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SSまとめ


ハッピーバースデー♪トゥーユー♪
ハッピーバースデー♪トゥーユー♪
ハッピーバースデーディア♪マスター♪
ハッピーバースデー♪トゥーユー♪

柔らかく愛される為のような幼く甘い歌声は上機嫌に歌い手のマスターの誕生した日を祝う。
残念ながら肝心のマスターの誕生日は連日の忙しさから過ぎてしまっていたがナーサリーは”毎日が誕生日なのだから!”とお祝いをすると決まり、霊長の守護者の一人として召喚されたアーチャー・エミヤがケーキ作りの指揮を取っていた。
そう、エミヤが作るわけではない。
提案したナーサリー、ナーサリーからの説明を聞いて乗り気になったジャックとジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの三人娘が作っているのだ。
早速、ジャックが得意とも言える刃物でフルーツを切り、火の扱いと器具などは真面目だが不器用なサンタリリィが務めている。
そしてエミヤは、それぞれの様子をみながら目についた冒頭の歌を楽しそうに口ずさんで小麦粉を篩いにかけているナーサリーに声をかける。

「ナーサリー、歌うのは良いが力み過ぎると撒いてしまうかもしれないぞ?」
「いけない!それはいけないわ!ごめんなさい…!」
「あぁ、分かってくれたのなら構わない。祝う気持ちは大事だから気をつければ良いんだ」
「えぇ♪みんなでお祝いするの!きっと楽しいわ」

小麦粉が自分の頬を汚そうとも嬉しそうに微笑むナーサリーと、そんな提案者に「成功させましょう!」「喜んでくれるかな?」と話したり、綺麗に拭いてあげている姿は微笑ましい。
自然と笑顔が浮かんできても、おかしくはない。
だが、それも少女たちを見て笑顔を浮かべる相手を突くならば話は別なのである。
少女たちと青年の広げている甘く穏やかな、けれど珍しく貴重でもある空間へと血抜きされた大猪を背負って通りかかった青年は、ニヤリと悪く口角を上げると気配を消してエミヤの背後へと近づいた。
英霊相手に英霊が気配を消そうとも工作無しでは、あまり効果はないのだが。

「お前やっぱりロリkっいっっで!!!!!」
「突然、背後から不届きな事を抜かすな!!!ランサー!!!」
「お母さん、いま何か」
「気にしなくとも良いぞ、ジャック!君たちはケーキが焼き上がるまでに後片付けをある程度までしてくれ!」

汚れた物は水やお湯で洗うんだぞ!と声をかけながら、内心は声をかけられた驚きから無意識に攻撃をしたエミヤは彼が唯一、ランサーとクラス名で呼ぶ英霊、クーフーリンが顎を強打された痛みで悶ていようと気にせずに廊下まで引きずり出す。
マスターを祝う為の場で戦いを意識せずとも良いのにランサーが持っている猪の加工前の状態は似つかわしくないと思ったのだ。
そして心配する声や楽しげに笑う声を背中に受けながらエミヤはクーフーリンを廊下へ転がす。

「おい、自分で歩いてはどうだ。もう痛みは引いていよう?」
「けっ!テメェが引き摺ったんだろうが!痛いもんは痛いし……」
「それよりランサー!狩りをしたら私の部屋へ置けと言っているだろ?カルデアには大食漢が多すぎると言うのに!」

怒る姿に対して何処か拗ねたような印象も与えるクーフーリンの廊下で胡座をかく姿をエミヤは気にしない。
彼の母性を擽るようでいて貴重なクーフーリンの拗ねたような態度は見慣れている上に、鈍感なエミヤは男の英霊の中で一番の犬猿の仲と認識していたからだ。
無論、クーフーリンも否定はしないが今はそれどころではない。
カルデアのキッチンのボスとも言えるエミヤを怒らせては美味しい食事にありつけない。
食事は楽しみの限られた環境では価値は大きい。
ましてや美味しいとなると金銀財宝と同価値、それ以上の扱いになる場合もある。
が、それでも理解しがたい相手では返事もおざなりだ。

「あーそうだったか?」
「昨日のよる、に……いや、やはり、その」
「夜?あぁ、お前を抱いた後に言ってけか?」
「この!た、たわけ!声がデカイ!!!」

耳まで赤くして拳を凄まじい速さで振り上げるエミヤに機嫌が上がるのを自覚しつつ、クーフーリンはヒラリと避けるとポンポンと大人が子供にするようにエミヤの意外に柔らかだと最近知ったお気に入りの銀髪を軽く撫でる。
そう、クーフーリンとエミヤは、カルデアへと共に召喚されてから紆余曲折を経て、身体を重ねるまでの関係を築いていながら犬猿のままであった。
そして、その証拠とでも言うように男らしく雑だが、暖かいクーフーリンの頭を撫でる手つきにエミヤの眉間に皺が寄る。
去り際に囁いた赤くなっている耳元や首筋にキスをするのを忘れない仕草には色がある。
だが上機嫌に去って行ったクーフーリンと反比例するようにエミヤの機嫌は悪くなる。

