・ワンドロワンライ
今年のミアレは大寒波に見舞われていた。この街に住み始めてから数年が経ったけれど、過去一寒いと自信を持って言える寒さだった。今日は俺も、同棲している恋人もオフの予定だったけれど、エムゼット団に緊急の依頼が入って、泣く泣く俺だけ外に出る羽目になっていた。ちなみに寒がりな恋人は一日家に籠ることにしたらしい。
依頼を終えて帰路を急ぐ。もともと彼が住んでいた大きな家に俺が移り住む形で始まった同棲生活もすっかり慣れた。なにより、忙しくても家に帰れば愛しい人と顔を合わせられるという点だけでも最高だった。考えるだけで家に帰る足取りも軽くなるというもの。
ぱらぱらと雪が降り始めた曇天の空を見上げる。日が暮れてきて冷たい風が首元をくすぐり、思わずゼニガメのように首を竦めると、温かな家と最愛の人が待つ家へと小走りに駆けだした。
「ただいまぁ」
玄関のドアを開けると、暖房に温められた空気がふわりと全身を包み込んで、思わずほっと息を吐く。そのままリビングに続く扉は開け……ることはせず、先に寝室でコートや他の防寒具を手早く外して、部屋着に着替えて手を洗った。こういう時は一度腰を下ろすと動けなくなるので、座らずに一気に済ませてしまうのがいい。手足の先が冷え切ったまま、それらのルーティンだけ済ませると、いよいよ恋人が待っているであろう明るいリビングへの扉を開ける。
体躯の大きなポケモンたちも出してやることができる広いリビングの中は、廊下よりもさらに一段温かかった。そしてその一角、フローリングではなく異国の床材――タタミ、とやらが敷かれたエリア。その真ん中に鎮座した布団付きのテーブルの中に、恋人はいた。
「キョウヤ、おかえり」
布団付きのローテーブル、通称こたつに入って、顔だけ出していた恋人――カラスバさんが、寝転びながらいじっていたスマホロトムから目を離し、俺を見て微笑む。その柔らかな表情とくつろいだ様子だけで、寒さで強張っていた全身の筋肉が弛緩していくようだった。
「カラスバさん、ただいま」
「堪忍な、閉め切ってたら玄関の音に気付かんくて」
「ふふ、だろうなと思いました」
少しだけ申し訳なさそうな顔をするものの、こたつからは全然出てこないカラスバさんの可愛さに笑いながら俺もその傍へ歩みを進める。
こたつは、カラスバさんの家に来て初めて知った異国の暖房器具だった。カントーとかジョウトとか、そちらの方の文化らしい。そしてこのこたつの魔力に、俺はすっかり魅了されてしまっていた。冬になったらここに吸い込まれて出てこられない体にされてしまった。ちなみにカラスバさんはとっくにこの魔物の虜である。
いそいそとこたつに向かって、いざ足を突っ込もうとしたところで俺はぴたりと止まる。リビングの入口からは死角になって見えていなかったが、こたつには他にも先客がいた。ペンドラーにロズレイド、お留守番を頼んでいた俺のチコリータ。特にペンドラーが贅沢にも二面にまたがるようにこたつを占領しており、ぎちぎちの満員だった。
「え~! 俺の入る場所ないじゃん!」
「ふふ、なんや今日はみんなこたつに入りたがってなぁ」
気持ちはわかる。こんな寒い日はこたつに限るのだ。しかもこの家のこたつは、くつろいでいるとカラスバさんが優しく甘やかしてくれるスペシャルオプション付き。ポケモンたちがそんなこたつの恩恵に預かりたがるのはもちろん初めてではない。
けれどこの寒い中、外から帰ってきたトレーナーが目の前にいるというのに、つんと知らんぷりするのはどういう了見か。こら、そこのチコリータ! お前だぞ! なんてことを思いながら俺はぺそぺそと眉を垂らして、上半身だけでもこたつから出てきてくれた恋人の背中へと泣きつく。
「カラスバさん、俺もこたつに入れてよぉ〜」
「今日は満員やねんけどなぁ」
「そこをなんとか!」
お願いします! と両手を合わせて上目遣いに見上げると、優しいカラスバさんはくふくふと気の抜けたプライベートの笑い方をしながら俺を手招いた。
「んー、ほなおいで」
