メモ帳
📝お題「ロリ槍弓&槍弓」
2019/04/17 00:48Fate/FGO
彼女を知ったのは突然だった。
「それじゃあ元気よく挨拶してみようか!」
「えっと…オレ、クー・ホリン、よろしく!」
私には関係ないと思って校庭を見つめていた時、その聞いているだけで宝石のようにキラキラと輝くようなとても美しい声に思わず教卓を向き、更に驚いた。
そこには可愛らしくおデコを出し、見ていた青空よりも青い髪は鮮やかで美しく、耳の裏辺りでツインテールにした美少女が笑って居たからだ。
余りにあからさまに驚いていたのだろう。
赤い虹彩と目線が合うと微笑まれて、初めて私は周りが楽しそうに騒いでいる事に気付いた。
だが彼女の美しさに囚われた私にとっては、そんな事は些細なことで。
見た目の美しさも然ることながら私、衛宮士貴(シキ)は同性である筈の彼女の眩しい笑顔に一目惚れしてしまった。
だが一目惚れしたからと言って行動には出ない。
同性と言う事もあるが何より私は自分自身の感情と言う物の取り扱い方が、とにかく下手であった。
転校してから一週間ほどでクラスに馴染んで常に誰かと一緒の彼女と、誰かの手伝いをする事でしか誰かと接する事ができない私とでは雲泥の差であったのもあるだろう。
事実、私は雲泥の差だと思い、彼女との接点もなく想いを抱えて卒業するのだと思っていた。
だがそれもまた突然、崩された。
彼女の行動によって。
「お前、衛宮士貴って言うんだな!」
「え?う、うん…私に何か用事?ホリンさん」
「ランサーか呼び捨てで良いよ!それより、いつも誰かの手伝いしてるからブラウニーって呼ばれてるの知ってるか?」
「え…あ、まぁ、なんとなくは…」
「そっか、なら!オレだけのブラウニーになってよ!」
「……はい?」
お昼休みに突然、人の机に齧り付くように乗りかかり、訳の分からない事を真剣な表情で告げて来た彼女の言葉に思わず頷いてしまったと勘違いされたのをきっかけに、私の日常は一変した。
毎日大騒ぎの日々の始まりである。
まずホリンは次の日に登校して目線があった瞬間、「どうして先に帰ったの!?一緒に帰るつもりだったのにー!」と怒ってきて、その日から毎日一緒に帰る事になった。
お昼ご飯の時間さえもホリンが「一緒に食べよう!」と声をかけてくる上に頷くまで粘るので断り切れずに結局、毎日のように一緒に食べている。
正直に言うと、戸惑ったけれど夢心地だ。
ホリンと接点など無く卒業するのだとばかり思っていた私にとって幸せで堪らない。
彼女の一喜一憂に振り回される事ばかりだけれど彼女は私に様々な物を与えてくれる。
すると不器用な私でも彼女に少しでも幸せをお返ししたいと考えるようになっていた。
そんなある日のソレは何気ない一言だった。
「こう毎日焼きそばパンばっかりだと飽きるよなぁ」
「確かに栄養バランスが悪いから、弁当にしたらどう?」
「無理無理!オレ料理出来ないもん!あーでも兄貴のガサツな弁当ヤダよー……」
ホリンにはクー・フーリンと言う名前が同じ従兄弟にあたるお兄さんが居て、私も遊びに来いと言われて会った事がある。
一見、ガラが悪そうに見えて、とても気さくな大学生のお兄さんだと感じた。
しかしホリンにとっては目の上のたんこぶらしく、クーと名を呼ぶと複雑そうな表情を見せる。
どうやら同名なのが関係しているらしく、名前を呼ぶ時はホリン、もしくは愛称のランサーと呼ぶ事に自然となっていた。
些細な事だが彼女の気分を害する事は少しても避けたい程に私は惚れ込んでいたのだ。
話はズレたが、どうやらホリンの従兄弟のお兄さんは料理も男らしいようで渋い顔で私のお弁当に視線を寄越してくる。
これは食べかけな上にお兄ちゃんが作ってくれた物なので譲るのは躊躇われる。
だから手を弁当に突っ込もうとするのは止めて欲しい。
そこで攻防をしていて、ふっと過ぎった案に大胆すぎる、と冷静な自分の声が響いたが声に出さずには居られず、つい口を開いてしまった。
もしかしたら声も震えていたかもしれない。
「こら!……あ、いや、でも」
「良いじゃんかよー!……って衛宮?どうかした?」
「え?あの、ランサー、もし良かったら私が……作ってこようか?お弁当……」
「…………え?」
「あ、ごめん!迷惑だったな!」
提案した言葉が意外だったのか、焼きそばパンは彼女の手を離れて机に落下している。
やってしまった。
しかし当然だろう。
これまで私は彼女に対して自分からは何もせず、考えていても行動にも移さなかった。
