SS
差し出された手の中を見て、ナギリは意味が分からないままに手の中を見つめてみた。
手の中には何も無い。
すると意味が分からないナギリを気にすることもなく、無理にナギリの手にお菓子を握らせてきた。
その原因であるシンヨコ3人組の子供たちは何故か楽しそうにしている。
更には力が暴走して相手の服を飛ばしてしまっていた吸血鬼少女の福戸橋十子は、キャンディーやキャラメル、ミニバームクーヘンと種類豊富なお菓子を3人組の子供たちと呑気に交換している。
おい、他所でやれ。
「ホワイトデーの余りだけどオッサンにもやるよ!」
「あ、このバームクーヘン美味い!」
「だよなー!あ、このお菓子とも交換しない?」
「おい、ここで食うな!」
「ふふ、オジサンも食べる?」
要らん!と断る前に他の子供たちもワイロだー!と何処で覚えてくるのか分からない物騒な言葉を発しながら、暴れる。
驚くほどの暴挙、呆れるほどの純真無垢さである。
だからガキは嫌いなんだ、と折角わざわざ離れた場所で座り直しても容赦なく子供たちは追いかけてきて、ナギリのマントの上にお菓子を置く。
じゃなくて、そこに置くな。
何より男の子たちと、いつの間に仲良くなっていたのか服を飛ばされた苦い記憶を作られた吸血鬼の少女まで混ざっている。
本人曰く今は制御出来るらしいが油断は出来ないので、じっとしているしかない。
そんな判断をしたせいだろうか。
どんどんとマントの重量を感じ始め、どうして獲物を探したいのにガキどもは根城に遊びに来るんだ?とナギリは不思議でならない。
「大体、夜中にガキが出歩いているんだ?」「もうコイツらを吸血してしまうか!」と苛立ちから斬ってしまおうかと思い始めた頃。
ナギリの不運からなのか、たまたまなのか。
こういうタイミングでパイルバンカーを背負い、カンタロウは敬礼して忌々しいほど爽やかに現れるのだ。
「辻田さん、お邪魔するでありまぁぁぁす!」
「本当に来やがったっ!」
「こんばんは!もしや子供たちの保護でありますか?お疲れ様であります!」
「そんな訳な……あーもうそれで良い」
「えっ、それで良いとは、どういう…おや?マントの上が素敵な事にっ!」
「どこ見たら、そう思うんだお前!」
わー!ホンカンだー!こんばんはでアリマース!と子供たちもカンタロウが入ってくるなり懐いたり、挨拶だけしてナギリのマントの上で何やらお菓子を拡げたりしている。
部屋の主を差し置いて自由気ままに、お菓子を堪能している。
流石に俺のマントはブルーシートか!?とキレて立ち上がろうとしたが、案の定と言うべきか。
そもそもカンタロウの間が悪いのか。
爽やかな笑顔でカンタロウはズイズイとナギリ目の前に袋が差し出してくる。
おいやめろ。
「もし良ければ本官のお菓子も皆さんでどうぞ!」
「要らん!」
「やったー!いいの?」
「あ、マシュマロだー!」
「わぁ!ホワイトデーのマシュマロってプレゼントした人への意味が込められてるんだよ」
「おや、そうなのでありますか?」
「どんなの?あ、オッサンなら意味知ってる?」
「知るか、と言うか!俺を挟んで話をするな!」
しかし辻田さん!マシュマロ、甘くてふわふわであります!と全く意味の分からない理由でカンタロウは、マシュマロをナギリの手に乗せてくる。
誰が食べると言った。
そもそも人に渡すのに袋から1個取り出すな。
などと言いたいことが山ほどあるが無視する。
どうせ、ガキどもが食べるだろうし、カンタロウに何か言うと何故かポジティブに受け取られやすいから面倒臭い。
「なぁ、結局なんて意味なの?」
「うーん、前は嫌いとかマイナスな意味だった気がする」
「えっ!?そ、そそ、そうなのでありますか!?本官、知らないとはいえ辻田さんや君達になんてことを!」
「いや、お菓子くらいで気にしないって」
「そうそう、こういうのってホワイトデー限定だと思うよ」
