主人公:女性。高校生。友一のクラスメイトという設定。
クラスメイトはお友達!?
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昼食を食べ終わって、一緒にお弁当を食べていた友達と離れて(さてこれから何をしようかな)と迷っていたところにひとりの男の子がやってきて、私はすごくビックリした。
だって、その男の子っていうのが、片切友一君だったから。
クラスメイトである私の机まで来るのは別に不自然じゃないっていうか当然なような気もするんだけれど。
それでも私は驚いてしまった。
だって、あの、片切友一君だよ!?
彼はいつも自分の机にいるけれど。
その周りには……。
クラスの委員長で運動神経が良くてお金持ちなことで有名なちょっとチャラい感じだけれどカッコイイ四部誠君。
成績学年トップの天才でいつもみんなに頼りにされているちょっと大人びた感じのこれまたカッコイイ美笠天智君。
クラスの副委員長で性格は真っ直ぐで正義感が強くてしっかりしていて外見は背が高くてすらっとしていて顔はキリッとした美人の沢良宜志法さん。
派手でクラスで目立つようなところはないけれど控え目で物静かで優しそうでおっとりとした感じの背が低めで全体的に可愛いという心木ゆとりさん。
そんな4人にいつも囲まれている友一君がいったい私になんの用!?
私なんて陽キャってわけでもないし、変わったところもないし、面白くもないし、成績も普通だし、なんの取り柄もないってわけじゃないけれど、他人の興味を引く要素はゼロなわけで、華やかな彼のお友達に比べたら必要とされる理由がない。
本当にいったい私になんの用なんだろう?
まぁ、友一君自身は、地味で目立たなくて、成績優秀っていう話も聞かないし運動神経抜群っていう話も聞かないし、いつも黒いボサボサ頭をして休み時間は友達に囲まれてはいるけれど間から机に伏せって寝ている姿ばかり見えるだけっていう、なんであの4人と友達なのかわからないぐらいなんだけれど。
ただ、たまに友達と話している時に見せる笑顔が本当に嬉しそうで楽しそうでその上とても優しくて、友達のことが大好きなんだなぁって思えて気持ちが和むから、友一君がそうしているとつい目で追ってしまうんだよね。
彼の笑顔が好きです。
恥ずかしそうだったり照れ臭そうだったり温かかったり柔らかかったりで。
そういうわけで、いわば私の『推し』的存在であり、私にとって片切友一君は心の中で『片切君』じゃあなくて『友一君』なんだ。
推しが目の前にいる、大ピンチ、まさかこっそり見ているのを気付かれて何か文句を言われるとかじゃあないの!?
内心でドキドキしながら表面上は冷静を装って友一君が話し出すのを待つ。
しばらく気まずそうな様子で俯いてもじもじとしていた彼は下ろしていた手をゆっくりと持ち上げてそれと同時に顔を上げて私の顔を迷子になって途方に暮れているこどものように訴えるような目でじっと見つめて口を開いた。
「あの……さ、結野愛さんって、図書委員だよな?」
友一君の手には一冊の文庫本があった。
「あ、うん、そうだけど?」
友一君はホッとした様子で小さく息を吐いて口元を緩めて少し目を細めた。
「もしかして……この後図書室に行ったりする?」
私が見つめ返すと、頬をわずかに赤くして、友一君がさっと目を逸らした。
「借りてた本を返したいんだけどさ、俺、この後宿題を忘れてきたからやらなくちゃいけなくて。それで、悪いんだけど、行くならこれも一緒に返してきてくれないか? 突然こんなこと頼んでごめん!」
「あ、待って待って、片切君!」
早く話を済ませようというように早口で言っていきなりバッと頭を下げようとする友一君に私は焦って手で制した。
「やっぱりダメか……?」
まるで泣き出すんじゃないかと思うほど、叱られたように眉を八の字に下げて目を細くして口をきゅっと引き結んでしょんぼりと肩を落として心細そうな様子の友一君に、私はますます慌てて首を横に振った。
「あのね、そうじゃなくて、そうじゃないんだけど。でも返すのは放課後だって別にいいんだよ? 返却日が今日とかなんだよね? それとも過ぎてる?」
「あ、い、いやぁ、その、そういうわけじゃ……」
友一君が困惑顔を横に向けてポリポリと赤くなった頬をかく。
もしかして、あまり話したことはないからわからないけれど、さっきから私のことを見ようとしていないし、かなり純情なほうでその上に女性が苦手なのかな、それともただの恥ずかしがり屋さんなのかな。
推しの予想外の反応に(可愛い!)と思えて胸がぎゅーっと苦しくなる。
「俺……バイトがあるから早く帰らなくちゃいけないし。放課後は無理で。だから……」
「あっ!」
そうだった、友一君の家は確か貧乏なんだって、友達か誰かに聞いたんだ。
「そうなんだ。えっと、じゃあ、誰か友達に頼めばいいんじゃない? そのほうが私なんかよりずっと安心できると思うし!」
「?」
正面を向いた友一君が首を傾げてきょとんとする。
それはそうだ。
でも、私が友一君の借りた本を図書室に返しに持っていくというのも、誰かに知られたらからかわれそうで嫌だった。
『図書委員だから』と言い返せば済む話だけれど。
