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ニャンコ系エミヤ

その日からランサーは、いつも通りの生活の合間に1人になる事があった。
周りに不思議そうな顔をされても動じる事もなく猫が居そうな場所を探し、時折、猫と戯れては違うなぁ……と残念そうに呟く。

「たわけ……」

ランサーのそんな美丈夫が台無しの行動を気配を消して、アーチャーは眉を下げて困ったような表情で鷹の目と呼ばれる魔眼を用いて、ビルの屋上からランサーを見たりして日々を過ごしていた。
飛び出してからアーチャーは抑制剤を服用し、ランサーの事を調べあげた。
すると予想以上の情報の連続でアーチャーは頭を抱えた。

ランサーの名は、セタンタ・クー・フーリン。
ケルト神話における英雄クーフーリンの末裔の1人であり、四兄弟の2番目、次男。
そして兄弟の中で、もっとも槍術に優れているからランサーと呼ばれ、祖であるクーフーリンに最も近しい存在であると期待され、名も与えられている。
そんなアーチャーからすれば数々の無礼とも言える言動をしてきた自分に眩暈を覚えそうになるが、アーチャーにとっては初めて人の世界で助けられた人間だったのだ。

ランサーは覚えていないだろうと思い、笑えてくるが、それでも良かった。
実はアーチャーは過去に死にかけた事が二度あった。

一度目は、出来損ないであるとされて生まれ育った故郷で死刑台にかけられそうになった時だ。
その時は育ての親とも言える魔術師に助けられ、人の世界で五年ほど過ごした。
だが育ての親の元には本来の家族がおり、アーチャーは名残惜しげに名前を抱える様に己の名前とした後、親の元を去った。
二度目は、その後だ。
人とは時に何処までも残酷なもので腹を空かせていた隙に捕まり痛めつけられ、死ぬのだろうと思っていた時に青空のような
目の前に青空のように鮮やかな髪を持つ少年が現れ、喧嘩をして追い払ったのだ。
その後、猫である自分相手に「お前も抵抗しろよな!そんな諦めたような目をすんなよ」と殴られた頬を気にする様子も無くアーチャーに笑いかけ、餌を置いて手当をしてくれたのだ。
拗ねたように「本当は飼ってやりたいのに俺の家は犬が居すぎてお前を飼わせて貰えない」と言っていたのも覚えている。
だが、いつの間にかランサーは来なくなり、アーチャーも回復していた為に旅をし始めて以来なのだ。
出会った時、魔力を渡されてアーチャーは同一人物であると、すぐに分かった。
感謝を込めて猫の姿で少年の血を舐めた事があった為に魔力の種類を覚えていたのだ。

ー昔から私は、身の程を知らないと言う事か……切嗣やイリヤ、アイリスフィールは元気だろうか?ー……

そんな昔の事へ想いや後悔をしていた為だろう。
アーチャーは、抵抗をするが魔力不足により、好んで使う夫婦剣もまともに出せずに生きたように蠢く黒い布の群れに襲われ、囚われた。

「なんだ!?っふ!!!くっ!」
「本契約をしている魔物に勝てるとお思いかね、アーチャー?いや、確か……そう!エミヤ、だったかな?」
「何故その名を!?っぁぁぁあああああ!!!!!」

真名を暴かれた事によりアーチャーは完全に黒い布の群れが避けて現れた男に無理矢理に膝を折らされた痛みに悶えながらも驚いた。
目の前に現れた男の背格好があまりにも自分に似ているどころか、瓜二つだったのだ。
違うのは服装と左側の顔を覆うヒビのような黒い影くらいだろう。

「あぁ、すまない。拘束は久方ぶりなので手加減しきれなかったようだな、許してくれまえ」
「き、さま!」
「む?……はぁ……生き別れた兄弟との再会なのだ、少しは…………分かった分かった。移動するよ、マスター」
「え?」

アーチャーに向かって微笑んでいた瓜二つの男は、こめかみを抑え、やれやれと言ったかと思うと男が従えているらしい黒い布達は二人を覆うように囲ってきた。
囲って来る間もアーチャーは諦めずに肩や身体を動かし、抵抗するがランサーからの魔力は拒否状態で受け取っておらず、その為に力は入らない。
その上、自分と瓜二つでありながら黒が印象的な男に捕縛され、真名も見破られていてはアーチャーに抗い脱出する事は不可能であった。
己の対魔力の低さ、未だに未熟だと突き付けられたような歯痒さに奥歯を噛み締めたが到着した場所の驚きから、そんな歯痒さは消し飛んだ。

「遅い……この緊急事態に遊んでんじゃねぇぞ、アーチャー」
「全く。私の片割れなのだから、少しは考慮して頂きたいものだぞ、マスター?」
「え?……あ、こ、此処は……っ!?ランサー!!!」

ランサーよりも少し淡い青、まるでプールのような透明感のある青を感じさせる髪色を惜しげも無く、背中に広げるランサーに似た瓜二つの黒い男、黒アーチャーにマスターと呼ばれた男も、またランサーに似ているだけでなく。
アーチャー達が移動してきた先はアーチャーのよく知っており、飛び出してきたランサーの部屋そのものであった。
そんな驚きも然ることながらランサーがいつも寝ているベッドには、シャツを破れんばかりに掴みながら脂汗を大量に浮かべて苦しむランサーの姿があったのだ。

此処でようやくアーチャーは気付いたのだ、ランサーから溢れ出す尋常ではない異常なほどの濃度の魔力量に。

「あぁ、流石に仮とはいえ契約を結んでるから気付いたか」
「ふふ、それだけではないだろうよ。見たまえ、キャスター!あの表情」
「笑ってる場合か、この性悪。これでも俺の弟の緊急事態だ」
「失礼。あまりに私とは逆なものでね」

