あて先ちがいのラブレター/Keith・Alford
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ホールの中央には天井につくほどの高さのツリーが飾りつけられていた。
何重もの金のモールはぐるりと広間を一周して、正面の大きなリースにつながっている。
クリスマスパーティーの準備はほぼ終わっているようだ。
キースがすべてのシャンデリアの明かりをともすと、真夜中のホールは昼と同じ輝きに包まれる。
おずおずと扉を開けて入ってきたPrincessが、「わあ…」と口をあけてホール全体を見回した。
しかし、キースの姿を見つけると、笑みを含んでいた唇を、警戒するようにキュッと引き締めた。
「キース様。ご用はなんでしょうか」
こんな顔も、こんな声も、彼女にさせるつもりはないのに。
「これからお前にダンスの特訓をする」
キースが言うと、Princessが瞬きをした。
「……へ?」
「へ、じゃねえよ。お前な、パーティーに行ったら踊るのが常識なんだよ。お前、踊れんのか?」
「いえ」
「だろ? 大好きな王子サマの前で恥をかきたくなけりゃ、俺のレッスンをありがたく受けろ」
「だけど、私は……」
もぞもぞと、歯切れの悪いPrincessに、理由を聞く余裕がキースにはなかった。
今でももちろん、シャルルのパーティーには行かせたくない。
少しでもPrincessが、エドワードとの夜を楽しみにしている素振りを見せたら、堂々と何でもないかのように振舞えるか、自分でも自信はなかった。
「いいか。ダンスったって、基本のステップは限られている。とりあえず、いくつか覚えておけば少なくともエドワード王子の足は踏まないはずだ。
俺は今夜しか時間がとれねぇから、一回で覚えろよ。じゃ、はじめるぞ」
キースはPrincessの腰を引き寄せた。
「ひゃっ」
手のひらに感じるPrincessの身体は固く、まるで木の棒だ。
「おい、力抜け。ガチガチだとそれだけで相手は踊りにくい」
「だって」
「俺はエドワード王子じゃねえから。別に失敗したってかまわないだろが」
「……」
Princessはうつむいた。
自虐発言に黙りこくられると、かえって立場がない。
腕の中の彼女をこのまま強く、抱きしめたかった。
必ず幸せにするから他の誰かを好きになるな、と。
キースは、奥歯を噛んだ。
今は、Princessにダンスを教えることに集中しなければ。
そのために、彼女をホールに呼んだのだ。
「はじめは大概このポーズからだ。それから……よく見てろよ?
1、2、3……でつま先の向きが変わるだろ? こんとき、お前は……こう。片手は背中に軽く添えて、もう片方はエドワード王子の動きに任せればいい。ステップがちゃんと音楽にのれば、自然に舞える」
「これでいいでしょうか」
「ああ。よし。それから……」
Princessは、わりと筋がよかった。
2時間ほどのレッスンで、それなりの仕上がりになった。
これならば、注目の的になる王子とのダンスにも恥はかかないだろう。
冬のオリオンが西に傾くにつれ、夜は一歩引き、朝が一歩踏み込み、夜明けの空が近づいてくる。
キースが、胸ポケットの封筒をPrincessに差し出した。
Princessはおずおずと、無言でそれを受け取った。
「これ……返すわ。悪かったな。お前はもう、自由だ」
「自由……?」
Princessはつぶやいた。
「ああ。俺に呼びつけられないだけじゃない。リバティからの出国も、許す」
「出国も、ですか? 私はもう、監視の必要がないってことですか?」
Princessがキースを見上げた。
「そうだ。お前がなんの魂胆もなく抱きついたってことは、ここ何か月か、お前を見ていてわかった。
あれは、事故だった。婚約は最初から無効だ。心配するな。まだ少し騒動は続くかもしれないが、俺がおさめる」
「……」
「何シケた顔してんだよ。クリパは任せとけ。お前に似合う最高のドレスを用意してやる。ドでかいリムジンで、シャルル城に乗り付けろ。国賓級の女だって驚くぞ。どこの令嬢にも負けねえくらいに化けさせてやっから、自信持って行けよ。な?」
