獣の獲物
施す、と言う行為にも色んな意味が付きまとう。
優しさ、慈愛、同情、果てには侮辱と思う人もいるだろう。
そして今ランサーの目の前に差し出された紙切れ二枚は彼にとって侮辱と取っても良いだろうと思い、自覚した途端に感じた疲労感に眉間に皺が寄るのも致し方ないと思えた。
だと言うのに元凶である少年の姿をした傲慢な王様ギルガメッシュは可愛らしくなった容姿を余すことの無い笑顔でバッサリと言い放つ。
「余ったからあげます」
「いらねぇよ、クソガキ」
「えー誘う人も浮かばないんですか?可哀想に……」
「本当に減らねぇ口だな、お前」
怒りよりも王様の変貌したようでいて、変貌していないブレなさを目の当たりにした呆れから、腕組みをして拒む。
だが本当に必要ないらしく、ヒラヒラと紙を指先で泳がせながらギルガメッシュ少年は心底、困ったような顔をする。
大人の姿をしているギルガメッシュも表情は豊かな方だろうが子供となると、どんな感情も現れやすいらしい。
「それは兎も角、本当にこんなチケットを送られてこられても子供の姿じゃ使えませんよー」
「なら戻れよ、出来るんだろ?」
「やだなぁ、僕がわざわざあんな人に戻りたいなんて思うとでも?」
「あー……それはわるーございましたー」
ランサー曰く減らない口は、ああ言えばこう言う状態でどうにか処分したいようだ。
だが、ふっと疑問点が生まれる。
処分したいなら紙を捨てれば良いのだ。
そう思う人も居るだろうがオーナーであるギルガメッシュ少年の言い分としては、自分は必要ないが客として単純な目線や感想は欲しいのだが。
衛宮士郎に渡してしまったと言うのに余ってしまうと言う事態に陥り、サーヴァントとはいえ大人の意見も欲しい、と思ったと言うのに知り合いとも言えるライダー、キャスターは断ったそうだ。
ただギルガメッシュを知る彼女たちの判断は間違えていないだろう。
当然、条件付きなのだから抜け目がない。
「まぁ、ナンパが成功した様子もないですしランサーさんじゃカップル目線は無理かぁ……」
「おい、聞こえてんぞ」
カップル目線、それがギルガメッシュ少年の求めた条件なのだ。
もちろんライダーは兎も角キャスターは食いついたのだが渡して来た人間がギルガメッシュでは何かしらに巻き込まれそうだと判断したらしい。
最愛の人に迷惑はかけたくなかったのだろう。
だが何より気に食わない台詞を黙ってやり過ごせる程、ランサークラスのクーフーリンは大人ではなかった。
「って、あ!何するんですか、いらないんでしょう?」
「まぁ見てろ、胸のデカい姉ちゃんでも捕まえて来て感想に答えてやるって!」
「えー……女性は胸が全てじゃないと思いますよ?」
「ものの例えだ、例え」
そんな最低な会話を繰り広げるランサーの背中をシスターが軽蔑の眼差しで見送ったお昼前。
とりあえずランサーは珍しくやる事もないからと港へと行こうか迷っていた。
何事もハッキリと決める傾向のあるランサーではあるが不快な気持ちはしたくない、と港へと歩む足は重くなる。
むろん理由は最近、現れた派手なアングラーことサーヴァントのアーチャーが全ての元凶であった。
兎に角ランサーはアーチャーと馬が合わないと感じており、彼にとっては珍しく悩ませる存在であったからだ。
だが当然だろう。
サーヴァント、アーチャーはランサーの目から見て勿体ないの一言に尽きる英霊、戦士なのだ。
弓兵として呼ばれておきながら愛用しているのは双剣であり、戦いにおいて隙を埋める為には相当の技術が必要な代物である。
それはフェルグスや周囲の実力者から剣の才能はないと言われたランサーでも分かる事だ。
それなのに口から出る言葉は皮肉か馬鹿にした言葉で、たまに違う反応をしたかと思えば出てくる言葉のなんという可愛げの無さだろう。
オマケに正体とも言える名前はエミヤ、と言う聞き覚えのあり過ぎる上に元は少し魔術の出来る凡人とも言える人間の一つの成れの果て。
