他CP
自分と言う男は聖杯戦争からは切っても切れぬ縁があるらしい。
とつくづく今回の依頼で思い知らされた。
小さな町の町長から最近、町で怪奇現象や殺人事件が起こっているので解決して欲しいと依頼を受けた。
無論、断る理由はない。
結末を分かってはいたが助けると言う選択肢を選んだ末にアラヤとの契約を終えた後は何でも屋、戦争屋のような事をしていた。
分かってはいるのだ。
これから自分が淡々と繰り返す殺戮を。
救えるかもしれない生命を消す仕事が死後には待っている。
それでも誰かを救いたいと願わずにはいられない。
お陰で無理な魔術行使を繰り返して、すっかり見た目は"アーチャー"となっていた。
覚悟は出来ているが諦めきれない。
そんな己の願いを未熟者のままだ、と冷笑しつつ冷たい地下室の床に術式を描く。
次に自分の未来が変わる大きなきっかけの1つとなった出来事に思いを馳せたが、すぐに頭を切り替えて初めて口にする詠唱を唱える。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」
昔、師である凛から聞いた詠唱だ。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
だが自分はこの詠唱をせずに召喚した。
「Anfang(セット)」
後々、召喚できた理由は分かった。
しかし今回は触媒はない。
「告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。」
どんなサーヴァントが現れようとするべき事は決まっている。
「 我は常世総ての善と成る者。
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
今回の召喚させる仕組みは根本的に魔力量が少ない聖杯なんて名ばかりの器。
だからこそ失敗する可能性の方が高いと考えていた。
しかし次の瞬間、描いた術式は輝きを放ち、暫くしてから輝きは霧のように散開して周囲は再び暖かな光のみとなり、視界が開けて見た光景に後頭部を殴られたかのような衝撃を受けた。
サーヴァントの召喚に成功したのは勿論だったが、それ以上に召喚した英霊を見慣れていると言うのは可笑しな話だろう。
英霊など普通は見る事など出来ない。
しかし衛宮士郎は目の前の晴天のような鮮やかな髪色と熟れた果実のように輝く赤き瞳を持った男を嫌と言うほど知っていた。
現れた男の名をクーフーリン、アルスターに名高き光の御子であったのだ。
「現界か……サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上し……た……は?アーチャー?」
しかも最悪の事態だ。
"ランサーは冬木を知っている"
それが意味するのは過去の自分を記憶、記録を保有している、と言う事を呼ばれた名で瞬時に理解できた。
ならば最初にする事を決まっている。
「っち!令呪を持って命じる!"マスターである私に攻撃をするな!"」
「ぬぉっ!?っく、いきなり令呪だと!いや、それよりも何故、貴様が俺のマスター権限を持っている!アーチャー!」
「……はぁ、それは説明するから暴れるなよ?ランサー」
「はっ!その前にテメェが令呪使ったろうが」
どうやら怪訝そうな表情をしている所からすると令呪は正しく効力を発揮しているらしく、唸り警戒したような獣のようなギラついた瞳を向けてくるが、その槍は向けられない。
しかし今回は聖杯が足元にも及ばないからと説明して拒否するのであれば令呪を使って破壊させ、サーヴァントも自然消滅させようと考えていたので予想外である。
と言うのも、きっとランサーは考えた2つのどちらを実行した瞬間に攻撃して来るだろう。
故に令呪をすぐに使って"アーチャー"だと思っている自分への攻撃を防いでおいたのだ。
今回の怪奇事件や殺人事件は、単純に聖杯戦争を起こそうとする者達が魔力を集めた為に起こっているものだと言う事は、すぐに判明した。
