運命はなだらかに


スルリと這う白い手が己の黒い礼装の上を進む様子を赤いアーチャーことエミヤは怪訝そうに視界に入れながらも振り払う事はない。
例え白い手が己の腰に巻きつこうが、美丈夫の顎が肩に乗ろうが、気にしていては埒が明かない。

「よう、アーチャー。今日の飯なんだ?」
「ランサー邪魔だ。今日はオケアノスでのレイシフトだったので魚介類を中心に使用してスープ、グラタン、サラダを作っている」
「ほぅ、美味そうだな!」

だから退け、動きづらいと告げても今日の料理を担当しているエミヤの背後に陣取り、背中から覆い被さるように抱き締めているランサークラスのクーフーリンが離れる事は無い。
そんな懐いてくる彼に、遊んでくれと尻尾を振る犬を連想させながらも表情は普段の仏頂面のままエミヤは慣れた様子でテキパキと調理を進める。
周りからは怪訝な顔をされたり、苦笑いをされたり、余りのスキンシップの多さから変に勘ぐられたりしているがエミヤとクーフーリンは付き合っていない。
そう、一切、付き合っていないのだ。

にも関わらずクーフーリン、と言うと紛らわしいので以降ランサーとするが。
ランサーのスキンシップは周りが驚くほどエミヤに集中していた。
だからこそケルトに由来のある者は、肉体関係があるのだろうと思い。
由来のない者は自分の生きた時代とのギャップや、ランサーのエミヤへの明らかな特別視をした態度で察していた。
ランサーのクーフーリンはアーチャークラスのエミヤにご執心なのだ、と。

しかしエミヤ、では紛らわしいのでアーチャーと表記するが。
アーチャーからすれば鼻で笑い飛ばしたくなる浮世話であった。
第五次聖杯戦争の記憶があるサーヴァントなら分かってるだろうが、真相は正反対の犬猿の仲、腐れ縁なのだと口を酸っぱくさせるほど彼との関係を聞かれる度に口にしていたのだ。
しかし戦いばかりで外出も許可が必要となるレイシフトしかないカルデアでサーヴァント同士のコミュニケーション、話題は常に求められる事柄であり、特に色恋沙汰と言うのは英霊であろうと無視できぬ話なのは変わりない。

何よりもランサーのアーチャーに対する親しげ過ぎる態度も拍車をかける原因となっていた。

「お、この海老うめー!」
「私の周りでつまみ食いとは良い度胸だな、ランサー!!!」
「ぎゃんっっっ!!!」

ハハハッと笑い声やら、またやっているのかと言う食堂で寛ぐサーヴァントや職員達の声にアーチャーからは溜息しか出ない。
これでは、どれほどアーチャーが否定しようと説得力は無い。
とりあえず本当に邪魔だ、たわけ!とランサーを足蹴りで退けたアーチャーは大量に完成した料理を信用出来る今日の配膳の担当に任せ、空いている壁際の片隅の席へ腰を下ろす。
しかし自覚の無い男前は居るだけで目立ち、アッサリと両隣は埋まる。

「調理ご苦労だな。それで?今日もじゃれついていたセタンタとの具合はどうなんだ、エミヤ」
「スカサハ殿……何度も言っていますが私と彼との間には何も無いのです!」

隣に座って微笑む影の国の女王でありクーフーリンの師匠であるスカサハ、その人も二人の関係を誤解している一人であった。
最初こそ恐縮してしまっていたアーチャーも散々イジり倒されれば気も抜けてくる。
勿論、敬意は忘れていないのだが疲れてくるものはあるのだ。
すると豪快な笑い声と共に痛みを背中に受け、叩かれたのだと理解しながら振り向くと、もう一つ隣に座って来たケルトの戦士にアーチャーは背中の痛みに苦笑いが固くなる。

「はっはっはっ、そう隠す事もあるまいよ、エミヤ殿。クーフーリンのお眼鏡に叶ったと言う事がケルトの者に貴殿への興味を湧かせるのだろうよ」
「そ、そうですか?フェルグス殿が仰るなら、そうなのでしょうが……」

叩かれた流れで、スルリと肩に回された逞しい腕や声色から親しみを向けられている事に喜びと緊張で苦笑いは、ふわりと自然なものに変わる。
そんなアーチャーに気分を良くしたのか、アーチャーの肩に回していない手を顎に当て、珍しく考える素振りで何でもないようにとんでもない事を口にした。
フェルグスの女性歴を考えれば至極当然の流れではあるのだが。

