・ワンドロワンライ

ミアレの危機を救ってから、早数年。時を経てもうすっかり大人の男の精悍な顔つきになったキョウヤは、今ではサビ組の組員として日々ミアレのために尽力している。

サビ組に勧誘するわりに「筋を通せ」と譲らなかったカラスバは、キョウヤのサビ組入りを頑なに認めなかった。キョウヤはホテルの経営と街のなんでも屋さんのようなことをしてエムゼット団としての活動を続けていたが、タウニーはもちろん、デウロやピュールも己の道を歩むにつれて、徐々にチームとして活動することが難しくなっていった。
ホテルを維持するのも、楽ではない。キョウヤはタウニー、そしてカラスバに相談して、結果的にホテルの土地や権利をサビ組が手を回して守る形に落ち着かせた。クエーサーの系列にするとか色々案はあったが、利益を追求せずにあの雰囲気を残し続けるには、その方が色々と都合が良かったのだ。そうしているうちに「ミアレの英雄」と取り沙汰されることもほとんどなくなって。その頃にようやく、カラスバから許しが出た。
他の者に示しがつかないから、と特別扱いすることなく他の組員と同じように渡されたスーツとバッジ。「オレの隣に立ちたかったら頑張りや」とニヒルな笑みで言われた日のことを、キョウヤはきっと忘れないだろう。
「すぐにあなたの隣まで駆け上がりますから、待っててください」
ランクアップ戦で対峙した時と同じような顔をして挑戦的に口角を上げてみれば、カラスバは心底嬉しそうに笑った。

そうしてキョウヤが他の下っ端組員たちと同じように尽力していた、ある日のこと。
「ジプソ」
「カラスバ様」
病室のベッドの上に横たわる巨体。体のあちこちに包帯を巻いた痛々しい姿の男が、ボスの姿を見て体を起こそうとするのを他でもないカラスバ本人が止める。彼がベッドの隣の簡易椅子を引き寄せて座ったのを見て再びベッドに沈んだ大男は、己の不甲斐なさにぐっと顔をしかめた。
「……申し訳ありません。とんだご迷惑を」
「何言うてんねん。これはオマエを一人で行かせた、オレの采配ミスや」
「決してそのようなことは……!」
足を組みながら静かにそう言ったボスに、ジプソは思わず体を起こしかける。己がボスの采配に間違いなど無かった。いつも通り最善の道だった。ただ、イレギュラーが起こっただけで。
「こら、おとなしくしとき。傷口開くで」
あくまで穏やかにそう言って、カラスバは身を起こそうとしたジプソの分厚い胸を軽く指で押さえる。そこを覆う、幾重にも重ねられた包帯が痛々しい。カラスバは小さく眉根を寄せると、眼鏡のブリッジを指先でくいと押し上げた。不意に上げられた鋭い金の視線は、病室の窓からどこか遠くを睨んでいる。表情が抜け落ちた顔は彼の怜悧な美貌を際立たせ、凍てつくほど温度のない瞳は激しい怒りを示していた。
「なんも心配せんでええ。あとはオレに任せとき」
「カラスバ様!」
「しっかり休みや」
嫌な予感がして呼び止めたジプソの制止にも耳を傾けず、カラスバは立ち上がって背を向けた。ジャケットの襟を直しながら部屋を出る、迷いのない足取り。そしてよくよく知っている彼の気質。想定できるこの後の展開に、ジプソは後で怒られることを承知で、枕元で休んでいたスマホロトムを呼び出した。画面に表示させたのは、今となっては上司部下の関係になるが、それを越えた信頼を置く一人の青年の名前。
「……キョウヤ様。折り入ってお願いしたいことがございます」

