獣の獲物
兎にも角にも行ってみねば報酬はないだろうし時間を遅くしようと同じだろうと言う意見は意外にもアッサリと決まり、わくわくざぶーんなどと言う巫山戯たネーミングの公共プールへと遊び半分で出かけたのがいけなかったのだろうか。
「セイバーの野郎……うぐっ」
「彼女をからかうからだぞ、ランサー」
「いや、あんな水着来てたらっあだーっ!!!」
「自業自得だ……はぁ、君を埋めねば私が危ういのでね、悪く思うな」
ふざけんな!と叫びたかったがセイバーの剣幕を考えるに本当に実行せねば二人ともに危ういのは明白であった。
しかしランサーとて柔なサーヴァントではないのでセイバーと衛宮士郎の二人の場から脱出する事は出来ていた事を今は満足するしかない。
そしてセイバーに見事に沈められたランサーを回収したせいで濡れたアーチャーを見て思う。
何故にコイツはよりによって礼装の一部のままなんだろうかと。
確かに彼の今のノースリーブのような礼装は水着に見えなくはないだろうが目立つなと口煩いのは何処のどいつだったでしょうか?とランサーは言いたい。
「なんだ、見てきて?気持ち悪い」
「おい、この色男を捕まえておいて……あ……いや、うん、俺が悪いわ」
「分かればいい……全く、ギルガメッシュは何を考えているのか分からんな」
士郎を弄っていた生き生きとした声色とは違う、何処か疲れた声色のアーチャーにランサーはやはり釈然としない気持ちになり、自分でも少々混乱していた。
何故にアーチャーがつまらなそうにしている姿が気に食わないのだろう、と。
そして悩んでいる間に転びそうになった子供を助けるアーチャーの姿を見てアッサリと気付いた。
ランサー自身は確かにアーチャーを気に食わないが嫌ってはいないのだ。
彼の言動、態度、考え方は間違っていないと思う者も居るだろうが少なくともランサーからすると呆れて勝手にしろと匙も投げたくなる。
しかし、それでも。
真っ直ぐに己の信念を貫いて英霊として召喚されうる程の実力を持った鋼鉄の戦士をランサーは素直に認めているのだ。
どうして己を信じないのだろう、と疑問にすら思う。
セイバーが召喚され、刃を交えた月夜。
ランサーは衛宮士郎を殺そうとする際の攻防、実に感心した事を覚えている。
ただ強化しただけの武器とも言えない物で本気ではないとはいえランサーの攻撃から見事に逃れた。
その発想と判断力は確実に評価されるべき出来事なのだ。
何よりその豊かな発想力と判断力を研ぎ澄ませ洗練された存在がアーチャーなのだし、戦う上で好敵手になりうる存在に文句などある筈がない。
不愉快な態度などを除けば、なのが悲しいところであるが。
「ランサー……暇だからと殺気を向けるな。鬱陶しい」
「ん?あぁ、考え事してたら遂、出ちまった……随分と気を許してる背中が目の前にあるしな」
「ふん、短絡的だな。此処でこれ以上、暴れると報酬に響く……これでも食べて大人しくしていろ」
目の前のサイドテーブルに置かれた包みとアーチャーの行動に驚く。
来るまでに準備があると言って確かに一時的に解散はしたが、わざわざ準備していたのか、何よりマメすぎだろ、と言いたかったが口を噤む。
サーヴァントは腹が空かないとはいえ味覚を感じられるし現代には美味しいものも多い。
何より料理上手である衛宮士郎に料理でも偉そうな態度をとっていた実力を知りたいと思うのは純粋な好奇心とも言える。
そして恐る恐る器用に聖杯に教えこまれた箸使いで食べた玉子焼きは深い旨味のあるだし巻き玉子であり、ランサーは大袈裟にも感動したと言っても過言ではなかった。
「うっっっまっ!!!」
「む、煩いぞ、ランサー」
「なんだこれ、お前のあの坊主に何やら偉そうにしてたのは伊達じゃなかったんだなぁ……!」
「き、君、聞いてたのか……」
ギクリと何処かお茶を注ぐ動きが鈍くなったアーチャーを不思議に思いながらも食べ進めていて、ある事に気付く。
量は成人男性二人分でも満足できるものだろうがアーチャーは料理に手をつけないのだ。
「お前、食わねぇの?」
「ん?あぁ……後で食べる」
「……お前、魔力少ねぇんじゃねぇのかよ」
「全く……こんなところで不用意に言葉にするのは止めるべきだぞ、ランサー」
呆れと馬鹿にした態度で分かりづらいがアーチャーの表情は何処か疲れを表しており、魔力を抑えている事は魔術に長けていれば分かるレベルだった。
だと言うのに美味しそうに食べるランサーに気を使っているらしく、食べ終わった残り物でも食べるつもりだったのだろう。
それだけに完食できると感じているランサーからすれば自分の分はサッサと食べてしまって欲しいところなのだが。
改めて思う。
なんと不器用で甘え方も知らない奴なのだろうかと。
気づいてはいたのだ。
