あしたのキミも愛してる/Will.A.Spencer
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「今後、キミに愛する人ができたら、迷わずその人と一緒になって欲しい」
かたい決意を吐き出すように、ウィルは一気に告げた。
「ウィル?」
私は、彼の瞳に奥に真意を探った。
「キミは、これから長い時間を生きていかなければならない。もし、キミの力になってくれる人が現れたら……キミがその人と心から愛し合ったら……俺は喜んでPrincessを託すよ。俺がいなくなったあとも、俺の妻でいつづける必要はない」
ウィルが投げやりな気持ちで私に言っているのではないと、わかっていた。
故郷に帰ってもいいと言うのも、再婚をためらうなと言うのも、ひとりこの世に残される私を思ってのことだ。
ウィルの、真実の愛ゆえに。
ウィルの身体 は間もなく消える。
でも、彼の私を想う心は永遠に私の胸に生きる。
輝きも、温かさも失わずに。
どうしたら、最愛の人のくれる愛に応えられる?
私は首を横に振った。
「いいえ、ウィル。私は、故郷 にも帰りませんし、誰かと結婚するつもりもありません」
ウィルが、聞くやいなや、顔を背けた。
月の光が照らす半顔は、憂いに満ちた表情ですらなお、美しい。
「死ぬ人間に、義理立ては要らない」
きっぱりと、歯に衣着せぬ物言いが胸にささった。
「ウィル……」
こんなときウィルは、他のだれをも寄せ付けない冷たさをまとう。
私は首を振った。
「いいえ、私がそうしたいんです」
この想いに一点の曇りもないと、心を手のひらに包んで差し出せればいいのに。
「ウィル……ウィルの本心は、違いますよね? 本当の願いを言えば、私を苦しめるかもしれないと思うから、だから、反対のことを言うんですよね?本当は、私たちの子どもに、フィリップを治めて欲しいと思ってる。志を継いで欲しいって。私のこともそうです。誰かと結婚してもいいだなんて……悲しいことを言わないでください。
ウィルの妻であることは私の誇りです。世界中の女性がどれだけウィルに憧れていたか知っていますか。私はそのくらい素敵な人の妻なんです。
ウィル以外の誰かを好きになるなんて、あるわけないじゃないですか」
驚きに見開かれたブルーの眼をしたウィルが、ゆっくりと私に向き直った。
「……Princess……」
彼の親指が私のまなじりをなぞってはじめて、私は自分が泣いているのだと気がついた。
「……俺が幸せにしたかった。涙なんか、一粒だって流させないはずだったのに。……すまない」
切なげに揺らめく瞳を前に、私は精一杯に口角を上げ背筋を伸ばした。
強がりといえども、それが、私が今できるすべてだった。
「私は十分幸せです。それに、安心してください。私、こう見えてもけっこう強いんです」
おどけて肩をすくめてみせると、今度はウィルが微笑む。
「心配だな。キミはいつも、陰で泣くから」
全部がお見通しだった。ウィルはいつだってガラスの眼で私の全部を見透かしてしまう。
私たちは、語らずとも察し、寄り添い、支えあってきた。
でも、これからは独りだ。不安と寂しさに密かに枕をぬらす長い夜。
求めても、求めても、愛する人は傍にいない。
「ウィル……」
「……Princess」
互いの名を呼び合って視線を交わせば、みせぬと誓った涙が頬をつたった。
ウィルが一気に私を引き寄せて、肩に顔をうずめる。
「去りゆく者は多くを語らず、ただ、祈るのみと決めていたのに……ダメだな……キミへの想いが止まらない」
ウィルの頬が触れる肩が、しっとりと濡れた。
ウィルは泣いていた。
「時間が戻ればいい。キミと出会ったあの夜から。
何度でもやり直したいんだ。
少しも好きじゃなかった自分の人生がこんなにも好きになるなんて。色鮮やかな毎日だったのに……これからだったのに……どうして……」
あとは嗚咽で続かなかった。
私もまた、彼とともに泣いた。
掻きむしられるような想いが胸を満たして、どんな言葉も発せられない。
「俺を忘れないで。キミが忘れないでいてくれれば、俺はキミの中で生き続けられる」
ウィルの肩が激しく上下していた。今までにこんな彼を見たことがあっただろうか。
応えのかわりに、私はウィルの背中をきつく抱きしめた。
素のままの気持ちを告げるウィルが、私の腕の中で小刻みに震えている。ウィルの不安も、無念も、苦しみも、すべてを受け入れたかった。
彼は逝き、私は残る。
だけど、確実に訪れるその日、その瞬間まで、同じ想いを分かち合い慰めあいたい。
私たちはひたすらに泣いた。
過去に耐えた涙も、これから流すはずだろう涙も、今夜全部、流してしまおう。
残された日々を笑顔で満たすために。
どのくらいの時間がたっただろう。
ウィルは体を起こすと、私の頬を愛しげに両手で包んだ。
私を見つめる瞳は、いつもの優しい凪いだ青に戻っている。
「Princess……ありがとう。キミに出逢えて本当によかった。あしたのキミも、愛してる。たとえ俺にあしたがなくても、ずっと……」
つぶやくような言葉がゆっくりと夜の静寂に溶け、やわらかい唇が重なった。
「ウィル……」
夜半の月は高くのぼり、幾度となく唇を求めあう私たちを銀色に染め上げる。
もし、願いが叶うのなら。
このぬくもりをどうか……永遠 に――
かたい決意を吐き出すように、ウィルは一気に告げた。
「ウィル?」
私は、彼の瞳に奥に真意を探った。
「キミは、これから長い時間を生きていかなければならない。もし、キミの力になってくれる人が現れたら……キミがその人と心から愛し合ったら……俺は喜んでPrincessを託すよ。俺がいなくなったあとも、俺の妻でいつづける必要はない」
ウィルが投げやりな気持ちで私に言っているのではないと、わかっていた。
故郷に帰ってもいいと言うのも、再婚をためらうなと言うのも、ひとりこの世に残される私を思ってのことだ。
ウィルの、真実の愛ゆえに。
ウィルの
でも、彼の私を想う心は永遠に私の胸に生きる。
輝きも、温かさも失わずに。
どうしたら、最愛の人のくれる愛に応えられる?
