北斗の拳
挙句にしっかり店に迷惑を掛けぬようにと、客としても来るので簡単には追い出せない
しかもジュウザは、住み込みをさせてもらう代わりに店で多少は働いていたので顔を合わせてしまっていた
そんな状態が1ヶ月以上続くと流石のジュウザも困り果てたのだった
「ったく、よくもまぁ飽きもせず来れるよな」
「お前が戻ってくれば全て丸く収まるんだ」
「だーかーら!俺は戻らないって言ってんでしょうが!………はい、酒」
「おい、酒って言い方は無いだろ…」
「文句あるなら来るんじゃねぇよ」
などと身内丸出しの接客をしても店の主人から
怒られない程、店の客も主人も見慣れてしまっていた
「なぁ…本当に店に迷惑を掛けないようにするなら店の女の子位は指名しろよな!俺は只のウエイターだから!」
「お前がスナック紛いな店に居るのが悪い…それに用があるのはお前だ、余計な事はしていられない」
「いや、これでも俺、ちゃんと働いてるから!邪魔すんな!」
その会話の繰り返しである
もはや店の客は笑顔で馴染みつつある光景を見守っていた
しかし今日は少し違っていた
「なぁ、ジュウザ?一度くらいは、そのお客さんとゆっくり話したらどうだい?話しにくいなら2階使って良いからさ」
「マスターやめてくれよー…俺には話す事なんてねぇ」
ジュウザのリュウガへのキツイ態度に助け舟を出したくなり提案するマスターに、ジュウザは顔をゆがめる
しかしリュウガはすぐに食いついた
「ふむ、俺も埒があかないと思っていた、貸して貰えるだろうか」
「ちょっ!リュウガ!?」
「あぁ、いいよ!ジュウザ、そのまま案内をしてく
れ」
「………マジかよ」
急な展開にジュウザは驚くしかなかった
結局ジュウザは、世話になっている店の主人の言葉には逆らえずリュウガを実質、住んでいる部屋へと案内したのだった
「はぁ…俺、さっきも言ったが話す事はないぞ」
「…」
部屋へ着き、机を挟み向き合うと話を早く終わらせたいジュウザは口火を切る
しかしリュウガは、部屋へ到着しても何故か話す事はなかった
急に無言な相手にジュウザは少し戸惑っていた
「あー…俺の事は気にするなよ、アンタにも迷惑を掛けるつもりはないし」
「…」
目線を合わせずに話すジュウザをリュウガはただただ見つめていた
そんなリュウガを気にしないようにしながら、ジュウザは話し続ける
「俺は、もう五車星とか南斗とかとは無縁でありたいんだよ」
「…」
「俺を…俺をこれ以上、縛らないでくれ…」
縛らないで欲しい、静かな相手にいつの間にかジュウザは本音を漏らしていた
「…雲の名に恥じない言葉だな」
「おまっ!茶化すなよ」
やっと喋った相手の言葉に少し本音を言ったジュウザとしては照れた
しかし目線を合わせた瞬間のリュウガの目は真剣そのものだった
「茶化しているつもりは無い………それはお前の本音なんだな?」
『宿命から逃げる気か!』くらい言われると思ったジュウザの予想に反して、リュウガは静かに聞いてきた
しかもリュウガの眼差しは暖かく、ジュウザを充分に戸惑わせた
「リュウガ…アンタは俺を五車星へと戻すのが目的じゃないのか?」
リュウガのジュウザの質問への反応は鈍いものだった
「ん?あぁ、そういえばリハクとやらから頼まれたな」
「あ、やっぱりか」
「だが断った」
「……………はぁ!?」
いつもの余裕のある態度は、もはやジュウザはとれない程に動揺していた
目の前の男の答えが信じられなかったのだ
いくら考えても目の前の男、リュウガの態度と一致させられなかった
