診断メーカーお題
音もなくほどけた。
何の前触れもなく、それは突然に。
「優來。」
静かに、優しく声をかけられた時。
初めて会ったはずなのに、初めてじゃない、そんな、不思議な感覚に陥った。
「どなた…ですか?」
私がそう言うと、あなたは困った顔をする。
「覚えて…ない…かな。」
困ったように、ぎこちなく笑う。
ちがう、そんな顔じゃない。
「ちがう。」
気がつくと、そう、声が出ていた。
彼の表情は少し明るくなる。
「なんだ、冗談?」
ははっ、と、笑う。
彼は一体、何を言っているのだろう。
「…なにが?」
私の言葉に、彼はまた表情を曇らせる。
ちがう、だから、そんな顔じゃない。
私が好きなのは…あれ?
私はこの人に今初めて出会ったはずなのに、なぜ好きな表情がわかるの?
この、懐かしさは、何。
さっきまでは本当に初対面の知らない人だったはずなのに、名前を、呼ばれた瞬間から。
「優來?」
呼ばないで。私の、名前。
「どうした…?」
そんな顔で、見ないで。
「優來。」
名前を呼ばれる度に、ひとつ、またひとつとほどけていく。
あぁ、だめ、ほどけてはいけない、そんな気がする。
「優來、何か言って?」
「名前…呼ばないで。」
つい、素っ気ない声が出てしまった。
彼は一瞬驚いた顔をし、また、ぎこちなく笑う。
「ちがう、そんな顔じゃない、」
「なにが?」
「あなたは笑った顔がっ…」
「笑った顔が、なに?」
「っ…!!」
耐えきれなくなって彼の目を見つめると、また、ほどけた、大きい、大きい何かが、ほどけた。
彼は優しく私にほほ笑みかける。
「ほら、言ってみて?優來。」
意地悪な、いつもの笑み。
大好きな大好きな笑み。
「私はっ…」
言ってはだめ。
言ったら、完全にほどけてしまう。
今までの幸せ、今の幸せ、これからの幸せ。
全て、全てほどけてしまう。
「優來。」
彼はまた、私の名前を呼ぶ。
私の大好きなその口で。
私に不器用なキスを落とした、その口で。
「優來。」
彼は私を見つめる。
私の大好きなその目で。
私をいつも真っ直ぐに見つめてくれていた、その目で。
「優來。」
彼は私を抱きしめようとする。
私の大好きな腕で。
いつも優しく包み込んでくれていた、その腕で。
でも、それは叶わない。
彼の腕は私を掴むことなく、宙を書く。
「っ…!」
「…ほら、優來、言って?」
彼は私の顔をのぞき込む。
泣きそうな、辛そうな笑顔で。
「言ってくれないと、俺、いけない。」
「…いかないで。」
「そういうわけにはいかないからさ、ね、わかってるでしょ?優來。」
我慢できなかった。
言うしかなかった。
言わずには居られなかった。
「私はあんたのっ…あんたの笑った顔が1番好きなのっ…!!!」
そう、言った瞬間に、ほどける、全て、目の前の全て、彼と私の関係が、ほどけてしまう。
「やだっ…!いかないでっ…!!!」
彼がもう、私の名前を呼ぶことはなかった。
何も言わずに、私の大好きな笑顔を浮かべて、消えてしまう。
私の願いなど、儚く。
彼がいなくなって、私の目の前にはひとつの大きな石だけが残されていた。
『日比谷 奏叶』
大好きな名前が彫られた石だけが。
その石を指で撫でると、心が温まる。
まるで心にはいつまでもいる、そう、奏叶が言っているかのように。
短い夢だったけれど、良い夢だった。
辛い夢だったけれど、幸せな夢だった。
気持ちの整理がつくには時間がかかるかもしれない。
でも、これだけは、確かに言える。
つまり私は、恋をしている。
何の前触れもなく、それは突然に。
「優來。」
静かに、優しく声をかけられた時。
初めて会ったはずなのに、初めてじゃない、そんな、不思議な感覚に陥った。
「どなた…ですか?」
私がそう言うと、あなたは困った顔をする。
「覚えて…ない…かな。」
困ったように、ぎこちなく笑う。
ちがう、そんな顔じゃない。
「ちがう。」
気がつくと、そう、声が出ていた。
彼の表情は少し明るくなる。
「なんだ、冗談?」
ははっ、と、笑う。
彼は一体、何を言っているのだろう。
「…なにが?」
私の言葉に、彼はまた表情を曇らせる。
ちがう、だから、そんな顔じゃない。
私が好きなのは…あれ?
私はこの人に今初めて出会ったはずなのに、なぜ好きな表情がわかるの?
この、懐かしさは、何。
さっきまでは本当に初対面の知らない人だったはずなのに、名前を、呼ばれた瞬間から。
「優來?」
呼ばないで。私の、名前。
「どうした…?」
そんな顔で、見ないで。
「優來。」
名前を呼ばれる度に、ひとつ、またひとつとほどけていく。
あぁ、だめ、ほどけてはいけない、そんな気がする。
「優來、何か言って?」
「名前…呼ばないで。」
つい、素っ気ない声が出てしまった。
彼は一瞬驚いた顔をし、また、ぎこちなく笑う。
「ちがう、そんな顔じゃない、」
「なにが?」
「あなたは笑った顔がっ…」
「笑った顔が、なに?」
「っ…!!」
耐えきれなくなって彼の目を見つめると、また、ほどけた、大きい、大きい何かが、ほどけた。
彼は優しく私にほほ笑みかける。
「ほら、言ってみて?優來。」
意地悪な、いつもの笑み。
大好きな大好きな笑み。
「私はっ…」
言ってはだめ。
言ったら、完全にほどけてしまう。
今までの幸せ、今の幸せ、これからの幸せ。
全て、全てほどけてしまう。
「優來。」
彼はまた、私の名前を呼ぶ。
私の大好きなその口で。
私に不器用なキスを落とした、その口で。
「優來。」
彼は私を見つめる。
私の大好きなその目で。
私をいつも真っ直ぐに見つめてくれていた、その目で。
「優來。」
彼は私を抱きしめようとする。
私の大好きな腕で。
いつも優しく包み込んでくれていた、その腕で。
でも、それは叶わない。
彼の腕は私を掴むことなく、宙を書く。
「っ…!」
「…ほら、優來、言って?」
彼は私の顔をのぞき込む。
泣きそうな、辛そうな笑顔で。
「言ってくれないと、俺、いけない。」
「…いかないで。」
「そういうわけにはいかないからさ、ね、わかってるでしょ?優來。」
我慢できなかった。
言うしかなかった。
言わずには居られなかった。
「私はあんたのっ…あんたの笑った顔が1番好きなのっ…!!!」
そう、言った瞬間に、ほどける、全て、目の前の全て、彼と私の関係が、ほどけてしまう。
「やだっ…!いかないでっ…!!!」
彼がもう、私の名前を呼ぶことはなかった。
何も言わずに、私の大好きな笑顔を浮かべて、消えてしまう。
私の願いなど、儚く。
彼がいなくなって、私の目の前にはひとつの大きな石だけが残されていた。
『日比谷 奏叶』
大好きな名前が彫られた石だけが。
その石を指で撫でると、心が温まる。
まるで心にはいつまでもいる、そう、奏叶が言っているかのように。
短い夢だったけれど、良い夢だった。
辛い夢だったけれど、幸せな夢だった。
気持ちの整理がつくには時間がかかるかもしれない。
でも、これだけは、確かに言える。
つまり私は、恋をしている。
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