だが、その落ち込んだ気持ちが出ていたせいか優しいホリンは慌てて手を振って訂正して来る姿に少し緊張が取れる。
「違っ!全くの誤解だ!アーチャー!」
「え?」
「凄く食べてみたいよ!アーチャーの作ったお弁当!」
「そ、そうか?」
「アーチャーが良いなら是非、作って!」
「なら腕によりをかけて作るね……!」
「っ!……ソノエガオハ、ハンソク…」
「え?ランサー?どうかした?」
「ううん!楽しみにしてる!」
「うん!」
気を使う事をしない彼女の素直な笑顔と言葉にホッとしている私の両手を彼女は包み込むようにして大切な宝物のように両手で握ってくれた。
その彼女の様子に勇気を出して良かったと深くにも目が潤んだが、それはまだ速すぎる。
何故なら私には問題があるからだ。
それは私が中学生となる今まで、まともに料理をして来なかったと言う事だ。
故に頼るしかない。
厳しくも優しく超の付くお節介な初代ブラウニーの衛宮士郎こと、お兄ちゃんに。
あぁ、きっと第一声は嫌味だろう。
「弁当?卵焼きもまともに作った事が無い、お前がか?しかも他人に弁当を作るなど…まともに1品くらい作れるようになってからにしろ」
ほら、やはり嫌味である。
「アレは小学生の頃の話だろう!?」
「しかしアレ以来、切嗣に笑われてトラウマとなり作らなくなったろ?」
そうなのだ。
仕事で多忙な養父の切嗣に当時は得意だった卵焼きを作った事があるのだが緊張からか、失敗して焦げてしまった事があった。
慌てて捨てようとしたが見つかり、勿体ないよ、美味しいよ、と笑って焦げた卵焼きを食べる切嗣に私は辛くなって泣いてしまい、兄と切嗣に宥められる羽目になった事がある。
それ以来、失敗したくないと言う思いと気を使われるのではないかと言う考えがトラウマとなり、キッチンには立っていなかったのだ。
「うぅ……教えて、下さい……」
「………………どうしても作りたいのか?」
「ランサーと……ホリンと約束したから!」
再度確認してくるお兄ちゃんに本気だと言う事を伝わるように真っ直ぐ見つめ返す。
彼女と約束したし、何より様々な形で色とりどりの世界を見せてくれた彼女に恩返しをしたかったのだ。
すると熱意が伝わったのかお兄ちゃんらしいひねくれた答えでOKしてくれた。
「ふむ……私は教えた事が無いから厳しいかもしれんぞ?それでも良いならキッチンで支度だ」
「っありがとう!お兄ちゃん!」
「ふ、せいぜい昔の二の舞になるなよ?」
「うっ!ならないったら!」
人の触れて欲しくない部分に茶々を入れてくるので背中にパンチを繰り出しながらも久しぶりに訪れたキッチンへと立った。
弁当の中身は至ってシンプルな、おにぎり、玉子焼き、ウインナー、野菜のお浸しと言う作りやすいメニューにしようと言うことになった。
最初はもっと良いものを作りたいと主張してみたが久しぶりに料理をするのだから、と嗜められて決まった。
ガッカリされないか心配だがお兄ちゃんに玉子焼きを綺麗に焼けば彩りも鮮やかになるだろうと言われ、納得する事が出来た。
「もっと力を抜きながら持て」
「え、えっと」
「ふむ…深呼吸でもしてみろ」
「うん!……ふぅ」
「手順は覚えてきているから後は火加減に気をつけろ」
「分かった!」
おにぎりの三角の練習や玉子焼きを美味しい状態で食べる為の火加減など単純ながらも細々とお兄ちゃんに指摘されて、メモを取ったり感覚で覚えるように練習を終えて夕飯時にはクタクタになっていた。
中々の量になった料理たちはお兄ちゃんが少しアレンジして夕飯にすると言うので洗濯物を畳んでいるとイリヤが降りてきていた。
「士貴~!なんだか今日は練習してたみたいだけど、ついに彼氏が出来たの?」
「え?違うよ、ちょっと……その、と、友達にお弁当を作りたくて……!」
「ふふ、本当に?顔真っ赤よ?まぁ、私は切嗣みたいに心が狭くないから挨拶しに来たら見定める位はしてあげる♪」
「だから友達だってば!」
イリヤに指摘されなくとも自覚する程に耳までポカポカするのを抑えきれない。
楽しそうに、しかし悪戯っ子のように笑い抱き着いて来る妹のイリヤの頭を撫でて、夕食の準備を手伝いに行くとセラの小言を流しているお兄ちゃんの横を通ってお兄ちゃんの美味しそうな料理を並べる。
そんな美味しそうな料理を見て、明日の朝の事を思う。
いくら練習したとはいえ結局はぶっつけ本番なので緊張する。
ただ明日の本番で告げるつもりの無い想いを込めても罰は当たらないだろうか……。
