あて先ちがいのラブレター/Keith・Alford
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あれはちょうど、リバティ城の広い庭を囲む木々が、葉を紅 に黄に色づかせるころ。
シャルルの王子エドワードからPrincessにクリスマスパーティーの招待状が届いた。
思えば、エドワードに連れられてノーブルミッシェル城のパーティーに赴き、キースと踊り、その直後に転んでキースに抱きついてしまったのがすべてのことの発端だった。
“ダンスを踊ったあとの抱擁は伝統的なプロポーズである”との慣習で、たとえ事故であったにせよ、表向き、ふたりは結婚を考えた者同士ということになってしまったのだ。
世間の好奇の目から避けるためにキースに連れ去られ、リバティでメイドの仕事をさせられているPrincessに、エドワードは「私が貴女を誘いさえしなければ」とたびたび詫びて、気遣う手紙や贈り物を届けてくれていた。
Princessにとっては、エドワードの優しさが唯一の心の拠りどころだったといえる。
だから、クリスマスパーティーの招待状が届いたときは、地面から5センチ足が離れているのではないかというほど浮かれたった。
シャンデリアがきらめく広間で手をとり合って舞うエドワードとのダンスや、
間近に迫る彼の整った顔立ちや、芳しい香りを想像するだけで、Princessの身体の芯はぽぅっと熱をもった。
この感情はまぎれもなく……恋の入り口。
たとえ想いが叶わなくても、ただ、彼のそばにいられるひとときがあるならそれでいい。
Princessはさっそく、一筆ごとに心をこめ、手紙の返事をしたためた。
ところが、だ。
あとは封をとじて投函するだけの手紙をなくしてしまった。
庭の植え込みに水をまいたあとポストオフィスに行こうと、持ち歩いたのが迂闊だった。
好意がにじむ手紙を、だれかに読まれたらたまらない。
しかしこんなときに限って自分の移動は広範囲で、封筒一枚が見つかるはずもなく。
半ばあきらめ気味になって、城の大理石の廊下に視線を落としながら、きょろきょろと、角を曲がったその刹那――
「ああっ! それっ!」
Princessがまっすぐに指差した先には、ピンク色の封筒を拾い上げ、まさに便箋をひらくキースがいた。
「だめっ、見ちゃダメですっ!」
飛び掛らんばかりに駆け寄ると、キースは便箋をひょいと高く掲げた。
「あん? これお前のか。なになに…
『エドワード様。クリスマスパーティーのお誘いありがとうございます。憧れのエドワード様とクリスマスを過ごせるなんて夢のようです。当日少しでもお話ができたら嬉しいです。楽しみにしています』
……へええ。お前、庶民のくせによくこんな図々しいことが書けるな」
「よ、読むことないじゃないですか! 返してください」
キースは、何度も跳ね上がって手紙をとろうとするPrincessを避けて、右に左にと身体を揺らした。
「もしかして、お前、エドワード王子を好きなのか?」
「べつに、好きってわけじゃ……」
否定してみたところで、みるみる耳まで熱くなった顔は、言葉と裏腹の気持ちを示してしまう。
キースみたいな人が、静かに恋を見守るとか、さりげなく助けるとか、間違ったってするわけがない。
どうせおもしろがって、結局は邪魔をして、はじまってもいない恋を壊すに決まっている。
案の定、キースは言った。
「なんだったら、俺のほうから渡してやってもいいぜ? 『この女が好きみたいですからよろしく』って言っときゃ、それなりに扱ってくれるだろ」
「いや、もう、ホント、やめてください、返してっ!」
キースは、ピョンピョンと跳ねるPrincessを避けながら、彼の頭上で便箋を封筒に戻した。
Princessの伸ばした指先が、あと少しで手紙に届こうとしたとき、廊下の曲がり角から長身の影が進み出る。
「お、リューク、ちょうどいいとこへ。パス!」
山積みの書類を抱えていたリュークが、「え、パパパ…パス!?」と叫ぶと同時に全部の書類を手放し、すでに宙に舞うたった一通の封筒をつかんだ。
廊下に散らばる紙、突進してくるPrincess。
「返してください! それ、返して」
間近に迫ったPrincessは必死の形相で飛び跳ね、封筒に向かって腕をいっぱいに伸ばす。
「いてっ!おまっ…足踏むな。なんなんだよ、いったい!」
キースは、もみあうリュークとPrincessに声をたてて笑い、やがてまた「おい、リュークこっち、パス!」と手を高く掲げた。
再び封筒は、ひらり舞って、キースの手中におさまった。
キースは封筒を指の間に挟むと、ピッとPrincessに示した。
「これは俺があずかっとく」
「は?」
「エドワード王子に渡されたくなければ、俺の言うことを聞けよ」
Princessは目をしばたたかせた。
まるで子どものやりとりだ。
「何言ってるんですか、その手には乗りませんよ! もともと出そうと思っていた手紙ですから、別にいいです」
Princessはきっぱり言い返した。
ばかばかしい。
王子と敬われる立場の人間として、この対応は有り得ない。
「わかってねえな。使い道はいろいろあるぞ。お前の部屋のドアに貼り付けるとか、口の軽そうな男に見せるとか」
「……!」
嫌がらせをされる意味がわからなかった。
転んで抱きつき、婚約者騒動になったことをそこまで怒っているのだろうか。
自分にとってはどうにもならなかったことなのに。
しかし、彼の不実を責めても得にはなるまい。
今は言うことをきくフリをして、様子を見たほうがよさそうだ。
「わかりました。なんなりと」
Princessが頷くと、キースはさも当然だといわんばかりに顎をあげた。
「じゃ、俺の執務室に飲み物持って来いよ。俺が着くより、先に置いとけ」