「ふむ、しかしまたクーフーリンと寝ておらぬのか?見た所、据え膳に手を出さぬ質でも無さそうに見えるし、男相手に勃たぬか?」
「ぶふぉっ!!!?」

やはり大前提としてフェルグスすらもランサーとアーチャーが好き合っているとして話してくる。
何よりもアーチャーがランサーを明らかに性的に抱くと言う前提で話を振られ、思わずアーチャーは飲んでいた水を吹き出していた。
ケルトの名だたる英雄の前で水を吹き出すと言う失態をしたアーチャーは慌てて台拭きとテッシュで、口元や机を綺麗にするが冷や汗は止まらない。

「いや、あの、だから私は!」
「ふ……フェルグス、お主まだまだよな」
「ん?姐さん、それはどういう……」

氷の入った水を傾けているだけでありながら絵になるスカサハの麗しい笑みを向けられ、フェルグスはきょとりと意外そうな反応をする。
まさかスカサハ直々に指摘されるとは思っていなかったフェルグスは未だしどろもどろと居心地悪そうにしているエミヤから一瞬、気が逸れた。
その一瞬はランサーにとって充分すぎる程の時間であり、あっさりとアーチャーを救出してみせる。

「アンタら、コイツを構い倒すのも大概にしとけ!おら、行くぞアーチャー!」
「なっ!ら、ランサー!?引っ張るな!おい!!!」

まだ誤解が解けていない!食事もまだなんだぞ!などと言うアーチャーの悲痛な叫びは食堂に居た者達の同情的な視線を集めながらも凄まじいスピードで過ぎ去って行ってしまった。
ランサーとアーチャーの騒々しい退却で残されたスカサハとフェルグスは、同じく残されてしまったアーチャーの食事を二人でサッサと奪い合い、自分の分と共に空にしながら話を続けていた。
それも当然だろう。
とても珍しいモノを見たのだから。

「これはまた……彼奴が嫉妬とは珍しいモノを見たなぁ!はっはっはっ!」
「どうやら自分が味見もしていないのに手を出されるのかと焦りおったようだな、くく」
「ほぅ、クーフーリンめ。エミヤ殿にまだ手を出していなかったとは待つ事を覚えたのか」
「何、今頃エミヤを組み敷いてるだろうさ」

なんと!?先ほど姐さんが言いたかった事はそういう事か!と驚いたような声を上げたが、すぐにフェルグスはスカサハの意図を理解して豪快に笑う。
どうやらフェルグスのランサーが抱かれると言うのは間違いであると言うスカサハの予測。
そしてきっと当たっているであろうスカサハの予測の顛末にフェルグスはカラカラと人好きのする笑顔でアーチャーお手製の食事に舌鼓をうった。

そんな予測を己の師匠と叔父に立てられているとは考えていないランサーは、自室だと与えられた部屋へ向かう道中でルーンによる拘束をアーチャーへ施して戦利品として持ち帰っていた。
部屋へと向かい、辿り着く間も男として英霊の端くれとして恥じない抵抗を見せた アーチャーだったが抵抗虚しくランサーの手により備え付けのベッドへと、まな板の上の鯛よろしく放り出されていた。

「っぅう!貴様、何をする!」
「うるせぇ、それなら拘束解いてみな」
「チッ!忌々しい!!!」

うつ伏せで放り出された所を白いベッドで泳ぐように身を動かして仰向けになったアーチャーは、両腕を拘束されたまま胸を隠す状態でランサーにのしかかられ、アーチャーにとって屈辱的であった。
相手が敵兵であれば気にもならないが、よりにもよってランサーが相手では幾らアーチャーと言えど無視出来ない。
どうして?と言われると理由に困るが何かと因縁があるからとしか言えぬのが、もどかしい。
兎に角、彼に遅れを取るのは例え己の実力が及ばないと分かっていようと悔しいのだ。
何より、そのはっきりしない自分の心境が態度に出ているのも原因であると自覚はあった。
すると己の心の奥へと意識を飛ばしていたせいか、まるで礼装の下にある肌を確かめるように白い手が伸びて撫でてくるランサーの手が気付けば熱を持っている。

「っこの、触るな!」
「何言ってやがる、触らねぇと気持ち良くしてやれねぇだろ?」

たわけ、じごくにおちろ、らんさー。
アーチャーの口がそう言葉を発しようと開いた事がいけなかった。
ニヤリと嫌味な程、色気を感じさせる笑みと瞳をアーチャーが視覚した時には、あっという間に目の前は美丈夫で埋まり、口の中は容赦なく凌辱を受けた。

