・ワンドロワンライ
それにはっきり気づいたのは、付き合う少し前くらいからだっただろうか。
「わ、これうま…!」
ランチを共にする約束をしていて選んだカフェは、少し前にデウロから美味しいと教えてもらった店だった。運ばれてきたクロックムッシュを口に運んだ時、思わずキョウヤはそんな声を上げた。少し焦げ目の付いたチーズはとろりと溶けて伸び、嚙り付いたところからパンの間に挟まれたハムの肉汁が溢れだして、口の中に広がる幸福感。目を輝かせながら心の底から漏れだした声は半ば無意識だった。
「うん?あぁこれか」
キョウヤの声に片眉を上げたのは、向かいで同じメニューを頼んでいたカラスバだ。同じくクロックムッシュをその小さい口に運んでもぐもぐと咀嚼した彼は、確かにうまいなあ、と声を漏らして、そのまま。
「ほなこれも食うてええよ」
そう言って、キョウヤに向かってその皿を差し出したのだ。
「え、からすばさんまだ全然口つけてないじゃないですか」
「ちゃんと食うたで?けどなんや、美味そうに食うてるオマエの顔見てたら腹一杯なってきたわ。やからこれはオマエが食い。それに他にも頼んでるやつあるし、オレそっち食うわ」
そう言って小さく微笑むと、カラスバは既に別で頼んでいたキッシュに手を付け始めていたので、キョウヤはありがたくその優しさを享受したのだった。
また別の日も。
「キョウヤ、これも食べ」
その時はキョウヤじゃなくて、カラスバが先に口を付けて「うまいなこれ」と漏らしたお菓子だった。キョウヤも食べてみ、と差し出されたそれは確かにおいしかったので、美味しいですねと返したところ。カラスバは嬉しそうに微笑んで、手元にあった残りまでキョウヤへと押し付けたのだ。「食べ盛りなんやからこれくらいは余裕やろ」なんて付け足して。
そういうことが何度もあって、キョウヤは違和感というほどでもないけれどなんとなく胸に引っ掛かるような、そんな感覚を覚えていた。食べ物だけではなくて、服や小物、それだけでは飽き足らず、評判の良かった映画や舞台のチケットまで。
カラスバさん、意外に貢ぐタイプなのかな。そう思ってしまうくらいには、何かにつけてカラスバから"良いもの"を与えられることが多かった。
「カラスバさんは、なんというか…与えたがりですよね」
もう何度目かになる「美味いからこれも食べ」をされたタイミングで、キョウヤはポツリとそう言った。目の前のカラスバはぱちぱちと目を瞬かせて、その仕草がなんだか幼く感じて可愛らしさに頬を緩める。彼は表情からしゃべり方まで、いつもは己の魅せ方を計算しているから気付きにくいけど、この人結構素顔は幼くて可愛いよな、なんて本人が聞いたら怒りそうなことを思いながら。
「なんやそれ」
「こう、自分がいいなって思ったものを全部俺にあげようとするじゃないですか」
「そうか?」
「あ、自覚なかったんです?」
尽くすタイプというか、貢ぎ癖ありません?と少し苦笑しながら言えば、カラスバはゆっくり首をひねって、その金の双眸でゆるりと遠くの空を見つめる。自分の行動を思い返しているのだろう。
「…言われてみればそうかもしれん」
本当に自覚はなかったらしい。貢ぎ癖、と言われて少しバツが悪そうな顔をしたカラスバをキョウヤは優しく見つめた。
気付いたのは確かに最近だけれど、なんとなくキョウヤは気づいていた。カラスバにとってのそれは、きっと最上級の愛情表現だということを。
ストリートチルドレンとして幼少期を過ごし、それから彼はずっと隙の見せられない過酷な裏社会で生きてきた。誰かと何かを分け合うとか分かち合うとか、そういう生易しい感覚を培ってこなかったのだろう。生きるか死ぬか、自分を最優先にしないと命にしがみついていけない世界だったと、いつだったか彼自身が昔話を少しだけ語ってくれたことがある。
そんな彼にとって何かを、特に自分のものを与えるというのは、きっと何よりも大切に思ってくれている証。それが分かっているからこそ、すこし寂しいなぁとキョウヤは思っていた。