そんなの無茶だと早速いいかけて、言葉を飲み込んだ。
しばらくは、YES以外の返事はない。
シャルルの王子エドワードからPrincessにクリスマスパーティーの招待状が届いた。
思えば、エドワードに連れられてノーブルミッシェル城のパーティーに赴き、キースと踊り、その直後に転んでキースに抱きついてしまったのがすべてのことの発端だった。
“ダンスを踊ったあとの抱擁は伝統的なプロポーズである”との慣習で、たとえ事故であったにせよ、表向き、ふたりは結婚を考えた者同士ということになってしまったのだ。
世間の好奇の目から避けるためにキースに連れ去られ、リバティでメイドの仕事をさせられているPrincessに、エドワードは「私が貴女を誘いさえしなければ」とたびたび詫びて、気遣う手紙や贈り物を届けてくれていた。
Princessにとっては、エドワードの優しさが唯一の心の拠りどころだったといえる。
だから、クリスマスパーティーの招待状が届いたときは、地面から5センチ足が離れているのではないかというほど浮かれたった。
シャンデリアがきらめく広間で手をとり合って舞うエドワードとのダンスや、
間近に迫る彼の整った顔立ちや、芳しい香りを想像するだけで、Princessの身体の芯はぽぅっと熱をもった。
この感情はまぎれもなく……恋の入り口。
たとえ想いが叶わなくても、ただ、彼のそばにいられるひとときがあるならそれでいい。
Princessはさっそく、一筆ごとに心をこめ、手紙の返事をしたためた。
ところが、だ。
あとは封をとじて投函するだけの手紙をなくしてしまった。
庭の植え込みに水をまいたあとポストオフィスに行こうと、持ち歩いたのが迂闊だった。
好意がにじむ手紙を、だれかに読まれたらたまらない。
しかしこんなときに限って自分の移動は広範囲で、封筒一枚が見つかるはずもなく。
半ばあきらめ気味になって、城の大理石の廊下に視線を落としながら、きょろきょろと、角を曲がったその刹那――
「ああっ! それっ!」
Princessがまっすぐに指差した先には、ピンク色の封筒を拾い上げ、まさに便箋をひらくキースがいた。
「だめっ、見ちゃダメですっ!」
飛び掛らんばかりに駆け寄ると、キースは便箋をひょいと高く掲げた。
「あん? これお前のか。なになに…
『エドワード様。クリスマスパーティーのお誘いありがとうございます。憧れのエドワード様とクリスマスを過ごせるなんて夢のようです。当日少しでもお話ができたら嬉しいです。楽しみにしています』
……へええ。お前、庶民のくせによくこんな図々しいことが書けるな」
「よ、読むことないじゃないですか! 返してください」
キースは、何度も跳ね上がって手紙をとろうとするPrincessを避けて、右に左にと身体を揺らした。
「もしかして、お前、エドワード王子を好きなのか?」
「べつに、好きってわけじゃ……」
否定してみたところで、みるみる耳まで熱くなった顔は、言葉と裏腹の気持ちを示してしまう。
キースみたいな人が、静かに恋を見守るとか、さりげなく助けるとか、間違ったってするわけがない。
どうせおもしろがって、結局は邪魔をして、はじまってもいない恋を壊すに決まっている。
案の定、キースは言った。
「なんだったら、俺のほうから渡してやってもいいぜ? 『この女が好きみたいですからよろしく』って言っときゃ、それなりに扱ってくれるだろ」
「いや、もう、ホント、やめてください、返してっ!」
キースは、ピョンピョンと跳ねるPrincessを避けながら、彼の頭上で便箋を封筒に戻した。
Princessの伸ばした指先が、あと少しで手紙に届こうとしたとき、廊下の曲がり角から長身の影が進み出る。
「お、リューク、ちょうどいいとこへ。パス!」
山積みの書類を抱えていたリュークが、「え、パパパ…パス!?」と叫ぶと同時に全部の書類を手放し、すでに宙に舞うたった一通の封筒をつかんだ。
廊下に散らばる紙、突進してくるPrincess。
「返してください! それ、返して」
間近に迫ったPrincessは必死の形相で飛び跳ね、封筒に向かって腕をいっぱいに伸ばす。
「いてっ!おまっ…足踏むな。なんなんだよ、いったい!」
キースは、もみあうリュークとPrincessに声をたてて笑い、やがてまた「おい、リュークこっち、パス!」と手を高く掲げた。
再び封筒は、ひらり舞って、キースの手中におさまった。
キースは封筒を指の間に挟むと、ピッとPrincessに示した。
「これは俺があずかっとく」
「は?」
「エドワード王子に渡されたくなければ、俺の言うことを聞けよ」
Princessは目をしばたたかせた。
まるで子どものやりとりだ。
「何言ってるんですか、その手には乗りませんよ! もともと出そうと思っていた手紙ですから、別にいいです」
Princessはきっぱり言い返した。
ばかばかしい。
王子と敬われる立場の人間として、この対応は有り得ない。
「わかってねえな。使い道はいろいろあるぞ。お前の部屋のドアに貼り付けるとか、口の軽そうな男に見せるとか」
「……!」
嫌がらせをされる意味がわからなかった。
転んで抱きつき、婚約者騒動になったことをそこまで怒っているのだろうか。
自分にとってはどうにもならなかったことなのに。
しかし、彼の不実を責めても得にはなるまい。
今は言うことをきくフリをして、様子を見たほうがよさそうだ。
「わかりました。なんなりと」
Princessが頷くと、キースはさも当然だといわんばかりに顎をあげた。
「じゃ、俺の執務室に飲み物持って来いよ。俺が着くより、先に置いとけ」
そんなの無茶だと早速いいかけて、言葉を飲み込んだ。
しばらくは、YES以外の返事はない。