「っんん!?、ぁ、っ!ぅ!」

ポロリと転がりそうなビー玉を思わせる程に大きな瞳を見開いたアーチャーを気にする事は無く、ぬるりと舌は無遠慮に奥へと逃げ惑う舌を追いかける。

「ひぅ、はっ、んんっー!」

しつこい程にたっぷりと上顎を撫でられ、歯列をなぞられ、押し返してくる柔らかな舌を逆に捕らえてじゃれついてくる。
するとアーチャーの眉間には未だ皺が居座っているものの眉尻を悩ましげに下げて目尻は赤く染め上げた。
それに気を良くしたランサーは息苦しさから胸の上で束になっている腕でランサーを押し返し、顔を背けてしまっているアーチャーの様子に上機嫌のままであった。
寧ろ、わざと流したランサーの魔力は鈍い毒のようにジワリとアーチャーの身体に流れ込み刺激と化す。
甘い痺れはアーチャーの身体を少しずつ酔わせ、火照って行く身体を確認するようにランサーはアーチャーの拘束した腕を更に頭上へと固定させると、さらけ出された胸の柔らかな感触と火照りを楽しむように揉み込む。

「っっ!ぅ、ぁ!いいかげん、にしたまえ!」
「へいへい、お前はこっちに集中してな」
「あ、くっ!ぅ、んん!」

己の身体に流れる甘い刺激の正体を分かっていながら抗う態度のアーチャーに内心は苦笑いをしつつ、ランサーは揉んでいた手を滑らせると敢えてインナーを破く事はせずに脇の隙間から手を滑り込ませる。
潜り込む前に手触りの良い脇を撫でる事を忘れずにちょっかいを出しつつ、目的の突起へ辿り着くとランサーは容赦なく摘む。
すると期待以上にアーチャーは摘まれる度に喉から甘い声で鳴いてみせた。

「は、ぁ!やっ!、くっ、っぅう!」
「んだよ、随分と反応が良いじゃねぇか」
「違、う!こんな、反応などおかしい!」
「そうかい、なら」

お前の身体に理由を聞けば良いな、と何処か楽しげなランサーの言葉に何処の安いセクシー男優だ!とまた理性の残るアーチャーの無駄に冷静な頭はツッコミを入れるが、それどころではない。
ビリッと布の破ける音と共にアッサリとインナーは破かれ、アーチャーの上半身を顕にされたのだ。
顕にされた乳首はランサーから与えられた刺激で少し隆起し、弄っていなかった片方の乳首とは明らかに大きさは異なり、色もピンクから少し赤く色づいている。
明らかに感じている有様に思わず舌なめずりを無意識にしていたランサーは、アーチャーの緊張しきったゴクリと喉を動かす音で意識を胸から戻す事が出来た。

「っと、ベッドの中で相手に見惚れてちゃいけねぇな」
「ぬかせ!さっさと私を解放しろ!この駄犬!!!」

ピクリとアーチャーの駄犬との言葉と共に動いたランサーの眉尻、そして明らかに力が入り、アーチャーの顔の横のシーツを鷲掴むように握り締められた拳でシーツにシワが大量に寄り、ギリギリと音を立てている。
シーツからする筈の無い音を鳴らし、僅かに震えた拳と鋭くなり妖しく艶のある赤い瞳から充分に怒りを感じさせた。
しかしアーチャーは怯む事なく色情混じりだが真っ直ぐにランサーの赤い瞳を睨み返す。

「……あー言ったな?弓兵。手加減は無用と言う事か」
「ふん、好きに取れば良い」

目的達成の為ならば簡単に膝を折る事の出来るアーチャーにも譲れぬ物、ランサーとは違う形のプライドはある。
強姦の言葉に違わぬ事を強いてくるランサーの手に抱かれようと構うものかと、アーチャーは考えていたのだ。
奇襲にも近いランサーの拉致は予想外でしかないが彼にこのまま抱かれて魔力供給を行えば、食事で補おうとしていた分以上の魔力が手に入る。
弓兵は目の前の麗しくも恐ろしい獣の事を利用しよう。
その程度にしか意識しないようにと切り替えてしまった。

「チッ、全く……こんな時くらい少しは素直になったら、どうだ?」
「ふん、私は常に己に素直だとも。それよりも君はなんだ?突然、襲ってくるなど獣同然ではないか」

冷たくも感じる赤々しい瞳から逃れるように視線を背けつつ、言葉を交している間も胸やその上に付く乳首、脇腹や腹筋の形を楽しむようにランサーの指は動きを止めない。
そんなランサーの態度に内心、舌打ちをしつつ足の間に居座る白い石膏のような美しい身体に向かって膝で蹴りを入れ、抵抗は忘れない。
しかしそんな些細な抵抗も許す気は無いのか、それともアーチャーの言葉で許す気が無くなったのか。
ルーンにより少しずつ重みを増して簡単に開いていく両足にランサーへの忌々しさも増して行く。

