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メモ帳

旧・怪物の心像の話

2021/09/12 00:05
オリジナル
多分もう続かないので上げました。
一次創作、怪物の心像
追記
夢を見た。
遠い掴めそうにない幻想だ。
歩む足は覚束無い。
そんな足では辿り着けまい、と大和は言う。
どれだけ足掻けば気が済む、と悠真は言う。
煩い奴らだ。
無駄なんて事は私が、自分が知っている。
でも。
それでも私は諦めきれないのだ。
空に輝く星に願ってでも。
地を這う悪魔に願ってでも。
海を泳ぐ魚に願ってでも。
叶えたい願いがあるのだ。
それがどれだけ悲しい事だろうとも。

・・・・・

目を覚ます瞬間の気だるさは例えようもない程に瞼を重くする。
それは誰だって同じだろう。
きっとそれは死人だって一緒なのだ。

「ちょっと!しっかりして!」

学校のマドンナとも言うべき赤毛の少女の珍しく狼狽えた姿もまた何と麗しい姿か。
胸に広がる熱量はジワリと水が濡れ広がるが如く身体の節々へと拡散していくようで、己の身体が死へと誘われている事実が青年にとっては現実的ではないように思えた。

「無駄だ、君にはそれが分かるだろう」
「黙りなさい!彼は部外者なのに!」
「君こそ意外とお人好しだな、見られたのだから死んでもらうだろ?」

死にゆく身体でも少女の悔しげな歯ぎしりの音が聞こえるらしい、と何処か他人事のように十字架のネックレスくらいしか飾り気のない青年と学校のマドンナの掛け合いに耳を傾ける。
だが死神は待ってはくれないらしく、意識が奈落へと落ちていくのを青年は理解する羽目になった。
広がる炎の色は眠りゆく青年には、あまりに赤く、そして最後に伊勢武蔵は馬の嘶きと共に短い生涯を閉じたのだ。

「……はぁ、また死んだ」

チュチュンと鳴く雀の鳴き声に泣きたいのは俺だと武蔵は寝惚けた頭をかき乱した後で顔をパチンと叩いて気合を入れる。
今、まさに目を覚ました武蔵は今しがた起きたというのに、こびり着くように鮮明に覚えている夢による最悪な気分から己を奮い立たせたのだ。
夢だから仕方のないと溜め息を吐いた武蔵は1人、キッチンに立つと熱したフライパンに生卵を落とす。
そんなありきたりな風景を見つつ寝惚けたままの頭でぼんやりと思う。
最近の夢は随分とファンタジーめいていると。

確かに武蔵の通う高校では今時珍しく学校のマドンナと言っても過言ではない生徒は居るが面識は全く無いし、尚且つそんな少女が魔法を使って地味な生徒と戦っており、あまつさえ忘れ物を取りに来た武蔵と鉢合わせして死ぬ。
なんともありきたりだが非常に迷惑で不愉快な夢だ。
しかも1週間もの間、バージョン違いだが結果は同じ夢を幾度となく見ている為に心底、武蔵は疲れていた。
理由は単純だ。
無駄に死ぬ描写だけリアルなのである。
だからこそ武蔵も呆れはするものの自分の勘か虫の知らせかもしれないと馬鹿にはせずにしようと思うのだが難解な夢に頭を抱えたくなる。

「馬の嘶きって……田舎とはいえ時代錯誤すぎるだろ」

呟いた独り言は誰もいない広い家では大きく響いた。
しかし、それも夜になれば両親が無理をして雇ったと言う家政婦が来れば話す事も出来ないのだからいいだろう。
などと考えて、武蔵は少し焦げた目玉焼きを盛り付けながら焼きたてのウインナーをつまみ食いするのだった。

おはよう、おはようございます、と朝の挨拶が飛び交う校門を誰に挨拶する訳でもなく淡々と自分があてがわれている教室へと武蔵は歩いていく。
武蔵と言う人間は別に不良でもなければ優等生でも無く、いじめの加害者、被害者でも無い。
だからと言って友人がいるかと言うと居ないわけでないが名前を上げられる親友も居ない。
なんとも教師ですらコメントのしずらい程に普通過ぎる突出していない生徒なのだが。
両親が出張した事により家政婦が来ると言うイベントに武蔵は楽しまなければ損だと感じていた。
教室にて、ようやくおはよう、と言葉をくれる同級生に返事を返しながら家政婦が来る事は黙っていようと言う考えに行き着く。
友人とワイワイはしゃぎ、オチが老婆でした!と言うのは目に見えていたが彼はどうしても夕方までに帰宅したかった。
その理由は夢の内容である。
妙にリアルであるのに些細な違い程度で結果は死んでいた。
死にたくないと言うのが人の性だ。
たかが夢だろうと思うかもしれないが似たような内容を一週間も続けて綺麗に覚えているのだから嫌にもなる。
何よりも最後に聞いた馬の嘶きは初めて聞いた違いだ。
ただ死んで目が覚める。
そんな武蔵の苦しい夢を救ってくれそうな目が冴える音だった。
何より今日は日付が夢と同じだが嘶きもまた今朝の夢に初めて聴こえた音なのだ。
同じように思えない。
しかし頭の良い研究者だか、先生は言ったらしい。
人生は決められており、人はその決められた人生の中をスポットライトで当ている状態で体験しているだけだと。
中々面白い考え方だと武蔵は思ったが、そのスポットライトが温かいものだとは誰も言ってはいないのだから人生とは悲しいものである。
そう、例えば満面の笑みで肩を叩いてきた学校のマドンナに話しかけられたと言うのに。

「ねぇ、ちょっと来て」

なんとマドンナ、信濃チサトの声の冷たい事だろうか。
その声は彼女の暖かそうな赤毛とは真逆に冷ややかと言うのは武蔵には充分過ぎるほど感じ取る事が出来たし、何より冷や汗が止まらず頭から足の先まで冷たくなっていくのを嫌と言うほど感じ取る事が出来た。

「あなた、何者?」
「えっと……男?」
「ごめんなさい、まさかそんなに馬鹿なんて……」

目の前のマドンナ、信濃チサトがキツい女子だと言うことは全校生徒、教師が知っている。
だが、まさか目の前で馬鹿にしてくるとは思うまい。
無論、男ですなどと言う返しをしたのが悪いとも言える。

ーーーーー
ここで打ち止め

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