サビ組の息がかかった病院から真っすぐ事務所に戻ってきたカラスバは、帰ってくるなり一人でごそごそと何事かの準備を進めていた。ジプソのいないオフィスは、基本的にカラスバ一人きりだ。スマホロトムを通して組員たちにいくつかの指示を出し、そのあとは黙々とパソコンを叩いて、とある組織の資料に改めて目を通す。ジャケットの内側に護身用の物騒なブツをいくつか仕込んで、それから何度か時計を確認する。
その時、不意にエレベーターが静かに動き出したと思ったら、見慣れた男がひょこりと顔を出した。この事務所でこのフロアに気軽に顔を出す人間はごくごく限られている。
「カラスバさん」
「呼び方」
「今は俺たちしかいないからいいでしょ」
昔はよかったが、今は同じ組織の人間だ。周りに示しが付かないから仕事中はボスと呼ぶように言っているにもかかわらず、いつもどおり軽く呼びかけてきた男――キョウヤを、カラスバは軽く睨んだ。とはいえ、ここに二人しかいないのも事実。押し問答するのも手間で、カラスバは言い返すことをやめた。それをいいことに無遠慮にカラスバの部屋へ足を踏み入れたキョウヤは、他の組員たちと全く同じ装いをしている。下っ端組員たちと同じ、黒いスーツに柄シャツだ。ミアレの英雄には似合わないかと思っていたが、面の良い男は何でも似合ってしまうようで、今となってはこの姿も見慣れてきてしまっている。
「仕事は」
「終わりました」
「そら仕事が早くて結構な事やね」
いくら顔馴染みとは言え、組員として特別扱いをすることはなく、キョウヤにはしっかり他の下っ端たちと同じ仕事を振っていた。ただ、ポケモンバトルの腕だけはサビ組の誰もが知るところなので、例外的にキョウヤを頼ることもあったけれど。
ともかく、例えば今日で言えばペール地区のメガ結晶の掃除を命じていたはずだった。まあ、キョウヤのポケモンたちをもってすれば、確かに早く仕事が片付くのも道理だろう。それならばと新しい別の仕事を振るべくスマホを操作し始めたところで、その指先をいつの間にか隣にやって来ていたキョウヤが掴んだ。もうすっかり成長しきった手の平は、カラスバの手を簡単に覆ってしまう。それからキョウヤはその意志の強いダークブラウンでじっとカラスバを見つめた。強い視線だった。
「ジプソさんのこと、聞きました。俺も行かせてください」
「なんのことや」
「誤魔化さないでください。一人で行くつもりなんですよね?」
キョウヤを含む下っ端の組員たちには、ナンバーツーたるジプソが大怪我をしたことは伏せられているはずである。なのにこのタイミングでここに来て、この言い草は。
――ジプソのやつ、こいつに連絡しよったな。
良くも悪くも己のことを知り尽くしている右腕に内心で舌打ちする。カラスバは苦い顔をしそうになるのを何とか堪えて、努めて冷静に返した。
「……これは、オマエの仕事ちゃう。大人しく自分の仕事を、」
「俺、ジプソさんから仕事頼まれたんですよね」
「あ?」
「わたくしの代わりにカラスバ様のサポートをお願いしますって」
却下しようとするカラスバの言葉を遮って、キョウヤが己のスマホを手に持って軽く振って見せる。ずるい言い方だ。止めようとはしない。けれどキョウヤを連れて行くように仕向けている。器用に片眉を跳ね上げて、カラスバはそれでも突っぱねた。
「せやったらここでオレの留守を守れ」
あくまでも連れて行く気はない。カラスバが一人で行こうとするのにも理由がある。ただのドンパチなら、既にサビ組となったキョウヤなら連れて行っても何ら問題ないのだ。今回はリスクがあっても一人の方が都合がいい。そう判断したのだが、側近とこの男はそれを認めるつもりはないようだ。案の定、キョウヤはカラスバの言葉に頷くことなく、捕まえたカラスバの手を引いて、ここ数年でずいぶんと広くなった胸の中に閉じ込めた。
そう、この男は――キョウヤは、カラスバの恋人でもあるのだ。
「絶対一人で行かせないようにとも言われました。あ、これは上司としての命令ではなく個人としてのお願いです、とも」
「……」
付き合いの長いジプソと彼が結託するのは、カラスバにとって非常にやりにくい。基本的に三人とも公私混同はしない性質だが、今回のような場合はその間を責められるから。
「俺だってムカついてるんです。黙って行くなんて水臭いじゃないですか。ね?」
キョウヤとて今は立派なサビ組の一員。組に手を出されていい気はしないだろう。しかも生来、自分よりも仲間を傷つけられるのを厭う性質でもある。ましてや元から交流のあるジプソが傷つけられたとあれば、尚更。穏やかな顔をしているが、腹の底は煮えているに違いない。
カラスバの金色と、キョウヤの暗灰色がばちりとぶつかって、数秒。カラスバも頑固だが、キョウヤも負けないくらい頑固だ。特に恋人であるカラスバが関わっている時は、普段の穏やかさはどうしたのだと言いたくなるほど苛烈な面を垣間見せるときがある。
折れた方が早いとカラスバの優秀な脳みそが結論を出すのは、早かった。
「……勝手にしぃ。あぁ、そうや。ほなついてきてもええけど条件があるわ」
無理に突っぱねるよりも、条件を飲ませて近くでリードを引く方がいい。
「まず一つ。あくまでジプソの代わりとして同行すること。下っ端を連れてきたって舐められても困るしな。それからもう一つ」
腕の中から、もうずいぶんと高い位置になってしまった目線を捉えて、そのシャープな顎先を人差し指で掬い上げる。
「オレから合図するまでは、絶対に相手に手ぇ出したらあかん。何もすな」
「えぇー……」
「それが飲めへんのやったら、お留守番してもらうしかあらへんな」
「ちぇ、分かりました」
すっかり幼さの抜けた精悍な顔が、拗ねた子供のように唇を尖らせる。大の男のぶりっ子を可愛いと思ってしまうのは、惚れた欲目だろうか。そんなことをちらりと考えながら、カラスバは恋人の首筋を辿って頬に手を添えると、軽く触れるだけのキスをする。子犬をなだめるのと同じ気分だ。それに目を見開いたキョウヤが続きを強請ろうと抱き寄せるのをぐいと押し返して躱し、何事もなかったかのようにパソコンに向き直り始めた。
「カラスバさ、」
「十五分後に出るで。オマエは下の階行って着替えておいで。担当には言うとくさかい。終わったら玄関まで降りて来ること」
「……はぁい」
切り替え早すぎませんか、なんてぼやきながらとぼとぼとエレベーターに消えていく長身を、カラスバは愉快そうに目を細めて見送った。