「あーはいはい。相変わらずの減らず口だこと」
「くっ!き、さま!本当に今日はなんなんだ!一体、私が何をした!!!」

撫でるだけでなくチュ、チュと可愛らしい音を立てて、首筋から胸、腹筋、ヘソ、ルーンにより痺れて動かないのをいい事にズボンを脱がしながら太もも、内側にと下がって行ったかと思うと再び上がってきて、しつこく手で撫で揉む手と共に口で胸に愛撫をして来る仕草には性的な匂いが香り立ち、情事に慣れている事を知らしめていた。
何よりもその愛撫を受けている自分は今からランサーに抱かれるのだと言う事を叩きつけられているような気分になり、頭から冷水を被ったように肝が冷え、苦虫を潰したような感覚に襲われる。
すると、そんなアーチャーの焦燥感が顔に滲み出ていたのか、ランサーは何処か驚いたようにアーチャーを絶望の淵に叩き落とした。

「あ、言ってなかったか?俺はお前が好きだと」
「……は?」
「ん?いや、だから俺はお前が好きだぜ?」
「ま、待て待て!そんな、き、君がオレを好き!?冗談も大概にしろ!」

手っ取り早く魔力供給の為の相手くらいの認識にしよう、意識せぬようにしようとした事が裏目に出て、ランサーからの愛情の篭った言葉がアーチャーにカウンターとして常よりも深く言葉が染み渡ってしまった。
何よりもニヤリとした悪戯っ子の、しかし男臭くも人好きのする顔ではなく。
キョトンとした後、にこりと花が咲いたようだが何処か照れ臭そうに微笑むランサーの姿があった。
ランサーの照れたような笑顔に一瞬、ときめいたが腐っても下っ端でもアーチャーとて英霊。
鋼鉄の魂は、すぐに冷静となって穴と言う穴から汗が出たのでは無いかと言うほどに汗が溢れるが、アーチャーの身体は汗に比例するように冷えていく。
だが予想だにしていなかった言葉で動揺したアーチャーはランサーの静かな怒りに気付けなかった。

「冗談だと……?この俺の思いは偽りだとお前は言うのか?」
「当たり前だ!!!私など……っは!寧ろ掃除屋風情にちょっかいをかけるほど安い男だったとは驚きだ!」
「……ならば何故に此処まで抵抗しなかった?お得意の剣でも出して俺の背中でも斬れば良かったじゃねぇか」

温かな笑顔から、しかめっ面へと変貌し、明らかに機嫌も急降下して行くのを何処か冷静にランサーは己を客観視していた。
だが怒鳴る、殴るほどではない。
例え愛おしいと同時に憎らしく、例え相手が逞しい男であろうと、簡単に手を上げるのはランサーの許す所ではない。
しかし次の瞬間、アーチャーは言ってはならぬ事を言った。

当然だろう?どうせ私の身体を見れば興醒めして私が解放されるのは明らかだよ、と

「っっ!ふっざけんな!!!」
「っ!?」

シーツを力強く握っていた拳はやり場のない苛立ちから殴れる握り拳へと変わり、アーチャーの顔の横へと叩き込まれる。
そして叩き込まれたベッドの奥の方でミシミシ、パキッと言う樹木が倒れたような嫌な音が鳴る。
カルデアの備え付けのベッドは明らかに木製ではないにも関わらず、嫌な音をベッドにさせたランサーの拳の威力を充分に物語っていた。
流石のアーチャーも内心は一瞬、肝を冷やしたが己の身体はサーヴァントであるし何よりも自分へと拳を向けなかったランサーに対して少なからず理性があるのだと察する事が出来た。
しかし事が、それで終わる訳もない。

「面倒くせぇ奴だとは思っていたが此処までとは思わなかったぜ……もういい、お前は喋るな」
「ぐっぁ、んんんーっ!!?」

何やら記録じゃ細部まで分からんな、やら、分霊じゃ限界があるなどブツブツと言いつつも、先程の強力な殴りとは真逆の優しげな手つきでランサーはアーチャーの頬を撫でたかと思うと再び覗き込んでくる。
またか、とアーチャーは眉間にシワを寄せたが触れてきたのは唇ではなくランサーの逞しくも美しい指先だ。
撫でるように己の舌の上を滑る指に彼の指を汚してしまったとアーチャーは無意識にシワの溝を深くしていると、ランサーは苦しいのだと思ったのかアッサリと指を引き抜く。
出て行く時ですら口と指はツーッと細い糸で結ばれ、自身が興奮しているのだと見せつけられているようで思わず歯噛みしようとした。
だがピリッと電流が流れたような痛みが舌を襲ってきて思わず、身体をビクつかせる程に痛みに驚いていると楽しげにニヤリと物騒に笑うランサーが更にアーチャーの苛立ちに拍車をかける。
魔力の残滓が濃厚に口内の中に溢れ、重みを増して勝手に開いていく口でなんとか目の前の美丈夫に文句を告げる。