ーーーーー……
いつもより早めの時間にセットして置いた目覚まし時計を手繰り寄せて眠気まなこをこすって頬を軽く叩く。
「っよし!」
気合いの声も出して、出掛けられるように制服に着替えてから髪をまとめる。
いつも通りに髪も乱れたり邪魔にならないように結ぶ為だ。
イリヤがお揃いね!と嬉しそうに私の銀髪を梳いてくれるお陰で量の多い髪も手早く結ぶ事が出来る。
そして1階に降りるとキッチンには既に大学に行ける服装にエプロンを付けているお兄ちゃんが朝ご飯の準備の為に立っていた。
「ふん、寝坊の常習犯がよく起きれたな」
「煩いなぁ!今日は大事な日だから当然でしょ!…ってアレ?お弁当箱が5つ?イリヤ、お兄ちゃん、私、ランサー……1つ多いよ?」
「あぁ…それは私も昨日、連絡があって作る羽目になった」
「お兄ちゃんも友達に作るの?」
「友、か?…いや…しかし…この場合は腐れ縁……」
「お、お兄ちゃん?」
私の質問に対して珍しく言葉を濁してブツブツといつも以上の顰めっ面で何やら呟いているお兄ちゃんに困惑しながら触れない方が良かったらしい事を悟る。
どうやらお兄ちゃんにとって地雷だったらしい。
そんな固まってしまったお兄ちゃんの横に立ち、とりあえずいつも通りに味噌汁を注いで朝ご飯の準備をする。
この準備が終わったら、いよいよ本番だ。
「……」
「……」
「ふむ、まぁ、大丈夫だろう」
「ホント!?」
「ふっ、嘘を言ってどうする?ほら、温かい内に仕舞っておけ」
「うん!」
お兄ちゃんの最終チェックを終えて慎重に蓋をしてバンドで弁当を固定した後、気が済むまで布で包み直して忘れないように自分の弁当の上へと、これまた自分でも笑える位に慎重に鞄にしまい込んだ。
この弁当を渡すだけだと言うのに緊張してしまい、朝ご飯の味噌汁も味気なく、返事もそぞろで、お兄ちゃんに呆れられ、イリヤに弄られながら慌ただしく学校へと向かった。
もしかしたら入学式よりも緊張していたかもしれない。
ーーーーー……
「おはよー!アーチャー!」
「あ、ら、ランサー!…その…おはよう」
弁当を渡すだけだと言うのに想いを込めたせいかランサーを意識してしまい、いつも以上に素っ気なく挨拶してしまう。
すると私の緊張が分かるのか茶化してくる。
「ふふ、その様子は弁当の中身が失敗したのか?」
「な!?何故そうなるの!ふん、食べて度肝を抜かれても知らないんだから!」
「ほほう〜そんなに自信作なら今日のお昼は楽しみにしても良いみたいだな!」
私からすると眩しくて堪らない笑顔で本当に楽しみなのかスキップで下駄箱へと歩くランサーに緊張や不安が、綯交ぜになって血の気が引いてくる。
「アーチャー?おーい!遅刻するぞー!」
「あ、待って!」
そんな気分も少しランサーの声を聞くと癒されるから不思議だ。
先程までの負の感情が嘘のように軽くなってランサーの元へと駆け出した。
そしていよいよ勝負の時。
と言っても、ただのお昼なのだが私にとっては一大イベントだ。
「期待に添えていなくても返品は受け付けないからね!」
「う、うん」
つい強気なのかマイナス思考なのか分からない言葉を言い、ランサーを戸惑わせながら水色の弁当箱を押し付ける。
ランサーが弁当を開ける動きがスローモーションに感じながら、開けた瞬間の驚愕したランサーに身体が固くなる。
「ら、ランサー?」
「……」
「どうしたんだ?その……嫌いな物でも入ってただろうか?」
「凄い!」
「え?」
凄い!凄い!と連呼して、いつもの輝くような笑顔とはまた違った照れたような、そして何処か泣きそうな笑顔でランサーは弁当を見つめて、嬉しさを表現するかのように身体を揺らす。
「これアーチャーが作ったんだよな!オレの為に!」
「ちょっ!?変な言い方はやめて!?……ま、まぁ、間違ってはいない、けど……」
「なんだー!やっぱりオレ、愛されてるな〜♪」
「あ、あい!?だからそういう言い方はやめて、てば!!!」
頬を赤らめ、身体全身で無意識なのか嬉しさを表現しているランサーはクラス中から視線を向けられている事に気付いていないらしい。
ただでさえ目立つ彼女が大喜びしているのだから当然だろう。
もう耳が溶けるのではないか、と思う程に顔が熱くなるのを自覚しながらも内心は緊張から解放された。
挙句の果てにランサーが携帯で写真を撮り出した時は1周まわって呆れたので放っておける余裕が出た程だ。