キョウヤがカラスバから指示されて受け取ったスーツは、いつも支給されている柄シャツとは異なる上等な無地のシャツと仕立ての良い黒スーツだった。下っ端として同行するのではなく、ジプソの代わりなのだからそれなりの格好をしろということだろう。そこに中折れハット――ピュールからもらったものではなくシンプルなものだが――を被って、胸にバッジをつければ、一日限りではあるがサビ組幹部のキョウヤが誕生した。
言われた通りに玄関へ降りると、事務所の前に黒塗りの高級車が着けていた。組の車だ。後部座席のドアを開いて中に乗り込むと、既に奥に座っていたカラスバがキョウヤを見て満足げに目を細める。
「よぉ似合ぉてるやん」
「ありがとうございます。これで今日一日、俺はカラスバさんの左腕ですね」
「そうやな。ほな、オマエにはこの資料も読み込んでもらおかな」
手渡されたのは、おそらくカラスバとジプソのみが目にしていたであろう相手組織の資料。カラスバが自分一人で片付けようとした理由の一つだ。他の地方に本拠を置き、カロスへ進出するためにサビ組を傘下に収めんとする勢力。表向きにはボス同士の交渉の場が数回持たれたのみで、それ以上の接触はない穏やかな相手ということになっている。しかしその実、巧妙に組織を、人を使い、じわじわとサビ組の、ひいてはミアレの背後に忍び寄っていた。ついには先日――ジプソが大怪我をする羽目になった。
しかし厄介なことに、そのどれもに連中がやったという証拠がない。
そしてもう一つ。しかも、組織の……否、相手方のボスの真の狙いは、カラスバ自身なのだという。
「最初はほんまに若い組織をとっとと取りこんだろって算段やったんやと思うで」
走り書きのように記されていた「カラスバ様にご執心」というジプソの字(斜線が引かれていたのはおそらくカラスバが消したからだ)を見て分かりやすく顔をしかめたキョウヤに、カラスバは肩をすくめて言った。
「最初の会合で顔合わせたタイミングで、なんや妙に気に入られてしもたみたいやわ」 
そしてそこから、サビ組を傘下にするという建前で手を出し続けているのだろう。
しかもそんなくだらない理由で組織を、そしてナンバーツーまで傷つけられたとあっては、カラスバも堪忍袋の緒が切れるというもの。まあその「くだらない理由」の方が、キョウヤにとっては逆に相手組織への怒りを募らせるのに最重要なものだが。
「さて……これだけ遊んでもろたんやから、たっぷりお返ししたらんとな」
いつものカラスバだったのはそのやり取りまでで、そのあとは張り詰めたような冷たい空気が車内に漂った。平静を装っていたが、内心はブチギレていたのだろう。表情の抜け落ちた冷たい顔から吹き荒れるブリザードに、キョウヤもまた気を引き締める。とはいっても、カラスバとは少し違った意味合いだ。
こういう時のカラスバは冷徹だが、良くも悪くも手段を選ばない。怪我をするようなリスクを背負うこともだが、自分の毒を存分に活用することも厭わないのだ。
キョウヤは、カラスバを愛している。たとえそれが彼のやり方で、最善の手段である場合があることも分かっているけれど――その毒を浴びた相手の存在を到底許すつもりはない。そんな、重く苛烈な独占欲のもと、キョウヤもまた冷たい表情でフロントガラスの先を見つめていた。
走行中も静かな車が、とある歓楽街の一角で音もなく停車する。
「ちゃんとお利口にするんやで」
車を降りる直前、カラスバはそう言ってキョウヤの頬を撫でた。それは釘差しであり、そう言い含めておかないとキョウヤが我慢ならなくなる場面になると言わんばかりで、キョウヤは思わず眉間に力が入ってしまう。
「返事は?」
「……わん」
素直に言うことを聞くのも嫌で、不貞腐れた顔でそんなふざけた返しをしたのにカラスバは口角を上げる。ええ子やね、なんて言いながら宥めるように額にキスをしてくるものだから、せっかく不機嫌なのに絆されそうになってしまう。キョウヤはぶんぶん頭を振って緩みかけた顔を引き締めた。

