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ニャンコ系エミヤ

「何度も、言わせんな…っ……契約の仕方はなんだって聞いてんだろ…」
「ふむ……赤いの、お前はどうしたいんだ?」
「わ、たしは……」

己の腕の中で苦しむランサーの様子を切なげに見ては目線が合いそうになると逸らすアーチャーの煮え切らない様子に、キャスターはため息を吐く。

「まぁ、渋る気持ちは分かる。男としてマスターになる相手であろうと足を開いて抱かれる相手くらい選びてぇわな」
「……は?抱かれ、あ?」
「な!?ちが、私は、いや、あの!!!」
「おや?ふふ、随分と初々しいな」

コイツらを茶化すなよ進まねぇ、君の言い方が悪いのがいけない、などとじゃれるキャスターと黒いアーチャーの会話はランサーの耳には入って来ない。
まさかアーチャーを抱けば契約は完了するのだとアッサリ告げられるとは思っておらず、ランサーの頭は一瞬、真っ白になった。
しかしアーチャーはアーチャーで赤面したまま慌てるばかりで否定しないので、より現実味が増しているのだから笑えない。

「……知ってたんだな?アーチャー」
「っ!…………こんな事、魔物の中では常識なのでね。その、君には関係ないと思い、告げる必要は無いと判断していた」
「そうかよ……なら残念だったな」
「え?……っひ!?」

俺はお前を抱けるし抱きたい。
そうランサーは耳元で告げるとアーチャーの赤く染まった耳朶に齧りつく。
すると心地良い声を上げるので理性が崩れて行くのを感じながらもランサーは、ギリギリの所で堪えてアーチャーを改めて抱き込んでキャスターを呼ぶ。
此処からはキャスターと黒いアーチャーに居られては困る。

「おい、キャスター!」
「だーかーら!赤いのが頷かねぇとって、ぁあ?なんだよ!」
「騒がしいんだよ、近所迷惑だからお前ら出てけ!此処からは俺のアーチャーと二人で話して決める」
「……ふん、一人前の台詞を言うじゃねぇか。元よりそのつもりだしな、とっとと済ませちまえや」
「うっせぇ、余計な世話だわ!おら、アーチャー!テメェもキャスター見てねぇで、こっち向いて聞け」
「いっ!?な、何をする、たわけ!」

敢えて真正面から抱き込まれつつもアーチャーは気恥しさからなのか、顔をキャスターへと向けていたのだ。
その態度は、あまりにもランサーからすれば面白くない。
最早、想いを隠す事は止めたランサーはなんだかんだと抵抗の薄いアーチャーの些細な態度に気付くほどの余裕も無いままに、誰にも取られまいとする子供のように腕の檻に閉じ込める。
そんな檻に抵抗する力は弱く、出ようか抵抗を止めようかと珍しく迷うアーチャーの姿と言った二人に黒いアーチャーから思わずと言うように、ため息が漏れた。

「はぁ……待ちたまえ、何を始めるにしろ私たちが出て行き、君らは鍵を閉めてから改める事をしないと後悔するぞ?」
「……………チッ…なら、さっさと帰れよ」
「はぁ……アーチャー、ランサーなんかに構わず帰るぞ」

む、キャスター?引っ張らずとも付いて行くぞ?、はいはい知ってるよ、と何処かぶっきらぼうに言いながらも離さないキャスターに、小首を傾げながらも掴まれたら腕に抵抗せずに黒いアーチャーは、ランサーの部屋から出て行く。
そんな不思議そうだが楽しそうな黒いアーチャーと不機嫌そうに黒いアーチャーの腕を引くキャスターの後をフラフラとした足取りで壁に手を付きながらも鍵を閉めたランサーは思わず、ため息を吐き出していた。

「はぁー……やっとかよ」
「……ランサー」
「あ?なんだよ、改めて正座なんて」

やっと落ち着けると小言をこぼしながら、いつかのように服を脱いで身体を濡らしたタオルで拭こうとしたランサーを出迎えたのは、初夜を迎えるように旦那を待っていた新妻を思わせる綺麗な正座をしたアーチャーだった。
のだが相変わらず口から出る言葉はランサーにとって大変、可愛くないものだ。

「本気、なのか?その、私の事をだ、抱けるし…あまつさえ抱きたいなどと言う世迷い言など……」
「ふー……アーチャー」
「むっ……なんだ?」

黒いアーチャーとは逆の方向だが同じように小さく小首を傾げて、自分の鈍さを理解していないと思わせる態度にランサーは深呼吸する事で呼吸を整える。
そして殴られても構うものか、と言う心構えを整えた後、アーチャーが避けていた事実をぶつける事にした。

「俺がキスして襲おうとした事を忘れてる訳じゃねぇんだろ?」
「……それは」
「いや、俺がはっきりと言わなかったのも悪かったな。すまん……俺はお前の事が好きだよ」
「あ……」

泣いてしまうだろうか。
それが告白した時のアーチャーに対するランサーの印象だった。
好きだと告げられた時のアーチャーの表情は、眉を潜めながらも下がっており。
瞳は水分がいつもより多くなっている状態でランサーを見つめ、口元は少しだけ開いた状態にも関わらず何を言って良いのか迷うのか、打ち上げられた魚のように開いては閉じるばかりだ。

だが、それでもそんなアーチャーの態度でさえランサーは嬉しかった。
アーチャーはランサーと今まで季節が変わる程に長く共に過そうとも感情を露わにしたような態度は少なかったのだ。
それが己の一言で、こんなにも困ったように、だが何処か期待し縋りたそうにしている様は今のランサーには魅力的すぎた。
しかし獣のように理性を感じさせず、アーチャーを蹂躙したい訳ではないランサーは無けなしとなった理性を掻き集めて話を続ける。

