主人公:女性。高校生。友一のクラスメイトという設定。
クラスメイトはお友達!?
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私は片切友一君のほうをチラチラと見ながら机の中に隠すようにしてこっそりと持っている本をしっかりと握っていた。
困ったな……。
昨日のことがあってから、放課後に図書室で本を返してきて代わりの本を借りてきたんだけれど、私の推しの友一君は。
ちっともひとりにならないんだよーっ!!
休みの時間も友達と一緒にいるし、移動の時も友達と一緒にいるし、はてはトイレに行く時でさえ友達と一緒にいるし。
なんでどうして友一君はみんなに囲まれてるの、ボディガードか何かなの、これじゃ声がかけられないじゃんっ!
気にせずに渡しに行くとかムリ、同い年とはいえあんな輝く人達の中に入っていくなんて絶対にできない、キラキラオーラが芸能人ばりなんだもん。
待っても待ってもその時がやって来なくて今の今になってもまだタイミングがつかめなくて友一君の言動をストーカーのように窺うこの有様ですよ……。
お願い、友一君、ひとりになってぇ!
すると天に願いが通じたのか、とうとうターゲットが席を立って友達に何かを言って軽く手を振って、ひとりでゆっくりと教室を出て行った。
チャーンス、到来!!
ついに来たか、この時が!
今だよ、逃がすもんか、絶対にっ。
思わず隠していた本を手にして立ち上がり、友達の声に適当に『トイレ!』と返して、友一君の後を追った。
そして気が付いた。
ずっと友達と一緒に行動していた友一君が友達に断ってまでひとりで行きたいところってどこだろう……?
もしかして見られちゃいけないようなことでもあるんだったりして。
だけど、そんなことに思いが至っても遅く、私は彼に追いついてしまった。
教室を出たすぐの窓のところでもたれるようにして首をひねって窓の外の空を眺めていた友一君に。
まるで誰かを待っているみたいに。
「……友一……君……?」
私がおそるおそる声をかけると、その時に初めて気が付いたという様子で私のほうを向いた友一君はうなずくように小首を傾げて目を細めてにっこりとした人懐っこい笑みを浮かべて、嬉しそうに言った。
「お、結野愛さん……じゃなかった、ええと、愛」
頬を指でかきつつ少し恥ずかしそうに照れ笑いしながら私の名を呼ぶ。
ああ、友一君はこの間のこと、覚えててくれたんだぁ……。
私が名前で呼んで欲しいって言ったから。
「どうした?」
推しに名前で呼ばれて真っ赤にならない女の子などいるであろうか。
「え、あっ、別にっ? 大丈夫、大丈夫。なんでもない!」
友一君がきょとんとする。
「『なんでもない』って……何か俺に用があるんじゃないのか?」
それは、後を追って飛び出してきたんだから、そう思うのもわかる。
っていうか……。
ここで私はハッとした。
友一君がわざわざひとりで教室の外に出た理由……。
もしかしてこれって思い切りバレちゃってたってやつかなぁ?
「あ、あはははは、あった! あったよ、用が! つい忘れちゃってて!」
何やら困惑した様子で私のやけっぱちな明るさに戸惑っている様子。
「それで、愛、俺に用って……?」
「あー、ほら、昨日。代わりの本を借りて来るって言ってたじゃん。あれなんだけど、友一君はこういうのダメかな? 一応選んできたんだけど」
私は後ろに隠していた本をさっと前に出す。
友一君の顔がパッと輝いた。
「マジか!? いやぁ~、困ってたんだよ、課題どうしようかって。この本は読みやすい?」
「うん、読みやすいと思う。その中の『注文の多い料理店』だけ読めばいいんじゃないかな。その話だけでも1冊の本として出てるんだし。図書室にはそれしかなかったけど……」
「本当に助かる、ありがと、愛!」
友一君が嬉しそうに頬を緩めてこどものような笑顔で私を見つめて来る。
「あの、次の週の分はその本の中の外の小説を読んでもいいと思うし、なんなら太宰治とかも読みやすいのあるから、私また探してきてもいいし。読む時間なくて大変でしょ?」
友一君は少し気まずそうに笑った。
「実はコツを教えてもらってさ。読んでなくても読んだように見せかけるコツってやつ。でも、愛のこの気持ちは嬉しいよ、悪いな、わざわざ俺のために」
途端に私は少し面白くなくなった。
「まぁ……先生には読んだことがわかればいいんだから……そんな気にしなくても……」
わけもわからずに気落ちする私の手から本を受け取り、友一君はらしくもなく隈のあるその疲労の色濃い顔で笑った。
「愛にさ、お礼がしたくて、昨日も迷惑かけちゃったしさ。ごめんな、俺はあんまりお金なくて、そんなに豪華な物はおごれないんだけど。これから一緒に自動販売機に行きたいんだけどついてきてくれるか?」
少し身を屈めて両手を合わせて拝むようにして片目を閉じている友一君。
もうーっ、なんなのこの推しーっ、尊すぎるんですけどーっ!!
こっちが拝みたいよ、膝もつくよ、全面降伏ですよ。
「はい、あ、うん……いいよ」
そして自動販売機で友一君は私にジュースをおごってくれた。
私の好きな甘いいちごみるく。
冷たくて美味しい。
「私、変わってるってみんなから言われて、こういうことってあんまりないから夢みたーい!」
「愛は変わってるって言われてるのか」
「なんかちょっと距離の詰め方がおかしいとか空気が読めないとか好きなことにのめり込み過ぎとかそういうことを言われてるから」
本ばっかり読んでいる暗い私。
友達は一応いるけれど。
ひとりぼっち。
「友達らしい名前呼びとか、なんだか嬉しいな、ありがとう」
お礼を言いたいのに、なんだか気恥ずかしくて、そっぽを向いてしまう。
それでも横目でついつい友一君の反応を見ながら訊ねる。
ジュースに夢中な振りでさりげなく。
「これからも友一君は愛って呼んでくれる?」
友一君は見たこともないような疲れた笑顔で仕方がないとでもいうように私のを見上げて上目遣いに見つめてそして視線を落としてため息と共に言った。
「俺にとって、全部含めて、愛は愛だよ」
ニヒルな笑みと共に吐き出された言葉。
たった一言だけど、私を私と認めてくれているんだとわかって、この変わっていると言われる私ごと受け止めてくれているんだと、そして友一君にはそれはその程度のことなんだとわかって、なんだかゾクッとすると同時に、たまらなく彼に惹かれてしまった。
「……ごちそうさまです……」
え、やだよ、推しでいて。
ただの推しでいいよ。
近付きたくない。
「うん、ありがとう、よろしくな」
太陽、眩しすぎるよ、私と彼を照らし出さないで。
(おしまい)
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