SSまとめ

お題「童顔からかわれるのが嫌で兄貴の前で下ろしたくないアーチャーと、下ろしている所をもっと見たい兄貴の攻防戦」

お題に添えてるか未だに分かりません




私は今、何故、ランサーに押し倒されている?
いや、正確には仰向けに寝ている私を覗き込むようにランサーも寝転んでいるだけなのだが…。
彼が片腕を拘束しているし、何より私たちの現状は客観視すれば充分、異様だと思う。
そもそも凛に事付けがあるからと言っていて、彼が訪ねて来たのは覚えている。
しかし私は凛は小僧の家だと追い返そうとした筈。
そこから記憶が無い。
なのに私は与えられた自室のベッドにランサーと男2人で寝転んでいると言う、見るに絶えない光景で居るのだろう。

「おい、現実逃避すんなよアーチャー」
「ランサー、君は私に何をした。あまりにナンパが上手くいかず頭に焼きが回ったかね?」
「なんだ、元気じゃねぇか」
「いいから答えろ、ランサー!君は余計なこっ…何っ!?」

ランサーの腕を振り払い、起き上がろうとしたが身体が上がらない。
思わずランサーを見ると嫌味な程に整った顔でニヤリと口角を上げている。
明らかに触れられていた場所から魔術の残滓を感じるのでルーン魔術を施された事がすぐに分かった。
普通のルーン魔術ならば対処した経験ありと記録が言っているが、ランサーのそれは原初のルーン。
効き目は他のルーン魔術とは段違いなのは感じていれば、すぐに分かる。

どうやら初手、つまり彼と接触した時点で私はミスをしてしまった事を察した。
これは気が抜けている、と言われても致し方ない。
聖杯戦争が終了したからと言って彼が味方な訳では無いし、私を殺さない理由にもならない。

「そう睨むなよ。別にちょっとテメェに俺の好奇心に付き合ってもらうだけだ」
「……好奇心だと?」

いつもの調子で話しかけてくるランサーに、恥ずかしながら敵意を感じず肩の力が抜けていくのを自覚して、自分の単純さとランサーの無駄な行動力に呆れる。
しかし何をするのかは知らないが何故、対象が私なのか分からない。
するとランサーも説明する気があったのか、目線を外しながら説明してくる。

「そのアレだ、ちょっと……お前の髪を下ろす所が見てみたくてな。やっぱり雰囲気が全然違ぇな、ははは」
「君のその下らない好奇心の為に拘束される私の身にもなりたまえ、ランサー」

道理でさっきから前髪が邪魔だと思ったら貴様の仕業か!
前髪が邪魔なので、まだ動ける腕でかきあげようとするとランサーは優しげな手つきで邪魔をして撫でてくる。
いつもは感じる筈もないランサーの手の暖かさが、なんとも言えない気分になって鬱陶しいので首を振るが少し離れただけで再び撫でてくる。

なんなんだ、この男は。

本当になんなんだ。
どうせ私の考えている事など、どうでもいいのだろう。
既に情けない姿を見られていたと言う事になる訳だが意識があると無いでは大きく違う。
くそっ!
嬉しそうに笑うな!ムカつく!
私とて気にしている事をつつかれては不愉快だ!
特にランサーには見せるつもりなど微塵もなかったと言うのに、まさか私に興味を示したのは大きな誤算だ。

「ははっ!そんなに拗ねんなよ。折角出てる可愛げも無くなるぞ?」
「はぁ…そういう事は女性にでも言いたまえ…」
「今はテメェに用がある」
「っその用も済んだだろう?魔術を解け、ランサー」
「あ?折角、お前を捕まえたんだ。もうちょっと付き合え」

なんなんだと言うか、どうしたんだランサー!?
君は私に対してそのような優しい笑顔を向ける男ではないだろう!
あのメソポタミアの暴君に変な薬でも盛られたのだろうか?

一応、最近ランサーの様子はおかしいとは思っていた。
その最大の理由は、ランサーが私に構うようになった事だろう。
以前は出くわしても数分ともたず嫌味を言い合うが長くは続けず、お互いにさほど交流は無かった。
なのに最近のランサーは出会えば文句は相変わらずだったが私を引き止めるような言動をする事があったし、出会う回数も増えたように思う。
まさか私が髪を下ろす姿を見る為だったのだろうか?
前から憎まれ口は言い合っていたし、嫌がらせは彼の性分に合わないと思う。
しかし私の何らかの行動により彼の地雷に触れたのではないかと推測できた。
だが不覚にも推測を確実にする為に確認するだけだと言うのに、今更ランサーに確認するのが怖くなってきた。
ヒュッと音を立てて喉が渇き、なんとか発した声は震えていたように思う。

「き、みは…何を考えている。私の情けない姿など見たいと思わせる程、君を不快にさせた覚えはないぞ」
「………………はぁ?」
「…………違うのか?」

なんでそんなに心底、驚いた表情をしているんだ。
折角、顔は整っているのに口を開けて驚愕した表情では台無しだぞ。
しかしランサーにとっては予想外の言葉だった事に何処か安心している自分を殴りたい。
というか、それもこれも彼が珍しく私に優しげな表情を見せるのが悪い。