「飯や服とか身の回りの世話をされて絆されたりした訳じゃねぇし、お前を家政婦みたいな便利な奴だから失いたくない理由でもない」
「っす、好かれる理由がない!わ、私は……私が君にしたくてした事ばかりだ。君の優しさに甘えていた…」
「ふは、それなら俺もお愛顧だっつーの」

頬に触れ、アーチャーの目元を撫でて泣いていない事を確認して安心しつつも言葉を紡ぐ声色や口元を震わせて耐えるように歯噛みをするのを感じる。
そんなアーチャーに、アーチャーらしいと苦笑いしそうな心境になった事で余裕が出たランサーは自然とアーチャーが告げてきた言葉に笑う事が出来た。
アーチャーからすれば脂汗は引いたものの石膏のように白い肌は桃色に色付き、笑った事で愛おしげに細められた瞳の奥にあるドロリとしたジャムのような欲が溶けた瞳に緊張から喉が動く。
しかし、それでも話し合いを終わらせるつもりは無かった。
否、アーチャーもまたランサーに自分なりに伝えられる言葉を伝えたかったのだ。

「ランサー……そんな事はない。君は君のテリトリーを荒らす私を敢えて私の野放しにしていたのだろう?」
「最初はお前が言うような感じだったがな、お前に笑顔を向けられた時さ。もっとお前に笑っていて欲しいと感じたし、俺はそんなお前を見ていたいと思った。それだけだ」
「だが……私は出来損ないだ。君にまた今回のような事があっては困る」

暗黙の内に次があると、まるで告げているようなアーチャーの言葉にニヤつく己の頬を感じ、手を伸ばせば捕えられる距離に居てもランサーは敢えて今度はアーチャーを掴まなかった。
狩猟とは駆け引きが大事なのだとランサーとて理解している。

「ならお前の事を抱いて治すから良い。俺には丁度いい薬になるしな!」
「はぁ!?ちょ、ばっ!た、たわけ!私は道具ではないぞ!!!」
「おう、分かってる……だから俺はお前の返事を待ってんだろうが?断られたら寂しく右手で宥めなきゃなんねぇから早くしてくれや」
「また君はそんな!」

ランサーの吹っ切れたような態度と表情に、とうとう顔をこれ以上は赤く出来そうに無い所まで赤くさせたアーチャーは火照っている為からか、服を羽織らないランサーの腕に縋りつくようにして掴みながら抗議する。
しかしアーチャーのそんな軽率な行動にランサーは一瞬だけ眉を潜めたかと思うと、熱を逃がすように短くため息と吐いたかと思うとアーチャーの片手を手に取り、手の甲へと口付けてペロリと一度、舐め上げて告げてやる。

「はっ……あのよ、これでも我慢してんだ。頼むから嫌か良いのかハッキリしてくれ……俺はお前を無理矢理に繋ぎ止めるんじゃなくてお前の声で、お前自身の答えが聞きてぇ…」
「っ!き、君は……愚かだ」
「はは!割と言われるな、それ……」

乾いた声で笑うランサーの態度が今のアーチャーならば理解できた。
少なくなっていく理性を掻き集めて、それでも零れ落ちていきながらもアーチャーの事を思って笑っているだ。
だからこそ、そのランサーの強靭な精神力に答えようと半ばヤケ気味と自覚しつつもアーチャーも熱に浮かされたように話し続ける。

「そうだろうな!こんな出来損ないを捕まえて契約したいなど!……君の魔力ならば私よりも上位の上質な魔物と契約ができる」
「でも俺はお前が」
「黙れ。大たわけ……こんな、私を見放せば苦しむ目にも合わなかったのだ。面倒事など抱えずに済むんだ……また魔術とは無縁の、君の望んだ世界で過ごせるんだぞ」

何処までもランサーを責めるように、アーチャーには価値が無いかのように言葉をマイナス的な物を選んでランサーへと告げる。
今の理性の薄い状態ならば本音が聴けるのだろうが、ランサーの熱に当てられたとも自覚できなくなっているアーチャー自身も己がどれ程の事を言っているのか半ば分からなくなっている。
最早、本音と本音のぶつかり合いとも言えるだろう。

「はは……馬鹿なのはテメェだ、そしたらお前を失うだろうがよ」
「………………ランサー」
「ん?」
「性行為の伴う第三の契約は契約する者同士ならば、どちらが受け身であろうとも契約は成立する……今の君の状態を考えると私が君を抱くべきだ」
「断固として断る。この後にお前が俺を抱きたいなら考えるが、最初は絶対にお前を抱きてぇって思ってたんだからな?」
「…………はぁ、私の……負け、だな。私も君に抱かれたいと思うなど」
「っアーチャー!それじゃあ!!!」

素肌を惜しげも無く晒すランサーの綺麗で筋肉の整った胸板に額を寄せた。
スルリと寄せたままの状態でランサーを誘うように鼻筋から頬を使い、敢えて手を使う事ない。
その動きは、アーチャーがランサーに甘えるような仕草を意識をして起こした動きであるのはランサーにも分かり、胸の奥から湧き上がってくる喜びを止める方法が分からぬ程に性的な物とは違った感動にも似た興奮を覚えた。

「萎えてくれるなよ?途中で疲れたなどと言ってみろ、その時は私が君を抱くぞ…………お手柔らかに頼む、マスター」
「っ上等だぜ、アーチャー!」
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