後から他の友人たちからも褒められたり、茶化されたりしたがランサーが喜んでくれたので成功したと言えるかな?と思う。
「本当にありがとうな!凄く美味しかった!弁当はちゃんと洗って返すから」
「別に構わないのに…」
「弁当のお礼って訳じゃないけど、これ位させてよ!」
「ランサーの気が済むなら……」
「うん!ありがとうな、衛宮!」
「っ!!?」
外国の文化など分からないが、随分と機嫌の良いランサーに抱き締められたり、手を繋いだりと、いつも以上にスキンシップ攻撃?を浴びせられながらも緊張が解けたからか私も甘んじていた。
しかし、いつも朝の登校で合流し、帰り道で別れる十字路でランサーはキョロキョロと周りを確認したかと思うと私のおデコにキスをしてきた。
これには思わず頭が真っ白になった。
それからは、どう帰ってきたのかなど覚えていない。
不思議がるようなお兄ちゃんの声を聞いた気もするが私はキスの事で頭がいっぱいで気付けば、いつものベッドの布団にくるまっていた。
しかしそれでもキスの熱も顔の熱も引いてはくれなかった。
ーーーーー……
士貴が上の空で帰ってきた日の晩、風呂から上がり自室へ戻ると据え置き型の充電器に置いていた携帯が点滅していたので手に取ると"クーフーリン"と名前が出ており、返信をする為に開くと、いつも通りの内容が少し変わって書かれていた。
いつも愚痴とその日の日記のような内容なのだが、今日は妹の士貴や従姉妹のホリン君の事が書かれていた。
『急に悪かったな、美味かった!
つかテメェん所の嬢ちゃんにも世話んなったな。
お陰様で、うちのチビは大騒ぎしやがって晩飯に文句言うわ、繰り返し熱弁してくるわで、もうクタクタ。
弁当は両方洗ってあるからチビの方はチビで返すと思う。
俺も明日、弁当を返すからよ、また明日な!』
『満足したようで何よりだ。
従姉妹さんにも礼を伝えてくれ。
また明日。』
我ながら短い文で冷たい反応だ、とも思うのだが毎日のように繰り返していると私からすると、どのような反応が良いのかも分からなくなってくる。
そしてそんな味気ない返事をする私によく飽きもせずクーフーリンと言う男もメールを送ってくるものだ。
などと頭を悩ませていると携帯が震えてメールを知らせる。
返信など気にしないと言うのに返して来る辺りランサーは豆なのだから、やはりそういう所がモテるのだろうと珍しく奴に対して感心する。
そこには短いが彼らしい気遣いの言葉が映されており、思わず笑みが零れた。
『迷惑じゃねぇよ。
むしろ俺たちが掛けてる。
テメェん所の嬢ちゃんのお陰で久しぶりにアイツの笑った顔を見てる。』
「ふっ、私に気遣うとはらしくない事を」
本人が居ないからか思わず、返信してきた彼の様子を想像せずにはいられない。
自分にしては珍しく感情を露わに出来る数少ない相手なのだ。
自分なりに甘えている事を少しくらい許して貰いたい。
きっと中学生からの腐れ縁の彼は想像すらしていないだろう想いを胸にしまい込んで床に着く。
まさか次の日から週に1度、弁当を作る事になるから料理を教えて欲しいと妹から言われるとはひと欠片も想像していなかった。
END
「それじゃあ元気よく挨拶してみようか!」
「えっと…オレ、クー・ホリン、よろしく!」
私には関係ないと思って校庭を見つめていた時、その聞いているだけで宝石のようにキラキラと輝くようなとても美しい声に思わず教卓を向き、更に驚いた。
そこには可愛らしくおデコを出し、見ていた青空よりも青い髪は鮮やかで美しく、耳の裏辺りでツインテールにした美少女が笑って居たからだ。
余りにあからさまに驚いていたのだろう。
赤い虹彩と目線が合うと微笑まれて、初めて私は周りが楽しそうに騒いでいる事に気付いた。
だが彼女の美しさに囚われた私にとっては、そんな事は些細なことで。
見た目の美しさも然ることながら私、衛宮士貴(シキ)は同性である筈の彼女の眩しい笑顔に一目惚れしてしまった。
だが一目惚れしたからと言って行動には出ない。
同性と言う事もあるが何より私は自分自身の感情と言う物の取り扱い方が、とにかく下手であった。
転校してから一週間ほどでクラスに馴染んで常に誰かと一緒の彼女と、誰かの手伝いをする事でしか誰かと接する事ができない私とでは雲泥の差であったのもあるだろう。
事実、私は雲泥の差だと思い、彼女との接点もなく想いを抱えて卒業するのだと思っていた。
だがそれもまた突然、崩された。
彼女の行動によって。
「お前、衛宮士貴って言うんだな!」