「なら良いんでない?もう過ぎてんじゃん」
てか、このマシュマロ美味しい!オレはちょっと苦手〜とマイペースな子供たちは予想通り、カンタロウの持つレジ袋を受け取ると四人で分け始めた。
だがレジ袋を取られたカンタロウはと言えば、座って視線の外れたナギリに合わせるようにしゃがむと両手を合わせて謝ってきた。
顔に似合わず吸対の白い制服を汚さないように器用である。
「辻田さん!本当に申し訳ありません!本官まさかマシュマロに意味があるなんて知らなくて」
「だから元々必要ないって言ってるだろうが!」
「でも折角のプレゼントですのに、まさかキラi」
「っせめて差し入れと言え!あとゴミは置いていくな!」
「エーン!すいません!ちゃんと持って帰るであります!」
思わずカンタロウの言葉を遮ってしまった自分に驚き、ナギリは内心焦った。
なんで遮ったのか自分自身が理解できなかったからだ。
ただ咄嗟に過ぎった事は自分が、このままだと他に何か余計なことでも言いかねないと思った。
何よりお菓子を食べていた筈の子供たち四人からの視線が何故か痛い。
オレに言いたいことでもあるのか?と聞きたくなる程にはカンタロウとナギリを見つめては輪になって内緒話をしている。
まさかガキどもはオレの刃を急に思い出したりしてないだろうか。
そしてカンタロウに余計な事を言わないかとヒヤヒヤするが表には出せない。
そんな風に冷や汗をかいていると、カンタロウは思わず発したのか意外にも小さな声で呟いた。
「マシュマロ、こんなにふわふわで……とても良い触り心地なのに悲しい意味になるとは不思議であります」
「あっ!」
「のわっ!?急に叫ぶな、ガキ!」
「それだよ、おまわりさん!」
「え、それ?それとは一体なんでありますか?」
「思い出したの!あのね、マシュマロって今はあなたの気持ちに自分の優しさで返しますって意味なんだよ〜!他の友達が教えてくれたの!」
「な、なるほど?そのお友達の方は博識でありますね!」
うん、そうなの!と嬉しそうな少女の頭を撫でるカンタロウの耳や首筋は、ほんのり赤く色付いて照れているのが分かる。
流石のナギリも少しカンタロウが照れる理由は分かる。
子供たちならまだしも、マシュマロのプレゼントをやり取りしたのは成人した男性同士だ。
しかも関係性について、ナギリとしてはカンタロウとは腐れ縁くらいにしておきたいので居た堪れない。
ただ、それでも。
カンタロウの肌が赤く色付くのは食欲の観点から見ると悪く無いと思った。
寧ろナギリとしては、なんの躊躇もなく美味しそうに色付いた首に噛みつけたら、どんなに愉快だろうかと思わずにはいられない。
だが、それは吸血鬼ならば皆、近しい感覚なのだと困った様子の少女を見て気付く事は出来た。
「あ……おまわりさん、今とっても美味しそう……そういうの良くないよ」
「え、えぇ!?お、美味しそう、でありますか?」
「うん、そうだよ。だから良くない」
先程までカンタロウに撫でてもらって嬉しそうだったのが嘘のように、良くないと言いながら少女は俯いている。
居た堪れない気持ちはあるが、ナギリには少女の気持ちが分かった。
人が何か感情を高ぶらせた時に矛先を向けられる事は、吸血鬼にとってスパイスとなる。
このスパイスは食事である吸血を最も彩りすらも添える程であり、吸血鬼が人からの畏怖を求める理由の一つではないかと言う者もいる。
更にカンタロウは、喜怒哀楽を含んだ表情や態度がよく変化するので特に好まれるだろう。
などと考えた所で魔都シンヨコ、そうは問屋が卸さない。
「後ろ姿がマシュマロに似てんの?」
「え、本官がマシュマロ!?」
「いやいや〜マシュマロは無いでしょ、黒髪だし」
「食おうとするな!!!」
えー何かに似てるから美味しそうなんじゃないの?と不思議そうに尋ねてくるシンヨコ3人組にナギリは、頭が痛くなった。
いくら美味しそうと言う発言を聞いても、そうは思わないだろ。