例えば、美味しいものを食べたとき。確かにキョウヤもカラスバにも食べさせたいなと思う。でもそれは、"一緒に"食べたい、という意味だった。綺麗な景色を見たら次はカラスバと一緒に来たいと思うし、美しい音を聴いたら一緒に耳を傾けたいし、良い香りがあれば共に楽しみたい。嬉しいこと楽しいこと、全部一緒に分かち合いたいと思う。その代わり、辛いこと苦しいこと悲しかったことがあったときは、寄り添いたい。
誰かが言っていた。嬉しいこと、楽しいことを大切な人と分かち合えば二倍になって、つらいことや悲しいことは半分になるのだと。
そういうはんぶんこの魔法を、キョウヤはカラスバにかけてやりたかった。
けれどカラスバは逆だ。美味しいもの、綺麗なもの美しいもの、良いと思ったものは全て与えたいし、逆に嫌なことは全て自分が抱え込んでしまう。大切な物を腕の中に囲って、自分がすべて守ってやろうとする。この人はきっと、そういう人。そういう愛し方をする人だった。それもとてもステキで、とてもカラスバらしいとキョウヤは思う。
でも、キョウヤは。カラスバにただ守られる存在ではなく、隣に立って一緒に歩んでいきたいのだ。
「はい、カラスバさん。あーん」
「は?」
今日のおやつとして自身が食べていたタルト・タタンを一口大に切ってフォークに突き刺すと、キョウヤは唐突にそれをカラスバに差し出した。キョウヤが口を動かすのを今日もまた嬉しそうに、慈しむように眺めていたカラスバの眼が、再び瞬く。ぱちり。長い睫毛が上下した。
「ちょ、オマエな、」
キョウヤの意図を理解したカラスバは、焦ったように周囲を見回す。ここはキョウヤが誘ってやってきたパティスリーだ。二人は比較的奥まった席に通されてはいるが、周囲には当然他の客もいる。男同士、しかも片やミアレの英雄、片や泣く子も黙るサビ組のボスである。そんなところで食べさせ合うとか、何を考えているのか。そんな考えが見て取れるほど、カラスバの顔には動揺と焦り、そして羞恥が浮かんでいるが、キョウヤはそれで意思を曲げるような可愛らしい性格ではない。
「あーん」
再度、しかも先ほどよりも大きな声で圧を掛けるように言って、ずい、とその小さな口元に押し付けてやれば、カラスバはさっと周囲に視線を走らせてから意を決したようにフォークの先をぱくりとくわえた。
「…っ」
「どうですか?」
白い頬を羞恥で赤くしながら咀嚼をするカラスバは、じとりと睨み上げるようにキョウヤを見ている。それから口の中の物を飲み込むと、ぼそりと不服そうに言った。
「…うまい」
「でしょ?」
ふふ、と笑ったキョウヤは、同じフォークでそのままもう1口分をつついて、ぱくりと自分の口に放り込んだ。カラスバがあ、と思う間もなく、キョウヤの舌が見せつけるように銀色の叉を舐め上げるので、カラスバは思わず顔を赤らめた。そしてそんな生娘のような自分の反応に頭を抱えたのを見て、キョウヤはその可愛らしさに笑みを深める。そんな仕草に愛しさを募らせながら、キョウヤは続きを口にした。
「カラスバさん、自分が良いなって思ったものは全部俺にくれようとするよね」
「っ…それは、まぁ…オマエの方が年下なんやし…」
「ふふ、それいま適当に言ったでしょ。自覚なかったんだから」
「あー…」
自分でもさすがにバレる嘘だったと自覚があったのだろう、普段嘘が上手なはずのカラスバは言い繕うことなく言葉を濁した。そんなカラスバを、キョウヤは優しく慈しむように見つめる。
「でも俺は、できればそういうのは全部分かち合いたいなって思うんです」
「わかちあう?」
初めて聞く単語のようなオウム返し。拙いそれにキョウヤは頷く。
「はい。だから、」
そう言って、もう一口。キョウヤはカラスバにフォークを差し出した。
「次からこういうのははんぶんこしませんか?」
大きなダークブラウンの目を細めたキョウヤの、愛おしむような視線に、カラスバは真っすぐ心臓を射抜かれた。小さく開いた唇の隙間、その柔らかさを楽しむようにフォークに刺したタルト・タタンでふにふにとつつく。甘いバターと砂糖でできたキャラメルが薄い唇に移って、てらてらと光る。それでもまだポカンとしている恋人に、キョウヤはとびきり甘く微笑んで見せた。
