・短編

麗らかな午後の日差し降り注ぐミアレのカフェ。俺は今日ここで、好きな子に告白しようと思っていた。呼び出した彼女も少し恥ずかしそうにはにかみながら来てくれて、2人でケーキセットを注文する。ここのケーキは美味しいのだ。
店内には俺たちの他に窓際でペロッパフとマカロンを食べてる男性、足元のトリミアンを撫でながら読書に勤しむ初老の女性、OL風の女性グループがいた。

そして穏やかに会話を楽しみながら、いつ言おうかなあなんて考えて緊張して。あのさ、と切り出そうとした時。カランカラン、とドアベルが鳴って、少ししたら俺たちの隣のテーブルの椅子が引かれた。男性の2人客だ。ミアレでは男同士でカフェに来るのは何も珍しい話ではないけど、ここは女性ウケの良い小綺麗で可愛らしいコンセプトのお店なので少し意外だ。
そして俺たちの隣に男性2人が座ったのだけど、その方向をみて彼女がピシリと固まり、それから慌てて手元に視線を落とした。不審なその動きに首を傾げたところで、こんな声が聞こえた。

「ねぇカラスバさん、いつ俺と結婚してくれるんですか?」

バッ、と、振り向かなかった俺を褒めて欲しい。聞こえてきた声も、名前も、ミアレに住む人間なら知らないものはいない超有名人だ。
咄嗟に顔を上げて前を見ると、顔を引き攣らせた彼女が必死に何かを訴えている。細かくは分からないけれどおそらく考えていることは同じだ。とんでもない場面に遭遇してしまったかもしれない。

いつ告白しようとかそんなものは頭から吹っ飛んでいた。きっと彼女もそう。
おそらく俺側に座っているのは、ミアレの英雄。キョウヤくんだ。ちらっとみえたトレードマークであるブルゾンも確認できたし、なによりキョウヤくん推しである目の前の彼女が顔を赤くしたり青くしたりして俺の隣をチラチラ見てるからだ。
ちなみにキョウヤくん推しのミアレ市民は老若男女問わず死ぬほどいるので全然気にしてない。みんなのキョウヤくんなのである。

しかし、だ。先程の爆弾発言から察するに、俺の斜め前ーー彼女側の席に座っているのは、ミアレの何でも屋さん、泣く子も黙るサビ組のボス様ということになる。恐れ多くもちらり、さりげなく視線を送るが、そこに座っていたのはなんだか若そうなイケメンのお兄さん。…いや、やっぱりよく見たらカラスバさんだった。オフの姿。まぁ確かにいきなりあのサビ組ボススタイルでこんなオシャレなカフェに入店されたら思わず身構えちゃうのは否めないけど…こうして見ると本当にただの綺麗な顔のお兄さんである。いやいやそんなことはどうでもよくて。

え、あの2人、付き合ってたの…?

思わず彼女とアイコンタクトを取って、当たり障りのない薄〜い会話を続けながら隣の会話に神経を集中させる。

そして深いため息の後、次なる爆弾が落とされた。

「…そもそもオレら付き合ってへんやんな?」

(((な、なんだってー!?)))

何それ待ってどういうこと??え???
俺たちを含むお客さん全員、いやむしろ店員さんも含めてざわついたのを肌で感じた。誰も口に出してないし必死に反応しないようにしてたけど分かる。全員が全神経を、隣のテーブル2人に向けていた。

