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『トモダチゲーム』二次創作(小説)






 片切友一はチラと後ろを振り返り、変わらずにそこにあるにんまりとした笑みに、うんざりとした様子でため息を吐く。
「……いつまでついてくるんだよ」
 不機嫌そうなそれにもお構いなしといったようで笑顔を崩さず、友一の後ろをついて歩く紫宮京はむしろ訊ねられたことに嬉しそうに返す。
「いいじゃないですか。どこまでだって。僕、邪魔はしてませんよね、勝手に後ろを歩いてるだけなんですから」
 友一は渋い顔をした。
「それが迷惑だっていうんだよ」
 忌々し気に吐き捨てて足を速める。
「どうしてです? まさか目障りだなんて言いませんよね? 僕は後ろにいるんですから!」
 当然のように小走りで京が後を追いながら、最初は馬鹿にしたように、最後は責めるような口調で言い、それまで見向きもしなかった友一に憤りを見せて、すねたように口を尖らせる。
「僕がついてくるのが気に入らないならもっと早くに言えばいいのに。もしかして無視することで僕が諦めたらいいとか思ってたんですか? 卑怯だなぁ」
 困ったように眉を下げながら、京は口元を緩めて『はーっ、やれやれ』と呆れたように言い、ついでわざとらしく大きなため息を吐いて首を横に振る。
「友一先輩って意外と普段は女の子に優しそうですね。そういうところが好かれるんだろうな。優柔不断で女の子に勘違いさせて、それを放っておくとか、平気でしそうですもんね」
 友一が振り向きニタァッと笑う。
「へえ。そういうのわかんのか。天才さんは。それこそ意外だな。人間の心理なんてお前は興味ないのかと思ってた」
 足を止めた京は気に入らないというように片方の眉をはね上げて友一を窺う。
「……どういう意味?」
 眉をひそめて不審そうに問う京に、同様に止まった友一は『ああ、悪い』と軽く片手を挙げて、なだめるように言う。
「友達に天才と呼ばれる奴がいてさ。そいつは俺なんか及びもつかない賢い奴だよ。そいつがまぁ、場の空気を読んだフォローなんかは得意なんだけど、あんまり人間の感情がわからない……とくに、下にいる奴の気持ちなんかはな。いや、わかろうともしない、気付きもしないんだ。嫉妬や何かや、お前が言ったようなことには、鈍感なんだ。紫宮も天才だろう?」
 『だからさ』と切り上げて、友一はさっさと前を向くが、足は止めたままだ。
「お綺麗な奴だよ。泥を身に纏っても。もともとが恵まれた奴だからな」
 京は面白くなさそうに『へーえ』と言って、くるりと友一の前に回り込む。
「仰る通り僕はたいていの人間には興味ありませんけど。だいたい似たり寄ったりの馬鹿だしね。ただ、友一先輩、貴方には興味ありますよ」
 友一はむすっとして返す。
「ありがたくないな」
 そんな友一の顔を下から覗き込んで、京は『ふふん』と悪戯っぽく笑い、いかにも誇らし気に自分の胸に手を置いて得意げに言った。
「天智君でしょ? 僕のほうが上だと思いますけど。一緒にされたくないなぁ。でもまぁ、ほら、これから知る機会もあるだろうし、ここは許してあげますよ、友一先輩にも僕のことをちゃんと知ってほしいですしね! とりあえず知りたいことが知れれば今は放してあげてもいいかなぁ……」
 試すような言葉と舐めるような視線での京の挑発に友一は乗ることなく京の横をすり抜けた。
「あれっ?」
 無言でスタスタと歩き出す友一に慌てた様子で京は後を追いかけて走り出す。
「待ってくださいよ! 知りたくないんですかっ? 僕がなんでわかったか!?」
 両手をポケットに突っ込んで肩を大きく動かして大股で歩きながら友一は冷たい声で返す。
「ああ。あの『千聖先輩』だろう。それと不動さんのことか」
 なんとか追いついた京が、友一の服の袖をつかまえ、腕に腕を絡ませて息を弾ませながらにこっとする。
「そうそう、女性に対しての友一先輩の表の顔、千聖先輩に似ていましたから」
 馴れ馴れしく腕を組み隣を歩く、そうすることに少しの躊躇いも恥じらいもない京に、同様を隠し切れないという困惑顔で京を見て友一は不満げに言う。
「『表の顔』とか言うな」
 京が目を丸くして首を傾げる。
「んー、意外ですね、僕はてっきり友一先輩は裏の顔を認めているのかと」
 友一は憮然として、少し黙り込み、それから苦い口調で吐き捨てた。
「表とか裏とかそんな単純なものじゃない」
「ふうん?」
 わかっていない様子の京に『はぁ』とため息を吐いて頭が痛むというように額を押さえて言葉を出す。
「いいか。フリをするフリってことがある。大胆なフリをする本当は臆病なフリをして本当には大胆だとかな。見た目で判断できないだろ。本人にだってわからないこともあるんだぞ」
 京はうんざりといった様子の呆れ顔で友一の腕にぽすっと頭をぶつける。
「あーあ。もういいよ。人間は複雑ってやつですか。はいはい。僕は『友一先輩に興味がある』って言ってるのにぃ」
 友一も同様に呆れ顔をした。
「俺はそんなに面白くないぞ。構ってほしいなら別の人間にしろよ。ほら、あの、『万里兄ちゃん』とか」
 今度は気にした様子もなく京は新たに思いついたことに目をキラキラと輝かせて言う。
「ねぇ、友一先輩。僕の弱みを教えてくださいよ。僕にあるならですけど」
 友一は大きく口を開けて『はぁ?』と間の抜けた声を出した。
「あったらわかるんでしょ? 他人の弱みを見抜いて突くとか、そういうの得意だもんね、友一先輩? ねぇ、教えてくださいよぉ、僕の弱み!」
 まるで小さなこどもが理科の実験をするようにドキドキワクワクといった様子ではずんだ声で訊ねる京に友一が失笑した。
「お前の弱みねぇ……」
 含みのある言い方をして不気味な暗い笑みを浮かべる友一に、若干怯んだ様子の京はおそるおそる、じっと警戒するように友一を見る。
「……なんです?」
 その視線の先で友一が暗い洞のような瞳のままにっこりと笑みを深くする。
「そんなことは言えないな」
 あっさりと言われて京が憤然とする。
「それって、どういうことなんですか、ちょっとぉ!」
 それを見て、『はっはっは』と空々しい笑いながら、友一はニマニマとする。


 内心でこう呟きながら。



 ……もったいなくて。

 いざという時に相手の弱みを握っておくと利用できる。

 ……そして他人の弱みがわかるということはつまり自分の弱みでもあるから。

 それが弱みだということがわかることを教えたくない。

 ……そんなことは危なくて言えやしない。

 自分には大事なものは少ないが弱みならたくさんある。



 ムキになって聞き出そうとする京をあしらいながら友一は笑っていた。





(おしまい)
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