何も知らない人からなら賞賛されてもおかしくない事柄なのだろうが、ランサーからすれば頭の痛い話だと思えた。
努力すれば英霊になれる、なんて事は有り得ない。
裏は何にでも存在しているものでアーチャーこと英霊エミヤは霊長類の守護者、アラヤ側の英霊だと言う事は魔術師としての一面を持つクーフーリンは納得し、呆れた。
何を求めてアラヤと契約したかは知らないし咎めるような事でもない。
だが守護者、と言うものを知識として聖杯が流し込んでくる情報のなんと釈然としない後味悪いものだろうかと言いたくなる。
それは嫌にもなるのだろうが、だからと言って同情の余地などない。
選んだのは自分なのだから後悔し納得出来なければ足掻き、掴み取れば良いとランサーは思うのだ。
だと言うのに足掻いた結果が過去の自分と対面して殺そうと言う結論なのだから、とことん運も頭も悪いと他人事のように口から煙草を取って、アングラーモードでは無いアーチャーの後ろ姿に声をかける。
アーチャーをお人好しと呆れるランサーもまた形の違うお人好しだと鈍感な赤毛の少年が結論づけられる程にランサーも分かりやすいと言うのに。
「おい、アーチャー」
「ランサーか……っ!?ケホッ!コホッ!貴様!」
「あーっと悪い悪い」
「嫌がらせにしては陰湿だぞ!まさか生きている人間にしていないだろうな?」
「する訳ねぇだろ!」
サーヴァントであるアーチャーだからこそ実行した上に男が男に灰の煙を吹きかけると言う意味を知っていたらアーチャーはどんなリアクションをするかと思っていたのだが残念ながら知らないらしい。
勿論、冗談のつもりでした上にランサーも今しがた嫌がらせに吹きかけてやろうか、と考えて止めようとしたのだ。
だが実行したのは聖杯がありがた迷惑にも、こんな知識があるぞとばかりにランサーの頭に叩き込んできた。
正直に言うとランサーからするといらん情報を寄越すなや!と言いたかったが悪戯には丁度いいと思えた。
俺と弓兵が床を共にするとは寒いジョークだ、とガミガミ煩いアーチャーの小言を右から左で生返事で答えつつ、想像を一瞬でもした自分の苛立ちは煙草を携帯灰皿の中へと押し潰す事で切り替える。
港へ来る道中、ナンパをしたのだが召喚された島国は同じ島国だからこそなのか愛らしいがガードが固い女性ばかりが多い印象をランサーは持った。
勿論ランサーの美貌であれば言い寄って来る女性もいたのだが好みの女性と言うには程遠い。
だからだろうか。
ランサーは今にして思うと半ばヤケになっていたのではないかと感じる。
「全く、これだから古代人は……」
「へぇーへぇー、そんな可愛くない未来人にコレやるわ」
「……はぁ?何故そんな物を貴様が持っている」
「貰ったんだが、まぁ、どうもナンパが上手く行かなくてな」
あーあ、ランサーは相変わらずろくな生活態度ではないな?信じられんって顔してやがるとランサーは眉は寄っているが比較的リラックスしていたアーチャーが顰めっ面で睨んでくる事にも動じずにチケット二枚を胸板に押し付ける。
全く受け取る気配のないアーチャーに負けずに手で胸に押し付け続けていると他の来客があった。
「あ……うわぁ、お邪魔しました〜」
「待て待て待て」
「おい!何か勘違いをしているだろう!」
子供の姿で来るのは珍しいギルガメッシュは押し問答をしていたランサーとアーチャーの光景に事態を瞬時に理解すると立ち去ろうとする。
それはいかつい2人が睨み合っていたら逃げるのは当然とも言えるのだが、そうもいかない。
「えぇ……もう何を勘違いしてるかとか良いので関わり合いになりたくないんですけれど……」
「こちらが構う!」
「つーか元凶お前だからな!?」
「あれ?まだやっぱり持ってたんですか」
やっぱり言うなや、と言うランサーの苦言も無視すると何やら思いついたとばかりに何かを閃いたらしいギルガメッシュ少年はランサーの手から一枚、チケットを抜き取るとアーチャーに向き直って差し出す。
