手料理に込めた想い
魔界のとある一室で何やら考え込んでいる青年が居た。
輝く銀糸の髪に長い睫毛に縁取られたアメジストの瞳を持つ彼は人間には存在しない深紅の双角に白と黒の六翼を有していた。
彼はルシフェルと言い、この魔界で知らない者は居ない堕天使長である。
そんな彼がお気に入りとも言える、様々な書物が揃った書庫で一切読書をせず先程から何を考えているかと言うと…恋人である騎士の事であった。
世界中を旅する救世の騎士と呼ばれる青年。
何かと多忙な日々を送っているにも関わらず、彼は何時も自分に会いに来てくれた。(その時は必ずアザゼルに睨まれて
いるが)
そう…何時も騎士の方からである。
自分から騎士に会いに行ったのは数える程度…。
詰まり…ルシフェルは自分も騎士の元へ足を運ぼうと思っているのだが、どう言う風に会いに行けば良いか分からなかったー…。
(一体どうすれば良いのだろうか…)
内心呟き、静寂な空間で溜め息を吐く。
何処か項垂れている様にも見えるルシフェルの元に救世主とも言える人物が現れる。
「ルシフェルー!」
明るい声と共に室内に現れたのは、赤い髪が特徴的な女性の堕天使ーミュリンだった。
「ミュリンか…」
彼女の声に現実へと引き戻されたルシフェルは振り向く。
そして、ふと彼の中で考えが浮かぶ。
(…気は進まんが此処はミュリンに何か聞いてみるかーー)
何時も女性の魔族を追い掛け回しては騒ぎを起こす彼女だが、他に相談相手も居ないと自分の中で納得し、口を開く。
「ミュリン。一つお前に聞きたいのだが…」
「え?何々?あ…もしかしてー…」
「騎士さん絡み?」と付け加え、何時も目の当たりにしている獲物を狙う様な目付きで脂下がると言った。
図星を突かれ、一瞬言葉を詰まらせ羞恥すら感じたが事実の為頷く。
何処か照れている様にも見えるルシフェルの姿にミュリンは何時もの明るい声で言う。
「やっぱり~。ルシフェル、騎士さんと上手くやってるんだね?」
「…ああ」
至極楽しげな彼女の口調にカッと頬に熱が集まるのを感じながらも頷いた。
実は、ミュリンは騎士と自分の関係を知っている数少ない人物。
隠し通していたのだが、ミュリンには直ぐにバレ、質問攻めにはあったが祝福してくれた。
「それで?アタシに聞きたい事って?」
「騎士さんを悩殺するテクなら今スグ教えてあげるわよ~?」と、付け加え両手をわきわきさせながら尋ねる。
相変わらずな彼女に半ば呆れながらルシフェルは重い唇を開く。
「実はだなー…」
・
・
・
・
「ふんふん。成る程ね~自分から会いに行きたいけど、どうやって会いに行けばイイか分からないと…」
彼の話を頷きながら親身になって聞くミュリンは分かり易く纏め確認の為に再度尋ねる。
「そうだ…」
ミュリンの問いにその通りだと頷く。
彼女は「う~ん」と、考え込んだ後閃いた様に口を開く。
「会いに行けないなら、会いに行く口実を作ればイイんじゃない?」
「例えば、えっと…手作りのお弁当を持って行くとかさ」と、付け加えミュリンは名案とばかりにルシフェルを見る。
彼女の視線にルシフェルは顎に手を添え、考える仕草をする。
(弁当…つまりは手料理、か…)
日頃の騎士の多忙さを考えると、もしかしたらゆっくり食事を摂れない事があるかもしれない。
そう考えたら名案だと思い、ルシフェルは相談に乗ってくれた彼女に感謝の意を伝える。
「ミュリン。助かった…それがあれば騎士の元へ行けそうだ」
「どういたしまして。それじゃ頑張ってね~♪」
直ぐ様踵を返し、書庫を去るルシフェルの細い背中を見送り声援を送る。
ルシフェルが去った後、ミュリンはポツリと呟いた。
「口実何かなくたって騎士さんならルシフェルが会いに来てくれただけで喜ぶと思うけどね」
ミュリンの案の元、ルシフェルは厨房に立ち唯一人の人物を思いながら料理をしていた。