交際をすっ飛ばして結婚。しかも相手はサビ組のボス。理解が追いつかず、俺たち周りの市民はただただ会話の行方に聞き耳を立てるしかない。
キョウヤくんはカラスバさんの言葉にことり、首を傾げて一切の迷いなくこう言った。
「何か問題あります?」
な、なんてまっすぐな目…あれ?俺たちが間違ってたかな?って思うくらいの眼差しだったけれど、天下のサビ組のボスには響いていないらしい。というか、最初のキョウヤくんの言葉に動揺の一つも見せないあたり、もしかしたらこのやりとりには慣れっこなのかもしれない。
いやこのやり取りに慣れてるって何???
「問題しかあらへんやろ」
おっしゃる通りですボス。事情を知らない俺たちでも交際0日婚はなんとしても理由をお聞きしたいです。なんて思っていると、むっと口を尖らせたキョウヤくんに彼は呆れを隠さずに口を開いた。
「まず、オレはサビ組のボス。一生日陰者で、男や。で、オマエはミアレの英雄、街の人気者で、男。な?あかんやろ」
「何か問題あります?」
「うわ…本気の目ェしとる…」
2回目でも変わらず恐ろしいほどまっすぐな目でキョウヤくんは同じ言葉を繰り返した。これぞ英雄、これぞヒーローと言いたくなるような確固たる意志を宿した目である。対するカラスバさんは思わずと言った様子で頭に手を当ててため息をついた。
はらはらと周りがひっそり見守る中、キョウヤくんが痺れを切らした様子で不満を露わにこう言い放った。
「ていうか今更じゃないですか?カラスバさんオレのことめっちゃ好きじゃん」
「どえらい自信」
イケメンにしか許されない傲慢発言だが、キョウヤくんなのでオーケー。しかし相手がオーケーじゃなかった。カラスバさんはとうとう完全に頭を抱えてしまった。ついでに俺たちも頭を抱えてしまった。理解が追いつかなくて。
結局2人はどういう関係なんだ。
キョウヤくんはミアレを救ってからもエムゼット団として俺たち市民を助けてくれる、まさにヒーローみたいな存在。一方のサビ組は、まぁ諸説あるけど、俺のような善良な市民にとってはちょっと見た目がヤンチャななんでも屋さんってところだ。
どちらもミアレのために尽力してるってことは変わりなくて、たまに一緒に依頼をこなしたり事件を解決したりしているので交流が多いというのはみんな知っている。
そして、どうやらキョウヤくんとカラスバさんが仲が良いらしいというのも割と有名な話だった。なんせ、街中でよく見かける。それはもちろん依頼のためだったり、上位ランカー同士の付き合いだったりとかそういうものだと思っていたけどーーまさか2人が、こういう話をするような関係だったとは。
…とはいえ、2人の関係に名前はついていないようだけど、実際のところどうなんだろう。口ぶり的に、キョウヤくんはカラスバさんのことが好きで、カラスバさんもキョウヤくんのことが好きっぽくて…?でも付き合ってなくて…?
んんん?と店内でみんなが一様に首を捻っているのを感じる。そんな中で不意にキョウヤくんが、とうとう開き直った様子でふん、とふんぞり返ってわざとらしく大声でこう宣った。
「あーあー可哀想ですよねぇ、俺結婚してもらえないんですって!
どう思います?」
一瞬、理解が追いつかなかった。言葉のボールが豪速球で視界の外から飛んできたので。
空気張り詰めたな。まぁこんなやりとりだもんな。とか思ってたら、どうもおかしい。目の前の彼女が絶句して俺の方見て固まってる。いや、彼女だけじゃない。店内の全員が、いつの間にか俺の方を凝視して固まっている、し、ーーぎぎぎ、とブリキ人形のように首を横に向けると、あのキョウヤくんがキラキラの笑顔でこちらを見ていた。そこでようやく気づいた。先程の地獄のボールは俺に投げられていたのだと。

(続く)

