こえ惚れ
世の中には色んな恋の仕方がある。
それはテレビ越しだったり、同級生だったり、歳上歳下、禁断の恋なら尚更、燃え上がるだろう。
ただ私の恋は声、だったと言うだけで。
「先輩、教科書ありがとうございました!」
「お、中身変わってなかったか?ディル」
「はい!大丈夫でした。でも先輩もしかして……」
応、置きっぱなしだぜ!とハツラツに笑い声をあげている同級生のクーフーリン。
カラっと爽やかな笑い声に周りに居た同級生は男子も女子も関係なく、自然と集まり大きな騒ぎになろうとしている。
一応、私も重い教科書はロッカーに入れているがどうやら彼の場合は全てらしい。
大学のロッカーは確かに広いが幾らなんでも広さは決まっているので想像するに彼のロッカーはロッカーの天井までギッチリなのだろう。
想像できる有様に底が抜けると苦言を申したいがもう少し彼の明るい声を聞いていたい。
そう、私、衛宮祐巳(ゆみ)はクーフーリンの声に恋していた。
だからと言って注意勧告を怠る程、優しくはないと自負している。
「なんだ、君。全て教科書を置いているのかね?」
「んだよ、テメェには関係ねぇだろがエミヤ」
「ふん、君にはなくとも私にはある。ロッカーの底が抜ける前に速やかに撤去しろ」
「へぇへぇ、そうですか!仰せのままに。ったく、可愛くねぇな」
ゴツい同級生を捕まえて可愛げがないなど当然だろうと返せば、ならば愛嬌がないのだと不機嫌そうに話してくる通り。
私とクーフーリンは何処までも仲が悪かった。
ことある事に注意した為だろうか。
私が気付いた時には、もう手遅れですっかり嫌われていた。
だがなったものはしょうがないと諦めた私は遠目で見て、他のクラスメイトと話す声を楽しみに非凡的な見た目で平凡に学校へと通っていた。
私は人間として正常ではない性癖なのだから静かに墓まで持っていこうなどと思っていたある日、事件は起きた。
「なぁ、ユミにぃ、ちょっと話がある」
「む、なんだ?改まって」
「とりあえず降りてきてくれるか!」
いつもは私に強気な弟の士郎は珍しく眉を下げて、リビングへと誘ってくる。
今度は何をやらかしたのだろうか?と頭が痛むのを抑えて階段を降りると、そこには予想外の間桐桜がちょこんと可愛らしく座っていたのだった。
これはいよいよ本気で珍しい。
と同時に厄介な匂いを私は感じ取っていた。
小さな事から親戚である切嗣や私から女の子には優しくしろと言ったお陰なのか見事に士郎はプレイボーイ顔負けでモテるようになったのだが如何せん本人は何処かニブい所があり、親しい付き合いの女性は藤村大河や桜が殆どであった。
後に気付くのだが今回の騒動で士郎が本格的にモテ始めてしまうのは、また別の話なので今は私の話をしよう。
「桜?来ていたのか」
「あ、は、はい!あのお邪魔しています!」
「なんだ、お茶も出てないじゃないか!ちょっと待っていてくれ」
「待て待て、ユミにぃ!今日は大事な話でそれどころじゃないんだ!」
ならば尚更、淹れよう。
緊張した様子の桜が可哀想になってくる。
落ち着け、と怒鳴るでもなく冷静に窘めた事で理解したのか溜息混じりの深呼吸をした士郎は茶菓子を用意するらしく冷蔵庫を漁り始めた。
交通事故で両親を亡くした私たち兄弟を桜や凛、何より切嗣アイリ夫婦は快く迎えてくれた。
手厚い接客は当然なされるべきなのだ。
きっと今までに無いほど緊張しきった桜の様子から明らかだった。
「ふぅ」
「あ、ありがとうございます。ユミさん」
「気にするな。それで話と言うのは?」
「それは……」
「桜、言いづらいなら俺が」
「あ、いえ!私から話します!」
結婚を前提に付き合うと言う風な、めでたいの話ではないのだろう。
どことなく悲しそうな困惑したような二人の雰囲気に身内か三人の共通する人間関係で失敗でもしてしまったのだろうか?と推測する。
桜はツンケンしており敵の多そうな兄とズッコケ漫才のようにして周りと仲良くしているし、士郎は頑固故に喧嘩をするが基本的に人当たりも良い。
どうにも不穏な空気と結びつかない二人に不思議に思っていると桜が深呼吸をした。
どうやら心は決まったようだ。
「あの、まずユミさん!本当にすいません!」
「え?」