だが同時に少女が吸血鬼であることを一切、気にしていない理由も頷ける。
この3人組は、シンプルに彼女が吸血鬼かどうかについては興味がないのだ。
だからカンタロウの落ち込んだ後ろ姿を見て、大福だのまんじゅうなど例えるのかもしれない。
いや、和菓子から離れろ。
「ま、いいや!そろそろお菓子また買って帰ろうぜ〜」
「なら本官もお供して、お見送りするであります!」
「なんか豆大福とか食べたくなってきちゃった」
「あー豆大福にも似てるね、後ろ姿」
「本官が豆大福!?」
本官を見て豆大福を…?と流石のカンタロウも困惑しており、子供の自由さに振り回されている。
ナギリも振り回される側なので、自分が原因ではないにしろカンタロウがタジタジになる姿は悪くない。
そんなカンタロウや子供たちと関わっているものの存外、機嫌が良かったが残念ながら本人は自覚がない。
すると何処か困ったような表情で少女がナギリのマントを弱々しく引っ張った。
「あのおまわりさんは、オジサンとお友達なの?なら、オジサンが守ってあげてね」
「は?何処をどう見たら、そう思う?大体アイツは警官だぞ?必要ないだろ」
「でも、だって……あのおまわりさん、変な人に好かれそうなんだもん」
「……ふん、そんな事オレが知るか、とっとと帰れ」
「……うん、また遊ぼうね!バイバイ!」
また遊ぼうと言われて、また来る気かと顔を顰めていると。
フッと少女の姿を確認しようとカンタロウが何気なく振り返っていたので目が合った。
あぁ、どうせまた大声で「またお邪魔します!」とでも言うのだろう、と思ったのに。
フワッと赤みの残る顔で微笑んでナギリに会釈した後、追い付いた少女と手を繋いでカンタロウは部屋を出ていた。
そんなカンタロウの姿に何故か見てはいけないものを見た気持ちになったナギリは、マットレスに付いてしまったマシュマロの甘い香りを気にする事もなく不貞寝するしかなかった。
「なんて顔してるんだ、あの警官っ!」
END
手の中には何も無い。
すると意味が分からないナギリを気にすることもなく、無理にナギリの手にお菓子を握らせてきた。
その原因であるシンヨコ3人組の子供たちは何故か楽しそうにしている。
更には力が暴走して相手の服を飛ばしてしまっていた吸血鬼少女の福戸橋十子は、キャンディーやキャラメル、ミニバームクーヘンと種類豊富なお菓子を3人組の子供たちと呑気に交換している。
おい、他所でやれ。
「ホワイトデーの余りだけどオッサンにもやるよ!」
「あ、このバームクーヘン美味い!」
「だよなー!あ、このお菓子とも交換しない?」
「おい、ここで食うな!」
「ふふ、オジサンも食べる?」
要らん!と断る前に他の子供たちもワイロだー!と何処で覚えてくるのか分からない物騒な言葉を発しながら、暴れる。
驚くほどの暴挙、呆れるほどの純真無垢さである。
だからガキは嫌いなんだ、と折角わざわざ離れた場所で座り直しても容赦なく子供たちは追いかけてきて、ナギリのマントの上にお菓子を置く。
じゃなくて、そこに置くな。
何より男の子たちと、いつの間に仲良くなっていたのか服を飛ばされた苦い記憶を作られた吸血鬼の少女まで混ざっている。
本人曰く今は制御出来るらしいが油断は出来ないので、じっとしているしかない。
そんな判断をしたせいだろうか。
どんどんとマントの重量を感じ始め、どうして獲物を探したいのにガキどもは根城に遊びに来るんだ?とナギリは不思議でならない。
「大体、夜中にガキが出歩いているんだ?」「もうコイツらを吸血してしまうか!」と苛立ちから斬ってしまおうかと思い始めた頃。
ナギリの不運からなのか、たまたまなのか。
こういうタイミングでパイルバンカーを背負い、カンタロウは敬礼して忌々しいほど爽やかに現れるのだ。
「辻田さん、お邪魔するでありまぁぁぁす!」
「本当に来やがったっ!」
