あて先ちがいのラブレター/Keith・Alford
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季節は秋から冬へと移り変わり、クリスマスまであと3日と迫っている。
年末年始にかけて国をあげた行事が立て続けにあるらしく、
キースの執務室の明かりが明け方まで消えないことをPrincessは知っていた。
清書を命令された書類は、クリスマスパーティーでのスピーチ原稿だ。
Princessは執務室の片隅の机に座って、打ち込みをはじめる。
穏やかな冬の陽光が降り注ぐふたりだけの部屋に、Princessのキーボードを叩く音が響いた。
キースは手にしたペンを器用にクルクル回しながら書類に視線を落とし、サインをしているのか、時おり滑らかに手を動かす。
王子の身分を鼻にかけた、居丈高でイヤな男。
はじめの印象はすこぶる悪かったけれど、呼びつけられて、彼のそばにいる時間が増えると違った面も見えてきた。
電話口で誰かに失敗を叱ったあと、今度はそれを補うべく、手を尽くしている姿が幾度となくあった。
訪れた年長の貴族に対しても決して媚びず、相手を見据え、自分の意思をはっきりと言い放つ。
そうかと思えば、入ったばかりの見習いを呼んで小さな行いを褒め、これからも国のために尽くすようにと励ました。
国を思い、民を思い、臣下を思う気持ちは深く、強い。
将来、大国リバティを率いる王として、彼はふさわしかった。
ただの横暴で自分勝手な人間ではないと知ると、Princessはかえって悩んだ。
エドワードへの手紙を取り上げられ、言うことを聞くようにと強要されたのは、キースが純粋に自分を嫌っているからだと思えてならなかった。
いつのころからか、呼びつけられると、そばにいられると喜びながらもつらかった。
単に、用事をいいつけるだけ。
キースは、自分への好意で呼んでいるのではないのだ。
Princessは、痛みにうずく胸にそっと手を当てた。
キースをもっと、知りたかった。
想定外だ。
……私は、キースに愛されたいと、願っている?
「おい。ぼんやりしてねーでさっさとやれよ」
キースがこちらを見もせずに言った。
いつの間にか彼の横顔を見つめてしまっていたのを気付かれて、Princessの鼓動は一気に高鳴る。
「あ、大丈夫です。できました」
Princessはプリンターのトレイから書類の束を引き抜いて整え、キースに差し出した。
「これ、今度のクリスマスパーティーのスピーチなんですね」
「……かんけーねえだろ。お前はシャルルのクリパに行くんだから」
キースは受け取った書類を、ペラペラとめくって相変わらず視線を合わさない。
「行かないですよ。だって、キース様が手紙を取り上げたじゃないですか」
キースが顔を向けた。怒りとも戸惑いともとれる、グリーンの瞳が揺れている。
「バカか、お前。別に行くなとは言ってねえよ。二枚でも三枚でもまた書いて送りつければいいだろ、あんなラブレター」
「ラ、ラブレターなんかじゃないです! ただ一緒に過ごせたらって……」
「それがラブレターだっていうんだよっ」
Princessはぎゅっと唇をかんだ。
なんでキースに責められなくてはならないのかわからない。
にらみあう視線をはずし、おもむろに、キースが受話器をあげた。
短縮のボタンを押すと、コール音が漏れ聞こえる。
「……ああ、お忙しいところすみません、キースです。うちにいるPrincessにクリスマスパーティーの招待状を送っていただいたかと思いますが……ええ、はい、ありがとうございます。
ちょっといろいろありまして、私が返事を保留にさせておいたのですが、ちゃんと準備させて行かせますんで。
そうです。本人も楽しみにしてます。よろしくお願いします。……はい、わかりました。では」
止める間もなかった。
キースは、エドワードが電話を切るのを待ってゆっくりと受話器を元に戻した。
「これで文句ねーだろ」
キースが再び書類に視線を落とす。
何事もなかったみたいにサインを続ける彼の気持ちが、少しも見えなかった。
「文句、ありますよ」
低くつぶやいたPrincessの声に、キースが顔を上げる。
「は?」
「行くなって言ったり、行けって言ったり、何なんですか。庶民にだってココロはあるんです。 勝手なことばっかりしないでください」
あのとき、エドワードへのほのかな想いを笑われ、今度はキース本人への想いを拒否された気がした。
いつだって、この人は、人の気も知らないで。
「なに? お前、誰に向かって口きいてんだよ」
「誰とか……関係ないでしょ? キース様は、すぐ身分を振りかざして。そういうところがダメだって言ってるんです!」
売り言葉に買い言葉となれば、もう止まらなかった。
カッとキースの顔が赤らんで、ドアをまっすぐに指差した。
「出て行け!」
「言われなくたって出て行きます!」
Princessは踵を返して、荒々しく扉を閉め、廊下を駆けた。
もう、知らない。
キース様なんて、知らない、知らない。