「…へ?俺?」
「はい、そこのあなた」
ばちこん、とウインクを送られる。わぁいキョウヤくんのファンサだ〜じゃないんだよ。え、俺いまとんでもない戦争に巻き込まれた?気のせい?
「オイ、何巻き込んでんねん」
「客観的な意見って大事ですよね」
思わずと言った様子で止めてくれたカラスバさんに怯まず、キョウヤくんのイケメン笑顔がこちらに向けられていた。
気のせいじゃなかったァ!!
助けが欲しくて焦って思わず辺りを見回すけれど、店員さんですらササッと目を逸らす始末。
「え、えぇっとぉ…」
やばい。孤立無援。全身から冷や汗が止まらない。思わず震える声を漏らした俺に、見かねたカラスバさんが片眉を上げてキョウヤくんの暴挙を咎めた。
「ほら困らせとるやんけ。兄ちゃん、無視してええよ」
「ちょっと、勝手に決めないでください。そもそもカラスバさんが意地張って認めないから悪いんじゃないですか」
「ひぃん…」
しかし にげられなかった!
せっかく助け舟を出してくれたのにキョウヤくんが一刀両断。
いやあの、超有名人同士の痴話喧嘩?に一般モブ市民を巻き込むのやめてくれませんか。本当に。切実に。
そんな俺の嘆きも虚しく、キョウヤくんはさらに不貞腐れた顔をして。
「だって俺たちキスもセックスもしてr 」
「英雄ブランドォッッ!!」
「むぐっ」
ーー光の速さでカラスバさんの白い手がキョウヤくんの顎を片手で鷲掴んだけど、時すでに遅し。英雄ブランドは崩れ去ったし、残念ながらその3つ目の爆弾はしっかり全員の耳に届いてしまった。
(((キスもセックスもしてる!?)))
ミアレの英雄とサビ組のボスが、キスもセックスもしてるのに付き合ってないんですか!?そんな爛れた関係なんですか!?
あとどっちがどっち…って疑問が湧きそうだったけど、白い肌が可哀想なくらいに真っ赤になってるカラスバさんと、全然動じてないキョウヤくんの反応を見て察してしまった。

あ、カラスバさんがボトムなんだ…と。

だめだ。どんなゴシップよりも気になりすぎる。何がどうなってこんなに拗れてるんだ。
真っ赤になって机をひっくり返す勢いで身を乗り出してキョウヤくんの顔面を掴んでいたカラスバさんはハッと我に返るとコホン、と咳払いをして自分の席に座り直した。キョウヤくんは何故か俺の方に視線を向けて「やれやれ」みたいな顔で肩をすくめた。
えっと、とりあえず俺はまだ解放してもらえてないってことでいいんでしょうか。助けてください。
小鹿のように震えながら舞台の隅で縮こまる俺。ちなみに向かいの彼女は必死に息を殺している。わかるよ、巻き込まれたくないよね。そのままでいいよ、犠牲者は俺だけでいいから…なんて1人で天を仰いでいると、キョウヤくんの追及が再開した。
「じゃあもっかい聞きますね。いつになったら俺と結婚してくれます?」
その言葉にカラスバさんはわざとらしく大きなため息をついて、ぴきりと額に青筋を浮かべた。ついでに眉間に深い皺が刻まれる。
ォア…オフモードだとただの綺麗なにいちゃんとか言ってすみませんでした…凄んだお顔は全然サビ組のボス様です…。
「やから、オマエと特別な関係になる気は…」
ちびりそうになりながらも見守っていたのだが、カラスバさんが言い切る前にキョウヤくんがおもむろにスマホロトムを呼び出して、何かの再生ボタンを押した。