「なら、なんで俺に戻ってこいと?断ったなら関係ないはずだろ」
「ユリアの為だ」
「っ!?…ユリアだと?」
ジュウザは、ユリアと言う言葉を聞いた瞬間に体を強ばらせる
もはや今のジュウザには余裕など残っていなかったのだ
「ユリアが…お前を心配してな、見つけてくれと頼んできたのだ」
「…」
「お前の考えも分かる…だが戻るべきだ、まずお前には使命がある」
リュウガの言葉にジュウザは目を合わす事すら出来なくなっていた
「…やっとアンタらしい事を言ったな」
「ジュウザ…」
もはや精一杯の強がりに近かった
「ユリアを出されちゃ…叶わねぇわ」
「なら戻って来るのだな?」
「んー…たまにな!」
「はぁ…お前なぁ」
軽口を叩いてはいたが、ジュウザを説得出来たとリュウガは確信していた
何故ならユリアの名を口にしたジュウザが、先程とは違い微笑んでいたからだ
そしてもう何時も通りのジュウザであった
「安心しなって!ちゃんと定期的に顔を出すさ」
「ふん、信じられるか!」
「ひっでー、仮にも弟の言葉くらい信用しろよ」
「定期的と言って数カ月に1回とかなら承知せんぞ!」
「あーもー!分かった、分かった!だから、もう来んなよ?」
「言われずともそんな暇はない!」
「ちょ!嘘つけ!結構な頻度で来てたじゃねぇか!」
「お前が人の話を聞こうとせんからだ!全く、手間取らせおって…」
「はいはい、悪かったよー!…はぁ、俺、仕事戻るわ」
ジュウザは一通り言い争うと満足したのか、何時ものように笑いながら立ち上がる
そのジュウザの様子にリュウガも気は済んだのか、同じく立ち上がり一階へと降りる
「リュウガ、もう少し居るわけ?」
「いや、もう用は済んだ…仕事に戻る」
「うわー働き者ー」
「ジュウザもお客さんの事を見習ってくれて良いんだぜ?」
「げぇー…やめてくれよ!」
マスターや他の客は降りてきた2人の雰囲気を感じたのか軽口を話しながら酒を飲む
するとマスターが閃いたように提案する
「ほら、ジュウザ!お客さん帰るなら外まで見送ってけ」
「おいおい、そこまでする必要はないと思うぜ?」
「いいから、いいから!」
「はぁ、リュウガさっさと出るぞ」
「言われなくとも出る」
マスターに押し通されると2人は揃って外へと出ていく
外へと出た2人は息を白くさせながら言葉を交わす
「じゃあな、リュウガ」
「約束、守れよ」
「分かってるって、可愛い可愛い妹の為にな」
「ふっ……………ジュウザ、最後に言ってなかった事がある」
「ん?まだあんのか?」
ジュウザの軽口を流したかと思っていると、リュウガは車に乗り込みながら少し小さな声で話す
小さな声になったリュウガを不思議そうに見つめながら、ジュウザは聞き取る為に車の中のリュウガの顔を覗き込む
「お前を心配していたのはユリアだけではない」
「え?」
「五車星の者たちもだが…俺も少なからず心配していたのだ」
「なっ!急に何言って「ジュウザ、少しは自覚しろ」へ?わっ!」
リュウガは話す為に開けていた窓の外のジュウザの頭を掴むと車の中へと引き摺り込ませる
言葉に混乱していたジュウザは簡単に引き込まれた
「お前は、お前が思っているより愛されているんだ」
「なっ!」
「だから心配させるな…俺が言いたいのはそれだけだ」
言い終えたリュウガは近くにあるジュウザの顔を見ると、珍しく満足したように微笑んで手を放すと窓を閉めて去っていく
「最後に変な事を言い残してくなよ…馬鹿野郎…」
そんなリュウガの行動を見続け、小さな駐車場に残されたジュウザは赤い顔を隠すように、口元に手を当てながら立ち続けた