「私、今、アルバイト……ううん、仕事とも言える状態で実はお話を書いてるんです……すいません!」
そこからの桜は何処か動揺していたので要約しよう。
桜は昔から話を考えるのが好きでアマチュアではあるが投稿サイトに話を書いては載せていたそうだ。
無論、それは彼女の自由なのだから構わない。
だが詳しく聞いて納得した。
どうやら彼女、現実の人物を参考に物語を書いたらしく。
士郎曰くとてもよく出来ていて面白いらしいのだが名前を崩すのが難しく半ば漢字表記などを変える程度でファンタジー小説を書いてしまったらしい。
しかしファンタジー小説で尚且つ面白かったが故に出版社の目に止まった時には既に遅く、話は進んでしまってアニメ化までするのだそうだ。
しかも人気なので、どうしてもアニメ化がしたいと言う話で断りきれずに私に対して話しているように関係者に謝罪して回っている。
それは士郎が無視できる筈もなく、謝りに行く桜に付き添っているのだろう。
だが私としては中々興味深い、アニメ化がなされるならば私をモデルにしたキャラクターにも声は付く。
かなり桜はこだわったそうなので大変、気になる話であったが始めから怒るような話ではなかったのだった。
きっと難しい話なので周りの大人が綿密に話している筈だ。
ならば決まっている事に意見できる程、私は大人ではないし何より自分を中々主張しない桜の出世作になるかもしれないのなら私は応援したかった。
「私は構わない。桜、君の才能なんだから気にする必要はないんだ」
「それじゃあ!」
「あぁ、精一杯頑張りなさい。士郎、お前もしっかり支えるんだぞ?」
「分かってる!良かったな、桜!」
「は、はい!ありがとうございます!先輩!ユミさん!」
こうして問題は解決し、話は終わったかに見えた。
と言うか正確には私の中で、かなり大慌てな事件が発生したのだ。
私がモデルとなったキャラクターはアーチャーと言い、赤い礼装と呼ばれる特別な衣装を身に纏う何ともニヒルなキャラクターとなっていた。
桜には私がこう見えていたのだろうか……と少し羞恥を覚えたが、すぐにそれも対戦する相手を見て無くなった。
それはもう見事に度肝を抜かれたのだ。
染めているには美しいが派手な青髪、キラリと宝石のように鈍く光り輝く赤き瞳、そして彫刻のような顔はキャラクターなので少し違ったが間違いなく私の想い人であるクーフーリンその人であった。
元々彼自身もアイルランド人とのハーフであり、名前は完全に神話から取っていたと話していたのを立ち聞きしていたのを覚えていたが、まさか此処まで再現しているとは……。
しかし全身ピッタリとしているスーツを着ていた彼の姿をしたランサーはとても素晴らしい戦闘をアーチャーと繰り広げ、何より声優さんが凄い。
とても彼の掠れているが色気と艶のある声を再現しており、楽しそうなランサーの声は余りに私の心を刺激し。
彼もといランサーにのめり込むのに、そう時間はいらず気付けば録画ボタンを押していたなど恥ずかしい話だ。
だが同時に切ない気持ちは私の心に居座り続けている。
すぐに分かることだが、やはりランサーとアーチャーも仲が悪かったのだから。
しかしアニメ、しかも深夜でありながら今は録画されて様々な方法で視聴出来る為か目に見えて周囲にアーチャーのモデルは私であるとバレる事となり、桜にすぐに謝罪をさせてしまう事態となったのは心苦しかった。
告白紛いの輩も居てくれたが生憎、私はどうしても知りもしない相手と付き合える程、器用な男ではないので相手には申し訳なかったが丁重に断っていた。
すると噂と言うのはいつの間にか広まってしまうもので”衛宮ユミはアーチャーのようにガードが硬い”やら”遠坂凛にならばデレる”などとアーチャーと私を同一視してくる輩が増えてしまっていた。
不本意と言う言葉がピッタリな状況であったが否定もできなかった。
あの話を書いた桜の中でとは言え私に社交性があるとはとても言えなかったし、何より不仲な人間であるクーフーリンとの関係性など凛曰く名物だそうだ。
全く知らなかった……。
そんな風に騒がれ、時折何故か女子からの熱い視線を感じるようになってから暫く経ち、話も中盤に差し掛かっていた頃だったろうか。
