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ニャンコ系エミヤ

ランサーは兄であるキャスターからアドバイスと共にネックレスをアーチャーへプレゼントをしてから暫く経ち。
季節は冬を迎え、気温は低くなり天候も風の強さは激しくなっている。
そんな天候は槍投げでは吉と出るか凶と出るかは大きく、まさに運を味方に付けなければならない。
だがランサーからすれば天が誰に味方しようとも己のすべき事をするだけだ。
揺るぎない闘志が瞳はより赤く、人離れした輝きを放ちながらランサーはいつも通り槍を投げた。
結果は優勝、しかも県大会の記録を塗り替えたそうだ。
何故、他人事かと言うと土日を足して1週間、ランサーは合宿の為に家を空けたので自慢の足で自宅へと急いでいたからだ。

キャスターの手紙には忠告が書かれていた事を、熱い汗と半比例するように肝が冷える感覚に襲われながら思い出していた。

『愚弟へ もし家を暫く空けるようならば同封物を渡せ。理由はお前の相棒が話すと思うので省略する。忠告すると魔物たちはマナが主食なので食事で魔力を補うのは限度がある。 またお前たちの場合、物理的距離が遠いと魔力供給は必然的に遅緩になると思われる。本契約していない魔物は1週間が限界だ。 キャスター』

「おい、アーチャー!無事か!?」

冷酷な兄の声が頭の中で響くのを、振り払うようにして乱暴に鍵を開けるとランサーは中へと入った。
するとそこにはスースーと肩や胸を上下させながら穏やかにランサーのベッドで眠るアーチャーが居た。
そんな自分の心配とは裏腹な様子にランサーは不思議と怒りは湧かず、むしろ緊張から解放されてその場に腰を下ろした。

「はーっ!はーっ!…………っ!はぁー……良かった」

安堵した事を表す言葉は、無意識に出ていた。
しかしランサーに驚きはない。
目の前で丸くなっている男は、自分よりも逞しくどう見ても成人男性だし胸板など自分よりもある。
それでもこの安らかに寝息を立てている男は危なっかしく、自滅しそうなタイプに見えた。
多分、この考えは当たっているのだろうなと思う自分に嫌気が差したが、同時にそれだけアーチャーと時間を共にしてきたのだと思う。
その事実はランサーにとって悪い気はせず、むしろ好ましいと思えた。
正直に言えば合宿の合間に考えて、結論は出ていた。
自分はアーチャーの事を好きになっていたのだと。

「しっかしまさか男を好きになるとはなぁ……でも合宿中にアーチャーで抜いたからガチだろ、俺よ」

などと我ながら最低な自覚の仕方だな、と呆れながら腰を上げる。
走った事により吹き出た汗でベタつくシャツを脱ぎ捨てタオルを出して汗を拭き、コップに水道水を注いで飲んでいると布の擦り合う音が聞こえてきたので起きたのだろうか?と様子を見に行ったのは良くなかった。

「……ん」
「おー起きたか?アーチ、ャー……っ!」

目を擦るアーチャーは気だるげで心配になり尋ねようと近付いたランサーを出迎えたのは、いつもとは違うとろりと柔らかな鋼色の瞳だった。
その鋼色の瞳と目が合ったランサーは、まるで砂糖菓子や宝石に見とれる子供のように動けなくなった。
アーチャーは常に眉間に皺を寄せ、瞳もキリッとした強い意志を宿した瞳をしている。
なので寝起きの表情など部活の早朝練習がある自分よりも早起きする相手に見る事は、ほぼ初めてなのだ。
せいぜい猫の姿で欠伸や伸びている姿がランサーにとってアーチャーのリラックスしている姿であった。
そんな相手のリラックスした顔を見られると思っていなかったランサーは、手を差し出したまま固まり。
固まるランサーに気付いていないのか呑気にアーチャーは、その手に寝転んだまま頬擦りを少しするとアーチャーは眠たそうに瞬きをして、ぼんやりと己の手を見て一言。

「ラ、ンサー?帰ってきたのか…?あぁ、起きなくては……その前に身だしなみ……」

そう言って己の浅黒い肌にペロペロと舌で舐めると言う、猫のように毛繕いをしてみせた。
固まっていたランサーは、健康的な赤い舌がチョコレートのように甘そうな肌を這う光景は目に毒だ、と硬直からは解放されて寝惚けているアーチャーにカラカラの声で声をかけた。

「あー……アーチャー、今、猫じゃねぇぞ?」
「……っ!!?!?」

ランサーの心境の荒さに気付かないアーチャーはアーチャーで、少しの間があってから、しかめっ面でも大きいと思う瞳を更に大きくさせてアーチャーは驚愕の顔を見せ。
そしてみるみる耳から首筋まで肌の黒さがあるものの見事に赤面してみせた。
どうやら目が覚めたようだ。
アーチャーも羞恥からか引き攣ったような乾いた声でランサーに尋ねる。

「いつから、だ?」
「とりあえず……俺が帰って来た時は既に人の姿だった」

ランサーが心配になる程に体を震わせて何処か泣きそう表情で問いかけてくるアーチャーに、思わず抱き締めてやりたい気持ちを抑えながら指摘する事にする。
人間、目の前の人物が慌てているのを見ていると自然と慌てていた自身は落ち着いてくる。
そこにランサーも漏れる事なく、アーチャーに気付かれないように深呼吸をしてプロの運動選手らしく己の焦燥を落ち着かせていた。
此処で抱き締めたりなどしてしまったら、今までの態度からでは不自然すぎると理性が抑えてくれたお陰でもあるだろう。
まだランサーの頭にも、関係を壊したりする決意は持ち合わせていない。
そんな自分の意気地の無さに苦虫を噛んだような悔しさを覚えるランサーとは違い、痴態を見られたのかと思わせる程にアーチャーは目に見えて慌てている。
ある意味では、いつも通りなアーチャーにランサーは乗る事にした。
慌てるアーチャーをからかうランサーは、いつも通りなのだから。
少し触れても許されるだろうと。

「な!?わ、忘れろ!!!ランサー!!!」
「いやーしかしお前でも寝惚ける事あるんだな」
「ニヤニヤするな!気色悪い!!!」
「色男の間違いだろ?それよりほら、寂しかったであろうアーチャーにはご褒美に抱きしめてやるよ!」
「ぐわぁーっ!!!やめろ、たわけ!汗臭い!服を着ろ!そして地獄に落ちろ、ランサー!」

なんでそんなに汗をかいてるんだ!馬鹿者!風邪を引くぞ!っと的外れだがアーチャーらしいと感じる苦言に、ランサーは帰ってきた事をしみじみと感じた。
赤く染まった首筋や痛みを感じない力で背中を叩いてくる手の意味に気付かぬままに。
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