『トモダチゲーム』二次創作(小説)
たぶん俺は味わいたかったのかもしれない。
休み時間、集まるみんなに『バイトで昨日あまり眠れてなくてさ、悪いな』と笑顔で手を合わせて謝罪して、机に伏せて目を閉じて軽く眠ることにした。
寝るといったってどうせ5分程度の間うとうとするだけだ。
少し離れたところから、四部や沢良宜や天智や心木、友達4人の騒ぐ声がする。
ごく普通の話題ではしゃいでいるその4人のにぎやかで楽しそうな平凡な毎日の様子にほんの少し安堵して息を吐く。
何度も壊れていく関係を見てきた。
俺の人生最大の過ち……、いや、過ぎ去ったのかどうだろうか。
故意にしろ、過失にしろ、ああ……俺自身が許せるかどうかだ。
声を漏らさずにほんの少しだけククッと口の両端を持ち上げて笑う。
わからないんだ。
俺が見たものは本当に愛だったのか?
俺が見たものは本当に憎悪だったのか?
俺が目にしてきたものたちは何なんだろうか?
愛情、友情、それらすべて目に見えないものたち。
俺の目の前で簡単に変わっていくそれら『人間』の感情が。
本物なら……壊れないんじゃないか?
何度も、何度も、何度も、試しても試されても決して壊されない、そんな友情を築くことができたなら。
軽やかにはずむ足音が近づいてきて不意に頭上に影が差した。
「ゆーうーいちっ!」
「え、あ……」
名前を呼ばれて眠たそうにゆっくりと顔を上げると横に四部が立っていて俺を覗き込んでいた。
「もう5分経ったぜ! 友一も話に混ざれよな! つまんないじゃん!」
明るくそう言ってパチリとウィンクする、四部なりにひとりでいる自分に気を遣ってくれたつもりらしい言葉に、俺は身を起こしてうつむいて『あ……』と嬉しそうにはにかんだ笑みを見せる。
「そっか。……そうだよな。悪い。ありがと。……そうするよ」
四部を見上げて微苦笑してそう言って静かに椅子を引いて立ち上がる。
「こら、四部ぇ! なに友一に無理させてんの! 昨日眠れてないって言ってたじゃない!」
仁王立ちで腕組みをしてプンプンと真っ直ぐに四部をにらみつけて怒って見せる沢良宜に何故か自分が叱られたように申し訳なさそうに失笑する。
「いやもうじゅうぶんに休めたしさ。心配いらないよ。それよりなんの話してたんだ?」
とぼけた顔をして、首を後ろをポリポリとかきながら、首を傾げて四部の後をついていく。
「ふふふっ」
友一のそんな様子が可笑しかったのか思わずといったふうに可愛らしく笑みをこぼして口元に拳を当てた心木が少し頬を赤くして友一を少し見上げるようにして言う。
「修学旅行……どこに行きたいかなって、今、みんなで話してたんだよ?」
天智が眼鏡をキラリと光らせ、うつむきがちで指でクイッと眼鏡を持ち上げて直しながら、眉根を寄せてあからさまにではないが不安そうな暗い声で、顔を見ずに労わるように問う。
「友一……お前は大丈夫なのか? 参加費のこととか……。今だってお前は苦労してるんだろ? それなのに……」
そしてそれまで晴れやかだったみんなの顔も一気に曇る。
「あ……」
「そっか……」
「そうだよな……」
そんな友達4人に俺は明るい満面の笑みを見せてきっぱりと言い切った。
「大丈夫! なんとかなるって!! 行こうぜ、みんなで、修学旅行っ!!」
絶対に行くという決意を込めた俺の言葉で、その瞬間に心配そうだったみんなの顔がパァッと明るくなり、俺も微笑んだ。
四部が遠慮なく抱き着いてきて『こいつぅ!』と俺の頭に拳を置いてグリグリと動かして大きな声で笑って、沢良宜が四部の行いに『やめなさいよ!』と言いながら何故か真っ赤になって頬を膨らませてうつむいていて、天智は柔らかく微笑して温かいまなざしで俺を見つめてぽんぽんと軽く肩を叩いてきて、心木は胸のところに両の握り拳を当てて俺達のことをキラキラと輝く目で見つめていた。
それぞれに楽しみだと俺に励ましの声をかけたりして、俺もそれに応えて、俺達は約束した。
一緒に修学旅行に行こうって。
(終わり)