それもこれも大聖杯のような物がない為に器となる物に無理矢理人々から強引に魔力を吸い上げた結果であり、サーヴァント1体を召喚出来るか出来ないかの魔力残量であった。
だからこそ令呪の兆しが現れたのは好都合だと考え、失敗する事も想定して儀式を行った。
「……それを信じろと?」
「令呪があり、目の前で召喚したから私をマスターと認めろなどとは言わん。ただ状況を理解しろ」
「あー確かに聖杯にしちゃあ寄越す情報や魔力が微弱なのは理解するが……なんでテメェがマスターしてる?お前、キャスター適性があったのか?」
「…………はぁ、これから行動する上で隠しても致し方ないだろうから話そう。付いて来い」
令呪が機能してるようだが警戒は怠らずにランサーに先に地上へと続く階段を上がるように促す。
すると理解したのか、ランサーを知る者ならば彼らしからぬと表すであろう怪訝そうな表情のままランサーは大人しく階段を上がって行く。
上がった先には廃墟と言えるほどに隙間風が吹く空き家を根城とした為にランサーは部屋に上がった途端、少々驚いたような表情で、その荒れ果てっぷりを眺める。
「な、んだ?こりゃ……」
「そこのソファーは無事だ、使いたければ使いたまえ」
「は?いや、アーチャー……テメェは綺麗好きじゃなかったか?」
「掃除は確かにしようと思えば出来るが居場所がバレる可能性がある。此処は冬木でないのだ、ランサー。それと……私は君の知るアーチャーではないよ」
「冬木ではないのは薄々気付いてはいたが……どうやらややこしい状況らしいな」
遠慮なくソファーに大雑把に座りながらランサーは相棒である魔槍を肩にかけて、見据えてくる。
どうやら"アーチャーではない"と言うのが薄々魔力量や繋がったパスなどから気付いたらしく、面倒臭そうに頭をかいている。
しかし面倒なのは、こちらの方だと言いたい。
何故、一番会いたくもない彼が召喚されたのかと言う問題で頭が痛いのだ。
今の衛宮士郎に思い出の女性であるセイバーとの縁ともなったアヴァロンは無い。
それ故に誰が現れようとも冷静に行動できると考えていたのが甘かったと思い知る。
ランサーことクーフーリンが相手となると性格の相性的にほぼ合わないのは目に見えて分かりきっていた。
「あ?」
「どうした、ランサー?周りの結界に反応は無いが?」
「いや……もしかしてテメェ、坊主、か?」
簡易的に入れた珈琲を飲んでいると突然、何かに反応するようにランサーが立ち上がるので目を向けると何処か困惑した、困ったような眼差しを向けてきていた。
どうやら完全に繋がったパスによる魔力供給で気付いてしまったらしい。
ならば諦めるしかないと、ため息を吐いて白状する。
「あぁ、そうだとも……君の嫌いなアーチャーの真名はエミヤ、その元となるのが私、衛宮士郎……ただの凡人だ」
「凡人、ねぇ……どうやって英霊になった?」
「アラヤとの契約により霊長の守護者となったのだ。正確には英霊ではない」
「正確には~なんてどうでもいいが……そうか、アラヤか」
白状した言葉にランサーは目を細めながら近付いて来たかと思うと手元から珈琲を奪い去って、荒れた部屋中を確かめるように見て回るとランサーは奪った珈琲を飲みながら褒めてきた。
「あの坊主が此処までの結界を作るようになるとはなぁ、やっぱり見込みはあるじゃねぇか」
「なんだ、急に……君が男を褒めるとはな」
「俺とて見込みのある奴を賞賛するくらいするっつーの」
何が楽しいのか愉快そうに笑いかけてくるランサーに慣れず、居心地の悪さを覚えながらも、説明に入ろう、と前置きをして奪われた珈琲に未練を見せる事もなく本題を切り出した。
今から話す事柄に納得できないと言うのであれば隙を見て、令呪による強制的に器を破壊すると言う目的を達成させる事になる。
つまり仲間でありながら敵でもあると言う事になる。
それは聖杯戦争に参加するサーヴァントとマスターの関係の形の1つではあるだろうが、生憎と衛宮士郎にそんな経験はなかったので避けたい気持ちはあった。
故に少々、緊張した面持ちであったが答えは安易なものが返ってきた。
「今回の戦いは聖杯戦争とはいえない物だが危険なのは変わりない。私は依頼で解決せねばならないが、君はこの契約に納得したかね?」
