あめのまにまに

ポッポッと軽く服の上で跳ねる音を聞いて家康はフードを急ぎ被り、走り出した
しかし空は、家康の行動を見計らったように勢いを増して、ザァザァと降りしきる

短い針はもう7を指そうとしていたが家康は生徒会の仕事に明け暮れており、すっかり帰りが遅くなっていた
予報は見ていたが、遅くなるなど考えても居なかったのだ
しかも今日は1人で大丈夫だと忠勝を帰らせていた

だが自宅まではまだ距離があり、このままでは濡れ鼠になる
雨足も強さを増した所で、目に入った途中の公園にあるドーム型の遊具へと家康は飛び込むように駆け込んだ


「ひゃー!濡れた、濡れた!折りたたみ傘なんて鞄の中に無かったよなぁ…っのわ!ぇ?タオル!?」


頭を少し下げる程の高さに気をつけながら、奥に広い遊具の中で家康が制服の水滴を払っていると、遊具の奥からタオルが飛んで来た
当然、自分1人と無意識に考えていた家康は動揺のあまり慌ててタオルを手に取る
すると同時に聞き慣れた低い声が聞こえてきた


「何を惚けている、さっさと拭け、飛沫がこちらに飛ぶ」
「み、三成!居たのか!?…ふむ、ありがとう、タオル、借りるぞ」
「………フン」


声の正体は石田三成、秀吉をリコールした家康とは元々同じ生徒会委員であり、生徒会長の座を争った男であった
また周りの殆どには隠していたが、恋人"だった"

しかし家康が秀吉をリコールし、そのまま対立するようになり、今に至る
このような背景の為か、家康自身、交際は自然消滅したと思っていた

それだけに、偶然とはいえ三成と二人きりになるのは今の家康の心には重かった


「ふぅ…タオル助かった、洗って返すよ」
「………」
「あ、安心してくれ!うちの洗濯機は乾燥機能もあるから、明日にでも返せると思う」
「………好きにしろ」


しかし家康の危惧は無駄に終わり、至って静かに三成と言葉を交わせていた
だがその事が家康にとっては不安でしかない

家康の知る三成は己に正直で嘘偽りをせぬ男である
故に怒りも隠さず、ぶつけてくる
現に今は出会い頭に怒鳴られ、酷い時には一発くらい殴られたりしていた
無論、ただ殴られる訳ではなく、逃げたり攻撃を避けたりと抵抗はしている


「………はぁ、タオルを貸せ、家康」
「ん?ぁ、あぁ…良いけど何に使うんだ?」
「髪が少し濡れている」
「わっぷ!み、三成!痛いぞ!」


しかし三成は家康の不安など露知らずと言ったように近づいてくると
三成が貸したタオルを家康が返すと、三成は思いきり家康の頭に被せるとガシガシと拭き始めた
濡れたままなのが許せなかったらしい

が、拭いてくる手は力んでおり、頭を掴まれ揺さぶられているかのようだった
と言うか揺れていて、首に痛みが走る程である


「煩い!大人しくしていろ!」
「いたたた!しかしだな!」
「黙れ!拭き終わるまで沈黙しろ!」
「わ、分かった!分かったっ!」


一番言い出したら譲る事を知らぬ三成の言葉に、家康は多少俯きながら大人しく従う事にする
頭を掴まれているこの状況で、無闇に抵抗しては何をされるか、分かったものではない

だが心配を他所に、三成の手つきは荒らげる言葉とは違い、格段に優しくなった事に気付くと、知らずのうちに頬が緩んでいた
暫くして頭からほど良い暖かな温もりが無くなると共に、頭が軽くなるのを感じて家康は慌てていつもの表情へと戻す

どれだけ家康が三成を想っても開いた溝は無くならない
その事実が家康の胸を締め付けたが、家康は顔を三成に向けながらソッと胸に蓋をした

タオル越しにでも髪を撫でる三成の手が恋しいなど言える訳が無いー……………


「………拭き終わったぞ」
「ありがとう、三成」
「………フン」


礼を言う家康に対して顔を逸らすと三成は、ドームの壁に窮屈そうに寄りかかる
と言っても遊具のドームは高校生には低く狭い

離れた筈なのに三成と家康の距離は手を伸ばせる距離にあったが、雨雲の中、更に明かりの無いドームは薄暗く表情どころか存在を確認するのが、やっとであった

この状況に家康は酷く不安にかられた
簡単に言うと三成の様子がおかしいからである
顔を合わせれば、あんなに己に対して恨み辛みをぶつけてくる男が今日は何の作戦なのか、髪まで拭いてくれたのだ
元恋人とは言え、怪しむな!と言うのが無理である

つかの間、ザァザァと言う激しく地面を打つ音だけが響く
その間、家康はフッと気になった事を口にした
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