こえ惚れ
「なぁ、アンタ衛宮士郎の兄貴だったんだな?」
「え……?あ、あぁ、まぁな」
親交があったのか、何処にでも顔を出して不用意に関わるので士郎は心配になったのが率直な気持ちだった。
藤ねぇの心配する気持ちは同意しかない。
だが同時に納得もしていた。
私の事を嫌っている彼が話しかけてくるなど中々有り得ない。
普段の数少ない交流など私からの注意くらいなのだから。
「やっぱりか、あの話は聞いてるか?アニメの奴だ」
「……勿論」
なら、ちょっとついて来てくれ、と腕を引かれては付いて行かない等と言う選択肢をさせて貰える筈もなく引き摺られるように体育館裏へと連れて来られた。
あぁ、三限目のチャイムが遠くに聞こえるが彼は離す気など無いと寡黙に訴えるかのようにギリッと力を更に込めてきた。
確か彼は陸上部だったかと思うのだが意外と豆のできた手のひらを感じて胸が苦しくなるのを私は息切れのせいなどには出来なかった。
しかし切なくも楽しい時間と言うのは終わるのも唐突でアッサリと着いた体育館裏の倉庫入り口に彼は座り込んだ。
どうやら話は長くなるようなので授業への参加は諦めるべきなのだろう。
「此処ならいっか」
「はぁ……それで私に何か用なのか?授業をサボらせる位なのだから相応の話だろうな?」
「……っぶはっ!!!」
「なっ!!?」
緊張から早く話を切り上げたい私から話を切り出したのが不味かったのだろうか?
クーフーリンはポカンと驚いた表情の後に笑い出してしまったのだ。
全くもって意味が分からない。
すると私が不服なのが伝わったのだろうか、クーフーリンは軽い詫びの言葉と共に事情を話し始めた。
「あー……悪いな、予想以上に"アーチャー"と声も喋り方も同じだったもんで可笑しくなった」
「なんだそれは、失礼だな。用がないなら」
「いや、それはある」
そして彼は話し始めたのだがアニメ化の話は勿論、事前に説明を受けており承諾したらしいのだが、どうも話の雲行きが怪しくなってきているように感じる。
普段のクーフーリンならば早々に本題の話に入り、私が相手なら尚の事、話を早く終わらせる筈なのだ。
だと言うのに話しかけてきたアニメの話は少ししてきただけで後は休日は何をしているのか、誰とよく居るが何故なのか?など刑事ドラマでも見たのかと思わせる程に彼は日常的だが私達の関係性から想像すると実に異質な状態で会話を延々と続けていた。
別に不快な訳ではない。
寧ろ私としては夢のような状況であったとも。
しかしだからこそ違和感をどうしても覚えてしまい、尋ねずには居られなかった。
どうして教室へと戻ろうとすらする私を彼は引き止めるような真似までして話し続けるのかを。
「あー……応、そうなんだが…」
「なんだ?歯切れの悪い、これは君自身が招いた事なのだから私に相談しようとも解決などしないぞ」
「はぁ、うん、やっぱりダメだわ!俺、まどろっこしいのは好きになれねぇ!!!」
「ちょ、だからなんなんだ!突然!」
驚きはしたが化けの皮は剥がせたらしい。
覇気がなく、眠そうと言うか暇そうにすら感じられた彼が叫びながら勢い良く立ち上がるとワシャワシャと頭を荒々しく掻く。
一体どんな企みがあって私を体育館裏まで連れてきたのだろうか?