キョウヤくんがスマホロトムの画面をカラスバさんに向ける様子はない。動画、というより音声だけのようだ。少しの雑音が入るけれど、静かだ。本当に再生してるのだろうか、と思ったその時。
『応えて差し上げないのですか』
聞こえてきたのは間違いない、サビ組ナンバーツーであるジプソさんの声だった。聞き慣れた右腕の声に、カラスバさんはオフ仕様で下ろした前髪の隙間から金色の目を丸く見開く。そして、ジプソさんの声が聞こえたということは。
『あんなぁ』
予想通り、聞こえてきたのは今まさにこの音声を聞かされているカラスバさんのもので。
『あいつは、キョウヤはオレに縛られとったらあかんねん。…幸せにならなあかん。やからこれでええ。オレの気持ちだけ墓場に連れて行けばええ話や』
ーーそこでキョウヤくんの指が、停止ボタン、ぽちっと押した。
「は…???」
目を見開いて固まってしまったカラスバさんの口から、呆気に取られたような声が漏れる。
役目を終えたスマホロトムを労うように指先でちょんと撫でると、キョウヤくんはテーブルに頬杖をついて、向かい側に座る彼ににっこり笑いかけた。
「ねぇ、カラスバさんの気持ちって何?」
カラスバさんはしばし絶句していた。
「え、いやオマエ、何ナチュラルに盗聴…」
ちなみに俺を含む店内の一般市民も絶句である。ジプソさんがボスを裏切るわけないだろうし、どこから…?と思ってたら、ととと盗聴!?
「うーん、カラスバさんにだけは言われたくないですね!」
「こっわ…」
キョウヤくんがやけにいい笑顔で言い切ったので、カラスバさんは完全に顔を引き攣らせていた。ていうか、そっか、カラスバさんもか…いやでも彼はなんやかんやでちょっとグレーな組織のボスなので、まぁ分からんでもないというか。納得感があるというか。けど、ちょっとキョウヤくんのはショックかもしれない。
しかし今この状況以上にショッキングなわけではないのでこの話は一旦置いておくことにする。もはや隠さずに、固唾を飲んで2人のやり取りを見守る俺たち。
「言ってください。あなたが押し込めようとしてる気持ちは、何ですか?」
キョウヤくんは柔らかく諭すようにそう言った。その目は、表情は本当に優しくて。見ている方がなんだか胸をギュッと掴まれるような、そんな眼差しだった。こんな顔で言われたら普通はメロメロになってしまうだろう。実際、店内の女性客…いや、男性客も含めてはみんな「はわわ…」って感じで顔を赤くしてキョウヤくんを見つめていたし、俺もちょっときゅんとしてた。そして肝心の言われた本人は、盗聴されていた衝撃から立ち直り、それからキョウヤくんの台詞を聞いて、くっと言葉を詰まらせたような顔をした。そして、眉間に皺を寄せて、少し目を伏せて。
「…それを言わせてどうすんねん」
ーー唸るように、低く言った。
「どう、って」
思わぬ切り返しにキョウヤくんが面食らったところで、すかさずカラスバさんが嘲るような笑みを浮かべて吐き捨てた。
「責任とって結婚しますって?アホらし」
「は?」
カチン。わかりやすくそんな音が聞こえた気がする。しかも同時にキョウヤくんからも聞いたことがないような治安の悪そうな声がした。
ーー店内の温度が体感で5度下がった。完全に空気が凍りついている。一触即発の雰囲気だった。か、か、勘弁してくれ…!!
剣呑な表情を浮かべた2人から放たれるプレッシャーは尋常じゃない。2人とも一般市民の俺たちにフレンドリーだから忘れがちだけど、ミアレの危機に立ち向かえるような実力と胆力を持った人たちである。いざという時の気迫は、これまでの人生で俺が出会ったことのないレベルのものだった。
睨み合い、少しの間をおいて。
「俺のこと、舐めすぎじゃないですか?」
「あ?それはオレのセリフやぞ」
売り言葉に買い言葉。そんな感じで2人がテーブルにバンッ!!と手をついて同時に腰を浮かせる。
まずい。このままでは、このままでは間違いなくダメな方向に行く気がする。というか殴り合いの大喧嘩が始まりそうである。なんで!?さっきまで、なんかビッグカップル誕生かな?とか、ちょっと爛れた関係の2人の進展が見れちゃう感じかな?とか、ゴシップ感覚で見守ってたはずで、まぁでも仲良いしなんだかんだお互いのこと好きなんじゃん、とハッピーエンドを待っていたのに。
なんか、なんかこの2人、肝心なところをお互いに勘違いしてる気がする。すごいすれ違ってるような、そんな気がする。だからこのままじゃ余計に拗れる。いや、拗れるで済めばいいけれどーーこのまま2人の関係が爆発霧散するのもあり得なくはないのではないか。

そう思った瞬間。

「あ、あのォ!!!!!」
『!?』

俺は声を裏返らせながら、思い切って馬鹿でかい声を出して立ち上がると、ガッチガチに固まった体で天高く挙手をした。予期せぬ第三者(最初に巻き込んできたのはキョウヤくんの方だけど)の乱入に、今にも喧嘩を始めそうだった2人も虚を突かれた顔で俺の方を振り向いた。もちろん、店内にいたほかのは人たちも同様に、ギョッとした様子で一般市Aである俺の奇行を凝視していた。俺の愛する彼女もそうだ。はらはらと不安そうな顔でこちらを見上げている。
突き刺さるその視線たちに大量の冷や汗をかきながら、俺はギュッと拳を握って耐えた。

キョウヤくんもカラスバさんもミアレ市民はよくお世話になっており、愛されている存在である。(カラスバさんは敵も多いけど。)そんな2人の幸せな姿が見たいというのは、俺たち市民のごくごく自然な欲求だった。
だから。

俺は、人生でいちばんの勇気を振り絞った。

「大事なことを言葉にせずになあなあの関係でいるのは、よくないと思います!!!」

ます…ます…ます…ーーー

腹の底から出した声は店中に響き渡り、反響して消えた。

言った。言っちゃった。言ってしまった…ーー!!