「こんばんは!もしや子供たちの保護でありますか?お疲れ様であります!」
「そんな訳な……あーもうそれで良い」
「えっ、それで良いとは、どういう…おや?マントの上が素敵な事にっ!」
「どこ見たら、そう思うんだお前!」
わー!ホンカンだー!こんばんはでアリマース!と子供たちもカンタロウが入ってくるなり懐いたり、挨拶だけしてナギリのマントの上で何やらお菓子を拡げたりしている。
部屋の主を差し置いて自由気ままに、お菓子を堪能している。
流石に俺のマントはブルーシートか!?とキレて立ち上がろうとしたが、案の定と言うべきか。
そもそもカンタロウの間が悪いのか。
爽やかな笑顔でカンタロウはズイズイとナギリ目の前に袋が差し出してくる。
おいやめろ。
「もし良ければ本官のお菓子も皆さんでどうぞ!」
「要らん!」
「やったー!いいの?」
「あ、マシュマロだー!」
「わぁ!ホワイトデーのマシュマロってプレゼントした人への意味が込められてるんだよ」
「おや、そうなのでありますか?」
「どんなの?あ、オッサンなら意味知ってる?」
「知るか、と言うか!俺を挟んで話をするな!」
しかし辻田さん!マシュマロ、甘くてふわふわであります!と全く意味の分からない理由でカンタロウは、マシュマロをナギリの手に乗せてくる。
誰が食べると言った。
そもそも人に渡すのに袋から1個取り出すな。
などと言いたいことが山ほどあるが無視する。
どうせ、ガキどもが食べるだろうし、カンタロウに何か言うと何故かポジティブに受け取られやすいから面倒臭い。
「なぁ、結局なんて意味なの?」
「うーん、前は嫌いとかマイナスな意味だった気がする」
「えっ!?そ、そそ、そうなのでありますか!?本官、知らないとはいえ辻田さんや君達になんてことを!」
「いや、お菓子くらいで気にしないって」
「そうそう、こういうのってホワイトデー限定だと思うよ」
「なら良いんでない?もう過ぎてんじゃん」
てか、このマシュマロ美味しい!オレはちょっと苦手〜とマイペースな子供たちは予想通り、カンタロウの持つレジ袋を受け取ると四人で分け始めた。
だがレジ袋を取られたカンタロウはと言えば、座って視線の外れたナギリに合わせるようにしゃがむと両手を合わせて謝ってきた。
顔に似合わず吸対の白い制服を汚さないように器用である。
「辻田さん!本当に申し訳ありません!本官まさかマシュマロに意味があるなんて知らなくて」
「だから元々必要ないって言ってるだろうが!」
「でも折角のプレゼントですのに、まさかキラi」
「っせめて差し入れと言え!あとゴミは置いていくな!」
「エーン!すいません!ちゃんと持って帰るであります!」
思わずカンタロウの言葉を遮ってしまった自分に驚き、ナギリは内心焦った。
なんで遮ったのか自分自身が理解できなかったからだ。
ただ咄嗟に過ぎった事は自分が、このままだと他に何か余計なことでも言いかねないと思った。
何よりお菓子を食べていた筈の子供たち四人からの視線が何故か痛い。
オレに言いたいことでもあるのか?と聞きたくなる程にはカンタロウとナギリを見つめては輪になって内緒話をしている。
まさかガキどもはオレの刃を急に思い出したりしてないだろうか。
そしてカンタロウに余計な事を言わないかとヒヤヒヤするが表には出せない。
そんな風に冷や汗をかいていると、カンタロウは思わず発したのか意外にも小さな声で呟いた。
「マシュマロ、こんなにふわふわで……とても良い触り心地なのに悲しい意味になるとは不思議であります」
「あっ!」
「のわっ!?急に叫ぶな、ガキ!」
「それだよ、おまわりさん!」
「え、それ?それとは一体なんでありますか?」
「思い出したの!あのね、マシュマロって今はあなたの気持ちに自分の優しさで返しますって意味なんだよ〜!他の友達が教えてくれたの!」
「な、なるほど?そのお友達の方は博識でありますね!」