「え?う、うん…私に何か用事?ホリンさん」
「ランサーか呼び捨てで良いよ!それより、いつも誰かの手伝いしてるからブラウニーって呼ばれてるの知ってるか?」
「え…あ、まぁ、なんとなくは…」
「そっか、なら!オレだけのブラウニーになってよ!」
「……はい?」
お昼休みに突然、人の机に齧り付くように乗りかかり、訳の分からない事を真剣な表情で告げて来た彼女の言葉に思わず頷いてしまったと勘違いされたのをきっかけに、私の日常は一変した。
毎日大騒ぎの日々の始まりである。
まずホリンは次の日に登校して目線があった瞬間、「どうして先に帰ったの!?一緒に帰るつもりだったのにー!」と怒ってきて、その日から毎日一緒に帰る事になった。
お昼ご飯の時間さえもホリンが「一緒に食べよう!」と声をかけてくる上に頷くまで粘るので断り切れずに結局、毎日のように一緒に食べている。
正直に言うと、戸惑ったけれど夢心地だ。
ホリンと接点など無く卒業するのだとばかり思っていた私にとって幸せで堪らない。
彼女の一喜一憂に振り回される事ばかりだけれど彼女は私に様々な物を与えてくれる。
すると不器用な私でも彼女に少しでも幸せをお返ししたいと考えるようになっていた。
そんなある日のソレは何気ない一言だった。
「こう毎日焼きそばパンばっかりだと飽きるよなぁ」
「確かに栄養バランスが悪いから、弁当にしたらどう?」
「無理無理!オレ料理出来ないもん!あーでも兄貴のガサツな弁当ヤダよー……」
ホリンにはクー・フーリンと言う名前が同じ従兄弟にあたるお兄さんが居て、私も遊びに来いと言われて会った事がある。
一見、ガラが悪そうに見えて、とても気さくな大学生のお兄さんだと感じた。
しかしホリンにとっては目の上のたんこぶらしく、クーと名を呼ぶと複雑そうな表情を見せる。
どうやら同名なのが関係しているらしく、名前を呼ぶ時はホリン、もしくは愛称のランサーと呼ぶ事に自然となっていた。
些細な事だが彼女の気分を害する事は少しても避けたい程に私は惚れ込んでいたのだ。
話はズレたが、どうやらホリンの従兄弟のお兄さんは料理も男らしいようで渋い顔で私のお弁当に視線を寄越してくる。
これは食べかけな上にお兄ちゃんが作ってくれた物なので譲るのは躊躇われる。
だから手を弁当に突っ込もうとするのは止めて欲しい。
そこで攻防をしていて、ふっと過ぎった案に大胆すぎる、と冷静な自分の声が響いたが声に出さずには居られず、つい口を開いてしまった。
もしかしたら声も震えていたかもしれない。
「こら!……あ、いや、でも」
「良いじゃんかよー!……って衛宮?どうかした?」
「え?あの、ランサー、もし良かったら私が……作ってこようか?お弁当……」
「…………え?」
「あ、ごめん!迷惑だったな!」
提案した言葉が意外だったのか、焼きそばパンは彼女の手を離れて机に落下している。
やってしまった。
しかし当然だろう。
これまで私は彼女に対して自分からは何もせず、考えていても行動にも移さなかった。
だが、その落ち込んだ気持ちが出ていたせいか優しいホリンは慌てて手を振って訂正して来る姿に少し緊張が取れる。
「違っ!全くの誤解だ!アーチャー!」
「え?」
「凄く食べてみたいよ!アーチャーの作ったお弁当!」
「そ、そうか?」
「アーチャーが良いなら是非、作って!」
「なら腕によりをかけて作るね……!」
「っ!……ソノエガオハ、ハンソク…」
「え?ランサー?どうかした?」
「ううん!楽しみにしてる!」
「うん!」
気を使う事をしない彼女の素直な笑顔と言葉にホッとしている私の両手を彼女は包み込むようにして大切な宝物のように両手で握ってくれた。
その彼女の様子に勇気を出して良かったと深くにも目が潤んだが、それはまだ速すぎる。
何故なら私には問題があるからだ。
それは私が中学生となる今まで、まともに料理をして来なかったと言う事だ。
故に頼るしかない。
厳しくも優しく超の付くお節介な初代ブラウニーの衛宮士郎こと、お兄ちゃんに。
あぁ、きっと第一声は嫌味だろう。
「弁当?卵焼きもまともに作った事が無い、お前がか?しかも他人に弁当を作るなど…まともに1品くらい作れるようになってからにしろ」
ほら、やはり嫌味である。
「アレは小学生の頃の話だろう!?」
「しかしアレ以来、切嗣に笑われてトラウマとなり作らなくなったろ?」
そうなのだ。
仕事で多忙な養父の切嗣に当時は得意だった卵焼きを作った事があるのだが緊張からか、失敗して焦げてしまった事があった。