怒っているのか、悲しいのか、自分ですらもわからなかった。
うつむきながら走る。
にらむに近く凝視した靴のつま先が、じわり、ぼやけた。
年末年始にかけて国をあげた行事が立て続けにあるらしく、
キースの執務室の明かりが明け方まで消えないことをPrincessは知っていた。
清書を命令された書類は、クリスマスパーティーでのスピーチ原稿だ。
Princessは執務室の片隅の机に座って、打ち込みをはじめる。
穏やかな冬の陽光が降り注ぐふたりだけの部屋に、Princessのキーボードを叩く音が響いた。
キースは手にしたペンを器用にクルクル回しながら書類に視線を落とし、サインをしているのか、時おり滑らかに手を動かす。
王子の身分を鼻にかけた、居丈高でイヤな男。
はじめの印象はすこぶる悪かったけれど、呼びつけられて、彼のそばにいる時間が増えると違った面も見えてきた。
電話口で誰かに失敗を叱ったあと、今度はそれを補うべく、手を尽くしている姿が幾度となくあった。
訪れた年長の貴族に対しても決して媚びず、相手を見据え、自分の意思をはっきりと言い放つ。
そうかと思えば、入ったばかりの見習いを呼んで小さな行いを褒め、これからも国のために尽くすようにと励ました。
国を思い、民を思い、臣下を思う気持ちは深く、強い。
将来、大国リバティを率いる王として、彼はふさわしかった。
ただの横暴で自分勝手な人間ではないと知ると、Princessはかえって悩んだ。
エドワードへの手紙を取り上げられ、言うことを聞くようにと強要されたのは、キースが純粋に自分を嫌っているからだと思えてならなかった。
いつのころからか、呼びつけられると、そばにいられると喜びながらもつらかった。
単に、用事をいいつけるだけ。
キースは、自分への好意で呼んでいるのではないのだ。
Princessは、痛みにうずく胸にそっと手を当てた。
キースをもっと、知りたかった。
想定外だ。
……私は、キースに愛されたいと、願っている?
「おい。ぼんやりしてねーでさっさとやれよ」
キースがこちらを見もせずに言った。
いつの間にか彼の横顔を見つめてしまっていたのを気付かれて、Princessの鼓動は一気に高鳴る。
「あ、大丈夫です。できました」
Princessはプリンターのトレイから書類の束を引き抜いて整え、キースに差し出した。
「これ、今度のクリスマスパーティーのスピーチなんですね」
「……かんけーねえだろ。お前はシャルルのクリパに行くんだから」
キースは受け取った書類を、ペラペラとめくって相変わらず視線を合わさない。
「行かないですよ。だって、キース様が手紙を取り上げたじゃないですか」
キースが顔を向けた。怒りとも戸惑いともとれる、グリーンの瞳が揺れている。
「バカか、お前。別に行くなとは言ってねえよ。二枚でも三枚でもまた書いて送りつければいいだろ、あんなラブレター」
「ラ、ラブレターなんかじゃないです! ただ一緒に過ごせたらって……」
「それがラブレターだっていうんだよっ」
Princessはぎゅっと唇をかんだ。
なんでキースに責められなくてはならないのかわからない。
にらみあう視線をはずし、おもむろに、キースが受話器をあげた。
短縮のボタンを押すと、コール音が漏れ聞こえる。
「……ああ、お忙しいところすみません、キースです。うちにいるPrincessにクリスマスパーティーの招待状を送っていただいたかと思いますが……ええ、はい、ありがとうございます。
ちょっといろいろありまして、私が返事を保留にさせておいたのですが、ちゃんと準備させて行かせますんで。
そうです。本人も楽しみにしてます。よろしくお願いします。……はい、わかりました。では」
止める間もなかった。
キースは、エドワードが電話を切るのを待ってゆっくりと受話器を元に戻した。
「これで文句ねーだろ」
キースが再び書類に視線を落とす。
何事もなかったみたいにサインを続ける彼の気持ちが、少しも見えなかった。
「文句、ありますよ」
低くつぶやいたPrincessの声に、キースが顔を上げる。
「は?」
「行くなって言ったり、行けって言ったり、何なんですか。庶民にだってココロはあるんです。 勝手なことばっかりしないでください」
あのとき、エドワードへのほのかな想いを笑われ、今度はキース本人への想いを拒否された気がした。
いつだって、この人は、人の気も知らないで。
「なに? お前、誰に向かって口きいてんだよ」
「誰とか……関係ないでしょ? キース様は、すぐ身分を振りかざして。そういうところがダメだって言ってるんです!」
売り言葉に買い言葉となれば、もう止まらなかった。
カッとキースの顔が赤らんで、ドアをまっすぐに指差した。
「出て行け!」
「言われなくたって出て行きます!」
Princessは踵を返して、荒々しく扉を閉め、廊下を駆けた。
もう、知らない。
キース様なんて、知らない、知らない。
怒っているのか、悲しいのか、自分ですらもわからなかった。
うつむきながら走る。
にらむに近く凝視した靴のつま先が、じわり、ぼやけた。