”ひと通り祝ったら楽しもうや、坊主”
「くそ……もう子供じゃないんぞ、ランサー」

囁かれた声色を思い出して、天井を仰ぎながら指先の末端まで熱くさせているエミヤの口から溢れる言葉に普段の冷静さはない。
だが切り替えるように深い息を吐くと英霊にまでなった素朴な青年は普段の世話好きな英霊へと戻る為に瞼を閉じて熱を冷まし、切り替えると食堂へと戻る。
まぁ、どれだけ鍛錬しようとも持ち前の不運は、神でも中々変えられぬステータスなのだが。

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!」
「わ、私は大丈夫だよ?サンタリリィ?」
「うん、うん、頭から粉を被っただけだもん」
「うっ!!!ううううう~~~!!!」
「ダメよ、ジャック?本当のことを言っては見習いサンタさんが泣いちゃうわ!」
「み、みみ見習いじゃありません!うわーーーん!!!」

床を拭くための雑巾を握り締めて声を上げるサンタリリィの頭を優しく撫でてやりながら、エミヤはしゃがんでナーサリーとジャックに大人しく拭かれる。
お陰で上げている前髪は全て下りてしまい、冷ました頬も不器用に少女たちに拭かれて赤くなっているが気にしている場合ではない。
サンタリリィが此処まで動揺しているのは皆が個々で用意しているプレゼントを崩れてはいけないから移動させようとして転んでしまい、エミヤとプレゼントの猫のぬいぐるみへと掛かってしまったのだ。
幸いにもジャックやナーサリーはクーフーリンのように個々で用意していたので無事なのだが、汚した猫のぬいぐるみはサンタリリィが用意した物、撒いた粉もマスターに送られるプレゼントなのだ。
彼女としては前回のクリスマスから学んで懸命に考えたプレゼントと今回の料理の教師であるエミヤにした無礼を考えれば幼い姿で現界しているのもあって泣いてしまう現状であった。
しかしクリスマスでも救世主は居たのだ。
そして今回も条件は揃っている。

「大丈夫だよ、サンタさん!」
「えぇ、そうよ!一緒にケーキを作れたんだもの!プレゼントも新しく用意できるわ!」
「そうだとも、だから泣くのは止めてクリスマスの時のように学べば良い」

にっこりと可愛らしく笑うナーサリーと理解しきれないながらも健気に元気付けようと奮起するジャックとフォローするエミヤ。
それだけでサンタリリィには充分だ。
溢れ出しそうになっていた涙は拭った事で消えると赤くなり出していた頬は、やる気から更に色を増す。

「う、ひぅ……っはい!その、あの……」
「ふふっ、行きましょう、サンタさん!パーティーはもうすぐよ!」
「最初にお母さんにあげられないよ!急ご!」
「あ、待って下さい!っ……えへへ…その、行ってきます!」
「あぁ、いってらっしゃい、此処は私に任せてくれ」

有難う御座います!と声を張り上げながら、パタパタとサンタリリィは音を立てて走り去る。
その慌ただしさに嵐のようだったな、と霊体化するでも無く、魔力の節約だと払い除けてから掃除をしたエミヤは知らない。
サンタリリィが撒いた粉は小麦粉ではなく、ダヴィンチちゃん特製♡愛しのあの子もゾッコン(小並感)まぜまぜマジックパウダー☆と言う清姫が用意した胡散臭い粉であったと言う事を。

「にゃんでさ!!?」

そして案の定、幸運値Eの対魔力Cであるエミヤはサンタリリィがエミヤと一緒に粉を被った猫のぬいぐるみの中へと入り込んでいた。
この怪しい粉は、対象物二つに粉を付着または摂取させると対象AとBの中身を交換させる事ができる。
無論、出来ることに限界はあり、時間も戻る方法もあるのだが理由も原因も知らぬエミヤには無理難題であった。
そして繰り返すようだがエミヤの幸運値はEである。

「おーい、アーチャー?って死体みたいに寝てやがる……ん?この人形……」
「っ……!(ランサー!人形と言う事は洗濯すると預かった猫さんぬいぐるみの中……)」
「…………」
「…………(しかし発見者がランサーとはっ!)」
「…………」
「…………(沈黙が重い…)」
「…………」
「…………(しかしランサーはぬいぐるみが好きだったのか?)」