カラスバと共に向かった会場は、とある会員制の高級クラブだった。薄暗く怪しげな照明に照らされたエントランスを案内され、中に通される。ずらりと並ぶテーブルとソファ。酒とタバコ、甘い香水の匂い。にぎやかに談笑する声に混ざるのは、快楽に溺れる男女の声。ちらりと目を向ければ、例の組織を示す代紋のバッジを身に着けた男たちが、それはまあ楽しんでいる様子だった。
(――うちが面倒見とるキャバクラの方がお行儀ええな)
カラスバは眉ひとつ動かさずにそんなことを思う。
――卑劣な手を使ってジプソに怪我を負わせたのはこいつらだ。分かっているけれど証拠がない。他にも怪しい部分は山ほどあるのに、その点がどうしても線にならない。綿密に計算されたドミノのように、最初の一手は間違いなくやつらのはずなのに、たどり着かない。それが歯がゆく、もどかしかった。
そして相手はサビ組が、証拠どころかそもそも「自分たちが黒幕である」という事実にさえ辿り着いていないと思っている。舐められているのだ。
だがそれが大きな隙だということもカラスバは知っていた。

それ以上の興味を向けることなく、更に奥へと足を進める。悪趣味なホールを抜けて一番奥に構えられた仰々しい扉を潜る。そこはVIPルームのようだった。そして今回の会合場所でもある。そう広くはないが、手前には二つのボックス席が並び、中央にはさらに豪奢なテーブル席。奥には小さなステージまで誂えてある。既に幹部らしき数人の男が部屋にいたが、本命はまだ到着していないらしい。待たせるつもりなのだろう。
ふん、と鼻を鳴らして、カラスバは磨き上げられた革靴の音を響かせながらまっすぐ中央のテーブルへと歩みを進めた。そしてサビ組事務所にあるものと同じように豪奢な黒革のソファにどっかりと腰を下ろして、その斜め後ろにキョウヤが控える。見慣れない青年に警戒したのか、連中がキョウヤに怪訝な目を向けたが、「わたくしはジプソさんの代理です」なんてにこやかに相手の言葉を躱しながら言われた通り忠犬に徹しているようだった。

そう時間を置かずに部屋に入ってきたのは、ストライプ地の上等なスーツに身を包んだ、神経質そうな眼鏡の男だった。歳はキョウヤより二回りほど年上に見える。テーブルについたのは両組織のボスと、相手の幹部らしき男が二人。相手方のボスの背後には腹心らしき男が一人立っている。さらに護衛が二人。合計六対二。いや、手前の部屋にいる連中を含めれば、もっとか。
相手のボスが対面に腰掛けるのを待って、カラスバは口元に優雅な笑みを浮かべて口火を切る。涼し気な、ともすれば冷たい印象を受けるかんばせはそれだけで甘い色を帯びた。
「こないなええとこに呼んでもろて、恐縮ですわ。ムシュー」
「はは、カラスバくんとは今後とも仲良くしていきたいと思っているからね。我々の気に入りの場を紹介しておこうと思って。……そちらは?」
男の鋭い視線がカラスバの斜め後ろへと流れる。サビ組のボスの後ろに控える、すらりとした長身の優男。いつもの目立つ大男ではなく、しかもかなり若い男を従えていることに違和感を持ったのだろう。探るような視線にもキョウヤは表情を崩さずに微笑を返した。そしてその答えは、同じく表情を崩さないカラスバが返す。
「あぁ、うちのルーキーです。ジプソが先日ちょっとヘマしまして、あいつが帰ってくるまでの間の代理を務めさせとるんですわ」
「へぇ、彼が? それはなんとも気の毒に」
ジプソに手を出したのは連中の方なので、知らないはずはないのだが。しらを切った男に内心で青筋を立てて唾を吐きながら、カラスバは分かりやすく苦笑を浮かべて視線で背後を指す。
「まあでもこの機会に、後進の育成も悪ないかと思いましてね。せっかくですから、この場でちょっと勉強させたってください」
「もちろん。よく見ていたまえ」
「ありがとうございます」
キョウヤは完璧な微笑を浮かべて一礼すると、それきり黙ってカラスバの後ろに控えた。
男が葉巻を咥える。側近の男が流れるような動作で火を差し出した。じりりと燃え始めた葉巻を通して大きく一呼吸分の煙を吸い込み、薄い唇から太く長い息が吐き出される。薄暗い店内に溶けてゆく紫煙は、朝方の靄のように視界を曇らせた。肘掛けに片肘を付けて、男は葉巻を指で挟んで口を離す。狐のような目が、煙越しにカラスバの方を向いてさらに細められた。
「それで、どうかね? うちとの取引は」
「そうですねぇ、ええ話やなぁ思とるんですけどね……なにぶん、うちは若い組織ですさかい……慎重にならざるを得ないんですわ」
私もまだ未熟なもんで、なんて心にもないことを言いながら、カラスバはいかにも困ったというような顔をして眉と目尻を下げた。庇護欲を誘う顔に、男が気を良くする。再び深く吸い込まれた葉巻の煙が吐き出されて、薄暗い室内で白く滞留してゆく。
「そうか。……君たちには、後ろ盾というものがないだろう? こう言っては何だが、悪くない条件だと思うよ。とはいえ、君の懸念ももっともだ……その慎重さはこの世界に生きていくのに必要なものだよ。素晴らしい。そこで良い提案があるんだがね」
男の眼が、仄暗い色を帯びる。下心の混じった汚い色。
――きた。カラスバはゆるりと金の眼を三日月形に歪めた。
「君が、私のものになるなら、もう少し良い方に取り計らってあげるよ」
内心で口角を上げたのはカラスバ。視線で人を殺せるなら殺してやりたいなと思ったのはキョウヤだった。今にも襲い掛かりそうなほどの剣呑な視線を向けようとしたキョウヤは、カラスバからさりげなく向けられた視線に鋭く釘を刺される。
――今のは、やめろという目だった。カラスバとの約束を思い出してキョウヤは必死に心を殺す。
「ふふ……ムシューも悪いお人ですね」
くすくす、口元に手を当てて品よく笑うカラスバが、しゃなりと首を傾げて上目遣いに男を見た。特徴的なグラスコードが揺れて音を立てて。店内の薄暗い間接照明を飲み込んだ金が、こっくりと濃い琥珀色にゆらり、揺れる。
「私で――オレで、ええの?」

