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ニャンコ系エミヤ

猫と言っていいのか人と言っていいのか分からない男、アーチャーとの共同生活が始まって一週間ほど。
家主であるランサーは、すっかりアーチャーに胃袋を掴まれていた。
服もまともに着れないくせに、どうしてこんなに作る飯は美味いのかと頭を傾げるが深くは追求しなかった。
元々のランサーの性格なのか、アーチャーの事情など特に探る気はなかったのだ。
むしろ感謝する気持ちすらあった。
無理矢理に住むことになって、すぐアーチャーは生真面目なのだと分かった。
何故なら洗濯をしないのか?だの片付けないのか?だとか聞きまくってきたのだ。
気になるなら勝手にしろ、といちいち確認してくるのが面倒になって丸投げしたら部屋は見違えるように綺麗で清潔になった。
別に特別に汚かった訳では無いが、服の出しっぱなしだとかがアーチャーによって無くなっていたのだ。
正直、家政婦でも自分は拾ったのかと思ってしまったが一週間も経つと、人間と言うのは慣れてしまうらしい。
そして今日も、ただいまの言葉と共にランサーは我が家へと入る。

「ただいまー」

ここ最近で習慣となった、おかえりの言葉は返って来なかった。
出掛けているのか?とも一瞬、考えたがランサーが学校やバイトで帰ってくる時間帯にアーチャーは今の所、必ず出迎えの言葉をくれていたので不思議と違和感を感じる。
そんな自分に随分とあの男に慣れてしまったな、と苦笑いを浮かべながら家に上がると口煩く手洗いうがいをさせられる。
俺はガキか!と言ったが身体が基本だろう?と返されて頷いてしまった後は、手洗いうがいをする他なかったのだが洗面台へと行く際にキッチンを見た。

なんて事は無い理由で今日の夕飯は何だろうかと思っただけだ。
するとトマトが途中で切られて放置されていた。
これには流石のランサーも困惑を覚えた。
少ないお金でアーチャーは実に美味しい料理を作ってくれており、そこに彼なりのポリシーのようなものを感じていた。
なのでトマトを切った状態で放置して家を空けるとは思えなかった。

「……なんでだ?放置する筈ねぇだろうし」
「にゃー!」
「あ?」

すると見た事のある黒猫が部屋の奥から走ってきたかと思うと、スルリとランサーの足に懐いてきた。
ランサーの借りている部屋は確かに動物を飼えるが貧乏学生にそんな余裕はない。
故に動物は飼っていなかったが心当たりは一つしかない。

「……え?アーチャー?」
「にゃーん!にゃーん!」
「おまっ!?まさか猫に戻ったのか!?」
「ふにゃー……」

動物とは分かりやすいもので落ち込んだような、か細い声でアーチャーらしき猫が鳴く。
勝手に入ってきた日、アーチャーが人の姿になった奇妙な日の事を思い出したランサーは、思わずその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
どんなに親しく過ごしていてもアーチャーは、人の姿をした魔物であると知らしめられたような気分で落ち込む。
ランサーは、そんな自分の変化に思わず驚き、しゃがみ込んでしまったのだ。

「マジかよ……」
「にゃ……」

しゃがみ込んだランサーを心配したようにアーチャーが鼻先をランサーの足や顔に近づけたり擦り寄ったりしてくる。
そんな猫らしく甘える意地らしい姿に一週間、見てきた小言の煩い男とは不釣り合いだが何処かアーチャーらしくもあるように思えて、ランサーは擦り寄る黒猫を優しく撫でてやりながら考えた。
アーチャーが人の姿になれたのは思い出したくない記憶に分類されていたが風呂場で偶然、口が触れた事で魔力がアーチャーに流れたらしい。
とアーチャーが頭を傾げるランサーに説明していたのを覚えていたランサーは、ベッドへと移動すると大人しくゴロゴロと喉を鳴らして腕に収まる黒猫に話しかけた。
覚悟は決めた。
今日もアーチャーの美味い食事に、ありつきたいのだ。
それならば安いものだと思えた。

「うっし!!!アーチャー!前みたいにやれば人の姿になるよな?」
「ふにゃ!?」

驚いたような抗議するような声を上げた猫が身を固くしている隙にランサーは、風呂場でしたように軽く口を付けるようなキスをした。
傍目から見れば猫好きに映るだろうがランサーの心境は複雑だ。
猫とはいえ魔物であるし仮にも男に対して自分は何をしているのやら、と思った。
別にランサーはモテない訳ではなかったし、彼女も居たが槍投げに明け暮れ始めてからは縁が薄くなっていた。
などと考え込んでいたせいか目の前で人の姿となっていたアーチャーに対して反応が遅れてしまい。
アーチャーのグーパンチをまともに食らい、ベッドに倒れ込む羽目になった。

「いてっ!!!何しやがる!!!」
「煩い!君こそ、いつまで抱えているつもりだっ!!!」

ランサーからすると突然、怒鳴ってきたアーチャーであったが耳を赤らめて人の股の間で申し訳なさそうに身を丸めているので、その怒鳴る姿は迫力を無くしていた。
猫の時は可愛かったのに……と言う考えを痛みと共に顔を軽く振って、意識の外に飛ばしながら、ふっと目に入った事を口にしていた。

「てかお前、服着てるんだな」
「はぁ……そのようだ」
「あのなぁ、そのようだなってお前自身の事だろうが……」
「この姿で人間とほとんど接触して来なかったからな。私にも認識できていない事がある」

何処か拗ねたような表情で話すアーチャーに呆れてしまう。
服を整えながらベッドから退いてカーペットに体育座りをするアーチャーに呆れたような表情と声色になりながらも無意識にランサーは頭を軽く撫でるように優しく叩いていた。

「お前って結構、無鉄砲に生きてんな」
「む、確かに君には不快な思いをさせたが、それを君に言われたくはない」
「あぁ?別にそんなの気にしてねぇよ。それより戻ったなら飯を作ってくれーなんか腹減ったわ」
「む……魔力を明け渡したからだろう。今日は唐揚げとシーザーサラダ、あとはコンソメスープと言った所か、待っていてくれ」

気にしていないと言うランサーの言葉にアーチャーは驚いたような困ったような複雑な表情を向けてくる。
その表情は、あまりに幼く感じて思わず照れくさくなったが手を離すとアーチャーは、いつもの仏頂面に戻っていた。
ランサーは、そんなアーチャーに物足りないような、勿体ないような不思議な感覚に襲われたが今日のメニューを聞いて美味そうだと気持ちを切り替え、兄から貰った部屋には不釣り合いに大きいテレビを付けた。
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