キースはPrincessの頭に、ポンッと手のひらを置いた。
好きな女の魅力を最大に引き出して、自分の元から送り出してやる。
後悔は……ない。
何重もの金のモールはぐるりと広間を一周して、正面の大きなリースにつながっている。
クリスマスパーティーの準備はほぼ終わっているようだ。
キースがすべてのシャンデリアの明かりをともすと、真夜中のホールは昼と同じ輝きに包まれる。
おずおずと扉を開けて入ってきたPrincessが、「わあ…」と口をあけてホール全体を見回した。
しかし、キースの姿を見つけると、笑みを含んでいた唇を、警戒するようにキュッと引き締めた。
「キース様。ご用はなんでしょうか」
こんな顔も、こんな声も、彼女にさせるつもりはないのに。
「これからお前にダンスの特訓をする」
キースが言うと、Princessが瞬きをした。
「……へ?」
「へ、じゃねえよ。お前な、パーティーに行ったら踊るのが常識なんだよ。お前、踊れんのか?」
「いえ」
「だろ? 大好きな王子サマの前で恥をかきたくなけりゃ、俺のレッスンをありがたく受けろ」
「だけど、私は……」
もぞもぞと、歯切れの悪いPrincessに、理由を聞く余裕がキースにはなかった。
今でももちろん、シャルルのパーティーには行かせたくない。
少しでもPrincessが、エドワードとの夜を楽しみにしている素振りを見せたら、堂々と何でもないかのように振舞えるか、自分でも自信はなかった。
「いいか。ダンスったって、基本のステップは限られている。とりあえず、いくつか覚えておけば少なくともエドワード王子の足は踏まないはずだ。
俺は今夜しか時間がとれねぇから、一回で覚えろよ。じゃ、はじめるぞ」
キースはPrincessの腰を引き寄せた。
「ひゃっ」
手のひらに感じるPrincessの身体は固く、まるで木の棒だ。
「おい、力抜け。ガチガチだとそれだけで相手は踊りにくい」
「だって」
「俺はエドワード王子じゃねえから。別に失敗したってかまわないだろが」
「……」
Princessはうつむいた。
自虐発言に黙りこくられると、かえって立場がない。
腕の中の彼女をこのまま強く、抱きしめたかった。
必ず幸せにするから他の誰かを好きになるな、と。
キースは、奥歯を噛んだ。
今は、Princessにダンスを教えることに集中しなければ。
そのために、彼女をホールに呼んだのだ。
「はじめは大概このポーズからだ。それから……よく見てろよ?
1、2、3……でつま先の向きが変わるだろ? こんとき、お前は……こう。片手は背中に軽く添えて、もう片方はエドワード王子の動きに任せればいい。ステップがちゃんと音楽にのれば、自然に舞える」
「これでいいでしょうか」
「ああ。よし。それから……」
Princessは、わりと筋がよかった。
2時間ほどのレッスンで、それなりの仕上がりになった。
これならば、注目の的になる王子とのダンスにも恥はかかないだろう。
冬のオリオンが西に傾くにつれ、夜は一歩引き、朝が一歩踏み込み、夜明けの空が近づいてくる。
キースが、胸ポケットの封筒をPrincessに差し出した。
Princessはおずおずと、無言でそれを受け取った。
「これ……返すわ。悪かったな。お前はもう、自由だ」
「自由……?」
Princessはつぶやいた。
「ああ。俺に呼びつけられないだけじゃない。リバティからの出国も、許す」
「出国も、ですか? 私はもう、監視の必要がないってことですか?」
Princessがキースを見上げた。
「そうだ。お前がなんの魂胆もなく抱きついたってことは、ここ何か月か、お前を見ていてわかった。
あれは、事故だった。婚約は最初から無効だ。心配するな。まだ少し騒動は続くかもしれないが、俺がおさめる」
「……」
「何シケた顔してんだよ。クリパは任せとけ。お前に似合う最高のドレスを用意してやる。ドでかいリムジンで、シャルル城に乗り付けろ。国賓級の女だって驚くぞ。どこの令嬢にも負けねえくらいに化けさせてやっから、自信持って行けよ。な?」
キースはPrincessの頭に、ポンッと手のひらを置いた。
好きな女の魅力を最大に引き出して、自分の元から送り出してやる。
後悔は……ない。