甘さを含んだ声は麻薬だ。獲物を巣に誘い込む蜘蛛のように、カラスバは甘い餌をぶら下げた。もともと彼に執心しているという相手なら、言うまでもない。
キョウヤは思わず手を後ろに回してぐっと手のひらを握りしめる。そうしないと、今にも愛する人を誰の目にも触れさせないようにその体を抱き込んでしまいそうだった。
向こうのボスが、喉を鳴らしたのが分かった。男が軽く手を上げると、テーブルについていた幹部たちが席を立って、壁際に控える。
「君のことは、初めて会った時から良いなと思っていたんだよ」
「あらお上手」
くい、と男が招くように指を曲げたのを見て、カラスバがゆっくりとテーブルを回りこんだ。従順なフリをするカラスバがもどかしい。あんた、むしろ顎で人を使うタイプのくせに。そんなふうに歯噛みしながら、キョウヤは必死に怒りに近い衝動をやり過ごす。
「物分かりの良い子だ」
「オレね、人を見る目ぇはあるんですよ。それに、」
皆まで言わずとも、カラスバは男の意図を酌んでその隣に侍る。しなだれかかる様はまるで高級娼婦のような色気と、妙な品をもっていて。ざわり、キョウヤの胸の奥の方が嫌な音を立てる。手のひらに爪が食い込んで、ピリリと痛みが走る。いけない、強く握り込みすぎて皮膚が裂けてしまったらしい。
「実は……オレも、気になっとったんです」
薄暗い照明の中で、カラスバの美しい黄金色の眼が怪しく輝く。白く骨ばった手が、男の指先に、手首に、袖口を潜って腕に滑っていく。そしてもう片方の手のひらを、カラスバは男の首筋に添わせた。
それはまるで、睦み合う恋人同士のよう。
「ね、答え合わせしてもええです?」
「なにかな?」
「ムシュー、ミアレで遊んではったでしょ? 上手いこと隠れてはって……これから長い付き合いになるんやし、どうしてはったんか気になって」
「ふふ、流石に気付いていたかい。いいよ、答えてあげよう」
そのまま吐息が触れそうな距離で、カラスバが囁く。
「最近流行ってるクスリ……なんや、めっちゃおもろそうで気になってたんですけど。どっから仕入れてはりますのん? 流すのはあのチンピラ崩れに任せてるんやと思うんですけど、ちゃいます?」
細められた金に、甘さはない。耳元に囁くようにしているせいで、男からはカラスバの表情は見えていないのだろう。彼の眼は冷え切っていた。そんなことにも気付かず、熱に浮かされたような顔で男はするすると言葉を紡ぐ。どこか自慢げな語り口だった。
「ああ……あれはね、実はカロスの中で作っているんだよ。海外からだとコストがかかるだろう? 国際警察の目をかいくぐるのも一苦労だし。マウンテンカロスの片田舎で、少しね」
「あぁ、そうやったんですね。せやったら……」
寄り添いながら、それでも視線は冷たく。カラスバはぽそぽそと愛の言葉を囁くように、情報を吐かせてゆく。
「せや、これも聞きたかったんです。うちのジプソをやったあの手練れ、ムシューが育てはったん?」
「いいや、彼らはね……我々と同盟を結んでいる組織の若い衆で……」
――カラスバは、手のひらにとある成分でできたマイクロニードルパッチを仕込んでいた。痛みもなく経皮吸収する自白剤。店に入る前の身体検査にも引っ掛からなかったそれに、カラスバ本人に意識を集中していた男は気付けなかった。触れた手のひらを通して、腕から、そして何より首筋から吸収されたそれは瞬く間に男の意識に作用してくれた。自白剤のせいだけでなく、気分がいいのもあるだろうけれど。
幹部の男や護衛たちはもの言いたげな視線を己のボスに向けている。しかし止めないのは、男がカラスバへ向けている執着を知っているからか、自分たちのホームでたった二人の若者なんて取るに足らないと思っているからか、あるいはどちらもか。