「俺はね。この先ずっと、素敵なことも嫌なことも、カラスバさんと2人で全部分かち合っていきたいなと思ってます。だから、はんぶんこする練習をしましょう?」
「はんぶんこ…むぐっ」
口を開いた隙に唇を割り開くようにタルト・タタンを押し込めば、またもや不服そうな視線が飛んできた。文句を言われる前にと、キョウヤはその理論を説く。
「嬉しいこと、楽しいことは大切な人と分かち合えば二倍になって、つらいことや悲しいことは半分になるんですよ。俺はこれを、はんぶんこの魔法って呼んでるんですけど」
「ふっ…なんや、えらい可愛らしいな」
「あ、馬鹿にしてますね?本当なんですよ。確かに名づけは俺ですけどね。あ、ネーミングセンスについてはカラスバさんからの批判は受け付けませんので」
「あ?なんでや」
「自分の胸に手を当てて聞いてみたらいいと思いますよ」
「全然心当たりあらへんわー言うてはります」
「自覚なしかぁ」
そんな軽口の応酬をしながらも、カラスバの頬はいまだにほんのりと赤い。照れ隠しで口数が増えているのだろう。直視できないのかさりげなく視線が逸らされていたので、キョウヤはカトラリーを置くとそっと両手で恋人の桜色に染まった頬を包み込んだ。人前でのふれあいに、ぶわり、カラスバの顔が耳まで赤くなった。キョウヤは構わずに、ただじっと恋人の顔だけをまっすぐ見つめる。
「カラスバさんが、俺のためにいろんなものを与えてくれるのは嬉しいです。でも俺は、それよりも色んなものを分けてくれる方が嬉しいです。もちろん、全部というわけにはいかないでしょうけど」
お互いに立場というものがあって、キョウヤが立ち入れない部分があることだってわかっている。それでも。
「だって俺は、あなたの恋人だから」
そう言ってキョウヤは、煮詰めた砂糖で光るカラスバの薄い唇を、食んで舐めとるように口付けた。
終
「わ、これうま…!」
ランチを共にする約束をしていて選んだカフェは、少し前にデウロから美味しいと教えてもらった店だった。運ばれてきたクロックムッシュを口に運んだ時、思わずキョウヤはそんな声を上げた。少し焦げ目の付いたチーズはとろりと溶けて伸び、嚙り付いたところからパンの間に挟まれたハムの肉汁が溢れだして、口の中に広がる幸福感。目を輝かせながら心の底から漏れだした声は半ば無意識だった。
「うん?あぁこれか」
キョウヤの声に片眉を上げたのは、向かいで同じメニューを頼んでいたカラスバだ。同じくクロックムッシュをその小さい口に運んでもぐもぐと咀嚼した彼は、確かにうまいなあ、と声を漏らして、そのまま。
「ほなこれも食うてええよ」
そう言って、キョウヤに向かってその皿を差し出したのだ。
「え、からすばさんまだ全然口つけてないじゃないですか」
「ちゃんと食うたで?けどなんや、美味そうに食うてるオマエの顔見てたら腹一杯なってきたわ。やからこれはオマエが食い。それに他にも頼んでるやつあるし、オレそっち食うわ」
そう言って小さく微笑むと、カラスバは既に別で頼んでいたキッシュに手を付け始めていたので、キョウヤはありがたくその優しさを享受したのだった。
また別の日も。
「キョウヤ、これも食べ」
その時はキョウヤじゃなくて、カラスバが先に口を付けて「うまいなこれ」と漏らしたお菓子だった。キョウヤも食べてみ、と差し出されたそれは確かにおいしかったので、美味しいですねと返したところ。カラスバは嬉しそうに微笑んで、手元にあった残りまでキョウヤへと押し付けたのだ。「食べ盛りなんやからこれくらいは余裕やろ」なんて付け足して。
そういうことが何度もあって、キョウヤは違和感というほどでもないけれどなんとなく胸に引っ掛かるような、そんな感覚を覚えていた。食べ物だけではなくて、服や小物、それだけでは飽き足らず、評判の良かった映画や舞台のチケットまで。