「う、ぁ!?らんはー!」
「なんだよ対魔力が低い割には喋られるじゃねぇか」
「やかましい!」
「ま、どうせすぐに喋る暇なんか無くなるだろ」

ルーンの効きが良い事で機嫌が治り始めているランサーに呆れて付いていけんと抗議する事を放棄しようかと思いだしていた。
しかしアーチャーはランサーとの言い争いでスッカリ意識から抜け落ちていたことがある。

「っぁ!?」
「おーまた魔力でも流そうかとも思っていたが萎えていないようだな」
「チッ……貴様の、言葉れ萎えそうら。さっさと済ませろ」
「なんだ?思ったよりも喋りやが……ふむ、趣向を変えるか」

まだ何かするのか?つくづくルーンの無駄使いをするな、この犬。と心の中で罵倒しているアーチャーに気付いていないのか、ランサーは己の礼装を消し去りながらサーヴァントの力を遺憾なく発揮してサイドテーブルの引き出しから取り出したローション丸々一本をアーチャーの下半身、特に股間の上で握り潰した。
あまりの冷たさと雑な行い、何よりローションを惜しげも無く、ぶち撒けたランサーの行いにアーチャーは再び怒りが湧いてくる。

「ひっぅ、きひゃまっっ!!たわけ!」
「ははっ、お前の声で舌足らずは中々笑えるなぁ」
「塗るりたくる程、撒くなっぅ…ぁ!」

そうか?女のように濡れる事はないし丁度良いだろう?と軽口を言いつつ躊躇もせずにアーチャーの性器を掴んで上下に扱い、ルーンが効いて力の抜けきっている片足をすっかり上機嫌なランサーは自身の肩に乗せる。
楽しげなままランサーは空いた手を伸ばし、肉厚でありながら形も手触りも良い尻を撫でて感触を楽しみつつ、ベッドに零れる多すぎるローションを絡めながら後ろの秘部の輪郭を解しにかかる。
本格的に己を抱く為に動き出したランサーを意識せぬよう、要らぬ声も動きもせぬようにしようとアーチャーは目を固く閉じるが性器を包む手から響く水音がぐちゃぐちゅと音を増して行くのと比例するように開きっぱなしの口からは吐息の回数が増えて行く。
しかし吐息だけでランサーが満足する訳も無く、人差し指の第二関節を曲げて内を無遠慮に掻き回せる程になった頃には開けられた口から出るのは小さくだが確実に欲に濡れた喘ぎ声だ。
間の抜けたような己の声にアーチャーは情けなさとランサーに聞かれている羞恥からいたたまれない。
されど後ろを掻き乱しているランサーも暴いていく指が増えて行くと共に何やら不機嫌なような、少しだらしなく喜んでいるような複雑な苦笑いを浮かべていた。

「割と簡単に解れていくな……」
「ふぁ、っぅぅ……ん、んんはぁ、な、なに?」
「いや、悪い。集中する」
「ひゃぁあ!やめ、いい、からさっさとおわ、らせ」
「後ろでちゃんと感じてんのか?」

ちがう!早く終わらせろ!と何度もうわ言のようにらしくない舌足らずで訴えかけ、更にランサーがチュッチュッと小さなキスを顔中、身体中に送っていると重く怠い筈でありながら身体を揺すったり、顔を子供のように頭を振る姿はランサーにとって煽っているようにしか見えない。
頭を振る動作は生娘のように初々しく、振った事で降りていく前髪が更に幼さを増加させ。
身体を揺するなど特に逆効果で身体へのキスを嫌がっていてもランサーからすれば、あどけなさとのギャップを感じさせる程に僅かに揺れる身体は艶めかしく緊張と生理的興奮からか、後ろは解されて恋しげにランサーの指を絡めるように締め付けてくる。
明らかにアーチャーの反応は初めてでありながら身体は上手く快感を拾っており、素質があると言う言葉だけでは片付けられない。

ー身体に抱かれた経験が分霊にまで染み付いているー……

それがランサーの中で導き出された結論であり、分霊に染み付いている。
つまり明らかに大量の抱かれた経験が積まれて事実として影響する程に抱かれたのかと思うと、ランサーからすれば例え処女にこだわりが無くとも心から惹かれ、そして戦士としても申し分なく一流である相手の慣れてしまったと言う有様に複雑な気持ちになる。
この男は結果として人を救えるとして相手に求められれば身体まで差し出しそうだと告げる記録に反吐が出そうだった。
男としてのプライドまで捨てるのかと問わずにはいられないと、複雑な気持ちとアーチャーの痴態から来る興奮から沸騰しそうな思考から目の前の快感を追いかけようと懲りずに深く絡め取る口付けをした時だった。
可愛くない事にアーチャーはランサーの舌を噛んだのだ。

