あしたのキミも愛してる/Will.A.Spencer
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今日は気分がいいと言ってウィルは、本を片手に、自ら車椅子を窓辺に寄せた。
臥せっている時間が多くなってはいたものの、余命と言われた期間を過ぎても彼の静かな呼吸は続いた。
もしかしたら診断は間違いで、今日の日を境にだんだんと回復するのではないか、これまで悪い夢を見ていただけなのではないかと思ってしまうほどだ。
いや、元気であろうとなかろうと、ただ、ウィルという存在が傍に在るだけで私にとっては十分だった。
ウィルはきっと、私の想いに気付いている。
この気持ちが、病にむしばまれきったウィルを頑張らせ、引き止めているとわかっていても、それでも「もうひとりでも大丈夫だから」と彼に告げる勇気が、私にはない。
私は、最後の最後までウィルに守られていた。
「今夜はノーブル・ミッシェル城でパーティーがあるそうですよ」
私は、鉢植えの根元に水を差しながら言った。
ウィルが大切にしている小さな花は、私が世話を任されてからもう、何代目になるだろう。
「そう……久しくノーブル様にもお目にかかっていないな。ノーブル・ミッシェル城か……Princessと初めて会った場所だ。懐かしいな。キミは、ほかのどの女性より輝いていて……まぶしかったよ」
「そんな。ウィルのほうこそ、まるで絵本から抜け出た王子様そのもので、みとれるばかりでした」
「……」
「……?」
ふいに、コトンと小さな音がした。
振り向けば、ウィルの足元に彼が手にしていた本が落ちている。
「……ウィル?」
私は水差しをテーブルに置いて、窓辺へと急ぐ。
ウィルと対面して顔を近づけてみると、ブルーの瞳の輪郭があいまいににじんでいる。
焦点が合わないのか、目の中心が揺らいで何かを求めていた。
しかし、その瞳はすぐに細められ口元が優しくほころんだ。
「見かけない顔だね。もしかして、ここ……はじめて?」
「え……?」
ウィルは、ゆっくりと手のひらを差し出した。
「…踊っていただけますか?」
「……」
忘れもしなかった。
私とウィルが初めて出会ったときに交わした言葉だ。
ウィルの瞳には、あの日のパーティーの光景が映っているのだ。
きらめくシャンデリア、色とりどりのドレス、紳士淑女の華やかなざわめき。
私たちの運命が大きく動き出した、あの夜。
ウィルの幻覚が何を意味しているのか、すぐにわかった。
ウィルは……
最期の瞬間ですら、彼の瞳に私だけを映す。
「ウィル……」
にわかに熱を帯びるまぶたに、まだ涙をこぼしてはならないと念じて、私は彼に精一杯の笑顔を向けた。
「はい。喜んで」
差し出された手のひらに私の手を重ねると、ウィルは優雅に微笑み……それから……
――ゆっくりと瞳を閉じた。
一度きりの深い呼吸のあと、ウィルの呼吸が再び戻ることはなかった。
同時にウィルの腕が力をなくして落ち、私の手のひらは宙に残された。
部屋の中は、限りない静寂に包まれた。
沈黙は、時すら止まっているかのようだった。
私はウィルの白磁の頬にそっと触れる。
名を呼べばまたあの美しい笑みで応えてくれるのではないかと思わせるほどに、安らかな表情 だった。
「ありがとう……ありがとうございました、ウィル。私は本当に幸せでした」
流れる涙は止めるすべもなかった。
私はぬくもりの残るウィルを抱きしめた。涼やかで高貴なウィルの香りが鼻腔に広がる。
私は泣いた。
声をあげて、泣いた。
胸にあふれるのは、ただただ、私を心から愛し、守り、慈しんでくれたウィルへの感謝の念だった
臥せっている時間が多くなってはいたものの、余命と言われた期間を過ぎても彼の静かな呼吸は続いた。
もしかしたら診断は間違いで、今日の日を境にだんだんと回復するのではないか、これまで悪い夢を見ていただけなのではないかと思ってしまうほどだ。
いや、元気であろうとなかろうと、ただ、ウィルという存在が傍に在るだけで私にとっては十分だった。
ウィルはきっと、私の想いに気付いている。
この気持ちが、病にむしばまれきったウィルを頑張らせ、引き止めているとわかっていても、それでも「もうひとりでも大丈夫だから」と彼に告げる勇気が、私にはない。
私は、最後の最後までウィルに守られていた。
「今夜はノーブル・ミッシェル城でパーティーがあるそうですよ」
私は、鉢植えの根元に水を差しながら言った。
ウィルが大切にしている小さな花は、私が世話を任されてからもう、何代目になるだろう。
「そう……久しくノーブル様にもお目にかかっていないな。ノーブル・ミッシェル城か……Princessと初めて会った場所だ。懐かしいな。キミは、ほかのどの女性より輝いていて……まぶしかったよ」
「そんな。ウィルのほうこそ、まるで絵本から抜け出た王子様そのもので、みとれるばかりでした」
「……」
「……?」
ふいに、コトンと小さな音がした。
振り向けば、ウィルの足元に彼が手にしていた本が落ちている。
「……ウィル?」
私は水差しをテーブルに置いて、窓辺へと急ぐ。
ウィルと対面して顔を近づけてみると、ブルーの瞳の輪郭があいまいににじんでいる。
焦点が合わないのか、目の中心が揺らいで何かを求めていた。
しかし、その瞳はすぐに細められ口元が優しくほころんだ。
「見かけない顔だね。もしかして、ここ……はじめて?」
「え……?」
ウィルは、ゆっくりと手のひらを差し出した。
「…踊っていただけますか?」
「……」
忘れもしなかった。
私とウィルが初めて出会ったときに交わした言葉だ。
ウィルの瞳には、あの日のパーティーの光景が映っているのだ。
きらめくシャンデリア、色とりどりのドレス、紳士淑女の華やかなざわめき。
私たちの運命が大きく動き出した、あの夜。
ウィルの幻覚が何を意味しているのか、すぐにわかった。
ウィルは……
最期の瞬間ですら、彼の瞳に私だけを映す。
「ウィル……」
にわかに熱を帯びるまぶたに、まだ涙をこぼしてはならないと念じて、私は彼に精一杯の笑顔を向けた。
「はい。喜んで」
差し出された手のひらに私の手を重ねると、ウィルは優雅に微笑み……それから……
――ゆっくりと瞳を閉じた。
一度きりの深い呼吸のあと、ウィルの呼吸が再び戻ることはなかった。
同時にウィルの腕が力をなくして落ち、私の手のひらは宙に残された。
部屋の中は、限りない静寂に包まれた。
沈黙は、時すら止まっているかのようだった。
私はウィルの白磁の頬にそっと触れる。
名を呼べばまたあの美しい笑みで応えてくれるのではないかと思わせるほどに、安らかな
「ありがとう……ありがとうございました、ウィル。私は本当に幸せでした」
流れる涙は止めるすべもなかった。
私はぬくもりの残るウィルを抱きしめた。涼やかで高貴なウィルの香りが鼻腔に広がる。
私は泣いた。
声をあげて、泣いた。
胸にあふれるのは、ただただ、私を心から愛し、守り、慈しんでくれたウィルへの感謝の念だった