彼は多勢に無勢で喧嘩する陰湿な質ではないし、何より気に食わないからと暴力に訴えるような人間ではない事くらい承知している。
それは伊達に彼に恋心を抱いては居なかったと言うのもあるが、彼のそんな無鉄砲に見えて意外と冷静な所を尊敬しているのだから当然だ。
ただ同時にだからこそ私を連れ出したりした事が理解できない。
などと一人でグルグルと頭の中で慌ただしい私を一言で彼は鎮めた。
もとい沈めてきた。
「正直に言うとさ、すげぇ興味あるんだよ!」
「……は?え?」
「お前、俺には注意ばっかりだし親しくしようにも二言目には文句だし……アニメのはいい機会だと思ってよ、話しかけてみるかと思ったんだ悪いか!って、おい!エ、エミヤ!?」
遠くでクーフーリンの焦る声がするが知った事ではない。
こちらは彼から告げられた言葉の意味があまりに衝撃的で処理し切れずに夢なのだと頭が勝手にシャットアウトしようとしてるんだ。
まぁ、ようは気絶しようとしているだけだが。
意識が闇に沈む直前、少し申し訳なくなった。
もし此処で倒れては彼に対して、あらぬ誤解が生まれて彼に迷惑だけはかけたくないと思った。
だが次に目を覚ますと目に入ったのは嫌と言うほど知っている自室の天井と嫌と言うほど扱き使わってくる幼馴染の声であった。
「あら、おはようユミ、もう夕方よ」
「っうぁ?り、ん?どうして私は……」
「朦朧としてるのね、アンタ知恵熱なんて出して倒れたのよ?」
「あ、そうか……ってクー!彼は!」
「はいはい!落ち着いて!聞きたいことは分かってるから!」
あぁ、どうしてこうなったのだろう……。
しかし今月はもしかしたら災厄が私に降り掛かっているのかもしれない。
あまつさえ学校のアイドルである遠坂凛に看病させたと学校で騒がれるのは目に見えている上に、まず凛に借りを作ってしまった。
一体どんな要求をされるやら……ただただ軽いトラウマで済ませて貰いたいものだ。
「ねぇ、何か失礼な事を考えていないかしら?」
「いいや、全く…それよりもすまなかった、どうやって私を運んだんだ?」
「あぁ……ふふっ、それはね」
どうしよう、聞きたくない。と凛の満面の微笑みで直感的に察したが彼女の口を抑える訳にもいかないまま私は処刑台のギロチンを降ろされた。
曰くランサーことクーフーリンがわざわざ運んでくれたそうなのだが。
何故か保健室までお姫様抱っこ、その後に家までおんぶと言うフルコースだそうだ。
うむ、死にたい。
しかしそんな自暴自棄になろうとしている私には慣れている凛は、寝起きの私にも分かるように説明してくれた。
どうやら彼の言葉にキャパシティオーバーした私は知恵熱で倒れて保健室にクーフーリン、何故か凛はランサーと作中の名で呼んでいるが彼のお陰で早めの治療をして貰えたそうなのだが私は目覚めず。
保健医の判断で救急車も呼ぼうとされかけたらしいが士郎や凛が大丈夫だからと否を唱えてくれたお陰で大事の騒ぎにはならなかったらしい。
良かった、大騒ぎになれば海外の切嗣やアイリスフィールが我儘を言って逆に大事になりかねない。
だが、そこで何故かクーフーリンは責任感を感じて私を運ぶ事を提案してきたらしい。
士郎はまだ成長途中で体格的に不安であるし、凛は女性なので論外だったし何よりランサーは体格も良ければ力もあるからと何の反論もなく承諾してしまったらしいのだ。
全くもって私の意志は無視なのかと言いたい!
彼にそんな事をされたなど、どの面を下げて現れればいいと言うんだ。
すると彼女には私の考えている事などお見通しなのだろう。
どこ吹く風である漫画を手渡してきた。
「まぁまぁそんなに落ち込まないでコレでも読んで気分転換でもしたら?結構、面白いわよ、ふふ」
「そうなのか……って!!!凛、君な!男になんて物を渡すんだ!」
「え?だってアンタ、ランサーの事、好きでしょ?」
「ごはっ!?ゲボッ、ゴフッコホッ!!!」
やっだ!汚いじゃない!早く拭きなさい!などと言っている場合か、この赤い悪魔。
どう見ても表紙は絵柄が大分違っているが明らかに”ランサー”と”アーチャー”であったし英語で表記となっていたりして嫌な予感がしたが開いてみると私とクーフーリン、と言うよりも”ランサー”と”アーチャー”がキスしていた。
慌てて裏表紙を見ても分からないので作者の後書きを流し読みするとボーイズラブの文字を見つけて顔が熱くなり、羞恥からなのか怒りからなのか分からなくなる。
だと言うのに私にとんでもない物を見せてきた悪魔は何処吹く風で士郎が淹れたらしい紅茶を啜った後、とんでもない事実を告げてきた。
くそ、どうして気付いてしまったのだ。
自分としては上手く隠せていたと思っていたのに。
「大丈夫よ、きっと周りの人間で気付いているのは私だけよ」
「そう、なのか?」
「確認なんて取れないけれどね、だからユミ…いえ、アーチャー」
少しはランサーを好きって気持ちを大切にしても良いんじゃないかしら、と話す彼女の声色のなんと甘美なことだろう。
いつの間にか私の愛称となるであろうアーチャーと言う呼び名はまだ慣れず、何処までも夢のようではあった。
あぁ、しかし読まないと確かに思うのに目の前のページを捲る事を止められそうにない。
その時は焦燥感や羞恥心が頭の中を渦巻いており、気付きもしなかったのが。
あまりにもクーフーリンに、ランサーに恋した私は本の中のアーチャーの心境に胸が苦しくなって既に共感し始めていたのだから。
……to be continued.