慌てて捨てようとしたが見つかり、勿体ないよ、美味しいよ、と笑って焦げた卵焼きを食べる切嗣に私は辛くなって泣いてしまい、兄と切嗣に宥められる羽目になった事がある。
それ以来、失敗したくないと言う思いと気を使われるのではないかと言う考えがトラウマとなり、キッチンには立っていなかったのだ。
「うぅ……教えて、下さい……」
「………………どうしても作りたいのか?」
「ランサーと……ホリンと約束したから!」
再度確認してくるお兄ちゃんに本気だと言う事を伝わるように真っ直ぐ見つめ返す。
彼女と約束したし、何より様々な形で色とりどりの世界を見せてくれた彼女に恩返しをしたかったのだ。
すると熱意が伝わったのかお兄ちゃんらしいひねくれた答えでOKしてくれた。
「ふむ……私は教えた事が無いから厳しいかもしれんぞ?それでも良いならキッチンで支度だ」
「っありがとう!お兄ちゃん!」
「ふ、せいぜい昔の二の舞になるなよ?」
「うっ!ならないったら!」
人の触れて欲しくない部分に茶々を入れてくるので背中にパンチを繰り出しながらも久しぶりに訪れたキッチンへと立った。
弁当の中身は至ってシンプルな、おにぎり、玉子焼き、ウインナー、野菜のお浸しと言う作りやすいメニューにしようと言うことになった。
最初はもっと良いものを作りたいと主張してみたが久しぶりに料理をするのだから、と嗜められて決まった。
ガッカリされないか心配だがお兄ちゃんに玉子焼きを綺麗に焼けば彩りも鮮やかになるだろうと言われ、納得する事が出来た。
「もっと力を抜きながら持て」
「え、えっと」
「ふむ…深呼吸でもしてみろ」
「うん!……ふぅ」
「手順は覚えてきているから後は火加減に気をつけろ」
「分かった!」
おにぎりの三角の練習や玉子焼きを美味しい状態で食べる為の火加減など単純ながらも細々とお兄ちゃんに指摘されて、メモを取ったり感覚で覚えるように練習を終えて夕飯時にはクタクタになっていた。
中々の量になった料理たちはお兄ちゃんが少しアレンジして夕飯にすると言うので洗濯物を畳んでいるとイリヤが降りてきていた。
「士貴~!なんだか今日は練習してたみたいだけど、ついに彼氏が出来たの?」
「え?違うよ、ちょっと……その、と、友達にお弁当を作りたくて……!」
「ふふ、本当に?顔真っ赤よ?まぁ、私は切嗣みたいに心が狭くないから挨拶しに来たら見定める位はしてあげる♪」
「だから友達だってば!」
イリヤに指摘されなくとも自覚する程に耳までポカポカするのを抑えきれない。
楽しそうに、しかし悪戯っ子のように笑い抱き着いて来る妹のイリヤの頭を撫でて、夕食の準備を手伝いに行くとセラの小言を流しているお兄ちゃんの横を通ってお兄ちゃんの美味しそうな料理を並べる。
そんな美味しそうな料理を見て、明日の朝の事を思う。
いくら練習したとはいえ結局はぶっつけ本番なので緊張する。
ただ明日の本番で告げるつもりの無い想いを込めても罰は当たらないだろうか……。
ーーーーー……
いつもより早めの時間にセットして置いた目覚まし時計を手繰り寄せて眠気まなこをこすって頬を軽く叩く。
「っよし!」
気合いの声も出して、出掛けられるように制服に着替えてから髪をまとめる。
いつも通りに髪も乱れたり邪魔にならないように結ぶ為だ。
イリヤがお揃いね!と嬉しそうに私の銀髪を梳いてくれるお陰で量の多い髪も手早く結ぶ事が出来る。
そして1階に降りるとキッチンには既に大学に行ける服装にエプロンを付けているお兄ちゃんが朝ご飯の準備の為に立っていた。
「ふん、寝坊の常習犯がよく起きれたな」
「煩いなぁ!今日は大事な日だから当然でしょ!…ってアレ?お弁当箱が5つ?イリヤ、お兄ちゃん、私、ランサー……1つ多いよ?」
「あぁ…それは私も昨日、連絡があって作る羽目になった」
「お兄ちゃんも友達に作るの?」
「友、か?…いや…しかし…この場合は腐れ縁……」
「お、お兄ちゃん?」
私の質問に対して珍しく言葉を濁してブツブツといつも以上の顰めっ面で何やら呟いているお兄ちゃんに困惑しながら触れない方が良かったらしい事を悟る。
どうやらお兄ちゃんにとって地雷だったらしい。
そんな固まってしまったお兄ちゃんの横に立ち、とりあえずいつも通りに味噌汁を注いで朝ご飯の準備をする。
この準備が終わったら、いよいよ本番だ。
「……」
「……」
「ふむ、まぁ、大丈夫だろう」
「ホント!?」
