・短編

シュールリッシュの煌びやかなパーティ会場。中央にバトルコートを備えたそこに集まったのは、ミアレを代表する上位ランカーたちに加えて、主催であるユカリに招待を受けた国内外の実力者たち。噂には聞いていたけれど、そこに初めて招待を受けたキョウヤは興奮で紅潮した頬をそのままに、きらきらと目を輝かせていた。
「す、すごい! パルデア四天王のチリさんに、アオキさん……あっちはシンオウリーグチャンピオンのシロナさん!?」
いつかのユカリトーナメントの時のようにバシッと気合を入れて身なりを整えてきたというのに、良い意味で台無しだ。キョウヤと連れ立って会場に入ったカラスバは、そんな年若い恋人の姿を微笑ましく見守る。そんな二人の姿を見つけて、会場の奥でユカリと話していた大柄な人物が手を上げてにこやかに駆け寄ってきた。
「カラスバさん!」
快活な笑みを浮かべてカラスバにずいぶん気安い様子で声をかけてきたその人物は、あまりにも有名な人で。キョウヤは信じられない気持ちでぽかんと口を開けた。
「ダンデさん、前回ぶりやなぁ」
一方、声をかけられたカラスバも比較的砕けた様子だ。
「え、えっ!? ダンデ選手……てかあっちにはキバナ選手!? ほ、ほほほ本物!?」
「ふは、えぇ反応」
大物の出現に訳もなくあわあわとテンパるキョウヤにカラスバは愉快そうに笑う。
バトルをするトレーナーならば、勉強のために強いトレーナーの試合を見ることはよくある。ガラルリーグで十年間無敗の王者として君臨したダンデの試合動画なんて、その最たるものだろう。特に彼と、そのライバル、キバナの試合は名勝負が多いことも世界的に有名だ。キョウヤも例にもれず、特にミアレに来てバトルの腕を磨くようになってからはしょっちゅうダンデやキバナの試合動画をチェックしていた。
そんな憧れの選手が、目の前にいる。キョウヤのテンションは最高潮だった。そんなキョウヤに苦笑しながら、カラスバがキョウヤとダンデの間に立つ。
「紹介したるわ。見ての通りやけど、ガラルの元チャンピオンで、現ガラルリーグ委員長のダンデさんや。ダンデさん、こっちはキョウヤ。ユカリのお気に入りって言うたら、何でここに呼ばれたかは伝わるやんな?」
「あぁ、それなら納得だ。ぜひとも手合わせ願いたいぜ! よろしく、キョウヤくん」
「こ、こ、こちらこそ! あ、あの、握手してもらっていいですか!?」
「もちろん!」
「ほわ~!」
完全にファンの反応である。とはいえダンデもそんな反応をされるのには慣れているのか、きらきらと輝く笑顔でキョウヤと握手を交わしてくれた。
と、それを見守っていたカラスバの頭上にぬっと長い影が現れる。
「かーらすーばさん!」
「うぉ!?」
肩にたくましい腕が回されたと思ったら、ずしりとそこへ体重をかけられてカラスバは咄嗟に足を踏ん張る。「お、さすが良い体幹だなぁ」なんて呑気な声がする方を見上げれば、長い体を大きく丸めるようにして肩を組んでいる美丈夫と目が合った。
「……やっぱりキバナさんかいな。相変わらずでっかいなぁ」
「へへ、カラスバさんも相変わらず良いサイズ感」
「お、喧嘩なら買うで?」
「やだなぁ冗談じゃん、っていうかオレさまが規格外なだけだし?」
「自覚があって何よりやわ」
穏やかに、気楽に交わされる会話にキョウヤは目をパチクリさせた。それからカラスバの肩に回された褐色の長い腕に、なんだかもやりとしたものを感じて。今の今まで最高に上がっていたテンションに、じわじわと面倒な炎が混ざっていく。
一方、顔を曇らせた若者を置いて、顔馴染みらしい三人の会話はテンポよく流れていく。
「キバナ! キミばっかりずるいぞ!」
「おーダンデ、挨拶周りは終わったか?」
「あぁ、さっきな!」
「二人とも相変わらずやな」
「まぁな! でも、バトルの腕は進化してるつもりだぞ」
「オレさまだって負けてないぜ?」
人懐っこい笑みを浮かべていたダンデが、急に猛禽類のような目をして自身のボールホルダーに触れる。キバナも、へらりとした柔和な笑みから一転、彼の相棒であるドラゴンたちのような獰猛な目をしてにやりと笑った。
「なーカラスバさん、次オレさまとバトルしよ! こっちにどくタイプ使いってあんまいなくてさ」
「ずるいぞ、俺だってやりたい!」