先程、ランサーのような行動ではないし無理のある渡し方でもない。
だが、そこには子供では出せないような威圧感をまとった少年がおり、アーチャーは思わず手に取っていた。
「アーチャーさん、それあげるのでランサーさんと楽しんで来て下さい」
「……え?あ、嫌だから何か誤解を!」
「大丈夫です、これアルバイトなので」
「なんだと?」
ランサーさんもアルバイトならアーチャーさんと行けるでしょう?と可愛らしく微笑みを二人に向けると、お得意の宝物庫から出したらしいギルガメッシュ少年はサラサラと何やら紙にサインをしてアーチャーに渡すと立ち去ろうとする。
この急展開には流石のランサーも驚きを隠せず、慌ててギルガメッシュ少年の肩を掴もうとした。
のだが何処からともなく現れた鎖がジャラリとランサーの手を絡め取るとギルガメッシュ少年は腕を伸ばすランサーに改めて微笑み返す。
「いい大人なんですから少しは自覚して行動した方がいいですよ?」
「てめぇ、それはどういう……!」
「それじゃあアーチャーさん、この人連れて行って下さい。連絡しとくので捨てないで来て下さいねー!」
スタコラサッサと立ち去るギルガメッシュ少年に二人は呆気に取られつつ、ランサーが鎖から解放された時には波打ち際の穏やかな音が耳に強く響くほどに静寂が広がっていた。
気まずいとは、こういう事かと頭を掻きながらランサーは残った一枚をアーチャーに押し付けると歩き始め、動かないアーチャーに気付いて振り返ると手招きをする事で意識を呼び戻す。
「っあ……ランサー、このチケットは!」
「お前があのガキに何かしらの書類渡されたんだ。お前に受付、任せるわ」
「なんだ……君は行く気が……ふむ、分かった。君に上手い言い訳を期待するのも無茶だと言うものだ」
ソウデスネーと返しながらランサーは施設に入れば振り回したり別行動でも構うまいなどと算段を立てており、気づけなかった。
アーチャーが何処か困ったように表情を柔らかくしてチケットを眺めている事に。
優しさ、慈愛、同情、果てには侮辱と思う人もいるだろう。
そして今ランサーの目の前に差し出された紙切れ二枚は彼にとって侮辱と取っても良いだろうと思い、自覚した途端に感じた疲労感に眉間に皺が寄るのも致し方ないと思えた。
だと言うのに元凶である少年の姿をした傲慢な王様ギルガメッシュは可愛らしくなった容姿を余すことの無い笑顔でバッサリと言い放つ。
「余ったからあげます」
「いらねぇよ、クソガキ」
「えー誘う人も浮かばないんですか?可哀想に……」
「本当に減らねぇ口だな、お前」
怒りよりも王様の変貌したようでいて、変貌していないブレなさを目の当たりにした呆れから、腕組みをして拒む。
だが本当に必要ないらしく、ヒラヒラと紙を指先で泳がせながらギルガメッシュ少年は心底、困ったような顔をする。
大人の姿をしているギルガメッシュも表情は豊かな方だろうが子供となると、どんな感情も現れやすいらしい。
「それは兎も角、本当にこんなチケットを送られてこられても子供の姿じゃ使えませんよー」
「なら戻れよ、出来るんだろ?」
「やだなぁ、僕がわざわざあんな人に戻りたいなんて思うとでも?」
「あー……それはわるーございましたー」
ランサー曰く減らない口は、ああ言えばこう言う状態でどうにか処分したいようだ。
だが、ふっと疑問点が生まれる。
処分したいなら紙を捨てれば良いのだ。
そう思う人も居るだろうがオーナーであるギルガメッシュ少年の言い分としては、自分は必要ないが客として単純な目線や感想は欲しいのだが。
衛宮士郎に渡してしまったと言うのに余ってしまうと言う事態に陥り、サーヴァントとはいえ大人の意見も欲しい、と思ったと言うのに知り合いとも言えるライダー、キャスターは断ったそうだ。
ただギルガメッシュを知る彼女たちの判断は間違えていないだろう。
当然、条件付きなのだから抜け目がない。
「まぁ、ナンパが成功した様子もないですしランサーさんじゃカップル目線は無理かぁ……」