とんとん、と叩かれたのはカラスバさんの真後ろ。それから少しだけ、彼の両サイドのこたつ布団が持ち上げられる。その仕草にすべてを察した俺は、遠慮なく自分の足の間に彼の小柄な体を収めるように下半身を潜り込ませた。そのまま後ろから彼のお腹に手を回して、布団の中に手を滑り込ませる。こたつの内部に侵入を果たした手足がすぐさま温まり始めて、ついでに恋人を抱き込んだ胸からもじわりと心地の良い体温が伝わってきて、気の抜けたため息が口から漏れた。
「さすがにちょお狭いな」
「えへ、じゃあもっとくっつきますね」
「オレ潰れてまうわ」
ぎゅう、と抱きしめる腕に力を籠める。この数年でありがたいことに身長を伸ばした俺の体は、今ではカラスバさんの体をすっぽり覆えるほどになっている。よく食べ、よく動き、よく寝て……はなかったかもしれないけど、とにかく本当に良かったと思う。ぎゅうぎゅう抱き着く俺にもカラスバさんは文句を言わず、むしろ機嫌よさそうに肩を揺らして、首だけ振り向いて俺の顔に手を当てた。まだ冷え切ったままの俺の頬に、カラスバさんの温かい手が添えられる。すりすりと温めるように手のひらで擦られるのが心地よくて、俺はその手にすり寄って目を細めた。
「キョウヤ冷えとるなぁ、位置逆の方が良かったか」
「いえ! カラスバさんを抱きしめたい気分だったので!」
「ふは、ほなこのまま座椅子になってもらおかな」
「座椅子……だから寛容だったの……?」
「オレ専用の座椅子。嫌か?」
「まさか、光栄です!」
「せやろ?」
絶対ここから動きませんからね、と言いながら、顔の下あたりにあるカラスバさんの項に唇を落とす。ついでに香りも少々嗅がせていただいて。俺の冷えた唇と鼻先が触れてしまったせいか、カラスバさんは少しだけピクリと肩を跳ねさせた。咎めるような視線が飛んできたので、えへへと笑って誤魔化しておく。知ってるんだ、カラスバさんは俺の顔に弱い。俺もカラスバさんの顔に弱いけど。カラスバさんはじとりと俺を振り返っていたものの、そこでふと悪戯を思いついたようににんまりと切れ長の目を細めて弧を描く。
「それに、こうやって二人でこたつ入っとったら、」
それからとんとん、と俺の腕を叩いて拘束を解かせると、狭いこたつの中でもぞりと体を反転するように動かして、再び肩までその中まで収まってしまった。そうすると、こたつの中から顔だけ出したような状態のカラスバさんが、俺の足の間に――股座に顔をうずめるような形になる。
「……こんなんもできるやん?」
その状態で股間をするりと撫で上げられて色っぽく微笑まれたら、そんなの。そんなの!
「〜っ!」
「おっ、元気ええなぁ」
ぐぐぐ、とやる気を漲らせてしまった素直な自分の息子が情けない。恥ずかしくてぶわわ、と顔が耳まで赤くなったのを感じる。カラスバさんはそれを見てなははと呑気に笑っているし。そんな顔も可愛いから余計に元気が出てしまう。
はっと視線を上げると、同じこたつに入っているポケモンたちの呆れた目が突き刺さる。特にペンドラーはやれやれ、みたいな顔をしてるけど、お前たちのご主人のせいだからな! と念を送っておく。その念が届いたのか、長年の付き合いで空気が読め過ぎているだけなのか、おそらく後者だけれど、三体はのそのそとこたつから這い出して各々のボールの中へぱしゅんと入っていく。それを横目に見送ったカラスバさんが、俺の腰に抱き着くように腕を回した。金の双眸が俺を見上げて、その美しい顔が俺のズボンへと頬ずりをする。
「しゃーないなぁ、寒い中で頑張ってきたキョウヤくんにご褒美やらんとな」
それから、テントを張った部分へこれみよがしに小さな唇を寄せてみせた。官能的なその仕草と妖艶な表情に、俺は思わず顔を手で押さえて天を仰ぐ。
「……あったかいを通り越して暑くなりそう……」
もはや嘆きのような俺の言葉に、いつも俺を翻弄する年上の恋人は上機嫌だ。
「ええやん、オレは寒いのより暑い方が好きやで。あったまろや」
「もー……タダじゃ済まさないんで、覚悟しといてくださいね」
そう言いながら、ただの触れ合いとは別の温度と湿度を帯びた手を、彼の頬に走らせる。薄い唇を親指でなぞってみれば、ちろりと赤い舌が俺の指先を撫でた。ずくんと体の中心が、また一段と熱を上げる。
「おーこわ。優しゅうしてな?」