「元より拒否権のある立場じゃねぇし、俺は誰がマスターであろうと命令には従うだけだ」
「そう…か…ならば、これで契約は成立だな」
そのアッサリとした物言いと態度に少し戸惑ったが元々ランサーと言う男の在り方がそうなのだったと何処か懐かしく感じながら新しく自分の分の珈琲を入れていると、あっ!と言う声を上げてランサーは思い出したかのように笑って訂正を1つ口にしてきた。
「そうそう、1つだけ訂正しときてぇ事がある」
「なんだね?何も不備はないと思うが?」
「俺は"アーチャー"を"嫌ってる"んじゃなくて"いけ好かねぇ"だけだ」
「…………はぁ?」
言われた理解し難い言葉に頭が再び痛くなるのを感じ、思わず声を低くして眉間に力が入るのを自覚しながらも治す事はできない。
何故、そんな些細な事にランサーが拘るのかが分からなかった。
いや、本当は何処かランサーからの慣れない言葉の数々に動揺していたとも言えるのだろうが、己の心の在り方すら不器用な男は気付かない。
されどランサーとて、その違いを正すような性格ではない為に困惑した様子にケラケラと楽しげに笑いながら近付いてくる。
「だーかーら!俺は別にテメェを嫌ってねぇって言ってんだろ?」
「待て、何故にそこを訂正する必要がある!」
「まぁまぁまぁ!よろしく頼むぜ?マ・ス・タ・ァー?」
「…………はぁ、もういい。君こそせいぜい役に立ってみせろ、ランサー」
馴れ馴れしく隣に座ってきたかと思えば、肩に腕を回してきて、妙な所に拘るランサーを不思議に思いながらも腕を振り払う程に敵意を表す必要がないので放っておく。
しかし正直、ランサーが味方なのは心強いのだが、それと彼との因縁は話が別である。
そしてつくづく英霊エミヤだけでなく、そもそも衛宮士郎と言う人間にクーフーリンは縁が出来てしまっているらしいと痛感させられた。
旧知の間柄、年来の知己ではないが縁は切ろうとしても切れぬ程に深い。
人はそれを腐れ縁と呼ぶ。
そして今回の縁も切れそうになかった。
END
とつくづく今回の依頼で思い知らされた。
小さな町の町長から最近、町で怪奇現象や殺人事件が起こっているので解決して欲しいと依頼を受けた。
無論、断る理由はない。
結末を分かってはいたが助けると言う選択肢を選んだ末にアラヤとの契約を終えた後は何でも屋、戦争屋のような事をしていた。
分かってはいるのだ。
これから自分が淡々と繰り返す殺戮を。
救えるかもしれない生命を消す仕事が死後には待っている。
それでも誰かを救いたいと願わずにはいられない。
お陰で無理な魔術行使を繰り返して、すっかり見た目は"アーチャー"となっていた。
覚悟は出来ているが諦めきれない。
そんな己の願いを未熟者のままだ、と冷笑しつつ冷たい地下室の床に術式を描く。
次に自分の未来が変わる大きなきっかけの1つとなった出来事に思いを馳せたが、すぐに頭を切り替えて初めて口にする詠唱を唱える。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」
昔、師である凛から聞いた詠唱だ。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
だが自分はこの詠唱をせずに召喚した。
「Anfang(セット)」
後々、召喚できた理由は分かった。
しかし今回は触媒はない。
「告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。」
どんなサーヴァントが現れようとするべき事は決まっている。
「 我は常世総ての善と成る者。
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
今回の召喚させる仕組みは根本的に魔力量が少ない聖杯なんて名ばかりの器。
だからこそ失敗する可能性の方が高いと考えていた。
しかし次の瞬間、描いた術式は輝きを放ち、暫くしてから輝きは霧のように散開して周囲は再び暖かな光のみとなり、視界が開けて見た光景に後頭部を殴られたかのような衝撃を受けた。