「え……?あ、あぁ、まぁな」
親交があったのか、何処にでも顔を出して不用意に関わるので士郎は心配になったのが率直な気持ちだった。
藤ねぇの心配する気持ちは同意しかない。
だが同時に納得もしていた。
私の事を嫌っている彼が話しかけてくるなど中々有り得ない。
普段の数少ない交流など私からの注意くらいなのだから。
「やっぱりか、あの話は聞いてるか?アニメの奴だ」
「……勿論」
なら、ちょっとついて来てくれ、と腕を引かれては付いて行かない等と言う選択肢をさせて貰える筈もなく引き摺られるように体育館裏へと連れて来られた。
あぁ、三限目のチャイムが遠くに聞こえるが彼は離す気など無いと寡黙に訴えるかのようにギリッと力を更に込めてきた。
確か彼は陸上部だったかと思うのだが意外と豆のできた手のひらを感じて胸が苦しくなるのを私は息切れのせいなどには出来なかった。
しかし切なくも楽しい時間と言うのは終わるのも唐突でアッサリと着いた体育館裏の倉庫入り口に彼は座り込んだ。
どうやら話は長くなるようなので授業への参加は諦めるべきなのだろう。
「此処ならいっか」
「はぁ……それで私に何か用なのか?授業をサボらせる位なのだから相応の話だろうな?」
「……っぶはっ!!!」
「なっ!!?」
緊張から早く話を切り上げたい私から話を切り出したのが不味かったのだろうか?
クーフーリンはポカンと驚いた表情の後に笑い出してしまったのだ。
全くもって意味が分からない。
すると私が不服なのが伝わったのだろうか、クーフーリンは軽い詫びの言葉と共に事情を話し始めた。
「あー……悪いな、予想以上に"アーチャー"と声も喋り方も同じだったもんで可笑しくなった」
「なんだそれは、失礼だな。用がないなら」
「いや、それはある」
そして彼は話し始めたのだがアニメ化の話は勿論、事前に説明を受けており承諾したらしいのだが、どうも話の雲行きが怪しくなってきているように感じる。
普段のクーフーリンならば早々に本題の話に入り、私が相手なら尚の事、話を早く終わらせる筈なのだ。
だと言うのに話しかけてきたアニメの話は少ししてきただけで後は休日は何をしているのか、誰とよく居るが何故なのか?など刑事ドラマでも見たのかと思わせる程に彼は日常的だが私達の関係性から想像すると実に異質な状態で会話を延々と続けていた。
別に不快な訳ではない。
寧ろ私としては夢のような状況であったとも。
しかしだからこそ違和感をどうしても覚えてしまい、尋ねずには居られなかった。
どうして教室へと戻ろうとすらする私を彼は引き止めるような真似までして話し続けるのかを。
「あー……応、そうなんだが…」
「なんだ?歯切れの悪い、これは君自身が招いた事なのだから私に相談しようとも解決などしないぞ」
「はぁ、うん、やっぱりダメだわ!俺、まどろっこしいのは好きになれねぇ!!!」
「ちょ、だからなんなんだ!突然!」
驚きはしたが化けの皮は剥がせたらしい。
覇気がなく、眠そうと言うか暇そうにすら感じられた彼が叫びながら勢い良く立ち上がるとワシャワシャと頭を荒々しく掻く。
一体どんな企みがあって私を体育館裏まで連れてきたのだろうか?