私は首を横に振った。
「いいえ、ウィル。私は、
ウィルが、聞くやいなや、顔を背けた。
月の光が照らす半顔は、憂いに満ちた表情ですらなお、美しい。
「死ぬ人間に、義理立ては要らない」
きっぱりと、歯に衣着せぬ物言いが胸にささった。
「ウィル……」
こんなときウィルは、他のだれをも寄せ付けない冷たさをまとう。
私は首を振った。
「いいえ、私がそうしたいんです」
この想いに一点の曇りもないと、心を手のひらに包んで差し出せればいいのに。
「ウィル……ウィルの本心は、違いますよね? 本当の願いを言えば、私を苦しめるかもしれないと思うから、だから、反対のことを言うんですよね?本当は、私たちの子どもに、フィリップを治めて欲しいと思ってる。志を継いで欲しいって。私のこともそうです。誰かと結婚してもいいだなんて……悲しいことを言わないでください。
ウィルの妻であることは私の誇りです。世界中の女性がどれだけウィルに憧れていたか知っていますか。私はそのくらい素敵な人の妻なんです。
ウィル以外の誰かを好きになるなんて、あるわけないじゃないですか」
驚きに見開かれたブルーの眼をしたウィルが、ゆっくりと私に向き直った。
「……Princess……」
彼の親指が私のまなじりをなぞってはじめて、私は自分が泣いているのだと気がついた。
「……俺が幸せにしたかった。涙なんか、一粒だって流させないはずだったのに。……すまない」
切なげに揺らめく瞳を前に、私は精一杯に口角を上げ背筋を伸ばした。
強がりといえども、それが、私が今できるすべてだった。
「私は十分幸せです。それに、安心してください。私、こう見えてもけっこう強いんです」
おどけて肩をすくめてみせると、今度はウィルが微笑む。
「心配だな。キミはいつも、陰で泣くから」
全部がお見通しだった。ウィルはいつだってガラスの眼で私の全部を見透かしてしまう。
私たちは、語らずとも察し、寄り添い、支えあってきた。
でも、これからは独りだ。不安と寂しさに密かに枕をぬらす長い夜。
求めても、求めても、愛する人は傍にいない。
「ウィル……」
「……Princess」
互いの名を呼び合って視線を交わせば、みせぬと誓った涙が頬をつたった。
ウィルが一気に私を引き寄せて、肩に顔をうずめる。
「去りゆく者は多くを語らず、ただ、祈るのみと決めていたのに……ダメだな……キミへの想いが止まらない」
ウィルの頬が触れる肩が、しっとりと濡れた。
ウィルは泣いていた。
「時間が戻ればいい。キミと出会ったあの夜から。
何度でもやり直したいんだ。
少しも好きじゃなかった自分の人生がこんなにも好きになるなんて。色鮮やかな毎日だったのに……これからだったのに……どうして……」
あとは嗚咽で続かなかった。
私もまた、彼とともに泣いた。
掻きむしられるような想いが胸を満たして、どんな言葉も発せられない。
「俺を忘れないで。キミが忘れないでいてくれれば、俺はキミの中で生き続けられる」
ウィルの肩が激しく上下していた。今までにこんな彼を見たことがあっただろうか。
応えのかわりに、私はウィルの背中をきつく抱きしめた。
素のままの気持ちを告げるウィルが、私の腕の中で小刻みに震えている。ウィルの不安も、無念も、苦しみも、すべてを受け入れたかった。
彼は逝き、私は残る。
だけど、確実に訪れるその日、その瞬間まで、同じ想いを分かち合い慰めあいたい。
私たちはひたすらに泣いた。
過去に耐えた涙も、これから流すはずだろう涙も、今夜全部、流してしまおう。
残された日々を笑顔で満たすために。
どのくらいの時間がたっただろう。
ウィルは体を起こすと、私の頬を愛しげに両手で包んだ。
私を見つめる瞳は、いつもの優しい凪いだ青に戻っている。
「Princess……ありがとう。キミに出逢えて本当によかった。あしたのキミも、愛してる。たとえ俺にあしたがなくても、ずっと……」
つぶやくような言葉がゆっくりと夜の静寂に溶け、やわらかい唇が重なった。
「ウィル……」
夜半の月は高くのぼり、幾度となく唇を求めあう私たちを銀色に染め上げる。
もし、願いが叶うのなら。
このぬくもりをどうか……