他CP

世間一般における小説家と言う人種は人格者や博識であると思われる傾向があるが、それは全くの誤解であるとハッキリ言わせてもらう。
私はアーチャーと言うネームを使う事で個人情報を守りつつ家政婦をしているが、勤め先となる家の独身の男を見ていると全くもって人格者とはほど遠いと痛感させられた。
その事実を知る羽目になった3日前。
白を基調とした大型の高級マンションの最上階の部屋のインターホンを押した所から既に始まっていた。

「カルデア何でも相談所から来ました。キャスター・クー・フーリンさんのお宅でしょうか?」
『あ?何でも相談所?…………あー……プロトの言ってたのはこれか、今出るから待ってろ』

そのインターホン越しに聞いた声は随分と疲れて掠れたような声だったので、不思議に思っていると扉が開かれて対面した瞬間、驚いた。
まさか現代社会の真っ昼間から青髪の原始人かと思うようなボサボサの頭、何日家から出てないんだと思わせるような透き通るような肌の白さを持った高身長の男が現れたのだから。
声と程よく鍛えた身体、そして何よりも目を引く意思の強い瞳が無ければ亡霊にすら見間違えていただろう。

「どうぞ、汚いけど入ってくれ」
「それでは失礼し、て……うわぁ……」

言われるままに原始人の後に着いて部屋に入ると、思わず声が出る程の惨状が目の前に広がっていたのだ。
家政婦としてどうかと思われそうだが高級マンションの部屋とは思えないほどの様々なコンビニの袋、弁当、ペットボトル、何やら文字の書かれた紙、写真などが捲られている雑誌やファイルの山、山、山。
床のフローリングが獣道みたいに見えているようなゴミ屋敷を見たら誰だって声が出る筈だ。
むしろ私はこの部屋で暮らしている神経を疑うし、腐敗臭がしなかった奇跡に驚くばかりだ。

「悪いけど原稿の大詰めで二徹……あれ?三徹か?まぁ、徹夜続いてたから原稿と資料以外のコンビニのゴミとか片付けてくれねぇ?俺、風呂入るから」
「あ……分かりました」

私よ、よくぞ此処で返事が出来たぞ。
そして依頼人が風呂に入ってくれて良かった。
本当に良かった。
どうやら徹夜して部屋に篭ったからこその惨状だったのだと思う反面、徹夜したからと言ってフローリングが獣道にはならないだろうと思いつつ、私は仕事に取り掛かった。
キャスターから言われた通りに原稿や資料と思わしき物はまとめて分けるだけにして、明らかにゴミだと分かる物を分別してゴミ袋へと入れていく。
その後は箒と掃除機で埃を吸い取り、雑巾をかける事にした。
初日から雑巾や洗剤などを詰めた掃除セットを持ってきて正解だし、家政婦でなければやっていないな……。
などと失礼な事を考えつつも、フローリングが普通の部屋と同じくらいに見えて見違えったと自負できる程に仕上がった後は言われていないので正座をして待つ事にした。
本当ならばキッチンなども酷い有様だろうから掃除したいが言われていない事をするべきではない。
ここまで来たら私に頼んでくれないだろうか……などと考えていると脱衣場と思われる所から別人かと思う程の美丈夫が現れた。
依然として目の下のクマは合ったが入浴した事で血行が良くなり顔色も明るく、青空を思わせる鮮やかな青髪は濡れた事で美しさや艶やかさが増して色気となっている。

「ん?目を丸くしてどうした?」
「いや、先程と違い見違えったなぁと……って、すいません!」
「はっ、別に気にしてねぇよ。それより部屋の方が見違えてるじゃねぇか!原稿とかもまとめてるだけみてぇだし……あんがとさん」

などと礼を言ったりして、むしろ良い依頼人のように見えるだろう。
その後、プロトと言う弟が頼んだだとか、私はアーチャーと言うネームだと自己紹介をしたり、今日の家政婦として雇われたと伝えて仕事の内容を伝えて貰った。
しかし、ここまでは良かったのだが問題が起こったのは夕方に差し掛かった頃だと思う。