「あーあー、ちょおまってや」
カラスバは、二人にずいぶんと懐かれているようだった。いつからの付き合いか知らないけれど、強いトレーナー同士というのは惹かれ合う部分があるので分からなくはない。ガラルの二人に他意がないのだって分かる。それでもなんだか、カラスバが長身で美形でバトルも強い二人に挟まれて慕われているのが、キョウヤには面白くなかった。
先ほどまでのキラキラした気持ちはどこへやら、すっかり萎んでむくれてしまったキョウヤは、かといってその場の空気を壊すのも嫌でカラスバの隣で小さく唇を尖らせていた。カラスバがちらりと視線を向けたタイミングで、キバナの方もキョウヤに気付いた。
「そういやそっちは新顔くんか?」
キバナはキョウヤにも人懐っこい笑みを浮かべてそう声をかけた。すると、そんなキョウヤの様子を見ていたカラスバがにんまりと笑ってキョウヤの肩を抱き寄せた。人前では普段絶対にしないカラスバからのスキンシップに、キョウヤはさっきまでの萎んだ気持ちも吹き飛ばして飛び上がる。
「そうそう、こいつキョウヤ言うんやけどな」
「え、ちょ、カラスバさん?」
カラスバはキョウヤの戸惑いの声も無視して、肩に回した方の手でするりとキョウヤの頬を撫でる。それから、面白いものを見るように目を輝かせているガラルの有名選手二人に向かってキョウヤの顔をくいと持ち上げて見せた。
「こんな可愛ええ顔しとるけど……こいつ、ごっつ強いねんで? いまのミアレで一番強い、オレの自慢の彼氏や」
「はわ……っか、カラスバさん……!」
語尾にハートマークが付きそうな甘い声音でそう言われて、キョウヤは一気に顔まで赤く染め上げた。しかも、自慢の彼氏。人前で、堂々とキョウヤのことを彼氏と明言したのだ。それだけでキョウヤは天に上るほどうれしい気持ちになっていた。カラスバの言動一つで先ほどからキョウヤの感情はジェットコースターのごとく上がり下がりしているが、仕方がない。彼の手のひらの上で転がされるのは、いつものことなので。
初々しい反応を見せる若人と、なんだかご機嫌なお気に入りの友人の姿に、キバナのエンターテイナーとしての意識……というよりも、ただのおちゃめな悪戯心が大いに刺激される。
「お、そう言われたら黙ってらんねぇよなぁ?」
ふ、と整った口元に笑みを浮かべたキバナは、今度は慣れた様子で自身の唯一無二のライバルの肩を抱き寄せた。そしてカラスバがしたのを真似て、その手でダンデの顎髭を長い指先で擽って見せる。
「オレさまの彼氏も超つぇーの。なぁ?」
くすり。二人そろって、レパルダスのように目を細めてやけに色気を帯びた声でそんなことを言うものだから。肩を抱かれたそれぞれの彼氏二名は、耳まで顔を赤くしてわなわなと唇を震わせた。そして同時にそれぞれの恋人の腕から抜け出すと、色っぽい声がダイレクトに響いた方の耳を片手で押さえつつ、色っぽい恋人たちを揃って指差した。
「~~っ、もう! そこのえちおねコンビ!」
「後で覚悟しておいてくれよな!?」
弄ばれて悔しそうな顔をした男二人が負け惜しみのようにそう叫んで、わたわたとバトルコートへと向かっていく。
「……ダンデさん」
「あぁ、言いたいことは同じだと思うぜ」
「最速で最高のバトルをしましょう」
「望むところだ。お互い、ハニーの前で情けないところは見せられないしな?」
未だ顔の赤さを引きずっていたくせに、コートに足を踏み入れた瞬間には表情を切り替えて鋭い眼光で互いを真っすぐに見据える。そんな姿を見送って、残されたカラスバとキバナはくすくすと笑い合った。
「覚悟しといてやって、どないしよ」
「まぁ、頑張ったらご褒美くらいはあげてやんないこともないかも?」
「せやなぁ。ま、オレの彼氏が勝ってもうたらごめんな?」
「それはこっちのセリフだぜ。慰め方でも考えといたほうがいいんじゃねぇ?」
「……」
「……」
「あの二人のバトルが終わった後、三対三でどうや」
「乗った」

なお、ミアレの英雄対ガラルの元チャンピオンのフルバトルは、その後何度も開催されるユカリトーナメントの中でも歴代最高と言われるほどの名勝負となったのは、ここだけの話。

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