至近距離で親密そうに言葉を交わす両組織のトップ二人。仕込んだ自白剤は、男の欲望も丸裸にしてしまうようで。鼻息を荒くした男が、するりとカラスバの背中を撫でた。
「カラスバくん。もっと詳しい話をしないかい。二人きりで、じっくりと」
別室に誘おうと、男がカラスバの細い腰に手を回す。おそらくこの奥に、さらに個室があるのだろう。あからさまな誘いの言葉にキョウヤは目の前が真っ赤に染まるような感覚を覚えた。後ろ手に握りしめた拳が震える。顔はどうにか完璧な微笑を貼り付けているが、食いしばった奥歯がギリリと音を立てた。
けれど、まだ。まだだ。だって、カラスバからの合図がない。
食いしばった歯の隙間から、怒気が籠った息を吐き出す。
「ふふ……えらい積極的。でもせっかくやし、もうちょっとゆっくり楽しみたいなぁて思うんですけど……どないです?」
カラスバは使えるものならすべて使う、そういう男だ。自分の魅力の使い方、人からどう見られているか、それをよく分かったうえで計算して生かす。そこに躊躇いはない。
そしてその術中に嵌まった結果――相手はすっかりカラスバの毒に侵されて、目の奥に昏い色を宿していた。
「ふむ……でも魅力的な君が、他の誰に取られるとも限らないからね。君のその白磁の肌に最初に触れるのは私がいい。さぁ、」
男は辛うじて余裕のあるふりをしていたが、その性急さには欲が滲み出ていた。立ち上がり、カラスバをエスコートするように手を伸べる。
――潮時やな。
そう判断したカラスバが、流し目をするように、キョウヤへアイコンタクトを取った。
それは、今にもとびかかりそうな猛犬のリードを離す合図でもあった。
ずっと背中で握り絞められていた拳。キョウヤのダークグレーの瞳の奥の、黒い瞳孔が開く。甘い毒に狂わされた男が無理やりカラスバの顔に触れようとした瞬間、鈍い音と共に男の体が部屋の隅へ吹き飛んだ。

「……まぁ、『待て』できた方やな」

機嫌良さそうに笑うカラスバの隣には、綺麗なハイキックの姿勢で止まっているキョウヤの姿。護衛たちが反応できないほどの速度で一息にテーブルを飛び越えたキョウヤは、男を容赦なく蹴り飛ばしたのだ。
「っ……ハァー……」
腹の底から深い息を吐いてゆっくり足を下ろしたキョウヤは、オヤブンヘルガーも真っ青の鋭い眼光で周囲を睨め付けた。背筋が凍るような絶対零度のそれは、とてもミアレの英雄には見えない。
「ボス!」
「貴様っ!」
自分たちのボスに手を出されて、連中が気色ばむ。しかも話がまとまったように見えたところでの突然の暴挙だ。訓練された動きで一斉に武器を向けてきた男たちにもキョウヤは一切怯まない。カラスバに至っては楽しそうに口元に笑みすら浮かべている。
キョウヤはズレたハットを直しながら、その鍔の下から鋭い目つきで周囲を威圧した。
「こっちのセリフですよ。うちのボスに――汚い手で触るな」
「! 生きて帰れると思うなよ……!」
 そんな言葉を吐いた護衛に、カラスバは嘲笑を贈った。
「なんやお宅ら、そんな立派な人数おるくせに自分らの大事なボスも守れへんの?」
「なっ!」
カラスバは、男がいなくなった上座のソファへ座り直してゆったりと体をその上質なクッションへと預ける。そして愉快そうに喉を鳴らして、キョウヤに蹴り飛ばされて蹲る男の姿を、眼鏡のレンズ越しに冷たく見下ろした。
「うちの番犬がすんませんなぁ。でも……もうお宅ら用済みやねん。キョウヤ、遊んだり」
「As you wish, Your Majesty」
カラスバには振り向いて微笑んだキョウヤが、この場に似つかわしくないくらい恭しく返事をして、敵の方を向き直る。