カラスバさん、意外に貢ぐタイプなのかな。そう思ってしまうくらいには、何かにつけてカラスバから"良いもの"を与えられることが多かった。
「カラスバさんは、なんというか…与えたがりですよね」
もう何度目かになる「美味いからこれも食べ」をされたタイミングで、キョウヤはポツリとそう言った。目の前のカラスバはぱちぱちと目を瞬かせて、その仕草がなんだか幼く感じて可愛らしさに頬を緩める。彼は表情からしゃべり方まで、いつもは己の魅せ方を計算しているから気付きにくいけど、この人結構素顔は幼くて可愛いよな、なんて本人が聞いたら怒りそうなことを思いながら。
「なんやそれ」
「こう、自分がいいなって思ったものを全部俺にあげようとするじゃないですか」
「そうか?」
「あ、自覚なかったんです?」
尽くすタイプというか、貢ぎ癖ありません?と少し苦笑しながら言えば、カラスバはゆっくり首をひねって、その金の双眸でゆるりと遠くの空を見つめる。自分の行動を思い返しているのだろう。
「…言われてみればそうかもしれん」
本当に自覚はなかったらしい。貢ぎ癖、と言われて少しバツが悪そうな顔をしたカラスバをキョウヤは優しく見つめた。
気付いたのは確かに最近だけれど、なんとなくキョウヤは気づいていた。カラスバにとってのそれは、きっと最上級の愛情表現だということを。
ストリートチルドレンとして幼少期を過ごし、それから彼はずっと隙の見せられない過酷な裏社会で生きてきた。誰かと何かを分け合うとか分かち合うとか、そういう生易しい感覚を培ってこなかったのだろう。生きるか死ぬか、自分を最優先にしないと命にしがみついていけない世界だったと、いつだったか彼自身が昔話を少しだけ語ってくれたことがある。
そんな彼にとって何かを、特に自分のものを与えるというのは、きっと何よりも大切に思ってくれている証。それが分かっているからこそ、すこし寂しいなぁとキョウヤは思っていた。
例えば、美味しいものを食べたとき。確かにキョウヤもカラスバにも食べさせたいなと思う。でもそれは、"一緒に"食べたい、という意味だった。綺麗な景色を見たら次はカラスバと一緒に来たいと思うし、美しい音を聴いたら一緒に耳を傾けたいし、良い香りがあれば共に楽しみたい。嬉しいこと楽しいこと、全部一緒に分かち合いたいと思う。その代わり、辛いこと苦しいこと悲しかったことがあったときは、寄り添いたい。
誰かが言っていた。嬉しいこと、楽しいことを大切な人と分かち合えば二倍になって、つらいことや悲しいことは半分になるのだと。
そういうはんぶんこの魔法を、キョウヤはカラスバにかけてやりたかった。
けれどカラスバは逆だ。美味しいもの、綺麗なもの美しいもの、良いと思ったものは全て与えたいし、逆に嫌なことは全て自分が抱え込んでしまう。大切な物を腕の中に囲って、自分がすべて守ってやろうとする。この人はきっと、そういう人。そういう愛し方をする人だった。それもとてもステキで、とてもカラスバらしいとキョウヤは思う。
でも、キョウヤは。カラスバにただ守られる存在ではなく、隣に立って一緒に歩んでいきたいのだ。
「はい、カラスバさん。あーん」
「は?」
今日のおやつとして自身が食べていたタルト・タタンを一口大に切ってフォークに突き刺すと、キョウヤは唐突にそれをカラスバに差し出した。キョウヤが口を動かすのを今日もまた嬉しそうに、慈しむように眺めていたカラスバの眼が、再び瞬く。ぱちり。長い睫毛が上下した。
「ちょ、オマエな、」
キョウヤの意図を理解したカラスバは、焦ったように周囲を見回す。ここはキョウヤが誘ってやってきたパティスリーだ。二人は比較的奥まった席に通されてはいるが、周囲には当然他の客もいる。男同士、しかも片やミアレの英雄、片や泣く子も黙るサビ組のボスである。そんなところで食べさせ合うとか、何を考えているのか。そんな考えが見て取れるほど、カラスバの顔には動揺と焦り、そして羞恥が浮かんでいるが、キョウヤはそれで意思を曲げるような可愛らしい性格ではない。