誰でも憧れた相手に優しくされるのは悪い気はしないだろう。
いや、正直に言うと私は嬉しくて堪らないとは感じている。
セイバーとの出会いは私にとって摩耗しても忘れる事の無い記憶だが、生前ランサーの強さにも純粋に憧れを持っていた節はあった。
ただ同時に己の無力さを見せつけられるような思いだったし、彼と関わった中の自分は情けない姿の記憶だけが微かに残っているだけだ。

だからこそ見た目が変わった今は、少しでも情けない姿を見せるものかと思った。
何より聖杯戦争が終わった後も、さほど良好とは言えない関係性だったので隙を見せれば、からかわれるのは明らかだと思っていた。
思っていたからこそ、あんな優しげな表情を向けられるのは予想しておらず仮初とはいえ心臓に悪い。

「おーい、アーチャー?」
「……え?あ、なんだ」
「そんなに苦しそうな表情すんなよ、そんなに見られるのが嫌だったのか?」
「当然だろう?少なくとも君にこんな姿を見せるつもりは無かった」
「………ほぅ、そんなに嫌われてると逆に新鮮だわ」
「っそれは、貴重な体験をしたな?ランサー」

妙な間を開けて目を細めるランサーと目が合い、のしかかってきた重圧にほぼ"支配"されつつあるのを直感する。
しかしこのまま勘違いしてランサーが飽きる可能性も考えると撤回するのはやめたが、重圧と緊張からか口の中に苦味が広がった。
最悪、今の状況では怒りにより殺されかねないが聖杯戦争は終わっているのだから、さほど支障はないだろう。
ここまで情けない姿を晒したのだから一緒だ。

「………アーチャー、テメェ今、余計な事を考えただろ?」
「どんな言いがかりだ。こちらは君の魔術に抵抗するので手一杯だと言うのに」
「言い訳ならもっと上手い言い訳にしろ、馬鹿」
「生憎、対魔力には恵まれていなくてね。君には無縁だろうが」
「だから………はぁ、こりゃあやっぱり実力行使じゃねぇと駄目かねぇ」
「なんの話を…っ!?」

実力行使も何も既にルーン魔術の無駄遣いをしているのにランサーは何を言っているのかと困惑した瞬間だった。
いつもよりも密着していたので緊張していたが普通に話していくうちにペースが戻ってきていた。
だが次のランサーの動きは、予想出来なかった。
決して気を抜いていた訳ではないし魔術を行使されていたとはいえ私は呆気なく、ランサーに組み敷かれた。

「な、何を考えているランサー!本当にナンパの八つ当たりならば他をあたれ!」
「あーまぁ、そうとも言えるかもな」
「は?」
「お前のせいでナンパもまともに出来ねぇよ」

何を言っているだろうか?
私は彼に呪詛などかけた覚えはないし、専門外なのは私の戦い方を知るランサーも分かっている筈だ。
八つ当たりの限度を超えて何処ぞの英雄王と変わらぬ理不尽さだぞ!
そもそも今日のランサーはここ最近の様子よりも一層、予想外の行動ばかりしている。

「君はとうとう人の言葉を理解出来なくなったのか。何度も言うが八つ当たりならば他を当たれ、衛宮士郎など最適ではないか?」
「この状況でまだそんな事を言うのは鈍感を通り越して病気だな」
「なんだと?」
「俺は別に嫌がらせが目的じゃねぇよ。何処ぞの金ピカじゃあるまいし、そんな趣味は持ち合わせちゃいねぇ」
「この状況では説得力に欠ける台詞だがな」
「だーかーら!どうみても襲ってんのになんで抵抗しねぇんだ、馬鹿野郎」
「…………は?」

襲っていると言う意味も状況も分かっている筈なのに自分が想像している意味と、目の前の男が困惑した表情で言っている言葉が違うと直感が告げる。

いや、だが、そんな訳がない。

彼は恋多き英雄と知られている程、女性好きだし、性に対して寛容とはいえ男を相手にするのは彼の趣味ではない筈である、多分。
もしや私が知らないだけなのだろうか?
そんな焦りが滲み出ていたのか、ランサーが何処か嬉しそうに笑ってくる。

「お?やっと状況の深刻さに気付いたか?唐変木」
「…………君の趣味に付き合うつもりは無い」
「だがもう遅いぞ?アーチャー。俺はチャンスをやったし猶予もやった」

チャンスと言うのは足の拘束の事だろうか?
確かに言われてみると足は未だ自由であったし、私が意識を取り戻したばかりの時は魔術の重圧も感じなかった。
つまり拒否権は与えられていたようだが、のんびり話していた私に苛立ち襲ったと?