自分に向けられる皮肉は何処か子供っぽい時があり、考え方を変えれば構って欲しいがどうすれば良いが分からない子供のようだと言うことに。
ならば不器用な甘え方に乗ってやるのも、また一興だろうと考えたのは忌まわしい神父や傲慢な王様の影響だとは考えたくないランサーは現実に戻り、荒々しくアーチャーの襟を掴んで引き寄せる。
「ったく、強情な野郎だな……よっと!」
「ラ、ンサーっ!?」
「お前の作った飯で割と気分は悪くねぇ……魔力を分けてやるよ、アーチャー」
「え……ら、ランサー……!?」
「そこまでだっ!!!ランサーっっ!!!」
次の瞬間、襲ってきた衝撃とセイバーの声にランサーは暗くなる目の前に抵抗することも出来ずに察する。
どうやらセイバーのご機嫌を損ね過ぎてしまったのだろうと。
そして目が覚めたランサーは思う。
あの野郎、ちゃんとセイバーとの約束を守って埋めてんじゃあねぇぞ、と。
しかし不思議と怒りよりも悔しさが傷口に染みる感覚はランサーにとって覚えのある感覚だった。
獲物を逃がした時のソレなのだ。
あと少し、もう少しでアーチャーに触れたと言うのに。
そう、あと少しでランサーはアーチャーに口付けをしようとした。
目的は直接的な接触による魔力供給だ。
だが今、思うとアーチャーの正体から察するにセイバーにとっては士郎もアーチャーもどちらも大切な存在に他ならないらしい。
何より実際に庭に埋められた事から考えるとアーチャーの機嫌も損ねてしまったようだ。
状況を理解できたランサーは思わず笑いが込み上げてきた。
「うわっ!?ちょっと、なんでそんなに土埃まみれで笑ってるんですか!?」
「あ、お前か。いや、ちょっと良い獲物を見つけてな」
「え?あぁ、ふぅー……やっと気付いたんですか?全く」
「まぁ、そんな所だな。覚えてたらまた頼むわ」
「良いですけど、ちゃんと僕に協力して下さいね?」
任せておけ、と煙草を取り出してルーンを刻んで火を灯す。
吐き出す煙を見て、煙をかけた時のアーチャーの表情を思い出しながらランサーは繰り返される日々について思う。
今の自分が気付いたのだ。
この事実は繰り返されようとも変わらないだろうから他の時間の自分もきっと獲物を追いかけるだろう。
クーフーリンという男は、狙えば必ず仕留め、己の欲を満たす。
色んな形で伝承されようとも変わらない部分から察するにそういう男なのだろう。
獲物に対して哀れすら感じてしまうとギルガメッシュ少年は、美味しそうに煙草を吹かす獣を見て溜て息を零したのだった。
END
「セイバーの野郎……うぐっ」
「彼女をからかうからだぞ、ランサー」
「いや、あんな水着来てたらっあだーっ!!!」
「自業自得だ……はぁ、君を埋めねば私が危ういのでね、悪く思うな」
ふざけんな!と叫びたかったがセイバーの剣幕を考えるに本当に実行せねば二人ともに危ういのは明白であった。
しかしランサーとて柔なサーヴァントではないのでセイバーと衛宮士郎の二人の場から脱出する事は出来ていた事を今は満足するしかない。
そしてセイバーに見事に沈められたランサーを回収したせいで濡れたアーチャーを見て思う。
何故にコイツはよりによって礼装の一部のままなんだろうかと。
確かに彼の今のノースリーブのような礼装は水着に見えなくはないだろうが目立つなと口煩いのは何処のどいつだったでしょうか?とランサーは言いたい。
「なんだ、見てきて?気持ち悪い」
「おい、この色男を捕まえておいて……あ……いや、うん、俺が悪いわ」
「分かればいい……全く、ギルガメッシュは何を考えているのか分からんな」
士郎を弄っていた生き生きとした声色とは違う、何処か疲れた声色のアーチャーにランサーはやはり釈然としない気持ちになり、自分でも少々混乱していた。
何故にアーチャーがつまらなそうにしている姿が気に食わないのだろう、と。
そして悩んでいる間に転びそうになった子供を助けるアーチャーの姿を見てアッサリと気付いた。
ランサー自身は確かにアーチャーを気に食わないが嫌ってはいないのだ。
彼の言動、態度、考え方は間違っていないと思う者も居るだろうが少なくともランサーからすると呆れて勝手にしろと匙も投げたくなる。
しかし、それでも。
真っ直ぐに己の信念を貫いて英霊として召喚されうる程の実力を持った鋼鉄の戦士をランサーは素直に認めているのだ。
どうして己を信じないのだろう、と疑問にすら思う。
セイバーが召喚され、刃を交えた月夜。
ランサーは衛宮士郎を殺そうとする際の攻防、実に感心した事を覚えている。
ただ強化しただけの武器とも言えない物で本気ではないとはいえランサーの攻撃から見事に逃れた。
その発想と判断力は確実に評価されるべき出来事なのだ。
何よりその豊かな発想力と判断力を研ぎ澄ませ洗練された存在がアーチャーなのだし、戦う上で好敵手になりうる存在に文句などある筈がない。