「おい、聞こえてんぞ」
カップル目線、それがギルガメッシュ少年の求めた条件なのだ。
もちろんライダーは兎も角キャスターは食いついたのだが渡して来た人間がギルガメッシュでは何かしらに巻き込まれそうだと判断したらしい。
最愛の人に迷惑はかけたくなかったのだろう。
だが何より気に食わない台詞を黙ってやり過ごせる程、ランサークラスのクーフーリンは大人ではなかった。
「って、あ!何するんですか、いらないんでしょう?」
「まぁ見てろ、胸のデカい姉ちゃんでも捕まえて来て感想に答えてやるって!」
「えー……女性は胸が全てじゃないと思いますよ?」
「ものの例えだ、例え」
そんな最低な会話を繰り広げるランサーの背中をシスターが軽蔑の眼差しで見送ったお昼前。
とりあえずランサーは珍しくやる事もないからと港へと行こうか迷っていた。
何事もハッキリと決める傾向のあるランサーではあるが不快な気持ちはしたくない、と港へと歩む足は重くなる。
むろん理由は最近、現れた派手なアングラーことサーヴァントのアーチャーが全ての元凶であった。
兎に角ランサーはアーチャーと馬が合わないと感じており、彼にとっては珍しく悩ませる存在であったからだ。
だが当然だろう。
サーヴァント、アーチャーはランサーの目から見て勿体ないの一言に尽きる英霊、戦士なのだ。
弓兵として呼ばれておきながら愛用しているのは双剣であり、戦いにおいて隙を埋める為には相当の技術が必要な代物である。
それはフェルグスや周囲の実力者から剣の才能はないと言われたランサーでも分かる事だ。
それなのに口から出る言葉は皮肉か馬鹿にした言葉で、たまに違う反応をしたかと思えば出てくる言葉のなんという可愛げの無さだろう。
オマケに正体とも言える名前はエミヤ、と言う聞き覚えのあり過ぎる上に元は少し魔術の出来る凡人とも言える人間の一つの成れの果て。
何も知らない人からなら賞賛されてもおかしくない事柄なのだろうが、ランサーからすれば頭の痛い話だと思えた。
努力すれば英霊になれる、なんて事は有り得ない。
裏は何にでも存在しているものでアーチャーこと英霊エミヤは霊長類の守護者、アラヤ側の英霊だと言う事は魔術師としての一面を持つクーフーリンは納得し、呆れた。
何を求めてアラヤと契約したかは知らないし咎めるような事でもない。
だが守護者、と言うものを知識として聖杯が流し込んでくる情報のなんと釈然としない後味悪いものだろうかと言いたくなる。
それは嫌にもなるのだろうが、だからと言って同情の余地などない。
選んだのは自分なのだから後悔し納得出来なければ足掻き、掴み取れば良いとランサーは思うのだ。
だと言うのに足掻いた結果が過去の自分と対面して殺そうと言う結論なのだから、とことん運も頭も悪いと他人事のように口から煙草を取って、アングラーモードでは無いアーチャーの後ろ姿に声をかける。
アーチャーをお人好しと呆れるランサーもまた形の違うお人好しだと鈍感な赤毛の少年が結論づけられる程にランサーも分かりやすいと言うのに。
「おい、アーチャー」
「ランサーか……っ!?ケホッ!コホッ!貴様!」
「あーっと悪い悪い」
「嫌がらせにしては陰湿だぞ!まさか生きている人間にしていないだろうな?」
「する訳ねぇだろ!」
サーヴァントであるアーチャーだからこそ実行した上に男が男に灰の煙を吹きかけると言う意味を知っていたらアーチャーはどんなリアクションをするかと思っていたのだが残念ながら知らないらしい。
勿論、冗談のつもりでした上にランサーも今しがた嫌がらせに吹きかけてやろうか、と考えて止めようとしたのだ。
だが実行したのは聖杯がありがた迷惑にも、こんな知識があるぞとばかりにランサーの頭に叩き込んできた。
正直に言うとランサーからするといらん情報を寄越すなや!と言いたかったが悪戯には丁度いいと思えた。