彼は多勢に無勢で喧嘩する陰湿な質ではないし、何より気に食わないからと暴力に訴えるような人間ではない事くらい承知している。
それは伊達に彼に恋心を抱いては居なかったと言うのもあるが、彼のそんな無鉄砲に見えて意外と冷静な所を尊敬しているのだから当然だ。
ただ同時にだからこそ私を連れ出したりした事が理解できない。
などと一人でグルグルと頭の中で慌ただしい私を一言で彼は鎮めた。
もとい沈めてきた。
「正直に言うとさ、すげぇ興味あるんだよ!」
「……は?え?」
「お前、俺には注意ばっかりだし親しくしようにも二言目には文句だし……アニメのはいい機会だと思ってよ、話しかけてみるかと思ったんだ悪いか!って、おい!エ、エミヤ!?」
遠くでクーフーリンの焦る声がするが知った事ではない。
こちらは彼から告げられた言葉の意味があまりに衝撃的で処理し切れずに夢なのだと頭が勝手にシャットアウトしようとしてるんだ。
まぁ、ようは気絶しようとしているだけだが。
意識が闇に沈む直前、少し申し訳なくなった。
もし此処で倒れては彼に対して、あらぬ誤解が生まれて彼に迷惑だけはかけたくないと思った。
だが次に目を覚ますと目に入ったのは嫌と言うほど知っている自室の天井と嫌と言うほど扱き使わってくる幼馴染の声であった。
「あら、おはようユミ、もう夕方よ」
「っうぁ?り、ん?どうして私は……」
「朦朧としてるのね、アンタ知恵熱なんて出して倒れたのよ?」
「あ、そうか……ってクー!彼は!」
「はいはい!落ち着いて!聞きたいことは分かってるから!」
あぁ、どうしてこうなったのだろう……。
しかし今月はもしかしたら災厄が私に降り掛かっているのかもしれない。
あまつさえ学校のアイドルである遠坂凛に看病させたと学校で騒がれるのは目に見えている上に、まず凛に借りを作ってしまった。
一体どんな要求をされるやら……ただただ軽いトラウマで済ませて貰いたいものだ。
「ねぇ、何か失礼な事を考えていないかしら?」
「いいや、全く…それよりもすまなかった、どうやって私を運んだんだ?」
「あぁ……ふふっ、それはね」
どうしよう、聞きたくない。と凛の満面の微笑みで直感的に察したが彼女の口を抑える訳にもいかないまま私は処刑台のギロチンを降ろされた。
曰くランサーことクーフーリンがわざわざ運んでくれたそうなのだが。
何故か保健室までお姫様抱っこ、その後に家までおんぶと言うフルコースだそうだ。
うむ、死にたい。
しかしそんな自暴自棄になろうとしている私には慣れている凛は、寝起きの私にも分かるように説明してくれた。
どうやら彼の言葉にキャパシティオーバーした私は知恵熱で倒れて保健室にクーフーリン、何故か凛はランサーと作中の名で呼んでいるが彼のお陰で早めの治療をして貰えたそうなのだが私は目覚めず。
保健医の判断で救急車も呼ぼうとされかけたらしいが士郎や凛が大丈夫だからと否を唱えてくれたお陰で大事の騒ぎにはならなかったらしい。
良かった、大騒ぎになれば海外の切嗣やアイリスフィールが我儘を言って逆に大事になりかねない。
だが、そこで何故かクーフーリンは責任感を感じて私を運ぶ事を提案してきたらしい。
士郎はまだ成長途中で体格的に不安であるし、凛は女性なので論外だったし何よりランサーは体格も良ければ力もあるからと何の反論もなく承諾してしまったらしいのだ。
全くもって私の意志は無視なのかと言いたい!
彼にそんな事をされたなど、どの面を下げて現れればいいと言うんだ。
すると彼女には私の考えている事などお見通しなのだろう。
どこ吹く風である漫画を手渡してきた。
「まぁまぁそんなに落ち込まないでコレでも読んで気分転換でもしたら?結構、面白いわよ、ふふ」
「そうなのか……って!!!凛、君な!男になんて物を渡すんだ!」
「え?だってアンタ、ランサーの事、好きでしょ?」
「ごはっ!?ゲボッ、ゴフッコホッ!!!」
やっだ!汚いじゃない!早く拭きなさい!などと言っている場合か、この赤い悪魔。
どう見ても表紙は絵柄が大分違っているが明らかに”ランサー”と”アーチャー”であったし英語で表記となっていたりして嫌な予感がしたが開いてみると私とクーフーリン、と言うよりも”ランサー”と”アーチャー”がキスしていた。
慌てて裏表紙を見ても分からないので作者の後書きを流し読みするとボーイズラブの文字を見つけて顔が熱くなり、羞恥からなのか怒りからなのか分からなくなる。
だと言うのに私にとんでもない物を見せてきた悪魔は何処吹く風で士郎が淹れたらしい紅茶を啜った後、とんでもない事実を告げてきた。
くそ、どうして気付いてしまったのだ。
自分としては上手く隠せていたと思っていたのに。
「大丈夫よ、きっと周りの人間で気付いているのは私だけよ」
「そう、なのか?」
「確認なんて取れないけれどね、だからユミ…いえ、アーチャー」
少しはランサーを好きって気持ちを大切にしても良いんじゃないかしら、と話す彼女の声色のなんと甘美なことだろう。
いつの間にか私の愛称となるであろうアーチャーと言う呼び名はまだ慣れず、何処までも夢のようではあった。
あぁ、しかし読まないと確かに思うのに目の前のページを捲る事を止められそうにない。
その時は焦燥感や羞恥心が頭の中を渦巻いており、気付きもしなかったのが。
あまりにもクーフーリンに、ランサーに恋した私は本の中のアーチャーの心境に胸が苦しくなって既に共感し始めていたのだから。
……to be continued.
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