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ニャンコ系エミヤ

そんなゴタゴタがありつつもアーチャーは、たまに何処かへ出掛けたりしていたが帰ってきていたので結果は乏しいようで何処か疲れたような表情だった。
しかし、それでもアーチャーは家事に手を抜く事も無く、猫の姿をたまに見せながら休んでいた。
アーチャーのそんな様子に流石のランサーも無関係ではないので何かしてやろうか、と考え始めた頃に携帯の滅多に連絡しない申し訳程度に入れられた兄のメールアドレスへに向けて文章を打っていた。

そしてメールから数日後に部活終わりにメッセージ付きの小さな箱が届き、そのメッセージカードを読み終えた頃。
アーチャーがタイミングよく買い物から帰ってきていたので、ランサーは箱から取り出した三日月型のネックレスをアーチャーへと差し出した。

「ほれ、やるよ」
「これは?」
「兄貴から遅れたプレゼントだって書いてるが、なんか気味悪いからお前が付けとけ」

なんとも実の兄に対して辛辣で失礼な言葉を発するランサーに対してアーチャーは、キョトンとした表情でネックレスとランサーを見比べた後、徐々に暗い表情へとなっていったアーチャーは沈んだ声で受け取りを拒否した。

「それは受け取れない……」
「どうした?あ、またテメェの事だから貰い物だから自分で付けろとか言うんだろ?言っとくが俺の兄貴はそんな優男じゃねぇぞ?絶対に何かある」
「いや、それもそうだが違う。その……我々にとって装飾品を受け取る事は二段階目の契約なので……」

久しぶりに聞いた契約と言う言葉に、またそれか……と何処か肩が重くなり疲れを感じながらもランサーはアーチャーの話を聞く。
つくづく自分は面倒な事に巻き込まれたのだ、と再確認しながらもガタイの良い身を丸めて、いつものような覇気はなりを潜めて顔を俯かせるアーチャーの様子が気になった。
どうやら名前を知られるのとはレベルが違うのだろう、と言う事は察する事が出来たが魔術に関して分からないランサーは思っていた事を口にする。

「別に良いだろ、契約くらい」
「君は思い違いをしていそうだから言うが我々にとって契約は、魂を縛るものだ……そして君の魂も契約により制約が生じるんだぞ?」
「ふーん」
「真面目に聞いているのか!ランサー!」

なんともランサーからすればファンタジー過ぎて現実味に欠ける内容である為、いつもより皺を寄せて顔色の悪いように見えるアーチャーに対して不思議に思う。
正直、アーチャーから魂を縛ると言われても魂など見えるものではないし、自分の身を案じるような様子であるアーチャーであるが猫に戻って人の姿に慣れなくなった。
と言う事態は、最初の一回目以降も結局は、何回も起こっていたのだ。
故にランサーからすれば、俺よりも自分の身を案じるのが先ではないのだろうか?と思えてならなかった。
ならなかったが指摘した所で素直に話を聞く男でない事は、ここ数日、過ごしていて嫌と言う程、理解させられていたので話をすり替えるように尋ねる事にした。

「じゃあ聞くが具体的にはどうなんだよ?」
「そうだな。とりあえず魂は契約の呪縛を受けて契約相手である魔物に契約が切れるまで魔力を与え続ける」
「なるほどな、いちいちキスとかしなくて済む訳か」
「ぶっ!!!」
「なんだよ!?何、急に吹き出してんだ?」

なんとも呆気なく自分と猫の姿の時だけとはいえ、キスしていると言ったランサーに思わず動揺してしまい、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
魂を縛る契約は契約の中でも最高位にあたる高等魔術になる。
それをランサーに説明し、安易に装飾品を自分に渡す危険性を実感させるのは難しいだろうと頭を悩ませていたが、それも吹っ飛んだ。
人が大切な話を話しているのに着眼点が何故、あまりに触れて欲しくない所に触れてくるのかと頭が痛くなった。
しかし必要な事は話せたのでアーチャーは一刻も早く話を切り上げたいと思えた。

「い、いや…兎も角、二段階目の契約で魔力供給を確保する。これには続きがあるが、この先は君には関係の無い事だろう」
「なんか途中で切られると気になるが……ま、いいぜ。てめぇが話したくねぇなら聞かねぇよ」
「その心意気には感謝する。君も聞いても気分の良いものではないからな」
「なんだよ。そこまで言われると聞きたくなるだろうが!振りか?」
「違うわ、たわけ!」

