二人旅をしよう

星屑を彷彿とさせる美しい銀糸の髪を花びらの様にシーツに散らばせ眠るのは美麗な顔立ちの青年。

雪の如き白い肌に影を落とす瞼を縁取る長い睫毛、穏やかな寝息を洩らす果実の様な唇、上下する細い肩。

一見すると、普通の人間の様に見えるが彼にはヒトにはない深紅の湾曲した双角が頭部に生えており、魔族の類だと言う事を物語っていた。

「……ん」

僅かに身動ぎ、瞼に遮断されていた宝石を埋め込んだかの様なアメジストの瞳が露になる。

朧気であった視界も数回瞬きする頃には完全に開き切り、思考もはっきりしていた。

そして、彼は昨夜床を共にした相手がいる方へ顔ごと視線を向ける。

彼は既に起床しており、自分に背を向ける様に寝具に腰掛けていた。

見慣れた短い茶髪、上半身には何も纏っておらずしなやかに筋肉の付いた逞しい背中には昨夜己が付けたであろう爪による擦過傷が広がり痛々しさを感じた。

しかし…彼はーー騎士は気にしていないのか此方を振り返る。

切れ長の琥珀の双眼と己のアメジストの瞳と視線が交差すると、騎士は端整な顔に優しげな笑みを浮かべ、唇を開く。

「おはよう。ルシフェル」

心地良い声に名前を呼ばれ、伸ばされた手が優しく髪を撫でる。

剣を握る武骨で大きな手…色々なモノを護って来た手に酷く心地良さを感じ、猫の様に擦り寄る。

ルシフェルのその仕草に騎士は思わず柔和な笑みを溢す。

「ルシフェル。身体…大丈夫?」

顔から笑みを消すと、久々に彼と逢瀬を交わし、嬉しさのあまり何度も求め無理をさせてしまった事を気遣う様に尋ねる。

その問いにルシフェルは昨夜の事を思い出したのか…白い頬を薄っすら赤らめ、視線を逸らす。

清潔感のある白いシャツから覗く細い首筋や肌には昨夜彼に付けられた赤い花弁が幾つも咲いていた。

「ああ………だ、大丈夫だ」

羞恥を感じながらも相槌を打つ。

ルシフェルの返答に安堵した騎士は再び端整な顔に笑みを浮かべると、床に脱ぎ散らかされた衣服を纏って行く。

インナーを整えていると、裾が引かれる感触に気付き、背後を振り返る。

そこにはインナーの裾を控え目に掴み、何処か寂しげな表情で此方を見詰めるルシフェルがいた。

普段の毅然とした彼からは想像も着かない表情と仕草に内心、ドキリとしながらも平静を装い尋ねる。

「どうかした?ルシフェル」

すると、彼は予想を上回る言葉を口にした。

「………次は何時、会えるんだ?」

「!…」

何時もは寂しい等と言った事をあまり口にしないルシフェルの初めての言葉に騎士は切れ長の双眼を見開く。

魔界の天使と呼ばれる堕天使長が初めて見せる寂しげな姿は魔族達を統率する司令官ではなく、恋人である己だけに見せる“ただ”のルシフェルと言う青年の姿ーー。

本当は誰よりも優しく、誰よりも幸福と安寧を願っていた美しい堕天使に愛しさが込み上げ、騎士はそっとその華奢な身体を抱き締めた。

「き、騎士…?」

突然、抱き締められ驚いたルシフェルは戸惑い勝ちに声を洩らす。

触り心地の良い銀糸の髪を撫でた後、騎士は一度彼から身体を離すと、真摯な表情で見据える。

「ルシフェル。君を愛してる……俺の一生涯の伴侶になって欲しいーー」

「そして、一緒にこのミスタルシアを旅しよう」と、付け加える。

「…っ」

騎士の口から出た言葉にルシフェルはアメジストの瞳を限界まで見開くと、思わずギュッと相手の衣服を握り締める。

その手は僅かに震えており、彼の心情を現しているかの様であった。

「……私で良いのか?」

綺麗なアメジストの瞳を不安げに揺らし、弱々しく尋ねる。

遠回しに他に相応しい相手がいるのではと濁した言葉に騎士ははっきりと誓う様に言う。

「勿論。俺が一生涯隣に立ちたいと思ったのはルシフェル…君だけだ。不安ならコレを受け取ってくれないか?」

騎士は普段硬質な籠手で隠されているルシフェルの白い左手を優しく掬う様に持ち上げ、女性の様な細長い指に一つの指輪《リング》を嵌める。

ルシフェルの薬指に嵌められたのは、飾り付けのないシンプルな銀色の指輪でその意味を理解した彼は視線を騎士に向ける。

「これからは…お前を待たなくても良いのか?」

「ああ。これからはずっと一緒だ」

相槌を打ち返答すると、彼は再びルシフェルを抱き寄せ頬に手を添え、唇を重ねる。

触れるだけの口付けを終え、ルシフェルは相手に凭れる様に頭を預ける。

そんな彼に騎士も頭を寄せ、更に抱き締める。



この日から救世の騎士の傍には堕天使長ールシフェルの姿が常にあり、彼等はこのミスタルシアの安寧の為旅を続けるのであったーー。




ーendー
あとがき→
短い話を目指したつもりで書いたら…ぐだぐだになった…(汗)→何で?
久々に執筆しなくてもしてもこの低クオリティー…誰か、誰か私に才能をくらさい……(泣)
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