不愉快な態度などを除けば、なのが悲しいところであるが。
「ランサー……暇だからと殺気を向けるな。鬱陶しい」
「ん?あぁ、考え事してたら遂、出ちまった……随分と気を許してる背中が目の前にあるしな」
「ふん、短絡的だな。此処でこれ以上、暴れると報酬に響く……これでも食べて大人しくしていろ」
目の前のサイドテーブルに置かれた包みとアーチャーの行動に驚く。
来るまでに準備があると言って確かに一時的に解散はしたが、わざわざ準備していたのか、何よりマメすぎだろ、と言いたかったが口を噤む。
サーヴァントは腹が空かないとはいえ味覚を感じられるし現代には美味しいものも多い。
何より料理上手である衛宮士郎に料理でも偉そうな態度をとっていた実力を知りたいと思うのは純粋な好奇心とも言える。
そして恐る恐る器用に聖杯に教えこまれた箸使いで食べた玉子焼きは深い旨味のあるだし巻き玉子であり、ランサーは大袈裟にも感動したと言っても過言ではなかった。
「うっっっまっ!!!」
「む、煩いぞ、ランサー」
「なんだこれ、お前のあの坊主に何やら偉そうにしてたのは伊達じゃなかったんだなぁ……!」
「き、君、聞いてたのか……」
ギクリと何処かお茶を注ぐ動きが鈍くなったアーチャーを不思議に思いながらも食べ進めていて、ある事に気付く。
量は成人男性二人分でも満足できるものだろうがアーチャーは料理に手をつけないのだ。
「お前、食わねぇの?」
「ん?あぁ……後で食べる」
「……お前、魔力少ねぇんじゃねぇのかよ」
「全く……こんなところで不用意に言葉にするのは止めるべきだぞ、ランサー」
呆れと馬鹿にした態度で分かりづらいがアーチャーの表情は何処か疲れを表しており、魔力を抑えている事は魔術に長けていれば分かるレベルだった。
だと言うのに美味しそうに食べるランサーに気を使っているらしく、食べ終わった残り物でも食べるつもりだったのだろう。
それだけに完食できると感じているランサーからすれば自分の分はサッサと食べてしまって欲しいところなのだが。
改めて思う。
なんと不器用で甘え方も知らない奴なのだろうかと。
気づいてはいたのだ。
自分に向けられる皮肉は何処か子供っぽい時があり、考え方を変えれば構って欲しいがどうすれば良いが分からない子供のようだと言うことに。
ならば不器用な甘え方に乗ってやるのも、また一興だろうと考えたのは忌まわしい神父や傲慢な王様の影響だとは考えたくないランサーは現実に戻り、荒々しくアーチャーの襟を掴んで引き寄せる。
「ったく、強情な野郎だな……よっと!」
「ラ、ンサーっ!?」
「お前の作った飯で割と気分は悪くねぇ……魔力を分けてやるよ、アーチャー」
「え……ら、ランサー……!?」
「そこまでだっ!!!ランサーっっ!!!」
次の瞬間、襲ってきた衝撃とセイバーの声にランサーは暗くなる目の前に抵抗することも出来ずに察する。
どうやらセイバーのご機嫌を損ね過ぎてしまったのだろうと。
そして目が覚めたランサーは思う。
あの野郎、ちゃんとセイバーとの約束を守って埋めてんじゃあねぇぞ、と。
しかし不思議と怒りよりも悔しさが傷口に染みる感覚はランサーにとって覚えのある感覚だった。
獲物を逃がした時のソレなのだ。
あと少し、もう少しでアーチャーに触れたと言うのに。
そう、あと少しでランサーはアーチャーに口付けをしようとした。
目的は直接的な接触による魔力供給だ。
だが今、思うとアーチャーの正体から察するにセイバーにとっては士郎もアーチャーもどちらも大切な存在に他ならないらしい。
何より実際に庭に埋められた事から考えるとアーチャーの機嫌も損ねてしまったようだ。
状況を理解できたランサーは思わず笑いが込み上げてきた。
「うわっ!?ちょっと、なんでそんなに土埃まみれで笑ってるんですか!?」
「あ、お前か。いや、ちょっと良い獲物を見つけてな」
「え?あぁ、ふぅー……やっと気付いたんですか?全く」
「まぁ、そんな所だな。覚えてたらまた頼むわ」
「良いですけど、ちゃんと僕に協力して下さいね?」
任せておけ、と煙草を取り出してルーンを刻んで火を灯す。
吐き出す煙を見て、煙をかけた時のアーチャーの表情を思い出しながらランサーは繰り返される日々について思う。
今の自分が気付いたのだ。
この事実は繰り返されようとも変わらないだろうから他の時間の自分もきっと獲物を追いかけるだろう。
クーフーリンという男は、狙えば必ず仕留め、己の欲を満たす。
色んな形で伝承されようとも変わらない部分から察するにそういう男なのだろう。
獲物に対して哀れすら感じてしまうとギルガメッシュ少年は、美味しそうに煙草を吹かす獣を見て溜て息を零したのだった。
END