クーフーリンに突然、話しかけられたのだ。
それはテレビ越しだったり、同級生だったり、歳上歳下、禁断の恋なら尚更、燃え上がるだろう。
ただ私の恋は声、だったと言うだけで。
「先輩、教科書ありがとうございました!」
「お、中身変わってなかったか?ディル」
「はい!大丈夫でした。でも先輩もしかして……」
応、置きっぱなしだぜ!とハツラツに笑い声をあげている同級生のクーフーリン。
カラっと爽やかな笑い声に周りに居た同級生は男子も女子も関係なく、自然と集まり大きな騒ぎになろうとしている。
一応、私も重い教科書はロッカーに入れているがどうやら彼の場合は全てらしい。
大学のロッカーは確かに広いが幾らなんでも広さは決まっているので想像するに彼のロッカーはロッカーの天井までギッチリなのだろう。
想像できる有様に底が抜けると苦言を申したいがもう少し彼の明るい声を聞いていたい。
そう、私、衛宮祐巳(ゆみ)はクーフーリンの声に恋していた。
だからと言って注意勧告を怠る程、優しくはないと自負している。
「なんだ、君。全て教科書を置いているのかね?」
「んだよ、テメェには関係ねぇだろがエミヤ」
「ふん、君にはなくとも私にはある。ロッカーの底が抜ける前に速やかに撤去しろ」
「へぇへぇ、そうですか!仰せのままに。ったく、可愛くねぇな」
ゴツい同級生を捕まえて可愛げがないなど当然だろうと返せば、ならば愛嬌がないのだと不機嫌そうに話してくる通り。
私とクーフーリンは何処までも仲が悪かった。
ことある事に注意した為だろうか。
私が気付いた時には、もう手遅れですっかり嫌われていた。
だがなったものはしょうがないと諦めた私は遠目で見て、他のクラスメイトと話す声を楽しみに非凡的な見た目で平凡に学校へと通っていた。
私は人間として正常ではない性癖なのだから静かに墓まで持っていこうなどと思っていたある日、事件は起きた。
「なぁ、ユミにぃ、ちょっと話がある」
「む、なんだ?改まって」
「とりあえず降りてきてくれるか!」
いつもは私に強気な弟の士郎は珍しく眉を下げて、リビングへと誘ってくる。
今度は何をやらかしたのだろうか?と頭が痛むのを抑えて階段を降りると、そこには予想外の間桐桜がちょこんと可愛らしく座っていたのだった。
これはいよいよ本気で珍しい。
と同時に厄介な匂いを私は感じ取っていた。
小さな事から親戚である切嗣や私から女の子には優しくしろと言ったお陰なのか見事に士郎はプレイボーイ顔負けでモテるようになったのだが如何せん本人は何処かニブい所があり、親しい付き合いの女性は藤村大河や桜が殆どであった。
後に気付くのだが今回の騒動で士郎が本格的にモテ始めてしまうのは、また別の話なので今は私の話をしよう。
「桜?来ていたのか」
「あ、は、はい!あのお邪魔しています!」
「なんだ、お茶も出てないじゃないか!ちょっと待っていてくれ」
「待て待て、ユミにぃ!今日は大事な話でそれどころじゃないんだ!」
ならば尚更、淹れよう。
緊張した様子の桜が可哀想になってくる。
落ち着け、と怒鳴るでもなく冷静に窘めた事で理解したのか溜息混じりの深呼吸をした士郎は茶菓子を用意するらしく冷蔵庫を漁り始めた。
交通事故で両親を亡くした私たち兄弟を桜や凛、何より切嗣アイリ夫婦は快く迎えてくれた。
手厚い接客は当然なされるべきなのだ。
きっと今までに無いほど緊張しきった桜の様子から明らかだった。
「ふぅ」
「あ、ありがとうございます。ユミさん」
「気にするな。それで話と言うのは?」
「それは……」
「桜、言いづらいなら俺が」
「あ、いえ!私から話します!」
結婚を前提に付き合うと言う風な、めでたいの話ではないのだろう。
どことなく悲しそうな困惑したような二人の雰囲気に身内か三人の共通する人間関係で失敗でもしてしまったのだろうか?と推測する。
桜はツンケンしており敵の多そうな兄とズッコケ漫才のようにして周りと仲良くしているし、士郎は頑固故に喧嘩をするが基本的に人当たりも良い。
どうにも不穏な空気と結びつかない二人に不思議に思っていると桜が深呼吸をした。
どうやら心は決まったようだ。
「あの、まずユミさん!本当にすいません!」
「え?」