(騎士は、私の手料理で喜んでくれるだろうか…)
普段の毅然とした堕天使長である彼とは思えない不安げな呟きであった。
それには訳があった。
騎士は普段から様々な場所を旅し、自分の知らない者とも交流があり、中には料理の腕が良い者が居て、既に舌が肥えていないか。
自分の料理等喉を通るのか…。
嫌な妄想が広がるも、それを振り払い最後の仕上げをし、丁寧に布で包み騎士の元へと向かった。
一方、その頃…騎士はとある街に居た。
今夜泊まる宿に予約を入れた後、明日の準備に備え、街の市場に足を運んだ。
取り敢えずは旅に欠かせない必要不可欠な物を買い込み、後は適当に市場を見て回っていた。
その時、聞き覚えのある声に呼ばれる。
「ひょっとして、騎士じゃないか?」
特徴的な低めの声に騎士は振り向くと、そこには脳内で描いた通りの人物が立っていた。
白金の様にも見える金糸の髪、意志の強い深紅の瞳、赤色の衣服を身に纏った雷迅卿の異名を持つ青年。
「アルベール。久し振りだな」
まさか知り合いに会えるとは思っていなかった騎士は端整な顔に笑みを浮かべ、口を開く。
その時、何故か薄っすら頬を赤らめ、視線を逡巡させた後アルベールは返答した。
「あ、ああ。何時以来だろうか?」
「…?そうだなーーホワイトデー以来じゃないのか?」
様子の可笑しいアルベールに怪訝な表情を浮かべるも騎士は暫く考え込んだ後に言った。
「それ位会っていなかったか…」
「互いに忙しいからな。それより、アルベールは何でこの街に?」
染々と呟く彼に返答した後、騎士は気になっていた事を尋ねる。
「今日、団員達とこの街に遠征に来たんだ」
「今は全員自由行動中だ」と、付け加え騎士の問いに答える。
彼の言葉に騎士は「成程…」と、納得した様に頷いた。
アルベールはふと、騎士に視線を向け内心呟く。
(ひょっとして…これはチャンスじゃないかーー)
実は、アルベールは密かに騎士に好意を抱いていた。
どんな相手も無条件で受け入れる寛大な心を持ち、誰よりも信頼出来る彼に惹かれたのだーー。
この機会を逃したら、何時何処で会えるか分からない。
アルベールは意を決して、騎士の切れ長の琥珀の双眼を見据え、形の良い唇を開く。
「き、騎士…お前さえ良ければ何だが…その、俺と市場を見て回らないか?」
(よしっ!言ったぞ!)
他の者が聞いたら何とも色気のない誘い方だと思うかもしれないが…自分としては精一杯頑張った方である。
そんなアルベールの色気のない誘いに騎士はぱちくりと琥珀の双眼を瞬きさせた後、口を開いた。
「勿論。構わない。俺も一人じゃ退屈してたから」
「アルベールと回れるなら嬉しいよ」と、付け加える。
快く賛同してくれた彼にアルベールは嬉しさのあまりにやけてしまいそうになったのを何とか耐え、端整な顔に微笑みを浮かべた。
「ありがとう騎士。なら、最初は何処を回ろうか?」
「俺はアルベールが見たい場所で構わないよ」
必要な物は揃ってしまった為、騎士は彼が興味のある場所にしようと思い言った。
意外な提案にアルベールは驚いたものの…折角なので此処は彼の優しさに甘えようと考えた。
「ほ、本当に俺が選んでも良いのか?」
控え目な言葉と視線に騎士は微笑すると頷く。
「勿論。それで?何処に行きたい?」
そう尋ねると、アルベールは向こうを指差し、何処か嬉々とした様子で言った。
「向こうの店に様々な酒が売られていたんだ」
彼の言葉に騎士はそう言えば晩酌が好きだったなと思い出す。
もしかしたら、晩酌用の酒を吟味したいのかもしれないと思った。
「分かった。じゃ、行こうか」
「ああ!」
力強く頷くと、二人は肩を並べて酒が売られている市場へ向かった。
輝く銀糸の髪に長い睫毛に縁取られたアメジストの瞳を持つ彼は人間には存在しない深紅の双角に白と黒の六翼を有していた。