「あーん」
再度、しかも先ほどよりも大きな声で圧を掛けるように言って、ずい、とその小さな口元に押し付けてやれば、カラスバはさっと周囲に視線を走らせてから意を決したようにフォークの先をぱくりとくわえた。
「…っ」
「どうですか?」
白い頬を羞恥で赤くしながら咀嚼をするカラスバは、じとりと睨み上げるようにキョウヤを見ている。それから口の中の物を飲み込むと、ぼそりと不服そうに言った。
「…うまい」
「でしょ?」
ふふ、と笑ったキョウヤは、同じフォークでそのままもう1口分をつついて、ぱくりと自分の口に放り込んだ。カラスバがあ、と思う間もなく、キョウヤの舌が見せつけるように銀色の叉を舐め上げるので、カラスバは思わず顔を赤らめた。そしてそんな生娘のような自分の反応に頭を抱えたのを見て、キョウヤはその可愛らしさに笑みを深める。そんな仕草に愛しさを募らせながら、キョウヤは続きを口にした。
「カラスバさん、自分が良いなって思ったものは全部俺にくれようとするよね」
「っ…それは、まぁ…オマエの方が年下なんやし…」
「ふふ、それいま適当に言ったでしょ。自覚なかったんだから」
「あー…」
自分でもさすがにバレる嘘だったと自覚があったのだろう、普段嘘が上手なはずのカラスバは言い繕うことなく言葉を濁した。そんなカラスバを、キョウヤは優しく慈しむように見つめる。
「でも俺は、できればそういうのは全部分かち合いたいなって思うんです」
「わかちあう?」
初めて聞く単語のようなオウム返し。拙いそれにキョウヤは頷く。
「はい。だから、」
そう言って、もう一口。キョウヤはカラスバにフォークを差し出した。
「次からこういうのははんぶんこしませんか?」
大きなダークブラウンの目を細めたキョウヤの、愛おしむような視線に、カラスバは真っすぐ心臓を射抜かれた。小さく開いた唇の隙間、その柔らかさを楽しむようにフォークに刺したタルト・タタンでふにふにとつつく。甘いバターと砂糖でできたキャラメルが薄い唇に移って、てらてらと光る。それでもまだポカンとしている恋人に、キョウヤはとびきり甘く微笑んで見せた。
「俺はね。この先ずっと、素敵なことも嫌なことも、カラスバさんと2人で全部分かち合っていきたいなと思ってます。だから、はんぶんこする練習をしましょう?」
「はんぶんこ…むぐっ」
口を開いた隙に唇を割り開くようにタルト・タタンを押し込めば、またもや不服そうな視線が飛んできた。文句を言われる前にと、キョウヤはその理論を説く。
「嬉しいこと、楽しいことは大切な人と分かち合えば二倍になって、つらいことや悲しいことは半分になるんですよ。俺はこれを、はんぶんこの魔法って呼んでるんですけど」
「ふっ…なんや、えらい可愛らしいな」
「あ、馬鹿にしてますね?本当なんですよ。確かに名づけは俺ですけどね。あ、ネーミングセンスについてはカラスバさんからの批判は受け付けませんので」
「あ?なんでや」
「自分の胸に手を当てて聞いてみたらいいと思いますよ」
「全然心当たりあらへんわー言うてはります」
「自覚なしかぁ」
そんな軽口の応酬をしながらも、カラスバの頬はいまだにほんのりと赤い。照れ隠しで口数が増えているのだろう。直視できないのかさりげなく視線が逸らされていたので、キョウヤはカトラリーを置くとそっと両手で恋人の桜色に染まった頬を包み込んだ。人前でのふれあいに、ぶわり、カラスバの顔が耳まで赤くなった。キョウヤは構わずに、ただじっと恋人の顔だけをまっすぐ見つめる。
「カラスバさんが、俺のためにいろんなものを与えてくれるのは嬉しいです。でも俺は、それよりも色んなものを分けてくれる方が嬉しいです。もちろん、全部というわけにはいかないでしょうけど」
お互いに立場というものがあって、キョウヤが立ち入れない部分があることだってわかっている。それでも。
「だって俺は、あなたの恋人だから」
そう言ってキョウヤは、煮詰めた砂糖で光るカラスバの薄い唇を、食んで舐めとるように口付けた。
終