「ん!ぁ、んんっぅ、ふぁ……っ!」
「ふ……っぐぁ!いってー!何しやがる!!!」
「はっ!大人しく抱かれてやるとでも思っているのか?」

鉄の味が広がる己の口内にシワを寄せるランサーの姿に少し満足したように艶やかに輝く口端や唇を拭えないからか、そのままにいつもの様にアーチャーは、ランサーがいけ好かないしたり顔でランサーを鼻で笑う。
そんな男臭い仕草と普段からアーチャーによく似合っている相手を馬鹿にしたような微笑みは、今の押し倒されて暴かれている男とはかけ離れている。
だが上乗せされた行為により追い詰められた事で艶めかしく色付いた身体や、興奮と快感を魔術により噛み殺しきれていない顔色は普段のアーチャーの仕草を更に色目つかせていた。
目の前の屈強な男前で己と刺し違えられる程の戦士を押し倒され、抱かれる事を容認しながらも不敵に笑っている光景は萎えるどころかランサーを煽っており、ゾクゾクッと興奮が背筋を駆け昇るのを感じて余裕と理性が崩れていくのを自覚しながらもランサーは抗わない。
されど愛おしい相手であろうと加減しないと決めれば容赦ないのがランサーである。

「ったく……治せ、この野郎」
「はぁ!?治癒は専門が、ぃ、んんーっ!」

そんな事は知っているわ、たわけが。
内心、心中で呆れながらも意趣返しをしなくてはランサーの腹の虫が収まらない。
良くも悪くも、この弓兵とは親友であったファーディアとも違い、また宿敵であったメイヴとも違う少し関係であり、妙な縁だと溜め息すら出そうだ。
もし今のランサーを見れば親友でなくとも彼を知る物は皆、必ず驚くだろう。
アーチャーに対するランサーには悪く捉えようとも何処か執着にも似た感情が見て取れるのだから当然だ。
生前、彼が執着したものは、妻やゲイボルグなど彼にとって中々譲れぬ物ばかりだ。
だからこそ今、アーチャーを抱こうとしたのも譲れぬもののカテゴリーにアーチャーとの決着、縁が含まれているのかをランサーは確かめたかった。
男を抱く事に躊躇はないのもあったが抱く事に決めたのは、カルデアで過ごす内にアーチャーに直接、触れるサーヴァントを見かける度に気付けば手元にゲイボルクを出現させており元々は俺の取り逃がした獲物だったのにと考えてしまっている己を鑑み、赤き弓兵に執着しているのだと我ながら呆れつつも同時に何処まで自分はあの弓兵に拘っているのか、譲れぬものなのかと試すのはランサーにとって本体のある座にすら影響しかねない重要な事だった。
流石に例え大雑把に見えるランサーでも本来は抱かれる訳ではない性別の男が相手で、しかも狙っているのはアーチャーだ。
抱かせて欲しいと言って彼が納得する理由でもない限り頷く前に話も聞いて貰えないと考え、まずはカルデアに呼ばれて冬木の聖杯戦争や他の世界線での戦いの記憶が薄っすらとある特殊な状況下である彼と自分自身の間も少しは距離を縮めてみようかと思いながらも上手く行かず、運命などと半ばヤケ気味に言ってみたのは記憶に新しい。
だが、その悩みも無駄だと先程の血生臭い口づけで全てチャラだ。
先程の口づけで流れてきた記録の中の殆どでランサーとアーチャーは口づけを、身体を重ねていたのだ。
そんな関係が魔力供給の為なのか付き合うなどと言う甘い関係なのかは知らないし、分からずとも良い。
今のランサーには目の前で自身の口づけに対して必死に対応しようとする小憎らしくも可愛げを感じてしまった弓兵を頂く事が全てなのだから。

「ははっ、どうやら俺の考えは杞憂だったらしいな」
「んっ……は、なんの、はなしを……」
「ん?あぁ、ちーとばかしお前が他の奴に抱かれてたかと思ってたが、アレだ。単純に俺もお前も身体がお互いを覚えてた。ただそれだけだったっつー話さ」
「ふ、ふらけるら!わたしとて足を開く相手くらい、へらぶ!」

ゴッと言う音と共に軽く頭突きしてアーチャーの顔は怒り顔であるが同時に火照っており、ランサーでも表情の中に照れが見て取れた。
暗にランサーを選んだと言われたと直感で感じ取り、身体が熱くなるのを自覚しながらもランサーは額、顔、首筋などにキスを送って謝るような想いを示しながら全ての拘束を解いていく。
これにはアーチャーも予想していなかったのか、きょとんとした直後にランサーの意図に気付いたのか慌てたように身体を動かすが先程までのようにお暴れする事なく、居心地悪そうに赤らめた頬の熱を開放できぬままにランサーの髪を撫でるように触れて止める。