キョウヤは、サビ組に入るまでは荒事の経験はなかった。しかし命綱なしにミアレの空を駆け回っていたあの身体能力である。天賦の才か、キョウヤは強かった。さらにそこに長い手足と長身という恵まれた体型が加われば、立派な番犬に育つのも時間の問題だった。
「任すで」
「もちろん」
二人のやり取りはただそれだけ。カラスバは身構えることなく、ゆったり足を組んで見物の姿勢に入った。明らかに舐めたその態度は相手の神経を見事に逆なでする。双方の怒気が膨れ上がり、室内には緊張感が走った。そうして一呼吸もないうちに連中はカラスバとキョウヤに襲い掛かった。
さほど広くない室内では飛び道具は使いづらい。ましてや薄暗く、仲間が複数いる場だ。結果、連中が取り出したのはナイフや警棒、スタンガンだった。カラスバが座るソファの前に立ったキョウヤが、鋭く視線を周囲に走らせる。
最初に動いたのは、警棒を持った男だった。一撃目は、頭部を狙った鋭い横振り。容赦ない速度の警棒が襲い掛かるが、キョウヤは一歩も引かなかった。その類まれな動体視力をもって、男が警棒を振り抜くその懐へと鋭く踏み込む。手元を中心にした円運動の先端は大きな破壊力を持つけれど、逆に言えばその根元は大した威力はない。そんな物理法則を見極めて、キョウヤは警棒を持つ男の手元を左腕で受け止めた。それと同時に右の手を軽く引いて、そのまま上に突き上げる。鋭い掌打が男の顎を真下から垂直に打ち抜いた。
「ぁがっ、」
顎は人間の急所だ。体重の乗った掌打に脳が揺れたらしい男はよろめき、キョウヤはその体を蹴り飛ばす。くの字に曲がった男の体が、後ろに控えていた仲間に向かって突っ込んで衝突した。
――一人。
仲間を肉壁に使われたことで護衛の一人の足が止まった隙に、キョウヤは己の背後に目を光らせる。バチバチと電気を走らせるスタンガンを持った男がキョウヤの背を狙っていた。振り向きざま、ひゅん、と長い脚が空を裂く。長身から放たれた鋭い蹴りは護衛の一人の横っ面に突き刺さって、鈍い音を響かせた。豪奢なローテーブルにそのまま打ち付けられた男は、うめき声をあげながら指先を動かしたが、すぐに気を失ったようだった。
――二人。
「舐めやがって!」
「っ、くそ! 殺す!」
顎への一撃で目を回した一人目の護衛を押しのけた男が、腰から獲物を引き抜く。鈍色に光るそれは――小型ナイフだった。そして奥の男は懐から拳銃を取り出す。明らかに殺意の高いそれらを確認して、キョウヤはぴくりと片眉を動かすが、それだけ。拳銃の射線を把握し、ナイフを持った男の影にするりと滑り込む。それはカラスバも隠す位置だった。ポケモンバトルで鍛えられた空間把握能力と視野の広さはここでも生きている。
初手、躊躇いなく顔面に向かって突き出された切っ先を、素早く首を傾けることで避ける。そのまま横凪ぎに振り払われた刃に軽く身を引いて、振り切られた瞬間のその手首を掴んだ。ぎり、と握りこむと、握力に負けたのかカシャンとナイフが地に落ちる。反撃に転じようと鳩尾を狙ってきた反対の拳が届くよりも早く足払いをかけ、背負い投げの要領で叩きつけた。
――三人。
「が、はっ…!」
胸から空気が漏れる音。苦しげなそれには目もくれず、キョウヤは地面に落ちたナイフをほぼノールックでぶん投げる。恐ろしいほどのコントロールでそれが拳銃の砲身に当たり、今まさに引き金を引こうとしていたその銃口は見当違いの方向へ火を吹いた。
――パァン!
鋭い破裂音に紛れて、再びキョウヤがテーブルの上を滑る。そしてその勢いのまま天板を蹴って宙を舞った。そうして瞬く間に距離を詰めたキョウヤの右ストレートが、その男の頬を打ち抜いた。
――四人。
あっという間に四人目の仲間が倒れると同時に、残された幹部の男が慌てて手前の部屋の応援を呼び寄せた。その声に雪崩れ込んできた有象無象が、倒れ伏す護衛たちの姿を見て、憤怒の表情でモンスターボールを構える。そしてそれを見たカラスバは「あーあ」と心底同情するような声をあげた。