ジュウザは暫く店に戻れそうになかったのだった
END
しかもジュウザは、住み込みをさせてもらう代わりに店で多少は働いていたので顔を合わせてしまっていた
そんな状態が1ヶ月以上続くと流石のジュウザも困り果てたのだった
「ったく、よくもまぁ飽きもせず来れるよな」
「お前が戻ってくれば全て丸く収まるんだ」
「だーかーら!俺は戻らないって言ってんでしょうが!………はい、酒」
「おい、酒って言い方は無いだろ…」
「文句あるなら来るんじゃねぇよ」
などと身内丸出しの接客をしても店の主人から
怒られない程、店の客も主人も見慣れてしまっていた
「なぁ…本当に店に迷惑を掛けないようにするなら店の女の子位は指名しろよな!俺は只のウエイターだから!」
「お前がスナック紛いな店に居るのが悪い…それに用があるのはお前だ、余計な事はしていられない」
「いや、これでも俺、ちゃんと働いてるから!邪魔すんな!」
その会話の繰り返しである
もはや店の客は笑顔で馴染みつつある光景を見守っていた
しかし今日は少し違っていた
「なぁ、ジュウザ?一度くらいは、そのお客さんとゆっくり話したらどうだい?話しにくいなら2階使って良いからさ」
「マスターやめてくれよー…俺には話す事なんてねぇ」
ジュウザのリュウガへのキツイ態度に助け舟を出したくなり提案するマスターに、ジュウザは顔をゆがめる
しかしリュウガはすぐに食いついた
「ふむ、俺も埒があかないと思っていた、貸して貰えるだろうか」
「ちょっ!リュウガ!?」
「あぁ、いいよ!ジュウザ、そのまま案内をしてく
れ」
「………マジかよ」
急な展開にジュウザは驚くしかなかった
結局ジュウザは、世話になっている店の主人の言葉には逆らえずリュウガを実質、住んでいる部屋へと案内したのだった
「はぁ…俺、さっきも言ったが話す事はないぞ」
「…」
部屋へ着き、机を挟み向き合うと話を早く終わらせたいジュウザは口火を切る
しかしリュウガは、部屋へ到着しても何故か話す事はなかった
急に無言な相手にジュウザは少し戸惑っていた
「あー…俺の事は気にするなよ、アンタにも迷惑を掛けるつもりはないし」
「…」
目線を合わせずに話すジュウザをリュウガはただただ見つめていた
そんなリュウガを気にしないようにしながら、ジュウザは話し続ける
「俺は、もう五車星とか南斗とかとは無縁でありたいんだよ」
「…」
「俺を…俺をこれ以上、縛らないでくれ…」
縛らないで欲しい、静かな相手にいつの間にかジュウザは本音を漏らしていた
「…雲の名に恥じない言葉だな」
「おまっ!茶化すなよ」
やっと喋った相手の言葉に少し本音を言ったジュウザとしては照れた
しかし目線を合わせた瞬間のリュウガの目は真剣そのものだった
「茶化しているつもりは無い………それはお前の本音なんだな?」
『宿命から逃げる気か!』くらい言われると思ったジュウザの予想に反して、リュウガは静かに聞いてきた
しかもリュウガの眼差しは暖かく、ジュウザを充分に戸惑わせた
「リュウガ…アンタは俺を五車星へと戻すのが目的じゃないのか?」
リュウガのジュウザの質問への反応は鈍いものだった
「ん?あぁ、そういえばリハクとやらから頼まれたな」
「あ、やっぱりか」
「だが断った」
「……………はぁ!?」
いつもの余裕のある態度は、もはやジュウザはとれない程に動揺していた
目の前の男の答えが信じられなかったのだ
いくら考えても目の前の男、リュウガの態度と一致させられなかった
「なら、なんで俺に戻ってこいと?断ったなら関係ないはずだろ」
「ユリアの為だ」