彼はルシフェルと言い、この魔界で知らない者は居ない堕天使長である。
そんな彼がお気に入りとも言える、様々な書物が揃った書庫で一切読書をせず先程から何を考えているかと言うと…恋人である騎士の事であった。
世界中を旅する救世の騎士と呼ばれる青年。
何かと多忙な日々を送っているにも関わらず、彼は何時も自分に会いに来てくれた。(その時は必ずアザゼルに睨まれて
いるが)
そう…何時も騎士の方からである。
自分から騎士に会いに行ったのは数える程度…。
詰まり…ルシフェルは自分も騎士の元へ足を運ぼうと思っているのだが、どう言う風に会いに行けば良いか分からなかったー…。
(一体どうすれば良いのだろうか…)
内心呟き、静寂な空間で溜め息を吐く。
何処か項垂れている様にも見えるルシフェルの元に救世主とも言える人物が現れる。
「ルシフェルー!」
明るい声と共に室内に現れたのは、赤い髪が特徴的な女性の堕天使ーミュリンだった。
「ミュリンか…」
彼女の声に現実へと引き戻されたルシフェルは振り向く。
そして、ふと彼の中で考えが浮かぶ。
(…気は進まんが此処はミュリンに何か聞いてみるかーー)
何時も女性の魔族を追い掛け回しては騒ぎを起こす彼女だが、他に相談相手も居ないと自分の中で納得し、口を開く。
「ミュリン。一つお前に聞きたいのだが…」
「え?何々?あ…もしかしてー…」
「騎士さん絡み?」と付け加え、何時も目の当たりにしている獲物を狙う様な目付きで脂下がると言った。
図星を突かれ、一瞬言葉を詰まらせ羞恥すら感じたが事実の為頷く。
何処か照れている様にも見えるルシフェルの姿にミュリンは何時もの明るい声で言う。
「やっぱり~。ルシフェル、騎士さんと上手くやってるんだね?」
「…ああ」
至極楽しげな彼女の口調にカッと頬に熱が集まるのを感じながらも頷いた。
実は、ミュリンは騎士と自分の関係を知っている数少ない人物。
隠し通していたのだが、ミュリンには直ぐにバレ、質問攻めにはあったが祝福してくれた。
「それで?アタシに聞きたい事って?」
「騎士さんを悩殺するテクなら今スグ教えてあげるわよ~?」と、付け加え両手をわきわきさせながら尋ねる。
相変わらずな彼女に半ば呆れながらルシフェルは重い唇を開く。
「実はだなー…」
・
・
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「ふんふん。成る程ね~自分から会いに行きたいけど、どうやって会いに行けばイイか分からないと…」
彼の話を頷きながら親身になって聞くミュリンは分かり易く纏め確認の為に再度尋ねる。
「そうだ…」
ミュリンの問いにその通りだと頷く。
彼女は「う~ん」と、考え込んだ後閃いた様に口を開く。
「会いに行けないなら、会いに行く口実を作ればイイんじゃない?」
「例えば、えっと…手作りのお弁当を持って行くとかさ」と、付け加えミュリンは名案とばかりにルシフェルを見る。
彼女の視線にルシフェルは顎に手を添え、考える仕草をする。
(弁当…つまりは手料理、か…)
日頃の騎士の多忙さを考えると、もしかしたらゆっくり食事を摂れない事があるかもしれない。
そう考えたら名案だと思い、ルシフェルは相談に乗ってくれた彼女に感謝の意を伝える。
「ミュリン。助かった…それがあれば騎士の元へ行けそうだ」
「どういたしまして。それじゃ頑張ってね~♪」
直ぐ様踵を返し、書庫を去るルシフェルの細い背中を見送り声援を送る。
ルシフェルが去った後、ミュリンはポツリと呟いた。
「口実何かなくたって騎士さんならルシフェルが会いに来てくれただけで喜ぶと思うけどね」
ミュリンの案の元、ルシフェルは厨房に立ち唯一人の人物を思いながら料理をしていた。