「冗談じゃない!君が髪を下ろした姿が見たいと言っていたから私は!」
「すぐに俺が飽きると思ったか?」
「っ当然だろ…君の目的は達成されていた」
「まぁ、俺も最初は見たいって思い過ぎて後の事は考えて無かったんだが、ずっと見てるうちに満足出来なくなったんでな……テメェは呑気に隣で寝転がってるし、もう襲うしかねぇと思った訳だ」
「野獣か君はっ!」

その場のノリで襲われていてはキリがない。
しかもナンパの不調まで私のせいにするとはどういう事だ!
何より小僧ならば兎も角、私は彼のナンパを邪魔した覚えはないぞ!
こいつ正気か!?

「ま、この際だから腹くくれや」
「待て!君は強姦と言う言葉を知らんのか!犯罪だぞ!」
「それ男にも言えるのか?」
「そんな疑問は良いから服に手を突っ込むのはっ…ひぁ!?」

な、ななななな舐めた!舐められた!
首筋を舐めたぞ、この男!
嫌な予感はしていたが本気で私を襲うつもりなのが腹を撫でる手よりも、首筋から少し上げられた紅いの瞳と目が合って嫌でも伝わってくる。
その事実に身体が熱くなるのを感じながら慌て始めた私が可笑しいのか、何処か嬉しそうに笑うランサーを睨まずにはいられないが彼の手は止まらない。

「へぇ、テメェでも怯える事があるんだな。それは結構そそる」
「っん、その言い方はやめろ!君、その言い方はわざとだろう!?」
「お、察しが良くなってきたな」
「喧しいわ!!!たわけ!!!」

私はルーン魔術で拘束を強められているとはいえ、アッサリと着ていた黒シャツを開けられると言うのは、少々堪える。
どうしてそんなに嬉しそうなんだ、この駄犬。
腕は無力に頭上に縫い付けられたかのように動かず、髪は下りて困惑した表情は情けないだろう。
服ははだけて胸と腹を無防備に眼前に晒しているのでだらしなく写っているかもしれん。
この状況、さぞランサーには滑稽に見えている筈だと言うのが耐えられない。

「っ本気なのか?ランサー…」
「当然だろ、そんなに俺に抱かれるのが嫌かよ。まさかそんなに嫌われてるとはな」
「私はそんな事は一言も言っていない」
「なっ………テメェ、んな泣きそうな顔で言うんじゃねぇよ」
「っ…ランサー?」

突然、腕の拘束が解けるのを感じて、顔を上げる。
少し逃げられないだろうと腹をくくりかけていたので、ホッしているが驚きは隠せない。
するとランサーは私が泣いていないか確認しているのだろう。
目元を撫でて、苦笑いを浮かべている。
どうしてそんな表情をしているのか分からなかったが、私は彼を止められたと言う事だろうか?と不思議に思った。
その瞬間。

「あー…勿体ない気もするが今日はこの辺りにしとk」
「私のアーチャーに何してるのよ!この駄犬!」
「ぐはっ!!!」
「へ!?が、ガンド!?」

何か喋るランサーに、それは見事に目の前で的確にこめかみにガンドが打ち込まれた。
よくよく考えると家主なのだから帰ってくる可能性もあるのをランサーも私も失念していたとも言える。
頭では理解しているが見られたと言う目を背けたい事実に、ライダーの魔眼を受けたかのように身体が硬直していく錯覚に襲われながら、なんとかガンドが発射された方を向く事が出来た。

「り…り、ん!?どうして帰って来ている?小僧はどうした?」
「ランサーが珍しくアーチャーの居場所を聞くし、最近の行動が不思議だったから嫌な予感がして戻って来たのだけれど………私お邪魔だったかしら?」
「なっ!?いや、大いに助かった!感謝している!」
「あら、そう?なら良いわ。慌てて帰ってきたから喉も乾いてるし、後で紅茶お願い」
「承知した。待っていてくれ」

危なかった!本当に色々と危なかった!
ランサーがもし行動が早かったりしていたら、マスターである前に1人の少女の前で痴態を晒していたかもしれないと思うと冷や汗が止まらない。
私自身いたたまれない所か、凛に今以上の視界の暴力を与え、トラウマを作る所だ。
凛の様子だと服がはだけているだけなので、さほど動揺していないようだが不機嫌そうに髪を払っている。
不機嫌で八つ当たりは避けたいが、とりあえずトラウマは回避したようだ。

その事に安心しつつ、素早く服装を整えると当たり所が悪かったのか気絶してベッドサイドへ落ちているランサーを引き上げて寝かせてやる。
今日はこの男のせいで散々だったが怒りよりも呆れる感情の方が先に立つ。
彼が何を考えて今日のような事をしたのか。
その理由は私には分からなかったが襲われているのだと気付いた時、ランサーに対しての拒絶反応は感じず、ただ羞恥心で前が見えなくなったように思う。
この己の態度が自分には答えなのは重々承知していたが、ランサーには控えておこう。

今でさえ顔や身体が熱くて堪らないのに、バレたらどうならか分からない。



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