顔が熱いし心臓がばっくんばっくんと周りに聞こえてるんじゃないかと思うほど大きな音を立てているけど、同時に冷や汗が止まらない。勢いよく言ったはいいけど、居た堪れなくて俺は俯いでじっと自分のつま先を見つめるしかなかった。情けない?好きに言ってくれ。プリズムタワーから飛び降りるくらいの勇気を振り絞ったんだから。
それに半分、自分に向けたエールでもあった。思い出して欲しい。俺は目の前に座る好きな女の子に告白するためにここにきたのである。
いや、このままだとなあなあにするというかこの人たちのせいでうやむやになりそうですけどね!?
俺の叫びのあと、店内はしんと静まり返っていた。それもまた俺の恥ずかしさを助長する。あと目の前の2人が、とくにカラスバさんがどんな顔してるのかわからなくて怖すぎて顔を上げられなかった。
「あ、アッすみませ、口挟んで、」
たまらず蚊の鳴くような声でそう言いかけたところで、目の前ーーつまりキョウヤくんの方ーーから、ふっと小さく息を吐くような音が聞こえた。
「…そっか、そうですよね。伝わってるって勝手に思ってたな。ありがとうございます、おかげで目が覚めました」
その声で顔を上げると、キョウヤくんは優しい声に見合った穏やかな微笑を浮かべて俺を見ていた。カラスバさんも、なんだか毒気を抜かれたような顔で息を吐いて座り直していた。
た、た、た、耐えた〜〜!!
「あ、や、あのッ、はい、お役に立てたなら…はい…」
再びガチガチに緊張した声でそれだけ言って、俺はそそくさと自分の席に着席した。まだ心臓がバクバク言ってる。細く深く長く息をついて周りをチラッと見ると、よくやった…!的な感じで他の人たちからサムズアップされた。そして目の前の俺の好きな子は心底安心した様子で胸を撫で下ろして小さく俺に笑いかけてくれた。うーん、疲れた心に効くぅ…。
俺が息を整えている間に隣のテーブルでは仕切り直しが行われたようだった。2人とも席に座り直して、落ち着くためかコーヒーを啜って。そしてカラスバさんがカップを置いたタイミングで、キョウヤくんは彼の手を掴んだ。
「カラスバさん。改めて言いますけど、俺はあなたのことが好きです。なのでまずは結婚を前提に付き合ってください」
うおおおおさすがキョウヤくん、決める時は決める男!かっけぇ〜!!
勘違いのしようがないどストレートな告白に、思わず同じ男として尊敬の眼差しを向ける。
そして顔がいい。真剣な顔で、目を逸らさず真っ直ぐ見つめて言われた告白に、カラスバさんは切れ長の目をゆっくり、大きく丸く見開いた。それから小さく口を開いて。
「…すき」
「はい。好きです」
おうむ返しされた言葉に念押しするようにキョウヤくんが言う。彼が握った手は、振り払われていない。カラスバさんはぱち、ぱちりと瞬きをして、それから呆然とした様子でこう言った。

「オマエ、オレのこと好きやったん?」
「…へ?」

今度はキョウヤくんが目を見開く番だった。そして外野の俺たちも驚愕に目を見開いていた。
思い出して欲しい。冒頭、キョウヤくんは「いつ結婚してくれるんですか?」と言っていた。カラスバさんは気持ちを伝えるつもりはないと言っていたから、これまでアタックしているのは確実にキョウヤくんの方なはず。
しかもキスもセックスもしてる2人だ。それなのに、カラスバさんはまるで初耳と言わんばかりの反応だ。

ーーそうなると話は変わってくるぞ?
もしかしてキョウヤくん、好きって言ったの初めてだった?それならキョウヤくんが悪いのでは?