(騎士は、私の手料理で喜んでくれるだろうか…)
普段の毅然とした堕天使長である彼とは思えない不安げな呟きであった。
それには訳があった。
騎士は普段から様々な場所を旅し、自分の知らない者とも交流があり、中には料理の腕が良い者が居て、既に舌が肥えていないか。
自分の料理等喉を通るのか…。
嫌な妄想が広がるも、それを振り払い最後の仕上げをし、丁寧に布で包み騎士の元へと向かった。
一方、その頃…騎士はとある街に居た。
今夜泊まる宿に予約を入れた後、明日の準備に備え、街の市場に足を運んだ。
取り敢えずは旅に欠かせない必要不可欠な物を買い込み、後は適当に市場を見て回っていた。
その時、聞き覚えのある声に呼ばれる。
「ひょっとして、騎士じゃないか?」
特徴的な低めの声に騎士は振り向くと、そこには脳内で描いた通りの人物が立っていた。
白金の様にも見える金糸の髪、意志の強い深紅の瞳、赤色の衣服を身に纏った雷迅卿の異名を持つ青年。
「アルベール。久し振りだな」
まさか知り合いに会えるとは思っていなかった騎士は端整な顔に笑みを浮かべ、口を開く。
その時、何故か薄っすら頬を赤らめ、視線を逡巡させた後アルベールは返答した。
「あ、ああ。何時以来だろうか?」
「…?そうだなーーホワイトデー以来じゃないのか?」
様子の可笑しいアルベールに怪訝な表情を浮かべるも騎士は暫く考え込んだ後に言った。
「それ位会っていなかったか…」
「互いに忙しいからな。それより、アルベールは何でこの街に?」
染々と呟く彼に返答した後、騎士は気になっていた事を尋ねる。
「今日、団員達とこの街に遠征に来たんだ」
「今は全員自由行動中だ」と、付け加え騎士の問いに答える。
彼の言葉に騎士は「成程…」と、納得した様に頷いた。
アルベールはふと、騎士に視線を向け内心呟く。
(ひょっとして…これはチャンスじゃないかーー)
実は、アルベールは密かに騎士に好意を抱いていた。
どんな相手も無条件で受け入れる寛大な心を持ち、誰よりも信頼出来る彼に惹かれたのだーー。
この機会を逃したら、何時何処で会えるか分からない。
アルベールは意を決して、騎士の切れ長の琥珀の双眼を見据え、形の良い唇を開く。
「き、騎士…お前さえ良ければ何だが…その、俺と市場を見て回らないか?」
(よしっ!言ったぞ!)
他の者が聞いたら何とも色気のない誘い方だと思うかもしれないが…自分としては精一杯頑張った方である。
そんなアルベールの色気のない誘いに騎士はぱちくりと琥珀の双眼を瞬きさせた後、口を開いた。
「勿論。構わない。俺も一人じゃ退屈してたから」
「アルベールと回れるなら嬉しいよ」と、付け加える。
快く賛同してくれた彼にアルベールは嬉しさのあまりにやけてしまいそうになったのを何とか耐え、端整な顔に微笑みを浮かべた。
「ありがとう騎士。なら、最初は何処を回ろうか?」
「俺はアルベールが見たい場所で構わないよ」
必要な物は揃ってしまった為、騎士は彼が興味のある場所にしようと思い言った。
意外な提案にアルベールは驚いたものの…折角なので此処は彼の優しさに甘えようと考えた。
「ほ、本当に俺が選んでも良いのか?」
控え目な言葉と視線に騎士は微笑すると頷く。
「勿論。それで?何処に行きたい?」
そう尋ねると、アルベールは向こうを指差し、何処か嬉々とした様子で言った。
「向こうの店に様々な酒が売られていたんだ」
彼の言葉に騎士はそう言えば晩酌が好きだったなと思い出す。
もしかしたら、晩酌用の酒を吟味したいのかもしれないと思った。
「分かった。じゃ、行こうか」
「ああ!」
力強く頷くと、二人は肩を並べて酒が売られている市場へ向かった。
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