「ら、ランサー!痛みはないから、その、唇を寄せるのは……っん」
「俺がしてぇから甘んじて受けろ。俺とて拒否されるのはあまりに辛かったんだから悪いと思うなら大人しくしろよ?」
「しかしだな!」
「ははっ、何故かは知らんが抱かれる気になったんだろ?なら少しは俺に甘えさせろって言ってんだよ、エミヤ」

溜め息まじりに愛しさが出てきた男の真名を呼んでやるとピクリと反応していながら震えていながら回してくる腕に思わずほくそ笑む。
どうせ守護者の分際で~やら考えているのだろうと思いながらもランサーは構わない。
何を考えようと今はランサー自身の事に集中していれば良いし、例え集中していないなら振り向かせれば良いのだ。

「私のような男に懐くなど故郷の民が泣くぞ」
「おいこら萎えさせるつもりかテメェ!この腕みたく大人しく俺に任せとけよ。可愛くねぇ…」
「ならばやめるかね?」

自分も興奮して今すぐに発散したいのは同じである筈のアーチャーは誘うようにランサーの項を撫でながら髪留めを外すと、片腕はランサーの背中の筋肉の美しさを確かめるように撫でながら力に逆らわずに背中から流れてきた美しい青髪を手に取り、キスを送って普段よりも艶めかしさのある微笑を浮かべている。
口ではやめるのか?と聞きながら明らかに誘うような仕草に落ち着き始めていた自身へと血が流れていくのを感じて、思わず目の前の灼けてしまってもきめ細かく触り心地の良い肌へ歯を立てる。

「このやろっ!」
「いっ、ぁ、はぅ」
「ふ、はっ、冗談!ようやく捕まえたのに逃がすかよ」
「は、ぁ、では精々その手練手管を見せて貰おうか?」

泣いても許してやらねぇ、この狸と心中で毒づきながらランサーは内ももにキスを送ると、慣らしていたアーチャーの後ろの具合を指で少し確認するとすっかり蕩けてた中に少しの芯の強いを感じさせる瞳で見返して来るアーチャーに満足感を覚えながら入りきらない己の性器を最奥まで進める。
すると痛みはない筈だが違和感などはあるのか、眉をいつになく深く刻んで息は荒く吐息の中に嬌声が混じっている。
だが泣き言を言わずに寧ろ落ち着いていた頬の熱を纏わせて汗を薄っすらと流して息を吐いているアーチャーは明らかに身体が快感を拾っている証であり、ランサーも一安心で馴染むまで大人しくしていた間も遠慮なく絡みついて来る待ちわびた秘肉を楽しめると思うと頬が緩むのも仕方ないだろう。

「あ、ぅ……ふ、動か、ない……のか?」
「んー?そりゃ今すぐお前の中を突きたいが……身体が覚えてようと初めてなんだから少しはだなぁ」
「は、君にっ待てが出来るとは驚きだ。猛犬の名がな、く、っひ?!」
「お前は喋る時に皮肉を言わなきゃいけないゲッシュでもあんのか?」
「な、んんっーーー!っぁあ、や、めっ!!そ、こっ、ひぁあん、んんーーーっ」

あまりに皮肉が耳につくので己の中にある記録にあった前立腺の場所を性器で探り当てて上から下腹を体重を乗せて押してやると、ランサーの狙い通りにアーチャーは頭と頬をシーツに押し付けて口から興奮した獣のように涎を垂らしてシーツを濡らしながらルーンから開放されていながらも素直に甘い声を上げている。
言葉は拒否しているが秘肉は素直と言うよりも暴いてくれと甘え乞うようにランサーの性器を程よく絡みつきながら締める。
どうして性器から精液すら出しているのに口からは拒む言葉は兎も角、皮肉が絶えないのかと小首を傾げずにはいられないがランサーは今は余分な事だから後だと仕切り直すと可愛くない言葉を告げてくる口から可愛げのある声を上げさせる為に腰を動かし始めた。

「あっ!や、ぁっ、ぅん、ぁう!」
「っおら、は、アーチャー?腕が空いてんぞ?」
「ひぅ!ぁあ、らん、ひゃ!キツっひぃ!」
「あーあ、本当にお前は、ふっ、ぁ、身体すら俺を覚えてるんだな、エミヤっ!」

