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「おい、お前なんで頭に葉っぱなんて付けてるんだ」
「わひゃ!?」
「は?」
それは、なんて事ない日常のひとコマな筈だ。
知人の頭に葉っぱが付いていたなら教える事もあるだろう。
ナギリにだって、そういう親切心はある。
それが偶々今だっただけだ。
されど目の前に居る警官から発せられた奇声は、いつも聞くタイプの奇声ではなかったので思わず困惑する。
いや、別にこの警官がいつも奇声を発している訳ではないから仕方ないのだが。
それでも驚くには充分だった。
「す、すいません!先程ネコを確保した際に付いてしまったみたいであります!」
「それは吸対どころか警官の仕事じゃないだろ!ったく、何処触ってるんだ?ココだ、ココ」
子供達がネコの無事を確認したら帰ると言ったので!と訳を話しながら、パタパタと軽く自分の頭を撫でるカンタロウに呆れる。
どういう訳か、上手く避けられた葉っぱをナギリは取ってやった。
ただそれだけだ。
「えぁ!?ぁ、あ!ありがとうございます!」
「おい」
「はい?」
「お前もしかして触られるのが嫌なのか?」
えっ、とポカンとした表情のカンタロウに釣られてアレ?と内心ナギリも焦る。
しかし明らかに一瞬とはいえナギリの手がカンタロウに触れる際、カンタロウの目が揺れたのをナギリは見逃さなかった。
あの怯えるような目をナギリはよく知っている。
吸血鬼ならば誰もが見たくて仕方のない目だ。
「あれ?本官、苦手なのでしょうか?」
「知るか、俺に聞くな」
「でもこうして辻田さんと手を取り、辻斬り捜査に行くのは嬉しいであります!」
「だから知らんと言って……掴むな!引っ張るな!俺を巻き込むなーっ!!!」
もう警官を止めろ!とお約束と化してしまった言葉を叫びながらナギリはカンタロウに引き摺られるように町を歩く羽目になる。
そういう事が昔あったのだ。
でも思い出したのはついさっきだ。
どうして今になって思い出したのかと言うと隣で眠るカンタロウの目の下が赤くなっている事に気付いて撫でていると思い出したのだ。
散々とナギリが容赦なく泣かせたカンタロウはと言うと受け身と言う負担の多い役目を終えて疲れからか眠っているのだが。
同棲したばかりの頃は寝室も別だった事が嘘のように隣でカンタロウが眠り、その肌に触れる事は密かなナギリの楽しみな時間だ。
ナギリはいつだったか怒る姿がヤマアラシのようだ、と言われた事があったのだがナギリとしては眠るカンタロウも大して変わらないと思う。
「俺がヤマアラシならコイツは…ハリネズミか?ヒヒッ」
ハリネズミのような可愛げよりも嵐のように苛烈な男だと思うのだが、ハリネズミはヤマアラシに似た雰囲気があって悪くない。
「んー………なぎりさん?」
「あ?起きたか」
「なぃぃさ、ん」
「っくく」
まだ眠いらしく言葉になっていないカンタロウに思わず笑いを堪える。
恐らく起きた時にカンタロウは覚えていないだろう。前も似たようなことがあった。
だが別に良いのだ。
窮鼠猫を噛む、とはよく言ったもので。
意外にも腹を中々見せないハリネズミのような男でなければ物足りないのはナギリの方だ。
そんなカンタロウの腹に触れる特権を堪能するかのようにナギリは大きな傷痕に手を這わせると、掴まれた。
「んん〜くすぐったいであります!ナギリさん!」
どうやら腹は流石のナギリでも許しては貰えないらしい。
耳を赤くして怒るハリネズミの潤んだ瞳の奥に棘が見えて耐えられなくなったナギリは、クスクスと笑いが牙の隙間から漏れるのを隠す事もなく目の前のハリネズミに噛み付くのだった。
「お前は何処もかしこも美味い奴だな、カンタロウ」
END