、京子が訊ねる。
「鳴海ちゃん、着たくないの?」
「着たくないってわけじゃないけど……海でがっつり泳ぎたいし、可愛いのは……その……」
一番の本音は最後に出てきた。可愛いもの。愛らしいデザインのもの。女の子らしい、もの。それは水着に限らず、服、持ち物すべてにおいて鳴海はつい躊躇してしまうのだ。
すると、京子は何か思いついたように手を叩き、
「じゃあ、これなんてどうかな?」
別のコーナーから取ってきたのは、上下が一体になった、ワンピースのような水着だった。黒い全体に、肩や体側に白いラインが入っている。少し胸元が開き、丈も短いがスポーティーなシルエットだ。
あ!としきみが声を上げた。
「それなら、この帽子似合うかも!!」
白いキャップ。額部分には小さな黒文字の外国語。鏡の前で体に合わせてみる。これを着た自分を、鳴海はすんなりと想像できた。
「……へ、変じゃないかな?」
一応後方にいる友人たちに確認してみるが、満場一致で好評だった。
「可愛いし、かっこいいよ!」
沙良が顔をほころばせる。真琴も真顔のままだが「似合ってる」と言ってくれた。
「鳴海ちゃんも好きになれる“かわいい”があると思うから」
京子の言葉に、鳴海は恥ずかしそうにうつむきつつ頷いた。
***
そして、当日。
駅とバスを経由して辿り着いた並盛海岸は、なかなかの賑わいを見せていた。快晴にめぐまれ、さんさんと輝く陽光に、やわらかい茶色の砂浜、寄せては返す白い波とのグラデーション、鮮やかな青い海が広がっている。
まず海の家に行き、ロッカールームを借り、着替えを済ました綱吉達。男子より女子のほうが時間がかかるだろうということで、ビーチパラソルの場所取りに男3人はうろついていた。
「やっぱ夏はいいやなー」伸びをする山本の隣で、じじいかてめーは、と獄寺が悪態をつく。
(なんか感動だなあ……!!)
綱吉は胸がいっぱいだった。ダメツナと揶揄され孤立していた日々、まさか自分が友達と海で遊ぶ日がくるとは。しかも好きな女の子と一緒に。
ふと、水平線まで広がる海を眺める。
(そういえば、小さい頃海で溺れたっけ…)
懐かしい記憶がよみがえった。子供はちょっと目を離したすきにいなくなってしまうものだ。昔家族で海に行き、奈々が一瞬別のことに気をとられたときだった。幼い綱吉が浮き輪にしがみついたまま、波にさらわれてしまったことがあった。
はじめは無邪気に楽しんだものだが、だんだん陸が離れていくことに恐怖を覚え、泣きわめき、その場にいたライフセーバーに救助された苦い思い出である。その後、何度も、水に流される悪夢にうなされたものだ。
あの時は肝を冷やしたわ、と奈々がよく話すネタのひとつだ。
首を激しく左右に振り、嫌な記憶をふりきろうとする綱吉。
(せっかく友達と来たんだ、めいっぱい楽しむぞ!!)
くるりと振り返り、ビーチパラソルの設置をしている山本を手伝おうとした時だった。
「よく来たなお前たち!!」
元気いっぱいの声が、頭上からふってきた。近くの高い監視台に、了平が座っている。山本が軽く手を振った。
「海の平和はオレが守る! お前たちは安心して海を楽しんでくれ!!」
「お前に守られてもな……」獄寺が憎まれ口をたたく。
京子の話では了平は先輩に誘われ、この海岸に泊まり込みでライフセーバーをしているという。志が高い人だな、と綱吉は感心していた。
監視台の梯子を降りながら、了平が綱吉達の元へやってきた。
「今日は素晴らしい助っ人も来てるぞ、ちょっと夏バテ気味だがな!」
そう言った了平の視線の先には、
「パオパオ老師だ!」
「ぱ……ぱおーん……」
「リボーン!!」
ボクシング部勧誘の際、そして体育祭の時に現れたパオパオ老師、もとい象の着ぐるみを身に付けた家庭教師の姿が。夏の暑さにやられ、監視台の下でだらけている。
「おや、先輩はどこに?」
了平が辺りを見渡したときだった。
「困るんだよね、ゴミ捨てられると」
物騒な声が聞こえてきた。
十数メートル先に、ガタイのいい大学生くらいの若者3人組が、小さな子供につっかかっていた。
「俺らの仕事増えるだろうが」
「ご、ごめんなさい……!」
子供は半泣き状態だ。プリン髪の男は子どもを離すついでに、自分たちが持っていたゴミをぽい、とこれ見よがしに放り捨ててしまった。
「じゃあ、ここら一帯掃除しとけよ」
その様子を目撃した山本・獄寺の表情は険しく、綱吉も内心恐れおののく。
(ひ、ひどい)
注意するにしたってもっと言い方があるだろう。その後の行動もかなり悪意がある。あんな恐ろしい連中が同じビーチにいるとは。
だが運命とは悲しいかな、
「ああ、この人たちがライフセーバーの先輩だ! 元並中ボクシング部のな」
「よう〜!」
了平に紹介され、ガラの悪い三人組はなんとも軽薄な雰囲気で声を上げる。
(うそー!?)
綱吉は叫びたいのを必死に抑える。了平の先輩が、こんなに好青年とかけ離れた人種とは。
プリンで痛みまくった髪、ドレッドヘア、スキンヘッド。日焼けサロンで焼きまくった肌は黒々とし、目もぎらつき、鍛えているのか恰幅の良い体つきをしている。人は見かけによらないとはいうが、第一印象は良いとは言えなかった。
どうも、と軽く山本は会釈し、獄寺は黙ったままだった。なんとも気まずい空気が流れかけた、そのときだ。
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