サーヴァントの召喚に成功したのは勿論だったが、それ以上に召喚した英霊を見慣れていると言うのは可笑しな話だろう。
英霊など普通は見る事など出来ない。
しかし衛宮士郎は目の前の晴天のような鮮やかな髪色と熟れた果実のように輝く赤き瞳を持った男を嫌と言うほど知っていた。
現れた男の名をクーフーリン、アルスターに名高き光の御子であったのだ。
「現界か……サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上し……た……は?アーチャー?」
しかも最悪の事態だ。
"ランサーは冬木を知っている"
それが意味するのは過去の自分を記憶、記録を保有している、と言う事を呼ばれた名で瞬時に理解できた。
ならば最初にする事を決まっている。
「っち!令呪を持って命じる!"マスターである私に攻撃をするな!"」
「ぬぉっ!?っく、いきなり令呪だと!いや、それよりも何故、貴様が俺のマスター権限を持っている!アーチャー!」
「……はぁ、それは説明するから暴れるなよ?ランサー」
「はっ!その前にテメェが令呪使ったろうが」
どうやら怪訝そうな表情をしている所からすると令呪は正しく効力を発揮しているらしく、唸り警戒したような獣のようなギラついた瞳を向けてくるが、その槍は向けられない。
しかし今回は聖杯が足元にも及ばないからと説明して拒否するのであれば令呪を使って破壊させ、サーヴァントも自然消滅させようと考えていたので予想外である。
と言うのも、きっとランサーは考えた2つのどちらを実行した瞬間に攻撃して来るだろう。
故に令呪をすぐに使って"アーチャー"だと思っている自分への攻撃を防いでおいたのだ。
今回の怪奇事件や殺人事件は、単純に聖杯戦争を起こそうとする者達が魔力を集めた為に起こっているものだと言う事は、すぐに判明した。
それもこれも大聖杯のような物がない為に器となる物に無理矢理人々から強引に魔力を吸い上げた結果であり、サーヴァント1体を召喚出来るか出来ないかの魔力残量であった。
だからこそ令呪の兆しが現れたのは好都合だと考え、失敗する事も想定して儀式を行った。
「……それを信じろと?」
「令呪があり、目の前で召喚したから私をマスターと認めろなどとは言わん。ただ状況を理解しろ」
「あー確かに聖杯にしちゃあ寄越す情報や魔力が微弱なのは理解するが……なんでテメェがマスターしてる?お前、キャスター適性があったのか?」
「…………はぁ、これから行動する上で隠しても致し方ないだろうから話そう。付いて来い」
令呪が機能してるようだが警戒は怠らずにランサーに先に地上へと続く階段を上がるように促す。
すると理解したのか、ランサーを知る者ならば彼らしからぬと表すであろう怪訝そうな表情のままランサーは大人しく階段を上がって行く。
上がった先には廃墟と言えるほどに隙間風が吹く空き家を根城とした為にランサーは部屋に上がった途端、少々驚いたような表情で、その荒れ果てっぷりを眺める。
「な、んだ?こりゃ……」
「そこのソファーは無事だ、使いたければ使いたまえ」
「は?いや、アーチャー……テメェは綺麗好きじゃなかったか?」
「掃除は確かにしようと思えば出来るが居場所がバレる可能性がある。此処は冬木でないのだ、ランサー。それと……私は君の知るアーチャーではないよ」
「冬木ではないのは薄々気付いてはいたが……どうやらややこしい状況らしいな」
遠慮なくソファーに大雑把に座りながらランサーは相棒である魔槍を肩にかけて、見据えてくる。
どうやら"アーチャーではない"と言うのが薄々魔力量や繋がったパスなどから気付いたらしく、面倒臭そうに頭をかいている。
しかし面倒なのは、こちらの方だと言いたい。
何故、一番会いたくもない彼が召喚されたのかと言う問題で頭が痛いのだ。
今の衛宮士郎に思い出の女性であるセイバーとの縁ともなったアヴァロンは無い。
それ故に誰が現れようとも冷静に行動できると考えていたのが甘かったと思い知る。
