ニャンコ系エミヤ

そして次の日。

「ただいまー」
「ふにゃあ」
「はぁ!?なんでアーチャー猫になってんだよ!!!」

また部屋に帰るとアーチャーは猫へと変わっていたのだ。
思わず慌てて部屋に入り、鍵を締めるとランサーはアーチャーに向き直って、よく見ようと腰を落とした。
すると近寄ってきたかと思うと喉を震わせて頭突きをしてくるアーチャーに、ランサーは愛護欲のようなものを感じながら思わず手を伸ばして身体や頭を撫でてやる。
アーチャーの事なので嫌がるかと思ったが、やはり昨日のようにアーチャーは喉を鳴らして嬉しそうに撫でられる。
そんな人の姿とのギャップに思わず人の姿でも、これくらい素直なら好感も持てるのに人の姿だとどうも、この男はキザになるなぁと不思議に思う。
しかし、いつまでもアーチャーを猫にしていたら夕飯の心配があるので魔力とやらを与えようかと思う。

「ま、とりあえずまた口を付けたら戻るだろ?」
「にゃー!!!」
「あ、おい!なに逃げてやがる!アーチャー!」

何故か捕まえようとしても動物特有の猛ダッシュでアーチャーは全力で逃げた。
これにはランサーも最初は不思議だったり焦りがあったが、だんだん凄まじい逃げっぷりに闘争心が湧いてきて持ち前の運動神経で全力で追いかけていた。
すると人としてどうかと思うが無事?ランサーはアーチャーを鷲掴みにすると、腕に閉じ込めた。
アーチャーは暴れるかと思ったが観念したのか、不機嫌そうに目を細めて抗議するかのように甲高く鳴く。

「にゃーん!!!」
「たく、何を今更、嫌がって、うぉ!?」
「っランサー!」
「あ、あれ?アーチャー?なんで人になれてんだ?」

引っかかれないものの甲高く鳴くアーチャーに文句を言いたいのは俺だと言おうとすると突然、目の前が煙に覆われたかと思うと、いつもの仏頂面が腕の中にあった。
前のランサーであったら絶叫ものだったのだろうが幸いにも絶叫する事はなく、近所迷惑は回避された。
他人が見たら引くか、ネタにされたりするのだろうが幸か不幸か此処はランサーの家なので突っ込みを入れる者は居らず、シュールな光景は続く。

「試しに猫になれるかと思ってやってみたら出来たのだ。それに魔力も温存できたし過ごしやすかったので休んでいたと言うのに君と言う奴は私を追いかけ回すなど何を考えている!」
「いや、テメェは文句言う前に俺からどけよ!」
「あ……いや、す、すぐに退くに決まっているだろう!話しをすり替えるな!」
「あ……つったろ、今」

コイツ何処か間の抜けた所があるな、と呆れながらも男が自分の膝の上に乗っても動じなくなった自分にも溜め息を向けて、ランサーはいつものようにベッドへと腰掛けてアーチャーの話を聞く事にした。
そんなランサーに対してアーチャーは先程のランサーの突っ込みで怒りが動揺で塗り替えられたのか、長い小言を話した程、怒っていた割には大人しく正座で机の向かい側へと座る。

「ともかく!今後は必要最低限、猫の姿で居る。君もそちらの方が落ち着くだろう?」
「あ?別にどっちでも良い……あ、待て!猫になるな、アーチャー!」
「はぁ?」

猫の姿になる事でアーチャーは魔力を温存する事が出来るのでランサーにもメリットでしかない。
何よりランサーは元々、一人暮らしなので自分の存在は邪魔だろうとの考えからきた提案だ。
その筈であるのに、まさかランサー自身から猫になるなと言われるとは思わず、アーチャーは咄嗟にいつものポーカーフェイスを出す事が出来なかった。
そして次に言われたランサーからの台詞にアーチャーは冷や汗が止まらなくなった。

「俺が構い倒すぞ」
「待て」
「いやー前から動物は飼いたいとは思ってたんだがな」
「おい」
「犬派なんだが……ま、お前が俺に構い倒されても良いなら猫の姿で居ろよ」
「分かった。猫の姿は控えよう」

まさかランサーがアーチャーをペットとして可愛がると宣言してくるとは思っていなかったが、アーチャーはとりあえず猫の姿は控えるとしか言えなくなっていた。
ジリジリと手を伸ばしながら近付いてくるランサーに手をかざして止めるようなポーズを取って、壁に背がぶつかった時にはアーチャーは押し負けた。
それだけランサーの捲し立てる勢いに負けたのだが、ランサーはランサーで何故、自分がアーチャーを猫の姿にしたくないのか困惑していた。
だが、よくよく考えると猫用の用品を買い揃えなければならないのではないか?そりに人の姿のアーチャーでなければ美味い飯にもありつけないよな、と自己解決させて、ランサーは何処か自分を誤魔化すように切り替えた。
そうでもしなければランサーは内心、錯乱しそうな程、動揺しており自分がらしくない事を言っているのは分かったが、美味い飯の為なら良いだろうと思えた。

「なら話は終わりだなー。俺、今日は風呂早めに入るわ」
「む、仕方ない……猫の時は放っておいて貰うぞ!」
「あーその時によるな」
「ランサー!!!」

背中から何やら抗議の声が聞こえてくるが脱衣場で服を脱ぎ始めた頃には、抗議の声も消えてトントンと小気味よい音が聞こえてきていた。
そんな律儀なアーチャーに、いつの間にかランサーは脱衣場にあった洗面台の鏡で自分が楽しそうに微笑んでいた事に気付いた。
その自分の表情に思わずランサーは固まってしまい、慌てて温かくなる前の冷たいシャワーを頭から浴びて頭を冷やした。
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