ハピハピLife
「うぅ……ひぅ……!」
「はぁ、告白を受け入れさえすれば良いものを……」
「おい、オルタ!それは言うべきではなかろう?シャドウの心は……」
「……ふん」
「キャスター……ごめ、なさ……!」
シャドウの膝を抱えて泣きじゃくる姿は、まさに叱られた子供そのもの。
と言うのがオルタにとっての印象であり、その印象は間違いではないだろうとオルタは踏んでいる。
大火災の時からシャドウは止まっているのだ。
死にゆきながら助けを求める声を無視した罪。
生き残った罪。
言い出してはキリがないだろう。
記憶力に障害のあるオルタですら覚えている地獄がシャドウを苦しめているのだ。
家族として暮らし始めて十年を経ても癒えぬ心の火傷なのだからキャスターの手では焼け石に水だ。
他のシャドウへと言い寄ってきた不届き者どものように蒸発するに決まっている。
またシャドウが傷付くのかと考えていると気付けば眉間にシワが寄っていたらしく。
少し落ち着きを取り戻したらしいシャドウに優しく眉間を撫でられる。
「やめろ」
「いやだ……だってオルタが苦しそうだ」
「苦しむ?俺が?そんなものは、とうの昔に捨てた。鬱陶しいから触るな」
「あ!待ってよ、オルタ!」
「おい!……ふっ、オルタ、貴様は逃げるのか?」
「……なんだと?」
オルタ相手には中々効かないと知っていながら不敵な笑みを浮かべるアーチャー。
その姿はオルタからすれば滑稽でしかないが、今はあまりに不快感を煽られた。
何故ならアーチャーが何の話を持ち出すのか分かりきっていたからこそ、滑稽でいて内容のせいで不快であったからだ。
オルタは今、まさにリストラされそうになっていた。
普通の立場なら求職活動をすぐにでもするのだろうがオルタは難しい立場にあっていた。
まずオルタには国籍や履歴がはっきりせず、アインツベルンの令嬢であるイリヤスフィールが手を回したのだ。
本来のイリヤスフィールならば世話焼きなどしなかったろう。
しかしオルタは、彼女と彼女の父である切嗣が破棄されたアインツベルンの研究所に遺された情報から見つけ出し、探していた人工的に誕生した人間なのだから当然である。
故に日本での情報をアインツベルンがデッチ上げ、保護、もといオルタからすれば監視なのだが手元に置いている状況だ。
アインツベルンの監視がある以上、気まぐれに就職してみたもののオルタからすればリストラなど、どうでも良かった。
そう、普通ならば。
「貴様のせいで毎朝のように黒い高級車が迎えに来ているせいでご近所さんが怯えているんだぞ!?」
「逃げるが勝ちと言う言葉を知らんのか」
「ふん、知っているとも。だが、この場合は逃げても無駄じゃないのか?」
そろそろテレビカメラまで来そうだもんな、と言うシャドウの呟くような言葉は鋭い。
だがシャドウの予想は間違いではない。
逃げた所で迎えに来ている黒い高級車。
その車の後部座席に居るのはオルタが怒りに任せて殴った男クーホリン、そしてその男へ加護を与えている女王のメイヴが乗って居るのだ。
毎日毎朝、決まった時間に乗るように誘いをかけてくる。
強要でも強制でもない。
だが拒否は認めない。
そんな強引でありながら放任的、と言う矛盾した男の在り方を表した態度にオルタは唾を吐きかけたくなる。
オルタは今、クーホリンことプロレスラー狂王様、とその事務所からスカウトorリストラを迫られているのだ。
先程も紹介したオルタの背景事情からの通り目立つ事は御法度だ。
しかも普通のプロレスラーなら兎も角、クーホリンは様々なメディアに取り上げられている上にモデルのクーフーリンの兄弟であると報じられてからは更に派手にメディアに出ている。
事務所で遭遇した時など、彼が告げてきた言葉により日本が銃刀を法律で禁止している国でなければ眉間に打ち込んで居たとオルタは歯噛みした程だ。
「本来ならば連れ去るところだがメイヴがうるせぇからな、アイツに感謝しとけ」
あぁ、全く持って腹が立つ。
どうして俺がお前の言う事を聞かねばならない。
あぁ、本当に忌々しい。
どうしてこんな時ばかり記憶に残るのか。
昨日どころか今朝、何を食べたかすら記憶が保てないと言うのに狂王の言葉が、声ばかりが脳裏に絡みつく。
「チッ……」
「はぁ……いい加減、貴様の方も覚悟を決める時じゃないのか?」
「五月蝿い奴だ、お前だけは言われたくないなぁ。さっさとクーフーリンに奉仕して来い」
子供じゃあるまいに拗ねるな、奉仕ではなく仕事だ!などと小言が五月蝿いがアーチャーよりも五月蝿いのはジーンズのスマホだろう。
また狂王からの呼び出しだ。
別に応じない時もあるのだが何故か応じればメイヴから報酬が出るのだ。
アインツベルンからの判断は、まだ下りない。