言い返せずに友一君と付き合っているとか噂されたら私の心臓が持たない。
「いや、俺は、結野愛さんのことなら信用できるよ。真面目に図書委員やってるだろ。天智もよく図書室に行くんだけど、君のこと、褒めてたよ。本の扱い方が丁寧だとかさ。本に詳しいとかも言ってたしな」
「ああ、うん、天智君かぁ……」
美笠天智君は結構図書室によく来るからクラスメイトっていうだけじゃなくて少しは知っている。
彼は普段は学校の課題に関係のある本を借りたりしているけれど、そうでない時に借りていくのは法律関係の本だったりする、本の貸し出しカウンター越しに会話をしたこともちょっとはある。
話す内容はほとんど本のことだけれど、最近では授業中の出来事や好きな物のことや最近学校の近くに新しくできたお店のことなんかも話題にしている、そのどれも美笠君は話が上手い上に合わせてくれてこちらが返答に困るようなこともなくて助かっている。
「天智達が俺に勉強を教えるって言ってくれてるんだ。宿題だけじゃなくて、俺、いろいろと遅れてるからさ。バイトで忙しくて予習復習もできてなくて。それでこれから昼休み使ってみんなで勉強しようって」
友一君は困惑顔で目を伏せた。
「……俺のためにって友達がさ……」
言いにくそうにもごもごと言って、どうしてもそうなってしまうというように口元を緩めて嬉しそうに笑みの形にして、本当に申し訳なさそうに言う。
「結野愛さんにはすまないけど……」
私は友一君に聞こえないようにそっと小さくため息を吐いた。
友達と約束していて待たせているから早口だったんだ。
もっと話したいけれどそれならしょうがない。
降参だ。
推しのこんな可愛い姿を見ていたらこれ以上は私も我慢できないし。
「いいよ。わかった。私が責任持ってちゃんと返してくるから。どうせこれから行こうと思ってたとこだし。本を……あれ?」
ちなみに行こうと思っていたのは嘘も方便の嘘である。
「ありがとな!」
一転晴れ晴れとした笑顔に変わった友一君に差し出された本の表紙を見て私はまたビックリした。
樋口一葉の『たけくらべ』……。
失礼だけれど、友一君が読むような本とは思えない、イメージに合わない気がする、それにバイトで忙しいんじゃなかったっけ、読書するような暇があるのかな。
「現国の授業でさ、1週間に1冊文豪の本を読んでくることっていう課題が出ただろ、あれで俺……読む時間がないもんで短い小説にしようと思ったんだ。だけど難しくて読めなかったから、もう返却しようと思ってさ、マズいから。借りっぱなしっていうのもなんだかな。家には小説なんかないし、図書館なんて行ってる暇ないし、図書室を使わせてもらうしかないんだけど。なんとなくだけど悪い気がするよな……」
『読む気もないのにな』と友一君がハハハと困ったように笑う。
私はその課題、困るようなところはなくて、ごく当たり前のように思っていたからわからなかったけれど、友一君みたいに日常で苦労している人には小説を読む時間があるなら働きたいのにとか、いろいろと不都合があったりするんだろうな、目の前で無理に明るく振る舞う友一君の姿に心がズキンッと痛む。
「お願いできるんなら、これ、頼むな」
優しい穏やかな笑みを見せて両手を合わせて拝むようにする友一君。
「あっ……、でも、別の本を探さなくちゃいけないんじゃない!?」
しまった、つい思わず気になって私の机の上に本を置いて立ち去りかけた彼を引き留めてしまった、そんなことしたらいけないのに。
「そうだけど……?」
振り向いて不思議そうな顔をする友一君に対して思い切って勇気を振り絞って私は身を乗り出して言った。
「それならさ、宮沢賢治とかどう? 読みやすいし、短いし、少しの時間で読み終わると思うから! これ返して代わりに何か1冊借りてくるからっ!」
これは勢いで押せ押せとばかりにまくし立てると、友一君が目ん玉を丸くして私を凝視した後に、ぎこちなくうなずく。
「うん……わかった。じゃあまたあとでな。結野愛さん」
「あ、それ、言いたかったんだけど……」
「何か?」
素っ気ない感じ。
なんとなくもどかしくて、友一君が距離を感じてわざと壁を作っている理由が貧乏だからとかそんなつまらない理由ならと、私だってそれはそう変わらないんだよね、根底にある理由は違っていても自ら殻を作っちゃうところはあるけれど、それを私は破りたいんだ、もっと近付きたいんだよ。
スゥッと息を吸って、吐いて、また少し吸ってから思い切って声に出した。
「私のことは、『愛』って、呼んでほしいな!」
友一君はその場に固まってパチパチと瞬きした後にゆっくりとうなずいた。
「あ、ああ……ごめん、愛さん……でいいかな?」
「愛でいいよ!」
「わかったよ……愛だな」
照れ臭そうにはにかんだ笑みを浮かべる友一君に向けて精一杯の笑顔を向ける。
「それならまた読みやすい本を探してきて教えるねっv」
一瞬だけれども、友一君がポッと頬を赤くして、私の顔をじっと見つめた。
そして次に眩しそうに目を細めて、穏やかで優しい、笑顔を見せた。
いつもの友達に向ける目に、それはすごくよく似ていた。
「愛! よろしく! また後でな!」
(おしまい)
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