外野が一様にそんな結論に達して少しずつキョウヤくんにじとりとした目が突き刺さりはじめる。

「え、あの、俺えっちの時とかいっつも伝えてましたよね…?」
「セックス中の好きだのなんだのはリップサービスやろ」
「…そういうことかぁ」
そういうことかぁ〜!!!
キョウヤくんを始め、カラスバさん以外の全員が頭を抱えた。同時に俺は数分前の自分にスタンディングオーベーションを送っていた。いやほんとに、めちゃくちゃすれ違ってたんだなこの2人。よく見抜いた俺。偉いぞ俺。
俺がそんな風に自分を労っていると、頭を抱えていたキョウヤくんがふるふるとかぶりを振って、それから小さく呟く。
「…や、でもそれ以外で真っ直ぐ伝えてなかったってことですもんね。それは、俺が悪いな」

それだけ言うと、握ったままのカラスバさんの手を再度握り直す。それからずい、と身を乗り出すようにして、少し身を引きかけたカラスバさんの手を引き寄せるようにしながら口を開いた。

「俺ね、カラスバさんのことが好きです。本当に本当に大好きで、出会った時から今までずっと、ずーっと、あなたのことしか見えてないし、きっとこれからもあなた以外目に入りません。ミアレのために誰よりも真面目に、真摯に、汚れも暗いところも全部飲み込んで真っ直ぐ立ってるあなたがかっこよくてたまらないし、バトルの時に本気で楽しそうにしてる顔も好きだし、ペンドラーたちを愛してる姿も好きだし、街の人や組員の皆さんに対する懐の深さも、俺のことを守るために突き放そうとしてる愛情深さも、」
「あああああもうええ!!やめろ!!わかったから!!」
滔々と、湧き出る泉のようにどんどん飛び出してくる恥ずかしい告白にとうとうカラスバさんが顔を真っ赤にして根を上げた。
「勘弁せえや…」
掴まれた手を振り払おうとするけどかなりガッチリ捕まっているのか全然離してもらえず、結局もう片方の手で赤い顔の半分を覆うことしかできていなかった。でも耳どころか首まで真っ赤だし全然隠せてない。
でも。でもこの反応って、そういうことだよね?
もはや祈るような気持ちで、カラスバさんの答えを待っていた。
「…ええよ、いまさら付き合うとか」
ひゅ、と誰かの喉から音が鳴って。
まさかーーと、無意識に息を詰めて、白くなるほど自分たちの手の平を握りしめていた。その時。カラスバさんが顔を上げた。

「オレの負けや。結婚、しよか?」

言葉とは裏腹に、くしゃりと破顔した彼の顔は、ちょっとおっかない組織のボスだなんて一瞬忘れてしまうくらいひどく幸せそうで。
それを見たキョウヤくんの顔が、みるみるうちにパァッと輝いた。

「よろしくお願いします!!!!!」
「んは、声でっか!」

キョウヤくんは頬を紅潮させながら、もう逃しませんとばかりに掴んだままの手をぎゅうぎゅうと握りしめていたけれど、カラスバさんはもうそれを振り払わなかった。

なんともお騒がせな、でも素敵なカップルの誕生に、俺たちは気づけば温かな拍手を送っていたのだった。


「はぁ、よかったぁ」
出来立てほやほやのビッグカップルは結局あのあとすぐに退店して、残された俺たちは仕切り直しとばかりに向き合ってお茶を楽しんでいた。って言っても、どうしても話題は先ほどのあれになるわけで。
「まさかあそこで口挟むとは思わなかったよ。私、心臓止まるかと思ったんだから」
「あはは…俺も自分で驚いてる。…自分で言ったんだから、俺も腹括らなきゃだよなあ」
そう、偉そうにあんなことを言ったんだから。
俺は顔が真っ赤になるのを自覚しながら、目の前の好きな人の名前を呼んだ。
「あの、好きです。結婚を前提にお付き合いしてください」
「ふふ。はい、よろこんで!」


ーーその半年後、なぜか俺はお2人の結婚式に参列したし、さらにその数年後、ダメ元でお2人に俺たちの結婚式の招待状を送ったらきてくれたんだけど、その話はまた別の機会に。

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