くすくす。少女のような笑い声が、一気に色を帯びる。
「仰せのままに」
絡めて持ち上げた手の甲にキスを落とせば、それを合図に恋人同士の甘やかで淫靡な遊戯が始まった。
依頼を終えて帰路を急ぐ。もともと彼が住んでいた大きな家に俺が移り住む形で始まった同棲生活もすっかり慣れた。なにより、忙しくても家に帰れば愛しい人と顔を合わせられるという点だけでも最高だった。考えるだけで家に帰る足取りも軽くなるというもの。
ぱらぱらと雪が降り始めた曇天の空を見上げる。日が暮れてきて冷たい風が首元をくすぐり、思わずゼニガメのように首を竦めると、温かな家と最愛の人が待つ家へと小走りに駆けだした。
「ただいまぁ」
玄関のドアを開けると、暖房に温められた空気がふわりと全身を包み込んで、思わずほっと息を吐く。そのままリビングに続く扉は開け……ることはせず、先に寝室でコートや他の防寒具を手早く外して、部屋着に着替えて手を洗った。こういう時は一度腰を下ろすと動けなくなるので、座らずに一気に済ませてしまうのがいい。手足の先が冷え切ったまま、それらのルーティンだけ済ませると、いよいよ恋人が待っているであろう明るいリビングへの扉を開ける。
体躯の大きなポケモンたちも出してやることができる広いリビングの中は、廊下よりもさらに一段温かかった。そしてその一角、フローリングではなく異国の床材――タタミ、とやらが敷かれたエリア。その真ん中に鎮座した布団付きのテーブルの中に、恋人はいた。
「キョウヤ、おかえり」
布団付きのローテーブル、通称こたつに入って、顔だけ出していた恋人――カラスバさんが、寝転びながらいじっていたスマホロトムから目を離し、俺を見て微笑む。その柔らかな表情とくつろいだ様子だけで、寒さで強張っていた全身の筋肉が弛緩していくようだった。
「カラスバさん、ただいま」
「堪忍な、閉め切ってたら玄関の音に気付かんくて」
「ふふ、だろうなと思いました」
少しだけ申し訳なさそうな顔をするものの、こたつからは全然出てこないカラスバさんの可愛さに笑いながら俺もその傍へ歩みを進める。
こたつは、カラスバさんの家に来て初めて知った異国の暖房器具だった。カントーとかジョウトとか、そちらの方の文化らしい。そしてこのこたつの魔力に、俺はすっかり魅了されてしまっていた。冬になったらここに吸い込まれて出てこられない体にされてしまった。ちなみにカラスバさんはとっくにこの魔物の虜である。
いそいそとこたつに向かって、いざ足を突っ込もうとしたところで俺はぴたりと止まる。リビングの入口からは死角になって見えていなかったが、こたつには他にも先客がいた。ペンドラーにロズレイド、お留守番を頼んでいた俺のチコリータ。特にペンドラーが贅沢にも二面にまたがるようにこたつを占領しており、ぎちぎちの満員だった。
「え~! 俺の入る場所ないじゃん!」
「ふふ、なんや今日はみんなこたつに入りたがってなぁ」
気持ちはわかる。こんな寒い日はこたつに限るのだ。しかもこの家のこたつは、くつろいでいるとカラスバさんが優しく甘やかしてくれるスペシャルオプション付き。ポケモンたちがそんなこたつの恩恵に預かりたがるのはもちろん初めてではない。
けれどこの寒い中、外から帰ってきたトレーナーが目の前にいるというのに、つんと知らんぷりするのはどういう了見か。こら、そこのチコリータ! お前だぞ! なんてことを思いながら俺はぺそぺそと眉を垂らして、上半身だけでもこたつから出てきてくれた恋人の背中へと泣きつく。
「カラスバさん、俺もこたつに入れてよぉ〜」
「今日は満員やねんけどなぁ」
「そこをなんとか!」
お願いします! と両手を合わせて上目遣いに見上げると、優しいカラスバさんはくふくふと気の抜けたプライベートの笑い方をしながら俺を手招いた。
「んー、ほなおいで」
とんとん、と叩かれたのはカラスバさんの真後ろ。それから少しだけ、彼の両サイドのこたつ布団が持ち上げられる。その仕草にすべてを察した俺は、遠慮なく自分の足の間に彼の小柄な体を収めるように下半身を潜り込ませた。そのまま後ろから彼のお腹に手を回して、布団の中に手を滑り込ませる。こたつの内部に侵入を果たした手足がすぐさま温まり始めて、ついでに恋人を抱き込んだ胸からもじわりと心地の良い体温が伝わってきて、気の抜けたため息が口から漏れた。