「アホやなぁ……生身の方がまだ勝機あったのに」

そう言うカラスバの視線の先では、凶悪な笑みを口の端に刻んだバトルジャンキー……――否、カラスバに仇なす者を許さない、狂犬の姿があった。

腰元のホルダーから、二つのボールを外してキョウヤはそれぞれのボタンを押した。
「ガブリアス、オーダイル。GO」
「ギャアアス!」
「グォオオオ!」
太く鋭い咆哮。現れたのは、彼の手持ちの中でも屈指の攻撃力を誇るドラゴンと、彼の最初のパートナーだった。トレーナーとよく似た鋭い目が、対峙した人間とポケモンたちに照準を定めて。
「ガブリアス、『じしん』。オーダイル、『ハイドロポンプ』」
無慈悲なその一言により、ぎりぎりキョウヤたちを射程から外した位置でガブリアスがその身を大きく震わせる。そして咆哮と共に大地を揺らし――店ごと崩落しそうな中を、今度は高圧の水塊が真っすぐ貫き、たったその二撃で敵は壊滅したのだった。

人もポケモンも屍累々となった部屋の中、カラスバは騒動の最中も一歩も動いていなかったソファからゆったり立ち上がる。相棒たちの攻撃で敵を葬り去った後、何をするのかと思えば、最初に吹き飛ばされて脳を揺らして蹲っていた敵のボスを、キョウヤは獰猛な目をしたまま掴み上げていた。相手はまだ、意識があるらしい。
――これ以上は、彼の役目ではない。
カラスバはキョウヤの手によって持ち上げられた男の頭を鷲掴み、躊躇いなく店の壁へ叩きつけた。ドゴォッと鈍い音がして、一瞬硬直した男の体は今度こそ地面に崩れ落ちた。
一連の動きをポカンと見ていたキョウヤにゆるりと笑って、カラスバは手を伸ばす。

「キョウヤ、おいで」

ぱっと顔を明るくしたキョウヤが、これまでの殺伐とした雰囲気を霧散させて可愛らしい顔で駆け寄ってきた。そして両手を広げて、しかし仕事中だということを思い出してそこで止まる。公私混同は厳禁。それはカラスバとの約束だった。けれどご褒美を待つ犬のようにそわそわ、ちらちらとカラスバの顔を伺った。
店内には二人以外に意識を保った者はいない。他の部下たちを呼んで後片付けは頼むつもりだが、今は二人きりだった。カラスバはくすりと笑って、応えるように緩く手を広げて見せた。

「ふふ。『よし』」
「! わん!」
飛びついてきたキョウヤの頭を撫でてやると、カラスバは懐に入れたボイスレコーダーを手で弄びながら店を後にした。

「ねぇ、いつもあんなことしてるんですか」
 同じ家に帰ってシャワーを浴びた二人は、サビ組のボスと組員の肩書を下ろして、ただの恋人同士として生まれたままの姿て身を寄せ合っていた。一仕事終えた後の高揚で既に一戦を終えた後。キョウヤがまたも唇を突き出しながら言った言葉に、あぁ今日はやけに激しかったのも、やたらと痕を付けたがったのもそれが原因かと合点がいった。あんなこと、とは、己が情報を引き出すために興味もない男にすり寄った件だろう。今回は手っ取り早く済ませるためにそうしたけれど。
「んなわけないやろ、あんなんばっかりしてたらそれはそれで舐められるわ。あそこまですんのは、潰すって決めた相手だけやで」
 あの男はもう、日の光を見ることはないだろう。そういうどうでもいい相手にはこの己の毒を浴びせる事も少なくなかった。
 ――つまりそれは、いつもではないにしろ、彼の毒を浴びた人間がほかにも複数存在するということで。その相手が今もこの世に存在していようがいまいが、キョウヤには関係なかった。メラメラと胸の内で嫉妬の炎が燃え上がるのを感じる。
「……次から絶対俺も連れて行ってください」
 シーツの上に体を投げ出したままの恋人に覆い被さるように押し倒して、キョウヤはそう乞うた。カラスバはきっと自分のやり方は変えない。それならばせめて、そのすべては自分の目が届くところで。そう願ってじっと己を見つめる年下の恋人の顔を見上げて、カラスバはふっと妖艶に笑った。
「せやなあ、それは今後の頑張り次第や。……でも今日のは及第点やな」
そう言ってカラスバはその白い腕をするりとキョウヤの首裏に回すと、ぐっと引き寄せてキスをした。唇の形を確かめるような、しっとりしたキスだった。
「ええ子にはご褒美やるさかい。次も、おきばりやす」
 行為で掠れた甘いテノール。焦点が合わないほどの距離で見つめ合った金の瞳が、ふっと柔らかく瞬いた。色気の滲む目元。首裏に回された指先が、無防備な背中をすす、と辿っていく。肩甲骨のあたりに付いたひっかき傷を撫でられてピリリと走る痛みにさえ、甘い快感に変わるようで。
情欲を掻き立てられたキョウヤが思わず喉を鳴らした。ぐっと堪える表情をした恋人の顔に、カラスバが満足そうに微笑む。

「ほら、キョウヤ。『よし』」
「……わん」

 そんな許しの言葉に己の中の猛獣を解き放ったキョウヤは、本能のままに恋人の体に溺れていった。
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