苦虫を噛み潰したように険しい表情をしてマスターでありキャスターとも呼ばれたランサー似の男は、アーチャーと呼んだ使い魔らしき男に睨みを効かせながら、何やら小さなすり鉢で何か緑色の物を磨り潰す。

「ランサー……やはり私は君と契約を結べきではなかった……」

異様とも言える空間に居ながらも、いつの間にか外されていた黒い布など気付く余裕もなく、アーチャーは傍にあったティッシュを数枚ほど取るとランサーの脂汗を肌が傷つかぬように気をつけながら拭く。
そしてキャスターが眉を潜め、黒いアーチャーが鼻で笑った事に気付く事も無いままに呟くように、契約した事を後悔する言葉が零れた。

「俺はコイツの兄ではあるが異常の解決の為に魔術師として様子を見に来た。そこの魔物、お前さんはどうしたい?」
「……契約を切るべきだろう」

話しかけられて本来ならばアーチャーも人の顔を見て話す所だが今はそんな余裕など無い。
口にされ話しかけられている言葉を理解していながらも目の前で苦しむ男から目を離す事が出来ずに居た。
契約を切る事でランサーは救われるならば、切れば良いだろう。
だが魔力の残りの少ない状態であるアーチャーがランサーとの契約を切る事は人にとっての死、アーチャーたち魔物にとって消失を意味していた。
それをキャスターと呼ばれる程ならば分かっている筈であろうに、キャスターは敢えて更に訊ねてくる。

「お前は契約を切りたいのか?」
「……そうしなければランサーが死ぬ事は感じる。私が彼の生命力を奪っているのだろう?」
「それは……」
「っうあ……はっー……あー、ちゃー?」
「ランサー!起きて大丈夫なのか?」

訪ねた聞きたくない現実の答えを聞こうとしていた時だった。
乾ききった声で普段からの様子からは雲泥の差と言える程、弱々しく瞳が開き、それでもしっかりとした意思の強さを感じさせながらアーチャーを捉える。
その感覚を感じたアーチャーも自然と柔らかで温かな声色でランサーの問いかけに気付けば答えていた。

「これは……夢か?でも良いか、お前に一度で良いから言いたかった」
「……なんだろうか?」
「おかえり、アーチャー……俺は言われてばっかだったからな」
「ラ、ンサー!君と言う男は……!!!」

眩しそうに、だが照れつつも嬉しそうに微笑みながら汗をかくほど苦しんでいるのが嘘のようにランサーは優しい顔つきでアーチャーへと微笑む。
そんな不意打ちとも言えるランサーの少年のような微笑みと強がりなどではない、心の底から嬉しそうな微笑みにアーチャーは目の奥が熱くなるのを感じながら差し出されたランサーの手を取ると手のひらに頬を寄せながら手を包み込んで、その手の温かみを確かめるように握り込んだ。
すると、そんな二人の空気を壊すように拳がランサーの額へと中々、素早い速度で飛んでくる。

「夢じゃねぇよ、ボンクラ」
「いって!!!なんでキャスターが……っアーチャー!!!ッぐ!」
「た、たわけ!急に起き上がるな!」

どうやら本当に夢だと思っていたのか、キャスターの拳で意識が覚醒したらしいランサーは少しキャスターから目線をズラしてアーチャーを確認した途端、慌てたように両手でアーチャーの肩を掴んだかと思うと身体の異常も現れたのか、身体を折りたたむように背を丸める。
それでも両手は離さないランサーに慌てたように両手から離れると、向かい合わせでランサーを抱える様にアーチャーはランサーの背中に手を添えると撫でてやった。
慌ただしいようでいてコッソリと逃がさぬ為にアーチャーの背中に手を回して腰に腕を回しているランサーの様子にため息を吐きながら黒いアーチャーがキャスターを促す。

「キャスター説明しないのか?」
「あー……分かってるっつーの。おい、お前ら、さっさと本契約を結んじまえ」
「な!?契約を切るんじゃないのか!」
「なんでアーチャーが居るか知らねぇが後で良い。ちゃんとした契約の仕方、どうすんだ…?」
「ランサー!!!君までか!」

荒い呼吸を必死に整えるランサーの背を撫でていたアーチャーはキャスターの言葉に思わず振り向く。
ようやっとキャスターとアーチャーは初めて顔を合わせたがキャスターは気にする事はなく、アーチャーは衝撃からそれどころではない。

「とりあえず間違いを正す。今、ランサーが死にそうなのはランサーの魔力の殆どが逆流しているような状態な為だ」
「あー……逆流ってなんでだ?よく分からん」
「……はぁ、アーチャー」
「ふむ、では僭越ながら……君らの契約は仮の状態だ。マスターの魔力貯蔵から我々のような使い魔は魔力を少し貰う。そのパス言わば通路が契約なのだが……仮の状態であるが故に通路が未完全で渡した魔力が逆流したようなのだ」
「ま、簡単に言うとお前の身体は、無くなった魔力を補ったのに失う筈の魔力が逆流したせいで有り余ったから破裂しそう、とでも思っておけ」

長々としたキャスターと黒いアーチャーからの説明にアーチャーは困惑したような表情で聞き入れ、ランサーは熱に魘されている頭を必死に動かしつつ思考を巡らせる。
ランサーの中に此処でアーチャーと第三の契約を結ばなければ二度と会えない気がしたのだ。

「つまり、はぁ……魔力を減らせば……良いのか?」
「そういう事だろう。これで良いか、キャスター?君は魔術師であり兄でもあるのだから面倒臭がるな」
「へぇーへぇー小言は後で聞いてやる。で?魔力をそこの魔物にやるか、そもそもの契約を破棄して中途半端な経路を消しちまえば良いが……どうする?」
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