「さすがにちょお狭いな」
「えへ、じゃあもっとくっつきますね」
「オレ潰れてまうわ」
ぎゅう、と抱きしめる腕に力を籠める。この数年でありがたいことに身長を伸ばした俺の体は、今ではカラスバさんの体をすっぽり覆えるほどになっている。よく食べ、よく動き、よく寝て……はなかったかもしれないけど、とにかく本当に良かったと思う。ぎゅうぎゅう抱き着く俺にもカラスバさんは文句を言わず、むしろ機嫌よさそうに肩を揺らして、首だけ振り向いて俺の顔に手を当てた。まだ冷え切ったままの俺の頬に、カラスバさんの温かい手が添えられる。すりすりと温めるように手のひらで擦られるのが心地よくて、俺はその手にすり寄って目を細めた。
「キョウヤ冷えとるなぁ、位置逆の方が良かったか」
「いえ! カラスバさんを抱きしめたい気分だったので!」
「ふは、ほなこのまま座椅子になってもらおかな」
「座椅子……だから寛容だったの……?」
「オレ専用の座椅子。嫌か?」
「まさか、光栄です!」
「せやろ?」
絶対ここから動きませんからね、と言いながら、顔の下あたりにあるカラスバさんの項に唇を落とす。ついでに香りも少々嗅がせていただいて。俺の冷えた唇と鼻先が触れてしまったせいか、カラスバさんは少しだけピクリと肩を跳ねさせた。咎めるような視線が飛んできたので、えへへと笑って誤魔化しておく。知ってるんだ、カラスバさんは俺の顔に弱い。俺もカラスバさんの顔に弱いけど。カラスバさんはじとりと俺を振り返っていたものの、そこでふと悪戯を思いついたようににんまりと切れ長の目を細めて弧を描く。
「それに、こうやって二人でこたつ入っとったら、」
それからとんとん、と俺の腕を叩いて拘束を解かせると、狭いこたつの中でもぞりと体を反転するように動かして、再び肩までその中まで収まってしまった。そうすると、こたつの中から顔だけ出したような状態のカラスバさんが、俺の足の間に――股座に顔をうずめるような形になる。
「……こんなんもできるやん?」
その状態で股間をするりと撫で上げられて色っぽく微笑まれたら、そんなの。そんなの!
「〜っ!」
「おっ、元気ええなぁ」
ぐぐぐ、とやる気を漲らせてしまった素直な自分の息子が情けない。恥ずかしくてぶわわ、と顔が耳まで赤くなったのを感じる。カラスバさんはそれを見てなははと呑気に笑っているし。そんな顔も可愛いから余計に元気が出てしまう。
はっと視線を上げると、同じこたつに入っているポケモンたちの呆れた目が突き刺さる。特にペンドラーはやれやれ、みたいな顔をしてるけど、お前たちのご主人のせいだからな! と念を送っておく。その念が届いたのか、長年の付き合いで空気が読め過ぎているだけなのか、おそらく後者だけれど、三体はのそのそとこたつから這い出して各々のボールの中へぱしゅんと入っていく。それを横目に見送ったカラスバさんが、俺の腰に抱き着くように腕を回した。金の双眸が俺を見上げて、その美しい顔が俺のズボンへと頬ずりをする。
「しゃーないなぁ、寒い中で頑張ってきたキョウヤくんにご褒美やらんとな」
それから、テントを張った部分へこれみよがしに小さな唇を寄せてみせた。官能的なその仕草と妖艶な表情に、俺は思わず顔を手で押さえて天を仰ぐ。
「……あったかいを通り越して暑くなりそう……」
もはや嘆きのような俺の言葉に、いつも俺を翻弄する年上の恋人は上機嫌だ。
「ええやん、オレは寒いのより暑い方が好きやで。あったまろや」
「もー……タダじゃ済まさないんで、覚悟しといてくださいね」
そう言いながら、ただの触れ合いとは別の温度と湿度を帯びた手を、彼の頬に走らせる。薄い唇を親指でなぞってみれば、ちろりと赤い舌が俺の指先を撫でた。ずくんと体の中心が、また一段と熱を上げる。
「おーこわ。優しゅうしてな?」
くすくす。少女のような笑い声が、一気に色を帯びる。
「仰せのままに」
絡めて持ち上げた手の甲にキスを落とせば、それを合図に恋人同士の甘やかで淫靡な遊戯が始まった。