女性であれば耐えられずに腰が砕けてしまっている程のストロークを身に受けながらもアーチャーは鍛えられた身体を裏切らずに嵐のような動きにも合わせ泣く姿は絶景以外の何者でもない。
とっくの昔に自分の中で出ていた答えに納得しつつ、耳すらも形が良いのかと熱、喜び、興奮に茹でる頭でぼんやりと考えながら快感を教え込んだのも気持ち良く己の性器を締め付ける身体を今、抱いているのも自分なのだと考えると嬉しくなって来て、嬉しそうに興奮混じりの掠れた声色でアーチャーの真名を呼ぶ。
するときゅうきゅうと歓喜するように、いや。
実際、アーチャーは嬉しいのか、これ以上ない程に耳まで顔を赤く染め上げながら幼子のように頭をいやいやと振ってランサーの声と快感から逃れようとしていた。

「っんあ!ぃ、やだぁ、こえ、だめっだから!」
「は?」
「く、クーのこえ、きくと、イキそっんあああああ!!?」
「っは……!」

馬鹿が、このタイミングで名前を言う奴があるか!!!と言ってやりたかったがランサーには無理だった。
ランサーの声で達しそうと告げながら己の性器を切なげに、しかし何処か歓迎するように絡みついて来る秘肉に何より辛そうにしながらランサーの首に縋り付くようにしながら腕を絡めて耳元でダイレクトにアーチャーの興奮しきった甘い声を聞いて理性など簡単に焼き切れてしまった。
そこからはアーチャーには辛いだろうがベッドへと縫い付けるように身体を密着させて最奥の奥にこつこつと突く。
勿論そんな擬音のように優しくはない。
アーチャーからすれば堪ったものではないのだ。
何故ならランサーの精液に含まれる神性の高い魔力を直接、身体の内側に塗りつけれながら激しすぎる快感を同時に与えられて挙句の果てにアーチャーが達していようとお構いなしに大量の精液を最奥に叩き付けながら、それでも擦りつけつつ秘肉を押し拡げて濃度の高い魔力を刷り込んでくるのだ。
あまりにキツイ快感と神性な魔力の濃度に襲われているのだから後々に思い出して、よく自分は彼に抱かれて意識を飛ばさなかったと乾いた笑みで己を珍しく褒めたのは別の話だ。

「あっ、も、らんさっ!」
「は、名前呼べよ!エミヤ!!!」
「っひ!?くぅ、はっ、んぁあ……クーっ!」
「あぁ、いいな、最高だわ」
「はひ、あ、も!おわ、やらぁ、ぁあ、あ、あ、ぁあっーーーー!!!」
「ふはっ、たっぷり出してやるよっ!!精々孕めや!!」
「ひぁ、ぁ、あ、ぅ、わ、分かったぁ!おれ、がんばるからぁあ!!!」

男が男に抱かれて中に出されようと孕む訳もない事はランサーもアーチャーも分かっているが、それでも互いに相手ならば可能にしてしまいそうだと蕩けた頭で考えてランサーはアーチャーは耳の奥の鼓膜に響くように魔力も込めるように意識しながら孕めと告げる。
そしてアーチャーもそんな愛しい男であるランサーの声と言葉に蕩けきった脳は素直に反応し、秘肉を震わせて全てが覚えてしまった身体は搾り取るようにランサーの性器を恋しいと言うように締め付けながら艶かしく動く。
幾度ほどランサーもアーチャーも互いに達したかなど分からなくなっていたが、かなりの熱量と濃厚な時間や空間も男と言うのは欲を吐き出してスッキリしまえば、すぐに頭は冷えていくように出来ている。
そしてそれはサーヴァントである前に男であるアーチャーとて例外ではない。

「は、は、はぁ、ぅ……っ!」
「あっちー……」
「知った、事か……はぁー……もう良かろう?抜け……はふっ」

いつのまにか落ちていた前髪を掻き上げながら先程まで女性のように喘ぎ、あまつさえ孕む事に同意した男とは思えないほど凛としているが抱かれた側である為か快感の余波に小刻みに身体を震わせて腕で顔を隠しながら要件は終ったであろうランサーに抜くように求めてくる。
だが男性は欲望と快感には素直な生き物だ。
満足していないのなら愛しい相手を一回ほど抱いたくらいでは満足する筈もない。
何よりもクーフーリンと言う男は、まさに己の欲望に忠実であり、欲望を自覚して正しくぶつけて来る男であった。

「……はぁ?こんなもんで満足するかよ。次は背面な、痕も付けてねぇし!」
「なっ!?ばっっっーーーー!たわけぇ!!!地獄に落ちりょっ、んぁあ」

こうして散々我慢していたランサーの性欲の相手をする羽目になったアーチャーは鋼鉄の英霊に恥ずかしくない鍛え上げた逞しい身体のそこらじゅうにキスマークが無い所は無いと思わせる程にマーキングされ、翌日は料理の当番も出来ずにベッドで美しき駄犬に余す所なく頂かれるのだった。



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