拒否も肯定もする事はしてはいけない状況で答えるのは面倒ではあったが報酬は三人で暮らしているマンションの家賃や光熱費になるのだから仕方がない。
アーチャーやシャドウに気付かれずにアインツベルンに金を入れる事で普通の生活を手に入れている事は二人に知られる訳にはいかない。
アインツベルンの魔の手と加護は、イリヤスフィールや切嗣の恩恵だけでは逃れきれないし、彼女たちの立場すら危うくしてしまい兼ねない。
ならばオルタはオルタなりの方法を取るだけだ。
例えば飢えた獣の餌の真似事になろうとも。
「……出掛けてくる」
「む?またなのか?オルタ、ならついでに夕飯の買い物しよう!」
「無理だろうな、お前たちだけで食べていろ」
えぇー!と抗議の声を上げてオルタの腕に纏わり付くシャドウは知っている。
オルタが狂王に呼び出され、連れ回されている事を偶然だったのかシャドウが告白された日に見られていた。
狂王の容姿は刺青が顔から腹にかけてある上に紺色の髪、紅の瞳、更には鍛えられた身体を隠すことなくオープンにした上着やシャツを羽織ったのみな事が多い。
故に危ない仕事してるのだと勘違いしたシャドウに泣き付かれたのはオルタの記憶にまだ残っている。
結果してテレビに映った試合で戦う狂王を見て信じて貰えたが入って行った道が悪かったのだろう。
近道だからとホテル街を通った為にシャドウからは性的関係でもあるんじゃないかと未だに心配されている為にアーチャーにもバレた挙句に怪しまれ、面倒な事になっている。
「お前はネットのし過ぎだ、シャドウ!」
「ふ、確かにそうだな。また夜更かししてるだろ!」
「もー!調べ物してるんだから当然だろ!アーチャーには言ったじゃんか!」
「セイバーオルタオーナーの頼みとはいえ許してはいないぞ!」
「では行ってくる」
「な!?待て、オルタ!!!」
「あー!?オルタに逃げられただろ、アーチャー!」
私のせいにするな!もう特売に行く時間だから追えない!など騒がしい家の扉を閉めてオルタは狂王の待つバーへと足を進めた。
どうせまた珈琲を飲んで、ムカつく程に様になる姿で待っているのだ。
そしてシャドウやアーチャーが心配するのが損な程、のんびりとウィンドウショッピング、ジムやら挙句には人気のない所で散歩など色気とは真逆などだから笑える。
いや、嗤ったのは応じてしまう自分にか、と上がった口角に手を添えて、オルタはいつもの通りに切り替えた。
END
「はぁ、告白を受け入れさえすれば良いものを……」
「おい、オルタ!それは言うべきではなかろう?シャドウの心は……」
「……ふん」
「キャスター……ごめ、なさ……!」
シャドウの膝を抱えて泣きじゃくる姿は、まさに叱られた子供そのもの。
と言うのがオルタにとっての印象であり、その印象は間違いではないだろうとオルタは踏んでいる。
大火災の時からシャドウは止まっているのだ。
死にゆきながら助けを求める声を無視した罪。
生き残った罪。
言い出してはキリがないだろう。
記憶力に障害のあるオルタですら覚えている地獄がシャドウを苦しめているのだ。
家族として暮らし始めて十年を経ても癒えぬ心の火傷なのだからキャスターの手では焼け石に水だ。
他のシャドウへと言い寄ってきた不届き者どものように蒸発するに決まっている。
またシャドウが傷付くのかと考えていると気付けば眉間にシワが寄っていたらしく。
少し落ち着きを取り戻したらしいシャドウに優しく眉間を撫でられる。
「やめろ」
「いやだ……だってオルタが苦しそうだ」
「苦しむ?俺が?そんなものは、とうの昔に捨てた。鬱陶しいから触るな」
「あ!待ってよ、オルタ!」
「おい!……ふっ、オルタ、貴様は逃げるのか?」
「……なんだと?」
オルタ相手には中々効かないと知っていながら不敵な笑みを浮かべるアーチャー。
その姿はオルタからすれば滑稽でしかないが、今はあまりに不快感を煽られた。
何故ならアーチャーが何の話を持ち出すのか分かりきっていたからこそ、滑稽でいて内容のせいで不快であったからだ。
オルタは今、まさにリストラされそうになっていた。
普通の立場なら求職活動をすぐにでもするのだろうがオルタは難しい立場にあっていた。
まずオルタには国籍や履歴がはっきりせず、アインツベルンの令嬢であるイリヤスフィールが手を回したのだ。
本来のイリヤスフィールならば世話焼きなどしなかったろう。
しかしオルタは、彼女と彼女の父である切嗣が破棄されたアインツベルンの研究所に遺された情報から見つけ出し、探していた人工的に誕生した人間なのだから当然である。
故に日本での情報をアインツベルンがデッチ上げ、保護、もといオルタからすれば監視なのだが手元に置いている状況だ。
アインツベルンの監視がある以上、気まぐれに就職してみたもののオルタからすればリストラなど、どうでも良かった。