ニヤニヤと腹が立つ表情で茶化してくるランサーに怒りを通り越して呆れてき始めたアーチャーは、何処まで行ってもこの男に魔術に関する説明をしても真面目に受け取って貰えないのだろうかと思うようになってきた。
そんな風に悩んでいた頭を冷やしながら今日の夕飯でも作ってしまおうとした時だった。
しかし立った瞬間にアーチャーは、凄まじい勢いで腕を掴まれたかと思うとランサーの隣へと引き寄せられていた。
アーチャーは思わず、魔物である自分を難なく引き寄せ、何よりも人であるランサーに力負けした事に驚いていた。
しかも振りほどこうとして腕を引いても、びくともしない。
そんなポカンとした表情で驚いているアーチャーに対して事の重大さに気付いていないランサーは、ニヤリと笑ってネックレスを目の前に差し出して尋ねてくる。

「まぁ、いいわ。で!受け取るのか?アーチャー」
「う……」
「何をそんなに……あ、まさか俺からいちいち魔力貰うの待ってたとか?うーわー……引くわー」
「違うわ、たわけ!ふざけるな!!!付ければ良いのだろ!付ければ!」
「そうそう、大人しく受け取っとけ」
「ぐっ……覚えておけよ、ランサー!」

やはり自分からの魔力供給を待っていたのか?と茶化すような態度をとるランサーに、耳から頬にかけて赤みを帯びさせながらも顰めっ面を怒り顔に変えてアーチャーは全力で否定をすると目の前のネックレスをひったくるように受け取った。
そんな素直に受け取らないアーチャーに短く息を吐いて笑うと、ランサーはネックレスを握り締めるアーチャーからネックレスを取ってアーチャーの首にかけてやる。

その仕草に一瞬、アーチャーはビクリと身体を固めたが、すぐに頭を軽くランサーに向けて下げると散々、嫌がっていたが覚悟したかのような静かな表情でネックレスを付けられる事を受け入れた。

そんな次の日のバイト中だった。
ランサーにとっては、久しぶりに顔を合わせる部類の兄であり、相談した事でネックレスを送って貰った男がバイト先の喫茶店へと来店してきていた。
だが客である以上、逃げる事も出来ないと思い、ぎこちない表情で来店を出迎える。

「よぉ、ランサー」
「はぁ、何しに来やがった…キャスター」
「アレからお前が珍しく魔術に関する話を聞いてきたからな。ちゃんと渡せたか確認しに来てやった」

余計なお世話だ、と言いたくなったが会社の社長の裏で魔術関連の仕事もしているランサーの兄であるクーホリン、兄弟や親しい者からはキャスターと呼ばれているランサーよりも穏やかな表情や知性を感じさせる瞳と眼鏡、淡く美しい青髪を惜しげもなく背中に拡げて紅茶を飲む姿は様になっている。
しかし嫌と言う程、見てきたランサーからすれば面倒臭がりでサバイバル能力はあるのに生活能力の乏しい自分と変わらぬ豪傑を持つ男に乾いた笑いしか浮かばないがアーチャーの受け取る様子を報告する。

「あー適当に言いくるめて付けさせたぜ?なんだか渋っていたが」
「まぁ、魔の者たちには簡単に済ませられる物じゃねぇからな……いや、しかし言いくるめただけで、よくソイツ受け取ったな。魔物としてどうかと思うぞ」
「そんなに大層な事なのか?なんかブツブツ文句言いつつも付けてるぞ?」

魔物にしてはどうかと思うと話すキャスターの言葉に、そういえば兄貴は野良の魔物を一人拾って契約を結んで行使しているのだったか。
と脳の彼方へと追いやってしまった記憶を呼び起こしながらも、ランサーからすれば相手を探しては魔力不足に陥り、猫の姿で死んだように眠るアーチャーを放っておくのが気分が悪かっただけなのだ。
故にキャスターのように第三段階の契約をする事で本契約をするつもりはなかったが、家の家事を身を置かせて貰っているからと行うアーチャーに対して行動の制限を少しでも緩和くらいはしてやろうと思えたのだ。
それ以外の他意はないのだ、と何処か自分をランサーは決めつけていた。

「全く、お前は……もう少し真面目に魔術を使え。スカサハに散々しごかれたろ」
「あの経験は悪くなかったが面倒事は長男のテメェに任せるわ。まだ仕事中だから、じゃあな!」

契約する事の重要性を魔術の心得を会得し、分かっている筈でありながら名も知らぬ魔物と契約した弟にキャスターは、どれだけ自覚するのが怖いのかと呆れてしまった。
面倒だからと魔術に関する事には触れず、自分の槍の技術を磨く為に槍投げへと熱を入れているが恋愛経験は人の事は言えないが多いのだ。
それなのに、まるで己の気持ちを避けているようならしくない弟の姿にキャスターは笑わずにはいられず、楽しげに紅茶を楽しみにながら呟いた。

「ダメだな、ありゃ。まるで初恋をこじらせた中学生だ」



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