「っ!?…ユリアだと?」
ジュウザは、ユリアと言う言葉を聞いた瞬間に体を強ばらせる
もはや今のジュウザには余裕など残っていなかったのだ
「ユリアが…お前を心配してな、見つけてくれと頼んできたのだ」
「…」
「お前の考えも分かる…だが戻るべきだ、まずお前には使命がある」
リュウガの言葉にジュウザは目を合わす事すら出来なくなっていた
「…やっとアンタらしい事を言ったな」
「ジュウザ…」
もはや精一杯の強がりに近かった
「ユリアを出されちゃ…叶わねぇわ」
「なら戻って来るのだな?」
「んー…たまにな!」
「はぁ…お前なぁ」
軽口を叩いてはいたが、ジュウザを説得出来たとリュウガは確信していた
何故ならユリアの名を口にしたジュウザが、先程とは違い微笑んでいたからだ
そしてもう何時も通りのジュウザであった
「安心しなって!ちゃんと定期的に顔を出すさ」
「ふん、信じられるか!」
「ひっでー、仮にも弟の言葉くらい信用しろよ」
「定期的と言って数カ月に1回とかなら承知せんぞ!」
「あーもー!分かった、分かった!だから、もう来んなよ?」
「言われずともそんな暇はない!」
「ちょ!嘘つけ!結構な頻度で来てたじゃねぇか!」
「お前が人の話を聞こうとせんからだ!全く、手間取らせおって…」
「はいはい、悪かったよー!…はぁ、俺、仕事戻るわ」
ジュウザは一通り言い争うと満足したのか、何時ものように笑いながら立ち上がる
そのジュウザの様子にリュウガも気は済んだのか、同じく立ち上がり一階へと降りる
「リュウガ、もう少し居るわけ?」
「いや、もう用は済んだ…仕事に戻る」
「うわー働き者ー」
「ジュウザもお客さんの事を見習ってくれて良いんだぜ?」
「げぇー…やめてくれよ!」
マスターや他の客は降りてきた2人の雰囲気を感じたのか軽口を話しながら酒を飲む
するとマスターが閃いたように提案する
「ほら、ジュウザ!お客さん帰るなら外まで見送ってけ」
「おいおい、そこまでする必要はないと思うぜ?」
「いいから、いいから!」
「はぁ、リュウガさっさと出るぞ」
「言われなくとも出る」
マスターに押し通されると2人は揃って外へと出ていく
外へと出た2人は息を白くさせながら言葉を交わす
「じゃあな、リュウガ」
「約束、守れよ」
「分かってるって、可愛い可愛い妹の為にな」
「ふっ……………ジュウザ、最後に言ってなかった事がある」
「ん?まだあんのか?」
ジュウザの軽口を流したかと思っていると、リュウガは車に乗り込みながら少し小さな声で話す
小さな声になったリュウガを不思議そうに見つめながら、ジュウザは聞き取る為に車の中のリュウガの顔を覗き込む
「お前を心配していたのはユリアだけではない」
「え?」
「五車星の者たちもだが…俺も少なからず心配していたのだ」
「なっ!急に何言って「ジュウザ、少しは自覚しろ」へ?わっ!」
リュウガは話す為に開けていた窓の外のジュウザの頭を掴むと車の中へと引き摺り込ませる
言葉に混乱していたジュウザは簡単に引き込まれた
「お前は、お前が思っているより愛されているんだ」
「なっ!」
「だから心配させるな…俺が言いたいのはそれだけだ」
言い終えたリュウガは近くにあるジュウザの顔を見ると、珍しく満足したように微笑んで手を放すと窓を閉めて去っていく
「最後に変な事を言い残してくなよ…馬鹿野郎…」
そんなリュウガの行動を見続け、小さな駐車場に残されたジュウザは赤い顔を隠すように、口元に手を当てながら立ち続けた
ジュウザは暫く店に戻れそうになかったのだった
END