そう、普通ならば。
「貴様のせいで毎朝のように黒い高級車が迎えに来ているせいでご近所さんが怯えているんだぞ!?」
「逃げるが勝ちと言う言葉を知らんのか」
「ふん、知っているとも。だが、この場合は逃げても無駄じゃないのか?」
そろそろテレビカメラまで来そうだもんな、と言うシャドウの呟くような言葉は鋭い。
だがシャドウの予想は間違いではない。
逃げた所で迎えに来ている黒い高級車。
その車の後部座席に居るのはオルタが怒りに任せて殴った男クーホリン、そしてその男へ加護を与えている女王のメイヴが乗って居るのだ。
毎日毎朝、決まった時間に乗るように誘いをかけてくる。
強要でも強制でもない。
だが拒否は認めない。
そんな強引でありながら放任的、と言う矛盾した男の在り方を表した態度にオルタは唾を吐きかけたくなる。
オルタは今、クーホリンことプロレスラー狂王様、とその事務所からスカウトorリストラを迫られているのだ。
先程も紹介したオルタの背景事情からの通り目立つ事は御法度だ。
しかも普通のプロレスラーなら兎も角、クーホリンは様々なメディアに取り上げられている上にモデルのクーフーリンの兄弟であると報じられてからは更に派手にメディアに出ている。
事務所で遭遇した時など、彼が告げてきた言葉により日本が銃刀を法律で禁止している国でなければ眉間に打ち込んで居たとオルタは歯噛みした程だ。
「本来ならば連れ去るところだがメイヴがうるせぇからな、アイツに感謝しとけ」
あぁ、全く持って腹が立つ。
どうして俺がお前の言う事を聞かねばならない。
あぁ、本当に忌々しい。
どうしてこんな時ばかり記憶に残るのか。
昨日どころか今朝、何を食べたかすら記憶が保てないと言うのに狂王の言葉が、声ばかりが脳裏に絡みつく。
「チッ……」
「はぁ……いい加減、貴様の方も覚悟を決める時じゃないのか?」
「五月蝿い奴だ、お前だけは言われたくないなぁ。さっさとクーフーリンに奉仕して来い」
子供じゃあるまいに拗ねるな、奉仕ではなく仕事だ!などと小言が五月蝿いがアーチャーよりも五月蝿いのはジーンズのスマホだろう。
また狂王からの呼び出しだ。
別に応じない時もあるのだが何故か応じればメイヴから報酬が出るのだ。
アインツベルンからの判断は、まだ下りない。
拒否も肯定もする事はしてはいけない状況で答えるのは面倒ではあったが報酬は三人で暮らしているマンションの家賃や光熱費になるのだから仕方がない。
アーチャーやシャドウに気付かれずにアインツベルンに金を入れる事で普通の生活を手に入れている事は二人に知られる訳にはいかない。
アインツベルンの魔の手と加護は、イリヤスフィールや切嗣の恩恵だけでは逃れきれないし、彼女たちの立場すら危うくしてしまい兼ねない。
ならばオルタはオルタなりの方法を取るだけだ。
例えば飢えた獣の餌の真似事になろうとも。
「……出掛けてくる」
「む?またなのか?オルタ、ならついでに夕飯の買い物しよう!」
「無理だろうな、お前たちだけで食べていろ」
えぇー!と抗議の声を上げてオルタの腕に纏わり付くシャドウは知っている。
オルタが狂王に呼び出され、連れ回されている事を偶然だったのかシャドウが告白された日に見られていた。
狂王の容姿は刺青が顔から腹にかけてある上に紺色の髪、紅の瞳、更には鍛えられた身体を隠すことなくオープンにした上着やシャツを羽織ったのみな事が多い。
故に危ない仕事してるのだと勘違いしたシャドウに泣き付かれたのはオルタの記憶にまだ残っている。
結果してテレビに映った試合で戦う狂王を見て信じて貰えたが入って行った道が悪かったのだろう。
近道だからとホテル街を通った為にシャドウからは性的関係でもあるんじゃないかと未だに心配されている為にアーチャーにもバレた挙句に怪しまれ、面倒な事になっている。
「お前はネットのし過ぎだ、シャドウ!」
「ふ、確かにそうだな。また夜更かししてるだろ!」
「もー!調べ物してるんだから当然だろ!アーチャーには言ったじゃんか!」
「セイバーオルタオーナーの頼みとはいえ許してはいないぞ!」
「では行ってくる」
「な!?待て、オルタ!!!」
「あー!?オルタに逃げられただろ、アーチャー!」
私のせいにするな!もう特売に行く時間だから追えない!など騒がしい家の扉を閉めてオルタは狂王の待つバーへと足を進めた。
どうせまた珈琲を飲んで、ムカつく程に様になる姿で待っているのだ。
そしてシャドウやアーチャーが心配するのが損な程、のんびりとウィンドウショッピング、ジムやら挙句には人気のない所で散歩など色気とは真逆などだから笑える。
いや、嗤ったのは応じてしまう自分にか、と上がった口角に手を添えて、オルタはいつもの通りに切り替えた。
END