01.1人目のトリップ
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「どこか、違う世界に行きたい。」
太陽が地平線に差しかかった夕暮れ時、隣にいた友人がそんなことを呟いた。いつも寡黙で、自分の感情を表に出したがらない、出すのをよしとしない風に生きている友人が。
返答に困った。今いるのは学校の屋上だ。周りを囲むフェンスを越えてはいないものの、一人で佇んでいる姿を見かけたらほうっておけなかった。最悪の状況を想像しつつ、恐るおそる「何やってんの?」と声をかけ、今に至る。
「違う世界、って?」
「今と、違う世界。自分を、知っている人間が、一人も、いない世界」
まくしたてるように、友人──真琴は言った。
「違う世界、ねえ……」
真琴の言葉を吟味する。他県とか、外国ならその条件には当てはまるかもしれない。しかし、毎日朝起きて登校し、指示されたことをこなして家に戻る。この往復を何度もくり返す学生が、そんなところへ飛び出していける可能性が無いに等しいのは、この歳でじゅうぶん分かりきっていた。
夕焼けに照らされた町が、赤く輝く。普段から自分たちを取り巻くその群衆は、ここから眺めるとミニチュアのおもちゃみたいだった。
「……ごめん。今の忘れて」
真琴は、フェンスを握りしめていた手をはなすと、出口側に振り返った。そこで、はた、と驚いた表情をする。その理由を、鳴海はすぐに知った。
「おーい、真琴ー! 鳴海ー!」
あのよく通る声はしきみだ。
嬉しくなって鳴海も振り向く。こちらへ向かってくるのはしきみと沙良。合わせて4人が、いつも一緒につるんでいるメンバーだ。
「あのね、駅前のコンビニで新商品のアイス出たんだって! 買いに行こう!!」
しきみの目が、きらきらと輝いている。まるで新しい玩具を与えられた子供みたいにはしゃいでいる。
沙良が、真琴の手をそっと取った。
「真琴も、一緒に行こう」
「……うん」
怪訝そうな顔をしていた真琴も、沙良に誘われると強く言えなかった。
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
しきみが先導きって歩きだす。鳴海は屋上からの風景に一瞥くれながら、それに続いた。
どこか、別の世界に。このときは、分かっていなかった。友人と話していた他愛のない会話が、まさか現実になってしまうだなんて。
新商品のアイスって、何味なんだろう。そんな呑気なことしか考えていなかったし、社会に出るまでずっと、そうだと思っていた。
太陽が地平線に差しかかった夕暮れ時、隣にいた友人がそんなことを呟いた。いつも寡黙で、自分の感情を表に出したがらない、出すのをよしとしない風に生きている友人が。
返答に困った。今いるのは学校の屋上だ。周りを囲むフェンスを越えてはいないものの、一人で佇んでいる姿を見かけたらほうっておけなかった。最悪の状況を想像しつつ、恐るおそる「何やってんの?」と声をかけ、今に至る。
「違う世界、って?」
「今と、違う世界。自分を、知っている人間が、一人も、いない世界」
まくしたてるように、友人──真琴は言った。
「違う世界、ねえ……」
真琴の言葉を吟味する。他県とか、外国ならその条件には当てはまるかもしれない。しかし、毎日朝起きて登校し、指示されたことをこなして家に戻る。この往復を何度もくり返す学生が、そんなところへ飛び出していける可能性が無いに等しいのは、この歳でじゅうぶん分かりきっていた。
夕焼けに照らされた町が、赤く輝く。普段から自分たちを取り巻くその群衆は、ここから眺めるとミニチュアのおもちゃみたいだった。
「……ごめん。今の忘れて」
真琴は、フェンスを握りしめていた手をはなすと、出口側に振り返った。そこで、はた、と驚いた表情をする。その理由を、鳴海はすぐに知った。
「おーい、真琴ー! 鳴海ー!」
あのよく通る声はしきみだ。
嬉しくなって鳴海も振り向く。こちらへ向かってくるのはしきみと沙良。合わせて4人が、いつも一緒につるんでいるメンバーだ。
「あのね、駅前のコンビニで新商品のアイス出たんだって! 買いに行こう!!」
しきみの目が、きらきらと輝いている。まるで新しい玩具を与えられた子供みたいにはしゃいでいる。
沙良が、真琴の手をそっと取った。
「真琴も、一緒に行こう」
「……うん」
怪訝そうな顔をしていた真琴も、沙良に誘われると強く言えなかった。
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
しきみが先導きって歩きだす。鳴海は屋上からの風景に一瞥くれながら、それに続いた。
どこか、別の世界に。このときは、分かっていなかった。友人と話していた他愛のない会話が、まさか現実になってしまうだなんて。
新商品のアイスって、何味なんだろう。そんな呑気なことしか考えていなかったし、社会に出るまでずっと、そうだと思っていた。
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