「ふっ、嘘を言ってどうする?ほら、温かい内に仕舞っておけ」
「うん!」
お兄ちゃんの最終チェックを終えて慎重に蓋をしてバンドで弁当を固定した後、気が済むまで布で包み直して忘れないように自分の弁当の上へと、これまた自分でも笑える位に慎重に鞄にしまい込んだ。
この弁当を渡すだけだと言うのに緊張してしまい、朝ご飯の味噌汁も味気なく、返事もそぞろで、お兄ちゃんに呆れられ、イリヤに弄られながら慌ただしく学校へと向かった。
もしかしたら入学式よりも緊張していたかもしれない。
ーーーーー……
「おはよー!アーチャー!」
「あ、ら、ランサー!…その…おはよう」
弁当を渡すだけだと言うのに想いを込めたせいかランサーを意識してしまい、いつも以上に素っ気なく挨拶してしまう。
すると私の緊張が分かるのか茶化してくる。
「ふふ、その様子は弁当の中身が失敗したのか?」
「な!?何故そうなるの!ふん、食べて度肝を抜かれても知らないんだから!」
「ほほう〜そんなに自信作なら今日のお昼は楽しみにしても良いみたいだな!」
私からすると眩しくて堪らない笑顔で本当に楽しみなのかスキップで下駄箱へと歩くランサーに緊張や不安が、綯交ぜになって血の気が引いてくる。
「アーチャー?おーい!遅刻するぞー!」
「あ、待って!」
そんな気分も少しランサーの声を聞くと癒されるから不思議だ。
先程までの負の感情が嘘のように軽くなってランサーの元へと駆け出した。
そしていよいよ勝負の時。
と言っても、ただのお昼なのだが私にとっては一大イベントだ。
「期待に添えていなくても返品は受け付けないからね!」
「う、うん」
つい強気なのかマイナス思考なのか分からない言葉を言い、ランサーを戸惑わせながら水色の弁当箱を押し付ける。
ランサーが弁当を開ける動きがスローモーションに感じながら、開けた瞬間の驚愕したランサーに身体が固くなる。
「ら、ランサー?」
「……」
「どうしたんだ?その……嫌いな物でも入ってただろうか?」
「凄い!」
「え?」
凄い!凄い!と連呼して、いつもの輝くような笑顔とはまた違った照れたような、そして何処か泣きそうな笑顔でランサーは弁当を見つめて、嬉しさを表現するかのように身体を揺らす。
「これアーチャーが作ったんだよな!オレの為に!」
「ちょっ!?変な言い方はやめて!?……ま、まぁ、間違ってはいない、けど……」
「なんだー!やっぱりオレ、愛されてるな〜♪」
「あ、あい!?だからそういう言い方はやめて、てば!!!」
頬を赤らめ、身体全身で無意識なのか嬉しさを表現しているランサーはクラス中から視線を向けられている事に気付いていないらしい。
ただでさえ目立つ彼女が大喜びしているのだから当然だろう。
もう耳が溶けるのではないか、と思う程に顔が熱くなるのを自覚しながらも内心は緊張から解放された。
挙句の果てにランサーが携帯で写真を撮り出した時は1周まわって呆れたので放っておける余裕が出た程だ。
後から他の友人たちからも褒められたり、茶化されたりしたがランサーが喜んでくれたので成功したと言えるかな?と思う。
「本当にありがとうな!凄く美味しかった!弁当はちゃんと洗って返すから」
「別に構わないのに…」
「弁当のお礼って訳じゃないけど、これ位させてよ!」
「ランサーの気が済むなら……」
「うん!ありがとうな、衛宮!」
「っ!!?」
外国の文化など分からないが、随分と機嫌の良いランサーに抱き締められたり、手を繋いだりと、いつも以上にスキンシップ攻撃?を浴びせられながらも緊張が解けたからか私も甘んじていた。
しかし、いつも朝の登校で合流し、帰り道で別れる十字路でランサーはキョロキョロと周りを確認したかと思うと私のおデコにキスをしてきた。
これには思わず頭が真っ白になった。
それからは、どう帰ってきたのかなど覚えていない。
不思議がるようなお兄ちゃんの声を聞いた気もするが私はキスの事で頭がいっぱいで気付けば、いつものベッドの布団にくるまっていた。
しかしそれでもキスの熱も顔の熱も引いてはくれなかった。
ーーーーー……
士貴が上の空で帰ってきた日の晩、風呂から上がり自室へ戻ると据え置き型の充電器に置いていた携帯が点滅していたので手に取ると"クーフーリン"と名前が出ており、返信をする為に開くと、いつも通りの内容が少し変わって書かれていた。
いつも愚痴とその日の日記のような内容なのだが、今日は妹の士貴や従姉妹のホリン君の事が書かれていた。
『急に悪かったな、美味かった!