キャスターが切迫した様子で突然、仕事部屋だから余り近寄るなと言われた部屋を勢い良く出てきた。
私は左側の顔を交通事故で硬直している為に驚いても少々、引き攣るのだがキャスターから告げられた言葉を考えると関係ないように思える。

「おい、アーチャー」
「え……なんですか?」
「ちょっと口を貸せ」
「は?っんん!?」

キャスターと言うか小説家かと言う人種が変わっているのだろうか?
いきなり胸倉を掴んで引き寄せてきて驚いていたせいで開いていた口には、理解したくないがヌルリと生暖かく柔らかな感触が舌に触れる。
しかも相手本位なのがいけないのだろう。
無遠慮にキャスターの舌は、私の舌を捕まえたかと思うと絡めてきて、じゅっ、ぬちゅと水音が間近に聞こえてくるので耳を塞ぎたくなった。

「ちゅ、ふ、ぁっ!」
「ん……」

あまりにしつこいので、舌を奥へ引っ込めても上顎を舐め取られて力が抜けて、自覚したくもない甘い刺激に身体が震える。
それなのに逃げようと抵抗しようとしても口付けにより力は抜けて、キャスターに両腕は抱き込まれる事で腕の自由は無くなった。
例に漏れず、力が抜けているせいで足はガクついてキャスターに抱き込まれている事で逆に立っていると言う事実が悔しくてならない。

「っふぁ、んん、んー!」
「っぅ!いってぇ……」

せめてもの抵抗にと軽くキャスターの舌を噛んでみると、血は出なかったが痛みにより咄嗟にキャスターが身を離した事で解放された。
だが情けない事に足の力は、すぐには戻らずに私は頼りなさげにソファーに身体を預ける。
今は、そのソファーの質の高い触り心地や座り心地すら腹立たしい。
何故ならば先程のキャスターからの口付けは、私のファーストキスだったのだから。
そのせいだったのだろうか。
私は思わず仕事で依頼人である事を忘れて、顔に熱が集まっているのも気にせずキャスターに怒鳴っていた。
だが私のこの怒りは正当な筈なので許して欲しい。

「貴様!何、考えてるんだ!!!」
「……ふむ」
「ふむ、じゃない!!!」

キャスターは何やら暫く考え込んだかと思うと私の抗議など風の音くらいにしか感じないのだろう。
顔色も変えずに踵を返して部屋へと戻ろうとしていた。
あまりの態度に思わず、私は肩を掴んでいたがキャスターから告げられた言葉に後ろから殴られたのかと思うほどに衝撃を受けた。

「ちょっ!聞いてるのか!?」
「今から執筆するから邪魔すんな。あー辞めたかったら別に辞めて良い、文句は頼んだ奴の所な」
「な!?」
「あ、そうそう」

ポーカーフェイスを自負している私ですらキャスターの何食わぬ態度に目を身開いて驚いていると、キャスターはそんな私を嘲笑うかのように木々の木漏れ日のような美しく優しい笑顔を向けて。

「アーチャーお前、そっちの喋り方の方が合ってるぜ」

などとほざいてくれやがった。
その後の事はうろ覚えだが、上司であるロビンフッドから困惑した表情で。

「アンタも運が無いですねぇ。なんか家政婦事務所つーの?そういう界隈だと珍しくブラックリスト入りしてる位の問題児らしくて……まぁ、今回は断っておきますわ」

と遠回しに珍しく気遣って貰ったが私からすると冗談じゃない。
人のファーストキスを奪っておいて只で済むと思われては私のプライドが許さない。
結局、私はその後もキャスターの家政婦と言える立場で世話をして、キャスターに復讐する機会を伺っている。
手始めに彼の弱みを見つけてみようと思うが、私は心に傷を負ったとも言えるので彼のプライドが傷付くような事が良い。
私にもやれる事ならば男にフェラで達するなんて、あのプライドが高そうなキャスターには効果的だろうか?
そんな事を考えながら、私は今日もキャスターのリクエストに答えて自慢の腕で料理に取り掛かる。
いつか見ていろ!必ず復讐を成し遂げてみせる!!!


END
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