あて先ちがいのラブレター/Keith・Alford
プリンセスの名前を設定できます⇒
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
二度目の着信を無視していると、間髪いれずに今度はLINEだ。
応答しない自分を責めるみたいな赤色の着信ランプが少し、忌々しい。
見る前から相手はわかっている。もちろん、用件も。
Princessは、伏せていたスマホを手にとって、人差し指を画面に滑らせた。
『なに無視してんだよ。今すぐ執務室に来い!』
ただの活字の羅列だというのに、メッセージの主 のいらだちは手に取るようにわかった。
……誰でも人がキース様の都合でホイホイ動くと思ったら、大間違いなんだから!
心の中で反発してはみたけれど、相手は一国の王子だ。周りの人間は、彼の都合で、それこそホイホイ動くのだろう。
仕方ない。
Princessは、なお鳴り続けるスマホをポケットに突っ込んで、執務室に続く廊下を急いだ。
「遅い! 俺を無視するたぁ、いい根性してんじゃねえか」
扉を開けたとたんに浴びせられるキースの怒号に、Princessは一瞬、ひるんだ。
けれど、負けじと彼にぎゅっと視線を合わせる。
恫喝には煽 られず、臆せず、平常心で応じるのが最適だと、皮肉にもPrincessはキースから学んでいた。
「遅れてすみませんでした、キース様。ご用件はなんでしょうか」
落ち着いた声音と深いお辞儀に、キースのむき出しの牙がいくぶん収められた。
「この原稿を清書しろ。夕方までに仕上げろ。わかったな」
「清書、ですか?」
キースは、バサッと紙の束をPrincessの眼の前に差し出した。
今日はわりとまとも用事だなと思ってしまうこと自体、自分の感覚のどこかがおかしくなっているようだ。
これまで、呼びつけられては、西日がまぶしいからカーテンを閉めろだの、
放ったゴミがゴミ箱に入らなかったから拾えだの、ちょっと彼が手を伸ばせば用が済むことでもいちいち言いつけられてきたのだ。
さらにキースは、些細な用事が済んだあともPrincessに退室を許さなかった。Princessが理由をたずねても「ここにいろ」の一点張り。
結局は、なんだかんだと命令されて、いったん呼び出されると、ほぼ一日中キースの世話をやくことになる。
「おいっ、わかったのか、返事は!」
またもやキースに怒鳴りつけられ、Princessは我に返った。
用がくだらないから言うことを聞かないとか、マシだから言うことを聞くとか、Princessに選択の余地などはじめからない。
「え、あっ、はい。わかりました」
うなずいたPrincessを、キースが、ニヤッともの言いたげな表情をしてのぞきこんだ。
「そりゃ、拒否るとか、ありえねえモンな?」
「……」
片方の口角をあげて、含み笑いをするキースを前に、Princessは押し黙るしかない。
これまで自分の都合を一切主張せず、鈴をつけられたネコみたいに、キースからのコールが鳴れば馳せ参じ、
右を向けと言われれば右を向き、やっぱり左だと言われればその通りにするには理由があった。
彼には……弱みを握られている。
応答しない自分を責めるみたいな赤色の着信ランプが少し、忌々しい。
見る前から相手はわかっている。もちろん、用件も。
Princessは、伏せていたスマホを手にとって、人差し指を画面に滑らせた。
『なに無視してんだよ。今すぐ執務室に来い!』
ただの活字の羅列だというのに、メッセージの
……誰でも人がキース様の都合でホイホイ動くと思ったら、大間違いなんだから!
心の中で反発してはみたけれど、相手は一国の王子だ。周りの人間は、彼の都合で、それこそホイホイ動くのだろう。
仕方ない。
Princessは、なお鳴り続けるスマホをポケットに突っ込んで、執務室に続く廊下を急いだ。
「遅い! 俺を無視するたぁ、いい根性してんじゃねえか」
扉を開けたとたんに浴びせられるキースの怒号に、Princessは一瞬、ひるんだ。
けれど、負けじと彼にぎゅっと視線を合わせる。
恫喝には
「遅れてすみませんでした、キース様。ご用件はなんでしょうか」
落ち着いた声音と深いお辞儀に、キースのむき出しの牙がいくぶん収められた。
「この原稿を清書しろ。夕方までに仕上げろ。わかったな」
「清書、ですか?」
キースは、バサッと紙の束をPrincessの眼の前に差し出した。
今日はわりとまとも用事だなと思ってしまうこと自体、自分の感覚のどこかがおかしくなっているようだ。
これまで、呼びつけられては、西日がまぶしいからカーテンを閉めろだの、
放ったゴミがゴミ箱に入らなかったから拾えだの、ちょっと彼が手を伸ばせば用が済むことでもいちいち言いつけられてきたのだ。
さらにキースは、些細な用事が済んだあともPrincessに退室を許さなかった。Princessが理由をたずねても「ここにいろ」の一点張り。
結局は、なんだかんだと命令されて、いったん呼び出されると、ほぼ一日中キースの世話をやくことになる。
「おいっ、わかったのか、返事は!」
またもやキースに怒鳴りつけられ、Princessは我に返った。
用がくだらないから言うことを聞かないとか、マシだから言うことを聞くとか、Princessに選択の余地などはじめからない。
「え、あっ、はい。わかりました」
うなずいたPrincessを、キースが、ニヤッともの言いたげな表情をしてのぞきこんだ。
「そりゃ、拒否るとか、ありえねえモンな?」
「……」
片方の口角をあげて、含み笑いをするキースを前に、Princessは押し黙るしかない。
これまで自分の都合を一切主張せず、鈴をつけられたネコみたいに、キースからのコールが鳴れば馳せ参じ、
右を向けと言われれば右を向き、やっぱり左だと言われればその通りにするには理由があった。
彼には……弱みを握られている。
1/8ページ