SS

「そうオモいますか?つじたさん」

なんて事を聞いてくるんだと怒るにはナギリと言う男は、あまりにも素直になれない性格をしていた。
素直になれないと言っても色々あるがナギリは特に自覚のないタイプで。
周りにも、そして自分にさえも素直になれない性格だった。

「知るか、そんな事」

当たり前だと言えば満足なのか?と聞く気はない。
否、聞けないのだ。
ナギリの元来の柔らかな部分が聞くことを拒否をしているのだが、本人はその柔らかな部分が喋る事を許さない。
しかしナギリとっては貴重な冷静さを担ってもいるので目の前に佇む下手な白い影を睨む。

「何処の誰だか知らんが、その悪趣味な姿を止めろ」
「ホンカンはキにイっているでありますよ、つじたさん」
「黙れ!」

ポタリ、といつの間に降っていたのか分からない雨が自分の身体を包み込む感覚に思わず奥歯を噛む。
気持ち悪い。
雨が肌を伝う感触も。
濡れて服が張り付いている生暖かさも。
同じように濡れているくせに笑っている目の前の白い影も。
それを見ていて苦しむ感覚さえも気持ち悪い。

「どうしてそんなにオコっているのでありますか?アナタはホンカンのコトがキライなのでしょう?」
「なっ!?俺、は…っ!」
「ねぇねぇ、つじたさん、嫌いなんでしょ?」
「っ!?俺に触るな!」

スルリと手を撫でるように触れられて、思わず振り払おうとしたがタイミングを間違えてしまったのだろう。
バチリと強い電流が走るようにナギリは白い影と眼を合わせてしまった。

「貴方は出会わなければ良かった、と思いますか?本官はネ」
「っ、ぁ…くそっ…!黙れっ!そんな事、今更言ったところでどうしようもないだろうが!」
「えっ!?ぁ……キミは、キミちはそうなんだネ、オトもうスコしだったノニ、ザンネン』

ナギリの言葉を聞いて驚いた顔をした白い影は一瞬、泣きそうな顔をした後、残念と言った直後にフッと目を閉じた。
すると電池が切れたように倒れ込んできたカンタロウを咄嗟に支えたナギリは、声のする方を視線で追いかけたが白いモヤすらも無いので結局、何も分からなかった。
ただ腕の中に居るカンタロウから微かな呻き声が聞こえるので、どうやらカンタロウに憑依のような事をしていたのだろうとは思う。
ただそれ以上に、ナギリにとってはクスクスと笑う子供の声だけが妙に耳障りだった。



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