「私、今、アルバイト……ううん、仕事とも言える状態で実はお話を書いてるんです……すいません!」
そこからの桜は何処か動揺していたので要約しよう。
桜は昔から話を考えるのが好きでアマチュアではあるが投稿サイトに話を書いては載せていたそうだ。
無論、それは彼女の自由なのだから構わない。
だが詳しく聞いて納得した。
どうやら彼女、現実の人物を参考に物語を書いたらしく。
士郎曰くとてもよく出来ていて面白いらしいのだが名前を崩すのが難しく半ば漢字表記などを変える程度でファンタジー小説を書いてしまったらしい。
しかしファンタジー小説で尚且つ面白かったが故に出版社の目に止まった時には既に遅く、話は進んでしまってアニメ化までするのだそうだ。
しかも人気なので、どうしてもアニメ化がしたいと言う話で断りきれずに私に対して話しているように関係者に謝罪して回っている。
それは士郎が無視できる筈もなく、謝りに行く桜に付き添っているのだろう。
だが私としては中々興味深い、アニメ化がなされるならば私をモデルにしたキャラクターにも声は付く。
かなり桜はこだわったそうなので大変、気になる話であったが始めから怒るような話ではなかったのだった。
きっと難しい話なので周りの大人が綿密に話している筈だ。
ならば決まっている事に意見できる程、私は大人ではないし何より自分を中々主張しない桜の出世作になるかもしれないのなら私は応援したかった。
「私は構わない。桜、君の才能なんだから気にする必要はないんだ」
「それじゃあ!」
「あぁ、精一杯頑張りなさい。士郎、お前もしっかり支えるんだぞ?」
「分かってる!良かったな、桜!」
「は、はい!ありがとうございます!先輩!ユミさん!」
こうして問題は解決し、話は終わったかに見えた。
と言うか正確には私の中で、かなり大慌てな事件が発生したのだ。
私がモデルとなったキャラクターはアーチャーと言い、赤い礼装と呼ばれる特別な衣装を身に纏う何ともニヒルなキャラクターとなっていた。
桜には私がこう見えていたのだろうか……と少し羞恥を覚えたが、すぐにそれも対戦する相手を見て無くなった。
それはもう見事に度肝を抜かれたのだ。
染めているには美しいが派手な青髪、キラリと宝石のように鈍く光り輝く赤き瞳、そして彫刻のような顔はキャラクターなので少し違ったが間違いなく私の想い人であるクーフーリンその人であった。
元々彼自身もアイルランド人とのハーフであり、名前は完全に神話から取っていたと話していたのを立ち聞きしていたのを覚えていたが、まさか此処まで再現しているとは……。
しかし全身ピッタリとしているスーツを着ていた彼の姿をしたランサーはとても素晴らしい戦闘をアーチャーと繰り広げ、何より声優さんが凄い。
とても彼の掠れているが色気と艶のある声を再現しており、楽しそうなランサーの声は余りに私の心を刺激し。
彼もといランサーにのめり込むのに、そう時間はいらず気付けば録画ボタンを押していたなど恥ずかしい話だ。
だが同時に切ない気持ちは私の心に居座り続けている。
すぐに分かることだが、やはりランサーとアーチャーも仲が悪かったのだから。
しかしアニメ、しかも深夜でありながら今は録画されて様々な方法で視聴出来る為か目に見えて周囲にアーチャーのモデルは私であるとバレる事となり、桜にすぐに謝罪をさせてしまう事態となったのは心苦しかった。
告白紛いの輩も居てくれたが生憎、私はどうしても知りもしない相手と付き合える程、器用な男ではないので相手には申し訳なかったが丁重に断っていた。
すると噂と言うのはいつの間にか広まってしまうもので”衛宮ユミはアーチャーのようにガードが硬い”やら”遠坂凛にならばデレる”などとアーチャーと私を同一視してくる輩が増えてしまっていた。
不本意と言う言葉がピッタリな状況であったが否定もできなかった。
あの話を書いた桜の中でとは言え私に社交性があるとはとても言えなかったし、何より不仲な人間であるクーフーリンとの関係性など凛曰く名物だそうだ。
全く知らなかった……。
そんな風に騒がれ、時折何故か女子からの熱い視線を感じるようになってから暫く経ち、話も中盤に差し掛かっていた頃だったろうか。
クーフーリンに突然、話しかけられたのだ。