21.ホワイトデー
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「ねえ鳴海、こっち履いてみない?」
沙良がはしゃいだ声で、黒い靴を差し出した。一見、ヒールのついたパンプスに見える。鳴海は顔をしかめた。
「俺、かかと高いのはちょっと……」
「これはフラットシューズだから。形が綺麗に見えるし、そんなにきつい靴じゃないから大丈夫よ。」
しぶしぶ試し履きを始める鳴海。少し遠くから、しきみがパステルカラーの小さな紙袋を抱えて走ってきた。
「ねえねえ!さっき買った服に合ったアクセ見つけたよー!!」
「よし、しきみ偉い!!」沙良が満足げな表情をする一方、鳴海の顔色は少し青くなっている。
「え、アクセサリーもつけるの……?」
3月上旬、4人は再びショッピングモールを訪れていた。
鳴海の服選びのためである。
先月、バレンタインで鳴海はディーノから一輪の薔薇を貰った。(それを聞いて綱吉ら男子達は仰天し、これが大人の余裕か、と同じ男として内心ほんのちょっとした敗北感を覚えたらしい。)しきみと沙良はそれはそれは大はしゃぎした。
かわいい元教え子を想ったのだろう、リボーンから「何かお返しをしてやってくれ」とディーノの番号を渡され、鳴海はディーノに連絡を取った。思いがけない鳴海からの電話に、携帯の向こうでディーノの声が弾んでいたのを感じた。
何かお返ししたい、との鳴海からの申し出に対し、ディーノの返事はこうだった。
ホワイトデーに予定を開けるから、食事にでもいかないか、と。
それではもらってばかりはないか、鳴海は躊躇したが、それがいちばん嬉しいと言われればぐうの音もでなかった。こうして、3月14日ディーノの緊急来日&鳴海は学校をサボって食事会が決まり、さて何を着ていこうかと悩むことになったのである。
しきみと沙良のテンションはうなぎ登りだった。仲良しの友人が、大人の男性とデートなんて。まるで自分のことのように喜び、さて当日の服は、化粧は?それらしいものを一切持っていない鳴海を引っ張ってお買い物である。真琴は荷物持ちとしてついてきた。
普段からスポーティーな格好ばかりしている鳴海は、フェミニンで可愛らしいスタイルをとにかく嫌がった。しきみと沙良はあれはどうだ、これはどうだと色々試させ、最終的にはお互い納得できるような、そこそこきれいめのカジュアルファッションに決まった。
あらかた買い物が終ったあたりで、時刻はすでに昼2時。紙袋を手分けして持ち、1階飲食店の立ち並ぶフロアへ。和食屋に入り、一息ついた。
ランチの時間より若干遅いせいか、店は入るより出る客の方が多く、ちらほらとすいている。
めいめい好きなものを注文したあとで、鳴海は足元においたショッピングの紙袋をしげしげと眺めた。
「今日は、付き合ってくれて本当にありがとう。俺だけじゃ何着ていいかわかんなかったから。……本当に助かったよ、3人が来てくれて」
どういたしまして、としきみも沙良もご満悦な様子だ。鳴海はずっと抱いていた疑問を口にした。
「あ、あのさ、なんで2人ともそんな楽しそうなの」
「そりゃあ楽しいでしょー! 鳴海を好き勝手にいじれる機会なんてそうそうないもん!」しきみが大きく笑う。「お前なあ~…」鳴海はあきれ顔だ。
沙良もにこにこしている。
「鳴海綺麗だから、色々似合うだろうなってずっと思ってたの。だからこうして、服が選べて嬉しい!」
「な、俺は綺麗じゃないよ、沙良のほうが、かわいいし」
真っ赤になってうつむく鳴海。ふいに、沙良はどこか遠い目をしながら、
「デートかあ……いいなあ……」
ぽつりとつぶやく。しきみは目をぱちぱちさせた。
「やっぱ、まだちょっと辛いよね」
沙良はこくりと頷いた。
バレンタインデーの日、意を決して告白をした沙良は、獄寺にあっさりとふられてしまった。
──オレは応えられない。
そう告げられたのだ。
だが、バレンタインは終わっても日常は続く。綱吉、獄寺、山本、そしてこの4人。いつも通りのメンバーでつるみ、たわいない話をしたり、昼食を取ったり、バカ騒ぎをしたり。
まるで何事もなかったかのように過ごそうとする獄寺と沙良の痛々しい様子は、皆感じているのだが。
しきみがおしぼりで手をふきながら話し出す。
「思うんだけどさあ、獄寺っていつも余裕ないんだろうね」
「え……?」
「すぐ怒ったり、感情の起伏が激しいじゃん。まあそこが良いところでもあるんだけど。それに、実家がマフィアで異母姉弟って。複雑で、苦労してきたから、恋愛に臆病なのかもなって」
「……!」
しきみの言葉に、沙良ははっとした。よく考えてみれば、獄寺の抱える背景などまったく知らない。本人が話したがらないのもあるが。
それなのに、自分は気持ちを伝えるばかりに必死だったのではないか。
急に自分が恥ずかしくなり、縮こまる沙良を、しきみがあわてて励ました。
「だから、沙良のせいじゃないよってこと!永遠に会えなくなったってわけじゃないんだし、あんまり落ち込む必要はないと思うよ」
「うん……うん、そうだね」
「まあホワイトデーはさ、楽しいこと待ってるから!」
しきみの発言に、3人が首をかしげる。真琴がお冷やを飲み干しながら、訪ねた。
「楽しいこと、って何」
「あ、やばいこれ秘密だったんだー!」
しきみがあわてて口を両手でふさぐ。「いや、そこまで言うなら言っちゃいなよ」鳴海が笑う。
しきみは急に深刻そうな顔になり、あたりをキョロキョロ見渡して、身を乗り出し、小声で切り出した。
「うちのクラスに◯✕△君っているじゃん、家がケーキ屋の」
うんうん、と皆うなづく。
「その子の家で、クラスの男子が集まってお菓子作る計画があるんだって、ホワイトデーに、女子全員に配るためにって」
「それ、どこで聞いたの?」
鳴海が問う。
「えへへ!実はスマホの画面で、チャットで連絡してるの見ちゃったの。あと、放課後こっそり話してるのも聞いちゃった」
「しきみ……」
真琴がじとっとした目でしきみを見つめる。そんな目で見ないでよ!としきみがあわてて弁解する。
「誰にも言ってないから!!」
「今言った」真琴がばっさり言う。やれやれと鳴海は苦笑いをし、沙良は、じゃあ4人だけの秘密ね、と微笑んだ。
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