うん、そうなの!と嬉しそうな少女の頭を撫でるカンタロウの耳や首筋は、ほんのり赤く色付いて照れているのが分かる。
流石のナギリも少しカンタロウが照れる理由は分かる。
子供たちならまだしも、マシュマロのプレゼントをやり取りしたのは成人した男性同士だ。
しかも関係性について、ナギリとしてはカンタロウとは腐れ縁くらいにしておきたいので居た堪れない。
ただ、それでも。
カンタロウの肌が赤く色付くのは食欲の観点から見ると悪く無いと思った。
寧ろナギリとしては、なんの躊躇もなく美味しそうに色付いた首に噛みつけたら、どんなに愉快だろうかと思わずにはいられない。
だが、それは吸血鬼ならば皆、近しい感覚なのだと困った様子の少女を見て気付く事は出来た。
「あ……おまわりさん、今とっても美味しそう……そういうの良くないよ」
「え、えぇ!?お、美味しそう、でありますか?」
「うん、そうだよ。だから良くない」
先程までカンタロウに撫でてもらって嬉しそうだったのが嘘のように、良くないと言いながら少女は俯いている。
居た堪れない気持ちはあるが、ナギリには少女の気持ちが分かった。
人が何か感情を高ぶらせた時に矛先を向けられる事は、吸血鬼にとってスパイスとなる。
このスパイスは食事である吸血を最も彩りすらも添える程であり、吸血鬼が人からの畏怖を求める理由の一つではないかと言う者もいる。
更にカンタロウは、喜怒哀楽を含んだ表情や態度がよく変化するので特に好まれるだろう。
などと考えた所で魔都シンヨコ、そうは問屋が卸さない。
「後ろ姿がマシュマロに似てんの?」
「え、本官がマシュマロ!?」
「いやいや〜マシュマロは無いでしょ、黒髪だし」
「食おうとするな!!!」
えー何かに似てるから美味しそうなんじゃないの?と不思議そうに尋ねてくるシンヨコ3人組にナギリは、頭が痛くなった。
いくら美味しそうと言う発言を聞いても、そうは思わないだろ。
だが同時に少女が吸血鬼であることを一切、気にしていない理由も頷ける。
この3人組は、シンプルに彼女が吸血鬼かどうかについては興味がないのだ。
だからカンタロウの落ち込んだ後ろ姿を見て、大福だのまんじゅうなど例えるのかもしれない。
いや、和菓子から離れろ。
「ま、いいや!そろそろお菓子また買って帰ろうぜ〜」
「なら本官もお供して、お見送りするであります!」
「なんか豆大福とか食べたくなってきちゃった」
「あー豆大福にも似てるね、後ろ姿」
「本官が豆大福!?」
本官を見て豆大福を…?と流石のカンタロウも困惑しており、子供の自由さに振り回されている。
ナギリも振り回される側なので、自分が原因ではないにしろカンタロウがタジタジになる姿は悪くない。
そんなカンタロウや子供たちと関わっているものの存外、機嫌が良かったが残念ながら本人は自覚がない。
すると何処か困ったような表情で少女がナギリのマントを弱々しく引っ張った。
「あのおまわりさんは、オジサンとお友達なの?なら、オジサンが守ってあげてね」
「は?何処をどう見たら、そう思う?大体アイツは警官だぞ?必要ないだろ」
「でも、だって……あのおまわりさん、変な人に好かれそうなんだもん」
「……ふん、そんな事オレが知るか、とっとと帰れ」
「……うん、また遊ぼうね!バイバイ!」
また遊ぼうと言われて、また来る気かと顔を顰めていると。
フッと少女の姿を確認しようとカンタロウが何気なく振り返っていたので目が合った。
あぁ、どうせまた大声で「またお邪魔します!」とでも言うのだろう、と思ったのに。
フワッと赤みの残る顔で微笑んでナギリに会釈した後、追い付いた少女と手を繋いでカンタロウは部屋を出ていた。
そんなカンタロウの姿に何故か見てはいけないものを見た気持ちになったナギリは、マットレスに付いてしまったマシュマロの甘い香りを気にする事もなく不貞寝するしかなかった。
「なんて顔してるんだ、あの警官っ!」
END