・単発SS


カラスバはキョウヤにとって初めての恋人である。そしてそんなニ人の交際が始まってから一ヶ月と少し。いや、一ヶ月と十四日だ。キョウヤは浮かれポンチの脳みそで、一ヶ月経ってもカラスバとの交際日数をうきうきと数えている。特に意味はない。ただ、大好きな人と恋人として過ごす日々が積み重なっていくのが嬉しくて、ついついカレンダーを眺めてしまうのだ。

「キョウヤ」
「…カラスバさん」

付き合ってから初めてのお家デート。ソファに2人並んで座って、BGM代わりのテレビを意味もなく眺めながらとりとめもない話をする柔らかな時間。
そんなタイミングでふと目があって、隣り合って座った肩が触れた。そろり、座面で遊ばせていた指先が触れ合って、控えめに絡められる。

「目ぇ、瞑ってみ」

交際1ヶ月半、初めてのお家デート、2人きり、なんだか良い雰囲気。
これは、あれではないか。
もしかして、もしかして、もしかして。

(き、き、キスするやつ!?)

大好きで仕方ない恋人との、人生初キス確定演出。気付いてしまった瞬間にぶわわっ、と突沸したような勢いで頭の先まで全身を真っ赤に染め上げて、キョウヤは内心大騒ぎだ。
心臓はドコドコと大太鼓くらい大きい音で打ち鳴らされているし、体温が急上昇して暑いし、手汗も脇汗も滲んできた気がするし、緊張して喉が渇いて来た。思わず唾を飲み込んだら思ってた以上に大きな音が鳴った気がして、それもまた恥ずかしい。

キスってどうしたらいいんだ?ほんとはドラマのイケメン俳優みたいにスマートに唇を奪えたらいいのだけど、生憎そんな余裕はかけらもない。もっと予習しておけばよかった。もう遅いけれど。
とりあえず、目を閉じたら良いのだろうか。うん、そうしよう。カラスバさんがそう言ったんだから。え、じゃあカラスバさんからキスしてくれるってこと?待ってキス顔見たいんだけどどうしたらいいんだろう。絶対可愛い。見たい。途中でちょっと、うっすら目を開けるくらいならいいかな。いいよね。うん。

キョウヤはぎゅっと目を瞑って、手を膝の上に乗せて拳を握って背筋を伸ばす。ほぼ気をつけの姿勢であった。

己の言葉を聞いてからカチンコチンに固まった年下の恋人は、見るからに初々しくて可愛らしい。どうやら淡い期待に胸を躍らせているらしいのが手に取るようにわかるのも、カラスバの心を大いに満足させた。

(…目元にまつ毛付いてるから取ってやろうと思っただけねんけどなぁ)

なんて内心で苦笑するが、それはそれ。こんな可愛らしい反応をしてくれるのだ。
好きな子はいじめたい。男に備わった本能にも近い欲求。カラスバも例に漏れず、なんなら少しその欲求が強い部類だ。
可愛らしいキス待ち顔をじぃと眺めて、堪能して、そっと肩に手を添えてやったりなんかもして。それからわざと色を乗せて耳元で囁いた。

「…キスされると思た?」
「へっ」
「まつ毛にゴミ付いてんで」
「んなっ…!」

勘違いしていたという羞恥で、キョウヤの顔がさらにまた一段赤くなる。茹でオクタンのようだ。あぁ、かわええなあ。期待通りの反応が得られて満足感を感じながら、カラスバはクスリと笑う。
それから綺麗な形の鼻先を、人差し指でちょんと小突いてやった。

「ふ、あほづら」
「〜っ!!」

殊の外、柔らかい声で言われた罵倒にキョウヤが思わず目を開いたのと同時に、カラスバは顔を寄せてその半開きの唇をさらってやった。
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