俺と弓兵が床を共にするとは寒いジョークだ、とガミガミ煩いアーチャーの小言を右から左で生返事で答えつつ、想像を一瞬でもした自分の苛立ちは煙草を携帯灰皿の中へと押し潰す事で切り替える。
港へ来る道中、ナンパをしたのだが召喚された島国は同じ島国だからこそなのか愛らしいがガードが固い女性ばかりが多い印象をランサーは持った。
勿論ランサーの美貌であれば言い寄って来る女性もいたのだが好みの女性と言うには程遠い。
だからだろうか。
ランサーは今にして思うと半ばヤケになっていたのではないかと感じる。
「全く、これだから古代人は……」
「へぇーへぇー、そんな可愛くない未来人にコレやるわ」
「……はぁ?何故そんな物を貴様が持っている」
「貰ったんだが、まぁ、どうもナンパが上手く行かなくてな」
あーあ、ランサーは相変わらずろくな生活態度ではないな?信じられんって顔してやがるとランサーは眉は寄っているが比較的リラックスしていたアーチャーが顰めっ面で睨んでくる事にも動じずにチケット二枚を胸板に押し付ける。
全く受け取る気配のないアーチャーに負けずに手で胸に押し付け続けていると他の来客があった。
「あ……うわぁ、お邪魔しました〜」
「待て待て待て」
「おい!何か勘違いをしているだろう!」
子供の姿で来るのは珍しいギルガメッシュは押し問答をしていたランサーとアーチャーの光景に事態を瞬時に理解すると立ち去ろうとする。
それはいかつい2人が睨み合っていたら逃げるのは当然とも言えるのだが、そうもいかない。
「えぇ……もう何を勘違いしてるかとか良いので関わり合いになりたくないんですけれど……」
「こちらが構う!」
「つーか元凶お前だからな!?」
「あれ?まだやっぱり持ってたんですか」
やっぱり言うなや、と言うランサーの苦言も無視すると何やら思いついたとばかりに何かを閃いたらしいギルガメッシュ少年はランサーの手から一枚、チケットを抜き取るとアーチャーに向き直って差し出す。
先程、ランサーのような行動ではないし無理のある渡し方でもない。
だが、そこには子供では出せないような威圧感をまとった少年がおり、アーチャーは思わず手に取っていた。
「アーチャーさん、それあげるのでランサーさんと楽しんで来て下さい」
「……え?あ、嫌だから何か誤解を!」
「大丈夫です、これアルバイトなので」
「なんだと?」
ランサーさんもアルバイトならアーチャーさんと行けるでしょう?と可愛らしく微笑みを二人に向けると、お得意の宝物庫から出したらしいギルガメッシュ少年はサラサラと何やら紙にサインをしてアーチャーに渡すと立ち去ろうとする。
この急展開には流石のランサーも驚きを隠せず、慌ててギルガメッシュ少年の肩を掴もうとした。
のだが何処からともなく現れた鎖がジャラリとランサーの手を絡め取るとギルガメッシュ少年は腕を伸ばすランサーに改めて微笑み返す。
「いい大人なんですから少しは自覚して行動した方がいいですよ?」
「てめぇ、それはどういう……!」
「それじゃあアーチャーさん、この人連れて行って下さい。連絡しとくので捨てないで来て下さいねー!」
スタコラサッサと立ち去るギルガメッシュ少年に二人は呆気に取られつつ、ランサーが鎖から解放された時には波打ち際の穏やかな音が耳に強く響くほどに静寂が広がっていた。
気まずいとは、こういう事かと頭を掻きながらランサーは残った一枚をアーチャーに押し付けると歩き始め、動かないアーチャーに気付いて振り返ると手招きをする事で意識を呼び戻す。
「っあ……ランサー、このチケットは!」
「お前があのガキに何かしらの書類渡されたんだ。お前に受付、任せるわ」
「なんだ……君は行く気が……ふむ、分かった。君に上手い言い訳を期待するのも無茶だと言うものだ」
ソウデスネーと返しながらランサーは施設に入れば振り回したり別行動でも構うまいなどと算段を立てており、気づけなかった。
アーチャーが何処か困ったように表情を柔らかくしてチケットを眺めている事に。