無言で見つめてくるランサーに内心かなり失礼な事を考えているとグルリと、しかしゆっくりと視界は回転してランサーがぬいぐるみと化した己を持ち上げたと気付く。
まさかぬいぐるみの気分を味わう日が来ようとは……迎えたくなかったものだ、しかも相手はランサーだし。と視界の端で死体のように眠る自身の横顔を斜めやら逆さになる視界を何処か遠い目で眺める。
どうやら腹やら後ろなどを見ているらしいがエミヤには理由が分からない。
やはりランサーは実は少女趣味だったから安全を確認している、と言う予想がエミヤの中で有力になろうとしていた時だ。

「おい、お前アーチャーだろ?喋られるか?」
「え?」
「お、喋った」

これなら早く戻れるかもな、と言いながらエミヤから分かりづらかったが、どうやら眠るエミヤの頭、頭上辺りにぬいぐるみと化したエミヤをクーフーリンは置いたらしい。
まさか正体を看破されると思っておらず動揺したエミヤだったがクーフーリンは、キャスターとしてマスターを導いている分霊が存在している程、魔術師として大成している。
巫山戯た粉も仕組みは、あくまでも魔術を用いた代物なのだからクーフーリンであれば例えランサーで現界しようとも魔術を看破できないとは限らない。
限らないのだが……。

「おい、ランサー」
「んーどした?」
「貴様、何をしている!!!」
「何って見りゃ分かんだろ?」
「私の身体を弄るな!あ、こら!人の話を聞け!」
「うっせぇなー……お前が雄っぱいデケェのに触らせねぇのが悪いんだろ?流石に色々溜まるつーかだなぁ」
「たわけ!!!胸筋だ!!!」
「そこかよ!!!」

いいから元に戻せ!嫌だね、チャンスだろうが!と騒ぎつつクーフーリンは無駄に手早く、何処か慣れた様子で複雑な筈のエミヤの礼装を脱がして行く。
チャンスがなんなのか理解したくないと痛む筈のない頭を抱えたくなりながら、声を張り上げる。
何故に声が出るか分からなかったが、ぬいぐるみとして動けないエミヤが出来る抗議は声を上げる事だけなのだから仕方ないとも言えた。
しかしご存知の通り、彼の。
否、彼らの幸運値は二人とも仲良くEである。

「エミヤ先輩お疲れのところ失礼しま、す……あ」
「あ、嬢ちゃん、アーチャーに用なら後にしてくれや!」
「っっっ!!!」

プシュと呆気なく開いてしまった部屋の扉を開けたのはマシュ・キリエライト。
マスターの正式なサーヴァントであり、マスターと同じようにエミヤを先輩と慕っている少女だが今は色々とマズイ。
現に彼女は可愛らしい瞳を可哀想な程に見開き、明らかに驚いているが当然だろう。
咄嗟にベッドに上ってぬいぐるみであるエミヤの口を押さえたクーフーリンの姿はマシュから見ると、はだけた礼装を身に着けたエミヤの上に第二礼装な為に半裸のランサーが馬乗りになっている。
そしてエミヤである筈のぬいぐるみは、クーフーリンの身体が壁となってマシュからは目に入らない上にエミヤの身体に馬乗りなので眠る顔も見えない。

「あの、その!お邪魔でしたね!すいません、後にします!」

マシュの少し頬を染めて恥じらいながら放った一言、それだけでマシュが考えた事。
エミヤからすればマシュがした誤解を読み解くには充分すぎた。
最早クーフーリンに抑えられて声が出せなかった事への怒りはない。

「終わった……」
「あー……その、アーチャーさん?」
「…………」
「まぁ、機嫌直せって!ほら、ちゅー!」
「…………」
「え、ちょっ、無視はやめ」
「…………っ地獄に落ちろ!!!ランサぁぁぁ!!!!!」
「ぐぁあああああっっ!!!??」

冷静ではないエミヤは気付いていない。
殴り飛ばしてクーフーリンを気絶させられる状態。
つまりエミヤは元に戻っていると言う事に。
戻れたのは巫山戯てされた先程のランサーからのキス、もとい魔力供給のお陰なのだが内心はマシュに見られた事、何気に初めてのクーフーリンのキスが巫山戯ていたので実は無自覚に怒って殴った事に。
マシュが消えた扉の向こうで起こっている本能寺も真っ青なぐだぐだで、ぐつぐつな展開が舌を伸ばして待っている事に。
そして全力でマスターが、その舌から逃げている事に。

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