あしたのキミも愛してる/Will.A.Spencer
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~Princesse side~
ウィルが、とてつもなく重要な何かを隠していることには気付いていた。
時おり、ぼんやりと考え事をする彼に尋ねたこともあったが、「なんでもない」と引き寄せられ、強引なくらいのキスをされれば、それ以上踏み入れてはいけない心の領域を感じて口をつぐんできた。
痩せる身体、落ちる食欲。
尋常ではない病が彼を侵蝕していると確信しながら、それでもどこか否定しながら、いつか必ずウィルは私に話してくれると信じて、待った。
衝撃の告白の夜を、私は一生忘れないだろう。
わずか半年後に、愛するウィルが居なくなる。
私と子どもたちを残して、どんなに求めようとも姿が見えず、声が聞こえず、そのぬくもりを感じられない、遠い世界へと独り、逝ってしまう。
突如もぎ取られる未来のさらに先など、もう、考えられもしなかった。
取り乱せばウィルを苦しめるだけだと、こくりと一回うなずいて、そのままふらふらとベッドに沈んだ、闇底深い夜――
それから短期間のうちに、私の心は大きく乱れた。
何かの間違いだと認められず、どうしてウィルがこんな目にあうのかと運命に怒り、どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのかと自らを呪い、私の何と引き換えにすれば、愛する人の命を救えるのかと考えた。
やがていかなる方法もないと気付けば、今度は、近い将来にやってくる別れの喪失感を思って、鬱々とした。
一番つらいのはウィルなのにと思うと、落ち込む自分の不甲斐なさにも落ち込んだ。
数日がたち、どうしても、どうしても、どうしても、避けられない結末ならば、ウィルの幸せのために私に何ができ、何をすべきかと考え始めた。
ウィルには時間がなかった。
嘆き悲しんでいるうちに、ウィルの命の砂時計はさらさらと砂を落とし続ける。
私は腹をくくった。
今世紀最大と言われる大きな月が、城の窓という窓に光を満たす夜だった。
寝室の扉を開けると、ソファに腰掛けていたウィルが、ゆっくりと私に顔を向けた。
「……おいで?」
ウィルはおだやかに微笑むと彼の隣を私に勧めた。
交し合う視線だけで、私たちは、いつもお互いの意思を知ってきた。
ウィルは、私の気持ちがこの境地にたどり着くのを待っていたのだろうか。
私を見つめる愛する人の瞳は、その夜もまた、慈しみ深いブルー。
私がウィルを慰め、癒すべきなのに、自らの運命を受け入れたウィルの落ち着いたまなざしに、私のほうが救われた。
しばらくの沈黙のあと、私たちは、短いこれからについて静かに話し合った。
私は、どんな特別なことでも望みはすべて叶えるつもりで、ウィルの一言一句を聞き逃すまいとしていたけれど、彼はあくまで“今までどおり”を希望した。
「特別なことは何もしなくていい。キミと子どもたちとの日常こそが幸せだったから……」と、私の肩を包みいだいて。
そんなウィルが、たったひとつだけ、ふたりきりで行きたい場所があるのだと言ったところに、今日は出掛ける。
行き先は、告げられていない。
どんなにねだっても、秘密だと楽しげに両の口角をあげるウィルの笑顔すら切なく、まぶたに焼き付けたいのに、直視できなかった。
ウィルの体調を考えれば、おそらくプライベートの外出はもう何度もないだろう。
当然、供をつけない外出にクロードさんはひどく反対したが、結局はウィルが押し切った。
私たちはおのおのに眼鏡をかけ、帽子を目深にかぶり、それなりの変装をして城を出た。
「久しぶりにワクワクしてるよ」
「私もです。どこに連れて行ってくれるんですか?」
「行けばわかる場所。でも、今は言わない」
ウィルはくすっと笑みを漏らすと、私の手をとった。
ウィルのつま先は、城に一番近い駅に向かう。
ウィルが、とてつもなく重要な何かを隠していることには気付いていた。
時おり、ぼんやりと考え事をする彼に尋ねたこともあったが、「なんでもない」と引き寄せられ、強引なくらいのキスをされれば、それ以上踏み入れてはいけない心の領域を感じて口をつぐんできた。
痩せる身体、落ちる食欲。
尋常ではない病が彼を侵蝕していると確信しながら、それでもどこか否定しながら、いつか必ずウィルは私に話してくれると信じて、待った。
衝撃の告白の夜を、私は一生忘れないだろう。
わずか半年後に、愛するウィルが居なくなる。
私と子どもたちを残して、どんなに求めようとも姿が見えず、声が聞こえず、そのぬくもりを感じられない、遠い世界へと独り、逝ってしまう。
突如もぎ取られる未来のさらに先など、もう、考えられもしなかった。
取り乱せばウィルを苦しめるだけだと、こくりと一回うなずいて、そのままふらふらとベッドに沈んだ、闇底深い夜――
それから短期間のうちに、私の心は大きく乱れた。
何かの間違いだと認められず、どうしてウィルがこんな目にあうのかと運命に怒り、どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのかと自らを呪い、私の何と引き換えにすれば、愛する人の命を救えるのかと考えた。
やがていかなる方法もないと気付けば、今度は、近い将来にやってくる別れの喪失感を思って、鬱々とした。
一番つらいのはウィルなのにと思うと、落ち込む自分の不甲斐なさにも落ち込んだ。
数日がたち、どうしても、どうしても、どうしても、避けられない結末ならば、ウィルの幸せのために私に何ができ、何をすべきかと考え始めた。
ウィルには時間がなかった。
嘆き悲しんでいるうちに、ウィルの命の砂時計はさらさらと砂を落とし続ける。
私は腹をくくった。
今世紀最大と言われる大きな月が、城の窓という窓に光を満たす夜だった。
寝室の扉を開けると、ソファに腰掛けていたウィルが、ゆっくりと私に顔を向けた。
「……おいで?」
ウィルはおだやかに微笑むと彼の隣を私に勧めた。
交し合う視線だけで、私たちは、いつもお互いの意思を知ってきた。
ウィルは、私の気持ちがこの境地にたどり着くのを待っていたのだろうか。
私を見つめる愛する人の瞳は、その夜もまた、慈しみ深いブルー。
私がウィルを慰め、癒すべきなのに、自らの運命を受け入れたウィルの落ち着いたまなざしに、私のほうが救われた。
しばらくの沈黙のあと、私たちは、短いこれからについて静かに話し合った。
私は、どんな特別なことでも望みはすべて叶えるつもりで、ウィルの一言一句を聞き逃すまいとしていたけれど、彼はあくまで“今までどおり”を希望した。
「特別なことは何もしなくていい。キミと子どもたちとの日常こそが幸せだったから……」と、私の肩を包みいだいて。
そんなウィルが、たったひとつだけ、ふたりきりで行きたい場所があるのだと言ったところに、今日は出掛ける。
行き先は、告げられていない。
どんなにねだっても、秘密だと楽しげに両の口角をあげるウィルの笑顔すら切なく、まぶたに焼き付けたいのに、直視できなかった。
ウィルの体調を考えれば、おそらくプライベートの外出はもう何度もないだろう。
当然、供をつけない外出にクロードさんはひどく反対したが、結局はウィルが押し切った。
私たちはおのおのに眼鏡をかけ、帽子を目深にかぶり、それなりの変装をして城を出た。
「久しぶりにワクワクしてるよ」
「私もです。どこに連れて行ってくれるんですか?」
「行けばわかる場所。でも、今は言わない」
ウィルはくすっと笑みを漏らすと、私の手をとった。
ウィルのつま先は、城に一番近い駅に向かう。