つかテメェん所の嬢ちゃんにも世話んなったな。
お陰様で、うちのチビは大騒ぎしやがって晩飯に文句言うわ、繰り返し熱弁してくるわで、もうクタクタ。
弁当は両方洗ってあるからチビの方はチビで返すと思う。
俺も明日、弁当を返すからよ、また明日な!』
『満足したようで何よりだ。
従姉妹さんにも礼を伝えてくれ。
また明日。』
我ながら短い文で冷たい反応だ、とも思うのだが毎日のように繰り返していると私からすると、どのような反応が良いのかも分からなくなってくる。
そしてそんな味気ない返事をする私によく飽きもせずクーフーリンと言う男もメールを送ってくるものだ。
などと頭を悩ませていると携帯が震えてメールを知らせる。
返信など気にしないと言うのに返して来る辺りランサーは豆なのだから、やはりそういう所がモテるのだろうと珍しく奴に対して感心する。
そこには短いが彼らしい気遣いの言葉が映されており、思わず笑みが零れた。
『迷惑じゃねぇよ。
むしろ俺たちが掛けてる。
テメェん所の嬢ちゃんのお陰で久しぶりにアイツの笑った顔を見てる。』
「ふっ、私に気遣うとはらしくない事を」
本人が居ないからか思わず、返信してきた彼の様子を想像せずにはいられない。
自分にしては珍しく感情を露わに出来る数少ない相手なのだ。
自分なりに甘えている事を少しくらい許して貰いたい。
きっと中学生からの腐れ縁の彼は想像すらしていないだろう想いを胸にしまい込んで床に着く。
まさか次の日から週に1度、弁当を作る事になるから料理を教えて欲しいと妹から言われるとはひと欠片も想像していなかった。
END
追記
設定
クー・ホリン 中学2年
クー・フーリン 大学2年
・それぞれ陸上部の槍投げエースでニックネームもランサー
・ホリンは姪で槍投げの為にランサーの所に引越してきた。
・ロリ槍は修行の為に兄の元へ送られ、上京してきた
・フーリン、ホリン、はミドルネームで英雄クーフーリンから付けられたのでほぼ同じ名前にされた
・故にロリ槍は名前を呼ばれるのが恥ずかしくて前は嫌がっていたが士貴に呼ばれ出して気にしなくなった。
衛宮士郎 大学2年
衛宮士貴(しき) 中学2年
イリヤフィール 小学生
・それぞれ弓道部のエースだからアーチャー
・大火災の被害者で孤児、衛宮夫婦に引き取られた。
・イリヤの名前が違うのは日本名が気に入らなかった為にドイツ名を名乗ってるから。
※イリヤはプリズマを参考にしてます。
月見原中学校
月見原大学歴史学部文化史学科専攻
クー・ホリン 中学2年
クー・フーリン 大学2年
・それぞれ陸上部の槍投げエースでニックネームもランサー
・ホリンは姪で槍投げの為にランサーの所に引越してきた。
・ロリ槍は修行の為に兄の元へ送られ、上京してきた
・フーリン、ホリン、はミドルネームで英雄クーフーリンから付けられたのでほぼ同じ名前にされた
・故にロリ槍は名前を呼ばれるのが恥ずかしくて前は嫌がっていたが士貴に呼ばれ出して気にしなくなった。
衛宮士郎 大学2年
衛宮士貴(しき) 中学2年
イリヤフィール 小学生
・それぞれ弓道部のエースだからアーチャー
・大火災の被害者で孤児、衛宮夫婦に引き取られた。
・イリヤの名前が違うのは日本名が気に入らなかった為にドイツ名を名乗ってるから。
※イリヤはプリズマを参考にしてます。
月見原中学校
月見原大学歴史学部文化史学科専攻