ランサーことクーフーリンが相手となると性格の相性的にほぼ合わないのは目に見えて分かりきっていた。
「あ?」
「どうした、ランサー?周りの結界に反応は無いが?」
「いや……もしかしてテメェ、坊主、か?」
簡易的に入れた珈琲を飲んでいると突然、何かに反応するようにランサーが立ち上がるので目を向けると何処か困惑した、困ったような眼差しを向けてきていた。
どうやら完全に繋がったパスによる魔力供給で気付いてしまったらしい。
ならば諦めるしかないと、ため息を吐いて白状する。
「あぁ、そうだとも……君の嫌いなアーチャーの真名はエミヤ、その元となるのが私、衛宮士郎……ただの凡人だ」
「凡人、ねぇ……どうやって英霊になった?」
「アラヤとの契約により霊長の守護者となったのだ。正確には英霊ではない」
「正確には~なんてどうでもいいが……そうか、アラヤか」
白状した言葉にランサーは目を細めながら近付いて来たかと思うと手元から珈琲を奪い去って、荒れた部屋中を確かめるように見て回るとランサーは奪った珈琲を飲みながら褒めてきた。
「あの坊主が此処までの結界を作るようになるとはなぁ、やっぱり見込みはあるじゃねぇか」
「なんだ、急に……君が男を褒めるとはな」
「俺とて見込みのある奴を賞賛するくらいするっつーの」
何が楽しいのか愉快そうに笑いかけてくるランサーに慣れず、居心地の悪さを覚えながらも、説明に入ろう、と前置きをして奪われた珈琲に未練を見せる事もなく本題を切り出した。
今から話す事柄に納得できないと言うのであれば隙を見て、令呪による強制的に器を破壊すると言う目的を達成させる事になる。
つまり仲間でありながら敵でもあると言う事になる。
それは聖杯戦争に参加するサーヴァントとマスターの関係の形の1つではあるだろうが、生憎と衛宮士郎にそんな経験はなかったので避けたい気持ちはあった。
故に少々、緊張した面持ちであったが答えは安易なものが返ってきた。
「今回の戦いは聖杯戦争とはいえない物だが危険なのは変わりない。私は依頼で解決せねばならないが、君はこの契約に納得したかね?」
「元より拒否権のある立場じゃねぇし、俺は誰がマスターであろうと命令には従うだけだ」
「そう…か…ならば、これで契約は成立だな」
そのアッサリとした物言いと態度に少し戸惑ったが元々ランサーと言う男の在り方がそうなのだったと何処か懐かしく感じながら新しく自分の分の珈琲を入れていると、あっ!と言う声を上げてランサーは思い出したかのように笑って訂正を1つ口にしてきた。
「そうそう、1つだけ訂正しときてぇ事がある」
「なんだね?何も不備はないと思うが?」
「俺は"アーチャー"を"嫌ってる"んじゃなくて"いけ好かねぇ"だけだ」
「…………はぁ?」
言われた理解し難い言葉に頭が再び痛くなるのを感じ、思わず声を低くして眉間に力が入るのを自覚しながらも治す事はできない。
何故、そんな些細な事にランサーが拘るのかが分からなかった。
いや、本当は何処かランサーからの慣れない言葉の数々に動揺していたとも言えるのだろうが、己の心の在り方すら不器用な男は気付かない。
されどランサーとて、その違いを正すような性格ではない為に困惑した様子にケラケラと楽しげに笑いながら近付いてくる。
「だーかーら!俺は別にテメェを嫌ってねぇって言ってんだろ?」
「待て、何故にそこを訂正する必要がある!」
「まぁまぁまぁ!よろしく頼むぜ?マ・ス・タ・ァー?」
「…………はぁ、もういい。君こそせいぜい役に立ってみせろ、ランサー」
馴れ馴れしく隣に座ってきたかと思えば、肩に腕を回してきて、妙な所に拘るランサーを不思議に思いながらも腕を振り払う程に敵意を表す必要がないので放っておく。
しかし正直、ランサーが味方なのは心強いのだが、それと彼との因縁は話が別である。
そしてつくづく英霊エミヤだけでなく、そもそも衛宮士郎と言う人間にクーフーリンは縁が出来てしまっているらしいと痛感させられた。
旧知の間柄、年来の知己ではないが縁は切ろうとしても切れぬ程に深い。
人はそれを腐れ縁と呼ぶ。
そして今回の縁も切れそうになかった。
END